『H2』5分でわかる魅力!英雄たちの野球と恋の青春漫画【ネタバレあり】

更新:2021.12.9

『H2』は1992年から「週刊少年サンデー」で連載されていたあだち充の作品です。名前の由来が同じである2人の少年と、彼らに関わる2人の少女を軸にした青春野球漫画となっています。高校野球の面白さ、四角に交錯する恋心、熱さと切なさがギュッと詰まった名作。本作の要素を1つずつ見ながら、その魅力をお届けしましょう。

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『H2』登場人物の切ない相関関係を考察!ライバル、親友という複雑さ

主人公の国見比呂(くにみひろ)橘英雄(たちばなひでお)は、中学時代からの親友にしてライバル同士。その関係に比呂の幼馴染みで英雄の彼女である雨宮ひかりと、ある理由で野球から離れていた比呂を引き戻し、そして彼を一途に想い続ける古賀春華の2人が加わってきます。

著者
あだち 充
出版日

比呂はピッチャー、英雄はバッター。比呂の千川高校は弱小で、英雄の明和第一高校は名門強豪校です。これだけでも対立要素は充分なのに、なんと比呂の初恋はひかりで、未だに想いが断ち切れない……と関係は複雑になってきます。これらの要素が絡み合い、物語を盛り上げていきます。

ここまでの情報ではヒロインの1人春華が報われなくてかわいそうですが……。彼女の想いはどうなるのか、それは読んでからのお楽しみです。

『H2』のタイトルの由来をネタバレ考察!2人のヒーローとヒロイン?

タイトルの『H2』には2つの意味があります。

まず主人公2人の名前が「ヒーロー(HERO)」に由来します。比呂はヒーローの当て字、英雄は日本語訳です。つまり2人のHERO=イニシャルHが2人で「H2」というのが1つ目の意味となります。

2つ目はひかりと春華のダブルヒロイン、すなわちヒロインが2人で「H2」です。

シンプルながら彼らを象徴したタイトルですね。ヒーローが2人、ヒロインが2人いて、その狭い世界の中で4人の想いが複雑に絡み合う物語であることも予感させます。

ひかりの母の死をきっかけにさらに複雑になる恋愛関係!

著者
あだち 充
出版日

 

比呂の初恋相手はひかりでしたが、彼はその気持ちを胸に秘めたまま日々を過ごし、いつしか春華とよい関係を築いていました。

ところが甲子園の直前、ひかりの母が亡くなったことで歯車が狂い出します。比呂はここで、「ひかりの母が誰よりも比呂の才能を信じていた」と告げられます。比呂にとってはもう1人の母と呼べる女性の死に対し、彼は、

「有名になるよ、……おれ」
(『H2』29巻より引用)

と宣言。同時に英雄とひかりへの態度を改め、真剣勝負を決心しました。

そして、それが2人の意地とひかりを賭けた戦いへと発展していくのです。あだち作品では主要人物の死がお家芸的になっている面もありますが、本作でもヒロインの母の死が、物語を動かします。

 

甲子園優勝は当然?キャラの野球の能力、強さを名言とともに解説!

著者
あだち 充
出版日

 

「4番だろうと9番だろうと、1/9には変わりねえんだ」
(『H2』10巻より引用)

これは佐川周二が兄に言われた言葉です。大事なのは個々人が己の役割を果たすことだ、という意味の名言。千川高校野球部の強さは比呂が光りますが、役割分担した部員それぞれが、きっちり使命を果たしていることが大きいでしょう。

比呂のピッチングを抜群のコンビネーションで捌く野田敦。打者としても優秀で、5巻で明和の監督と英雄が彼を敬遠か対決か問答したシーンが印象的でした。試合内容は監督がその時ふと漏らしたように「ナイスゲーム」に。

守備も攻撃も優秀な柳守道。そして忘れられないのが木根竜太郎です。サッカー部からの転向組でおちゃらけていますが影の努力家。32巻では甲子園の大舞台で比呂に代わって完投も成し遂げました。

いずれ劣らぬ名選手ばかり。劇中では描かれていませんが、ドラフト指名では悩ましいことになったでしょう。

 

ラストの意味をネタバレ考察!ゆず『夏色』がキーとなる結末は、その後が気になる!

