相場英雄のおすすめ文庫小説6選!経済界の闇をえぐり出す社会派ミステリー

更新:2021.12.13

経済部記者としての経験を生かした作品が多い相場英雄(あいば ひでお)。最初は敷居が高いと思われがちですが、読みはじめたらそのリアリティーさに舌を巻くばかります。そんな相場英雄のおすすめ作品を6作ご紹介します。

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経済部記者から社会派ミステリー作家へ転身した相場英雄

相場英雄は小説家であり、経済ジャーナリストです。1967年に新潟県三条市で生まれ、新潟県立三条高等学校を経て外国語専門学校を卒業後、キーパンチャーとして時事通信社に入社しました。相場英雄は情報端末編集部門で市場データの編集を担当していましたが、市況担当記者に欠員が出たことで記者になりました。

経済部記者として日本銀行、東京証券取引所などを担当したものの、大卒ではなかったため、大蔵省担当にはなれなかったそうです。

市川英雄は、2005年に『デフォルト債務不履行』でダイヤモンド経済小説大賞(現・城山三郎経済小説大賞)を受賞して作家デビューしました。一年後には時事通信社を退社して専業作家に。

漫画の原作も書いていて、『フラグマン』『書かずの753』が出版されています。

また、相場英雄のTwitterプロフィールでは、「一年中酔っ払っている」「日本一座持ちがいい作家」と自称しているようです。

誰もが口にする加工食品は、ほんとうに安全なのか『震える牛』

警視庁捜査一課継続捜査班所属でメモ魔の窓際刑事・田川信一は、5年前に発生し、未解決のままだった「中野駅前居酒屋強盗殺人事件」の捜査を開始します。覆面をした犯人が、店員から金を奪っただけでは飽き足らず、店内にいた獣医師と暴力団関係者を殺害したという事件で、初動捜査で浮かび上がった犯人像は「金目当ての外国人」ということでした。

地道に聞き込みを続ける中で田川は、やがて、食肉加工会社ミートボックスの存在にたどり着き……。

著者
相場 英雄
出版日
2013-05-13

BSE(牛海綿状脳症)問題や食品偽装問題に鋭く切り込んだ社会派サスペンスで、「これはほんとうにフィクションなのか?!」と話題を呼び、売上累計が28万部を突破するベストセラーとなりました。また、同じ田川が登場し、エコカーや家電メーカーなどの闇を追う続編である、相場英雄の『ガラパゴス』は山本周五郎賞にノミネートされました。

スピード感溢れる展開にはらはらどきどきしながら一気読みできる作品です。田川の地道な捜査の中で、食の問題、大型ショッピングセンターと地元商店街、風評被害、失業率、消費者の問題などがつぎつぎと出てくるため、つい考えてしまう部分もあり、もやもやする箇所もありますが、「社会派」としてのリアリティはさすがです。じっくりと読み込んでほしい相場英雄の1冊です。

公安VS刑事。組織内の覇権争いに翻弄されていくふたり『血の轍』

刑事部刑事・兎沢にとって公安部刑事・志水は所轄時代、兎沢にとって志水は、所轄時代に捜査をイロハから叩きこまれた直属の先輩でした。ある日を境に袂を分かったふたりですが、都立戸山公園で元刑事の香川の遺体が発見された事件をきっかけに大きく状況が変わっていき……。

著者
相場 英雄
出版日
2013-11-28

香川の遺したメモリーカードの中には、表沙汰になってしまうと国家を揺るがすほどの重大事件になると思われる内容の報告書が保存されていて、解読を急ぎつつ捜査を進めていく刑事部と、報告書を抹消して事件を闇に葬り去ろうとする公安部の熾烈なまでの攻防が描かれています。

その中で次第に暴かれていく真実が衝撃的で、「残念ながら正義とは時と場合によって姿を変える」「轍が違う」という言葉が強く響きます。

公安の仕事の非道さにちょっと背筋が寒くなりますが、そこも含めて、スリリングな展開、終盤の仕返しなど、最後の最後まで読み応えのある相場英雄の社会派サスペンスです。ほんとうに面白いです。経済に詳しくなくても、男同士の戦いが充分に楽しめます。

株式の罠が蠢く憎悪の相場英雄ミステリー『双子の悪魔』

ある日、大和新聞記者の菊田美奈子が詰めている東京証券取引所に、ある日、レストランチェーン・西大后に対するTOB(株式公開買い付け)の情報が入りました。すぐに西大后の株価は乱高下しますが、その裏には違法な仕手戦で巨万の富を得ようと狙う金融ブローカーが暗躍していたのです……。

著者
相場 英雄
出版日
2011-10-12

臨場感があってスピーディな上に、描かれる犯罪の手口が巧妙で、作品の切り口も構成も緻密ながらも読みやすく仕上がっています。ある登場人物の不遇な出自に対する劣等感やそこから派生する憎悪のようなものの罪深さややりきれなさが沁みます。

ヒロイン同様に刀東京証券取引所詰めを経験している相場英雄ならではとでも言うべきか、株や電子マネーの危険性などについても触れている経済ミステリー。業界用語に少々手間取ったとしても、ぜひ最後まで読んでいただきたい作品です。

