大崎梢のおすすめ小説6選!本屋好きにはたまらない作品

更新:2021.12.13

書店員経験を生かした作品からスタートした大崎梢(おおさき こずえ)。優しいけれど切なくて、それでもほっとする作品ばかりです。 読み終わったらきっと笑顔になれる、大崎梢のおすすめ作品を6作ご紹介します。

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書店員からミステリー作家へシフトチェンジした大崎梢

大崎梢は東京都出身の小説家。2016年現在は神奈川県に住んでいるそうです。2006年に東京創元社より連作短編集『配達あかずきん』で作家デビューしました。大崎梢はデビューする年の春まで、13年間書店員として働いていたため、その経験を生かした本格書店ミステリーとなっています。

柔軟剤をたっぷり効かせてほんわかとした洗濯物のようにやわらかな日常ミステリーを得意としています。それだけではなく、シリアスな感動ものなども手掛けるようになり、大崎梢は作風の幅が広がってきているように感じました。

また、「天才探偵Sen」シリーズという児童書も手掛けています。

大崎梢は作風通りのやわらかな人柄で知られており、サイン会には漫画版『配達あかずきん』を描いた久世番子や『さよならドビュッシー』で知られる作家の中山七里が、ファンとして会場に来てしまうほど。

好きな作家は横溝正史。その中でも特に『獄門島』『八つ墓村』『悪魔の手鞠唄』が好きなようです。

成風堂書店には「名探偵」がいる。人気シリーズの1作目『配達あかずきん』

女性向けブティックメインの駅ビル6階にある成風堂書店で働くしっかり者の店員・木下杏子と不器用だけど勘のいいアルバイト店員・西巻多絵が、書店絡みの日常の謎を解いていく短編連作集です。大崎梢のこの作品は「成風堂書店事件メモ」シリーズと冠されていて、本編2冊、番外編1冊が刊行されています。

杏子が語りでワトソン役、多絵がホームズ役です。凸凹コンビといっても過言ではない、ふたりのかけあいが絶妙で、書店員同士の会話もお客さんたちとのやりとりもリアルですし、なんだか自分が行きつけにしてしている本屋さんで起こっている出来事にも思えてしまう空気感があります。更に、謎を解く姿の描写も見事です。

著者
大崎 梢
出版日
2009-03-20

誰も傷つかずに、優しい気持ちになれる作品集。大崎梢自身「どこにでもある本屋さんを描きたい」と言っているので、充分成功していると思います。

本屋さんに行くのが好きなら、ぜひとも読んでいただきたい1冊です。

新人の出版社営業ひつじくんが頑張る毎日を覗ける『平台がおまちかね』

井辻智紀は出版社新人営業。データを見て、本をたくさん売ってくれた書店を訪ねてみたら、なぜなのか冷たくあしらわれるし、文学賞贈呈式に受賞者が現れないし……なにもかも簡単にはいかない波瀾万丈過ぎる毎日です。

一応ミステリーだけれど、血生臭い事件はなにも起きません。出版社営業・井辻智紀の「業務日誌」シリーズと銘打たれているように、彼の日誌を覗き見しているような気分が味わえる優しくて温かい、大崎梢の作品なのです。

著者
大崎 梢
出版日
2011-09-16

他社の営業マンたちから姓の井辻をもじって「ひつじくん」といじられまくりつつも、とにかく前向きにひたむきに、一生懸命書店と出版社を繋ぎ続けていく姿に、うるっときてしまうところもたくさんあります。特に『絵本の神さま』という短編には涙をこらえきれなくなりました。

書店に行った際に出版社営業さんを見たら「頑張って!」と声をかけてしまいそうになる1作。きっと大崎梢の作品が好きになりますよ。

カワイイが溢れる場所でへこたれつつも必死に頑張る編集者『プリティが多すぎる』

女の子向けファッション雑誌編集部で悪戦苦闘する新米編集者・佳孝は、はじめて見るものばかりの「カワイイ」世界に今日も困惑しています。曲者ばかりの編集部内や別のイキモノみたいな年下のモデルたち、洋服やアクセサリーなどなど、会うひとたち、見るものすべてがまさに異世界過ぎて……。