著者
あだち 充
出版日

物語の最終回、ついに比呂と英雄の直接対決が実現します。両雄相対する、野球漫画の展開としては一番盛り上がるところ。

しかし同時に、その勝負の行方には『H2』の恋愛ドラマ、人間ドラマの要素も入っているのです。勝った負けたの向こう側にあるものが描かれており、それはあだち充の真骨頂でもあります。

そして全てが終わった後に比呂が歌うゆずの『夏色』が、青春の1ページを見事に彩ります。その余韻が残る中、比呂がどこかに飛ばした紙飛行機。まだどこにも着地しない紙飛行機の描写が、彼らのその後を象徴しているようにも感じられるでしょう。

 


あだち充のおすすめ作品を集めた<『タッチ』の作者あだち充のおすすめ作品ランキングベスト6!3位は『H2』>の記事もおすすめです。気になる方はぜひご覧ください。

『H2』の名言ランキングベスト5!内容とともに振り返る魅力

著者
あだち 充
出版日

 

数々の名セリフを生み出すことでも定評のあるあだち充作品。もちろん、『H2』にも奥深い名言がいくつもあります。その中でも特に印象深いものを、野球漫画としての魅力から5つご紹介したいと思います。


 

第5位:

「ガラスのヒジだってさ」

「ガラスはガラスでも、拳銃で撃っても割れねぇ防弾ガラスだぜ」

(『H2』2巻より引用)

中学時代に投手で名を馳せた比呂は、肘の故障で1度野球を断念。しかし、進学した高校のとある出来事で情熱が再燃します。その後、診断を下した医師が無免許だと発覚し、再度検査したところ……この捻くれた言い回しをもって完全復帰しました。


 

第4位:

「男だったら一度めざした道は最後まで突き進むものよ。
途中で背中なんか見せるな! 倒れる時は前のめりだ!」
(『H2』2巻より引用)

比呂がまだ肘の故障で燻っていた時のこと。野球を忘れられず比呂が悩んでいるところへ、ひかりが発破をかけました。幼馴染みで付き合いの長い彼女だからこそ出来た一押しです。これがきっかけで、比呂は再び野球に打ち込んでいくことになりました。


 

第3位:

「おれは、日本一のバッターになる。
おまえは、日本一のピッチャーになれ。
――そして、甲子園で会おうぜ」

「ああ。その夢なら一緒に見てやるぜ」

(『H2』8巻より引用)

比呂と英雄の会話です。彼らは互いに認め合う関係であり、決着は高校球児の聖地である甲子園の大舞台で付けよう、と宣言しました。さらっと言う英雄はもちろん、比呂の返しも格好いいです。



 

第2位:

「4番だろうと9番だろうと、1/9には変わりねえんだ。
おまえは、必ずいい1/9になれる」
(『H2』10巻より引用)

すでに紹介済みですがもう1度。幼少期に英雄と練習していた佐川には、秀でたところがありませんでした。そこで兄はこう言ったのです。野球は9人全員がエースである必要はありません。一人ひとりが役割をまっとうすることの大切さを伝えるこの名言は、野球以外のスポーツや仕事などにも通ずるものです。


 

第1位:

「タイムアウトのない試合のおもしろさを教えてあげますよ」
(『H2』2巻より引用)

比呂は物語の序盤、野球への未練を断つため、野球部のない千川高校に進学しました。そこでなぜかサッカー部と野球愛好会の野球試合に巻き込まれ、野球熱が再燃。試合中に愛好会側に付きました。そして、敗色濃厚だった状況をひっくり返し、サッカー部キャプテンにこう言ったのです。

サッカーと野球のルールの違いをかけたセリフですが、連載当時に発足したJリーグの影に隠れてしまった野球漫画の意趣返しなど、様々な意味で本作を代表する名言といえるでしょう。

この他に、人間ドラマや恋愛漫画の観点から見て素晴らしい台詞も散りばめられています。ぜひご自身に刺さる言葉を見つけてみてください。

 

いかがでしたか? あだち充の面白い野球漫画は『タッチ』だけではないのです。特に高校野球の季節には隠れた名作『H2』の世界を覗いてみると、さらに熱くなれるかもしれません。

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