5分でわかる史記!内容や作者の司馬遷、わかりやすいおすすめ本などを解説!

更新:2021.11.15

今から2000年以上前に書かれた史上最高の歴史書といわれる『史記』。国語の教科書にも記載されることが多く、「四面楚歌」のエピソードなどは有名でしょう。この記事では、その内容やあらすじ、作者の司馬遷などをわかりやすく解説していきます。あわせて内容の理解が深まるおすすめの本も紹介するので、ぜひ最後までチェックしてみてください。

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『史記』とは。時代や作者の司馬遷など概要を紹介

 

『史記』が編纂されたのは、今から2000年以上前の紀元前90年代のことです。当時の中国は、始皇帝の秦にかわって漢が武帝を皇帝に置き、最盛期を迎えていました。

作者の司馬遷は、中国において長いあいだ歴史や天文を司る一族に生まれ、自らも太史令という役職に就き、暦の制定や歴史書の作成に従事していた人物です。『史記』は中国の正史とされている歴史書で、この編纂はもともと、彼の父親の司馬談が構想していたものでした。その遺命に従って司馬遷が完成させたといわれています。

多くの歴史家は机上の史料に埋もれてしまいますが、司馬遷は自分の目で実際に現場を見ることに重きを置いていたそうです。20歳の頃から中国各地へ旅行をし、役人になってからも武帝の巡遊へ随行を重ね、当時の漢の領域はほぼ網羅しました。

しかも彼は、ただの物見遊山で訪れたわけではなく、各地を丁寧に見分し、資料の調査や取材を実行。この積み重ねが反映されているがゆえに、『史記』からは他の歴史書からは感じることのできない臨場感がにじみ出ているのです。

そしてこれが、史上最高の歴史書といわれる理由のひとつとなっています。

『史記』の内容とあらすじ

 

『史記』は中国の歴史を記述した「二十四史」のひとつに数えられる歴史書です。「本紀」12巻、「表」10巻、「書」8巻、「世家」30巻、「列伝」70巻の計130巻で構成されており、文字数は実に52万6500にもおよんでいます。

司馬遷がもともとつけていた書名は『太史公書』というもの。後世になって『史記』と呼ばれるようになりました。

その内容は、まず「本紀」で歴代皇帝の事績を紹介しています。伝説上の人物とされる五帝にはじまり、夏・殷・周・秦・漢の武帝まで、歴代の皇帝たちの性格や功績、生い立ち、死について記載しています。

「表」は、皇帝たちの事績を年表にしてまとめたもの。

「書」はいわゆる制度史で、政治や経済などにおける制度の変遷が記述されています。

「世家」は、諸侯たちについてまとめたものです。周時代の太公望や春秋・戦国時代の諸侯、秦に反乱を起こした陳勝、呉広、さらに儒家の祖である孔子などについて書かれています。

最後の「列伝」は、皇帝でも諸侯でもないものの、孟子や荀子など高名な儒家や、李広将軍など歴史に名を残すさまざまな人物について記述。このなかに司馬遷自身の自伝も含まれていて、『史記』のなかでももっともボリュームの大きいカテゴリになっています。

このように、ジャンルごとに分けて記述する方式を「紀伝体」といいます。中国でそれまで主流だった「編年体」に比べ、全体の流れの把握がしづらいことや、内容が重複するなどの難点がありました。

しかし個人や国の情報がまとめられているため理解をしやすいなどの利点があり、これ以降中国をはじめ東アジア全体で歴史書のスタンダードな形式となっていくのです。

日本も、聖徳太子の定めた十七条憲法の典拠のひとつとして『史記』を挙げる見解があるなど、多くの影響を受けています。また元号も過去に『史記』のなかから採用された事例が12回あり、日本人にとって縁の深い書物なのは間違いありません。

『史記』の「項羽本記」で有名な「四面楚歌」の原文と現代語訳を解説

 

現代でもよく使う言葉のひとつに「四面楚歌」というものがあります。敵に囲まれて孤立していることを表していますが、もともとは『史記』のなかの「項羽本紀」に登場する言葉でした。

漢の初代皇帝、劉邦との戦いに敗れ、皇帝になることができなかった項羽。しかし西楚の覇王と呼ばれ、一時は天下をほぼ手中に収めていたことから、皇帝に準ずる存在として「本紀」に収録されています。

そんな項羽にまつわるエピソードのなかに、「四面楚歌」は登場します。

原文

項王軍壁垓下。兵少食尽。漢軍及諸侯兵、囲之数重。夜間漢軍四面皆楚歌、項王之大驚曰、漢皆已得楚乎。是何楚人之多也。

書き下し文

項王の軍垓下に壁す。兵少なく食尽く。漢軍及び諸侯の兵、之を囲むこと数重なり。夜漢軍の四面皆楚歌するを聞き、項王乃ち大いに驚きて曰く、漢皆已に楚を得たるか。是れ何ぞ楚人の多きや、と。

現代語訳

項王の軍は垓下の城壁の中に立てこもりました。兵の数は少なく、食料も尽きてしまっています。漢の軍勢とそれに味方する諸侯の兵は城壁を幾重にも包囲しました。夜、漢の軍勢が四方で皆、楚の歌を歌うのを聞いて、項王は大変驚いて言いました。漢はすでに楚を手中に収めたのだろうか。なんと楚の人間が多い事か、と。

たび重なる戦いに疲れ果てた時に、自分を包囲する敵の中から聞えてきた故郷の歌。本来自分に味方してくれるはずの故郷の人々までもが敵になってしまっているということを悟って絶望する項羽の気持ちが、痛いほど伝わってきます。

初心者におすすめの一冊

著者
福島 正
出版日
2010-12-25

 

全130巻におよぶ『史記』をすべて読める気がしないという方におすすめです。伝説上の皇帝や英雄、大商人、殺し屋までさまざまな人物の物語があるなかから、選りすぐりのエピソードを抜粋しました。

『史記』のハイライトとも呼べる内容で、漢建国の父である劉邦と項羽の手に汗握る戦いを中心に、伍子胥の復讐劇や呉越の争いなど教科書にも載っているようなものばかり。初心者の方が最初に読むべき一冊に適しています。各エピソードを原文と現代語訳で楽しめます。

また現代に通じる故事成語の元ネタも満載なうえ、『史記』の全内容がわかる解説もついているのです。中国史の入門書としてもおすすめだといえるでしょう。

人間のキャリアから『史記』を読む

著者
出版日
2011-02-09

 

歴史書というと、いつどこで何があったのかが列挙されているだけの無味乾燥なものを連想しがちです。しかし司馬遷が書いた『史記』に記されているのは、実に生き生きとした人間の姿。己の個性を発揮し、歴史に名を残した者たちの物語が描かれているのです。

それは、各地を訪れ、多くの人々から話を聞いた司馬遷だからこそできたこと。当時を生きた人々の息遣いを感じられるでしょう。

本書はそんな『史記』のなかから、人のキャリアに着目てエピソードを選出し、現代語訳したものが載っています。皇帝から暗殺者まで、人々がどのように生きたのかを体感してみてください。

漫画で読む『史記』

著者
横山 光輝
出版日

 

『史記』自体に興味があっても、いきなり活字で読むのはハードルが高いという方も多いのではないでしょうか。そんな時におすすめなのが、『三国志』でも有名な横山光輝の作品です。『史記』のなかから選び抜かれたエピソードが漫画化されています。

魅力的な登場人物たちが織り成す波乱万丈の物語は、手に汗握ること間違いなし。世界観にぐっと入り込むことができるでしょう。

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