知能犯罪捜査をリアルに描く警察小説『ナンバー』

昇任試験の手を抜かず、刑事としても実績をあげて警部補となった西澤は、所轄署から警視庁本部転属となりますが、所属先は捜査一課ではなく、捜査二課知能係――通称ナンバー。

横領や詐欺という知能犯と対峙する部署で、西澤はその捜査方法や同僚をライバル視するばかりの同僚たちに戸惑いつつも、犯罪に立ち向かっていきます。細かく練り上げられた事件、奥深い人間心理を緊張感あふれるリアリティーで描いており、無駄な文章も表現もなくすっきりとしている相場英雄の短編シリーズです。

著者
相場 英雄
出版日
2014-09-11

西澤の成長ぶりは少々はがゆいところもありますが、なんだかしっかり!と背中を叩いてあげたくもなります。ひとりの知能犯罪捜査員の成長日記としても、ミステリーとしても楽しむことができる相場英雄の作品。シリーズは3作出ていますので、順を追ってぜひ読んでみてくださいね。

歌謡曲と麺を愛する地方記者のみちのく旅情ミステリー 『奥会津三泣き 因習の殺意』

福島県会津地方にある田子倉ダムにて、大手ゼネコン・鹿田建設の薗田幸四郎副社長が他殺死体で発見されたことから物語がはじまります。大和新聞の会津若松支局に出向している記者・宮沢賢一郎は、地方ゼネコン疲弊の実態にたまりかねて業界の構造改革に着手する薗田が守旧派と対立していた事実を突き止めます。

事件は解決しない中、鹿田建設経営企画部長の保科護までもが姿を消し……。

著者
相場 英雄
出版日
2009-03-06

タイトルから既に2時間ドラマになりそうな空気が出ていますが、内容も観光、グルメ、ミステリーとまさに定番のものが織り込まれています。相場英雄は取材もしっかりしてあり、旅情ものに必須のご当地ネタがきちんと描かれていて、なんとなくミステリーを読みつつ旅をしている気分にもなります。

主人公の探偵役の記者が歌謡曲と麺が好きというのも面白い設定で、食事のシーンが生きています。かわいい要素にも思えるのは気のせいでしょうか。

相場英雄のこのシリーズは7作出ており、旅情と社会派の合わせ技になっているのが魅力です。忙しい毎日、なかなか旅行にも行けない方は、この作品の中で旅をする気分で読んでみるのも楽しいかもしれませんね。

終わらない『共震』 震災が残した傷と闇

東日本大震災を題材にしたミステリー小説、それが今回紹介する作品『共震』です。

舞台は未だ震災の爪痕が残る宮城県。忌まわしい災害から2年経ち、人々が傷を引きずりながらも懸命に復興を進めようとしていた頃。被災地の復興に尽力していた県職員が他殺体で発見されたことから物語は幕を開けます。

著者
相場 英雄
出版日
2016-03-08

本作品において、何より印象的なものは舞台である宮城県の描写です。作者の綿密な取材のもと執筆された本作は、被災地である宮城に対する慟哭と鎮魂の想いが込められており、読む人に心臓を鷲掴みにされるような痛みを感じさせます。

「話を聞くという作業は、えぐられた心の傷を垣間見る作業です。聞き手も相手から抜き取ったナイフで傷つくことになります」(『共震』131頁より引用)

作中のある人物が発した言葉ですが、まさにこの言葉通り話を読むことで読み手も同じく傷に触れることになるわけです。そこから感じ取れる感傷はフィクションであることを忘れさせるほど凄絶で、あの日起きた悲劇の全てを象徴していると言えるでしょう。

そしてもう1つ、『共震』で欠かすことができないのが震災の闇です。

ご存知の通り、東日本大震災においては発生後日本各地から大勢のボランティアが現地に駆けつけ、自衛隊・警察・消防・そして世界各国の支援部隊と共に復興支援に臨みました。ですが、そうした人々の中には善意の者だけでなく復興事業をダシにしようとする悪人達も少なからず混ざっていました。被災者と偽って義援金を受け取る者、復興支援事業を起こす為、募金の為と言いつつ金を騙し取った者、はたまた復興支援の労働者を派遣しておきながら必要経費をごまかそうとした者など、数を挙げればきりがないほどの悪人がいました。

こうした震災の闇に対する描写からは、相場英雄の被災地を食い物にする者達への怒りと、聞き出した事実をあるがままに書き切るという執念が同時に感じられ、読み手を飽きさせない仕組みとなっています。

2011年3月11日に東北を襲った未曽有の大災害。絶望的な危機に瀕して、それでもなお希望を求め抗い続けた人々がどのように日々を積み重ねていったのか。殺された県職員はどんな思いで、何を抱いて復興に尽力したのか。それらを知った時、読み手の心に深く『共震』するものがあるでしょう。

記者として経済に関わり続けた相場英雄だから書ける作品ばかり。わかりにくい業界用語などを学ぶような気持ちで、読書をするのもおすすめですよ!

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