「北国の大自然」という絵本の中で育った神沢利子が描く動物たち

更新:2021.12.4

幼少時代を樺太で過ごしたと言う神沢利子さん。近所には森があり、フレップと呼ばれていたコケモモの実をよく採りに行き、森に暮らす動物と出会うことも多かったとか。 北方民族の文化を肌で感じていた神沢さんは、人間と動物との関係に独自の視点を見出し、まるで人間のように暮らす動物たちを絵本の中に登場させました。 今回は、神沢利子さんとゆかりの深い、北国が登場する5つの絵本を紹介します。

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春をしらないふたごのこぐまが、ふしぎな音に耳を澄ます

ふゆごもりをするくまに、ふたごの赤ちゃんがうまれました。外の世界を知らないふたごのぼうやたちは、真っ暗な穴まで聞こえてくるふしぎな音が気になってしかたありません。
「かーん かーんって おとが するよ。 かーん かーんって なんの おと?」
「ほっほー ほっほー」「しんしん」……音を頼りに、少しずつ春の訪れを知るふたごのぼうやたち。「ぽとん ぽとん」は一体なんの音なのでしょう。

著者
神沢 利子
出版日
1985-02-15

神沢さん自身、くまに会えたことはなかったけれど、森で遊んでいると常にくまの気配を感じていたそうです。今、自然に囲まれている家はずいぶん少なくなってしまいましたが、それでも、公園へ行ったり、寝るときなどにそっと耳を澄ますと「ぽっぽぽー」「ざわざわ」といろんな音が聞こえてくるはず。絵本を読んだあと、公園などに出掛けてこのこぐまたちのように目をつぶるなど真っ暗な状態を作って周囲の気配を耳で感じてみてください。
 

海と月と母親に見守られた、あかちゃんくじらのものがたり

静かな夜の海。赤ちゃんの誕生を歌いながら待つくじらのおかあさんに「あかちゃんはどこにいるの」とたずねるみかづきさん。「あなたがまぁるくなるころに、きっとうまれてくるでしょう」と返し、やがて可愛い赤ちゃんをうみます。舞台はいつも夜の海。三日月だった満月が、親子くじらに光を当てて見守っています。

著者
神沢 利子
出版日
2013-06-05

この絵本のくじらたちは、南の海から、北の海へとおいしい魚を求めて旅に出ます。樺太を出て随分たった頃、南の島でくじらを見た神沢さんはその後のくじら達を追いかけ、アラスカへ行きました。そのとき、アラスカでも大きなくじらを見たと言います。
ただただ静かに、母子くじらとお月さんの交流をゆったりと描かれた絵本。ラストページには『くじらのあかちゃん おおきくなあれ』という歌がついているので、歌いながら楽しめる絵本です。
 

食べ物として、衣服として捕える鹿を「兄弟」とよぶ北方民族の話

「私たちと同じ魂を持つ彼らは、私たちを生かすために、『鹿』となって私たちの前に現れてくれるのだ」という思想を持つ、シベリアの少数民族が主人公のお話です。狩りに出る族長は、鹿の足の腱で縫い、鹿の皮で作られた服と靴を身につけ、鹿の肉を食べる己を「おれは鹿だ」と称し、鹿を狩るため森へ向かいます。先祖から教わった方法で鹿を仕留め、己の妻と子に持って帰り暮らしていくという一連の流れを、歌うような文章で書かれています。ただやみくもに探して撃つのではなく、鹿の警戒している鼻息の音、水草を食べるときの音などを聞き分け、牝鹿の声を真似ておびきよせるという、まさに鹿の「耳」を持ち鹿と同化したうえで彼らの命に狙いを定め、その命を預かります。

著者
神沢 利子
出版日
2004-01-31

文化は違えど、「鹿」に対する彼らの思いはそのまま私たちの「食卓」への思いに繋がります。「食べる」ことに感謝をするということとは、を彼らの姿を通して伝えています。

リズミカルにオットセイの子の成長を歌った絵本

オットセイ、ペンギン、カモメなど北国で見られる動物たちが愉快に夏から冬までの日常を歌います。「オットセイセイ オットセセイ」「オットセイセイ、オットセイセイ!!」北の島で生まれたオットセイの赤ちゃんたちが泳ぐ練習をし、イルカと遊び、シャチに追われ、海原を泳げるようになる様子を、リズミカルな言葉でたんたんと楽しげに歌っています。

著者
神沢 利子
出版日
1995-08-10

樺太にいた頃、自宅から4kmほど先にはオホーツク海にそそぐ湾があったという神沢さんにとって、オットセイもまた身近な動物でした。
歌いながら流れるようにページをめくり、オットセイの子どもの成長を知ることができるこちらの絵本は、まだ言葉の意味が分からない時期の子どもでも飽きずに見ることができます。『くじらのあかちゃん おおきくなあれ』同様に、ラストページには歌がついているので、合わせて一緒に歌って見るのもいいですね。
 

「ウーフ」と話すくまとの交流

「ちいさなおんなのこが、やまにいちごをつみにいきました。」から始まる可愛い物語。
女の子がいちごつみに夢中になっていると誰かが近づいた気配がして、友達のさぶちゃんかと思って話しかけると、正体はなんと、くま! ところが、女の子は驚かず、そのままくまと一緒にうちへ帰ってあるお手伝いを始めます。
女の子とくまに共通の言葉はありません。女の子は女の子の言葉、くまはくまの言葉で会話しますが、ちゃんと通じ合い、仲良く遊んでいます。神沢さんの「くまと一緒に遊びたい」という幼少期の願いがそのまま形になったようなお話です。動物と友達になりたいという願いは、いつの時代にも共通していますので、この絵本は今も色あせず子どもたちに愛されています。

著者
神沢 利子
出版日

このくまはどんなときも「ウッフー」としか言いません。この「ウッフー」という言葉は神沢さんの代表作である童話「くまの子ウーフ」にも主人公の名前として登場します。絵本を読みながら親子で一緒に「ウッフー」と言うと、自然と笑みが出てきますよ。
 

たくさんのお話を子どもたちに伝えてきた神沢利子さんですが、実は幼少期に絵本を読む機会はほとんどありませんでした。神沢さんにとって、森や動物、たくさんの植物という北国の自然こそが絵本そのものであり、その頃の情景や感じたことを童話などに反映させて来られました。幼少時代の思い出を「命の水」という言葉にたとえている神沢さん。地下水のように流れる「命の水」の中には北国の自然がいっぱい詰まっているのでしょう。絵本と自然。子どもたちに豊かな「命の水」を与えるために、どちらも大事にしていきたいですね。

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