文芸編集者を希望していたはずなのに、配置されたのはファッション雑誌で、げんなりして、文句を言いつつも、しっかり頑張ってしまうところが微笑ましくて、にやにやしながら読んでいると、思いがけず「うるっ」としてしまう大崎梢の1冊。

著者
大崎 梢
出版日
2014-10-10

自分は好きではないけれど、大切で大好きだと思っている世界がある――彼がそう気づいていく過程がとてもいいのです。そして、あるモデルとの関係性も。

いま自分がいる場所、状況を受け入れられないときに読んだら、きっと気持ちが前向きに変わるのではないかなと思います。今を愚痴ってばかりではなにも変わらないのだから、とにかく頑張ろう! 絶対にだいじょうぶ!と。

まるで背中を押してくるような作品。疲れてつらいときにこそ、読んでいただきたい大崎梢の作品です。

どうしてもこの物語を本にしたいんです!『クローバー・レイン』

出版社の文芸部に勤める彰彦は、落ち目になってしまった作家の原稿の素晴らしさに打たれ、なんとしても本にしたいのですが、会社からのGOサインは出なくて……。

ひょんなことから最高の1作と出会ってしまった編集者が、いくつもの困難やハードルをなんとか乗り越えて、必死に頑張る姿が描かれています。本が世に出るまでの過程、他社からの横槍、壊れてしまった親子関係。そして、彰彦の恋愛。

著者
大崎 梢
出版日
2014-08-05

たくさんの要素が綺麗に物語を織り上げていきます。大崎梢の巧みなストーリーの構成力が光る長編作。ミステリーではありませんし、大きな出来事も起こらない淡々とした展開なのですが、作中のあらゆる描写が心に沁みます。ハッピーエンドや大団円を迎えるというのは、簡単ではないことだからとても素敵なのだ、と思うことができる作品です。

必死になにかに立ち向かっている人、これから立ち向かおうと考えている人にはぜひ手にしていただきたい大崎梢の1冊です。泣けますよ。

まさか、私がスキャンダルを追うなんて! 『スクープのたまご』

前任者が身体を壊したことで「週刊千石」に異動した新人部員・日向子が慣れない取材方法に四苦八苦し、週刊誌のあり方に悩みながらも、立ち向かっていく姿を描く大崎梢の連作短編集です。それぞれのエピソードが最後にすとんとまとまる手法がさすがです。

書店員、出版社営業、ファッション雑誌編集者、文芸編集者ときて、今度は週刊誌。大崎梢は、これで出版関係の物語はひととおり書いたのではないでしょうか。

この作品を書くにあたり、版元である文藝春秋の「週刊文春」に取材し続けて仕上げた、と彼女自身が言う通り、週刊誌取材の裏側がしっかりと描かれています。右も左もわからないような新人を取材現場に送り込むというのには登場人物同様に驚いてしまいますが、そのような現場をチラ見できる感覚が楽しめるはずです。

著者
大崎 梢
出版日
2016-04-22

ぐずぐずと愚痴を言いながらも、任された仕事は真摯にこなしていく日向子だけに、未解決の殺人事件やアイドルのスキャンダルなどにもビビらないような強い記者になっていくんじゃないかなと、期待できてしまうのも魅力です。大崎梢作品の登場人物たちは、ほんとうに応援したくなるんですよね。

いまはイヤなことでも、頑張れば光が見えてくると思える作品。新入社員気分で読んでみてはいかがでしょうか?

大崎梢が描く、保育園を舞台とした、家族と恋の物語『ふたつめの庭』

『ふたつめの庭』は、保育園が舞台の、めずらしい恋愛小説。「こうゆう場面、現実でもあるな」とニヤリとしてしまう作品です。

主人公は、保育士になって5年目の小川美南。彼女は園児の保護者であり、シングルファザーでもある志賀隆平を、意識するようになります。

著者
大崎 梢
出版日
2015-10-28

この小説の魅力は、主人公に自然と親近感がわいてくるところでしょう。

例えば、園児においしいものを描いてとリクエストされて、ドーナッツやソフトクリームやハンバーガーをクレヨンで描いたり、夏祭りの準備でジャージとTシャツとエプロン姿で走り回ったりします。美南自身も彼氏いない歴数年の、入園式と卒園式でしかおめかしする機会のない女性で、隆平に近づくシングルマザーや離婚した前妻の登場にやきもきします。

これらの描写が、湘南の街並みの描写とともに、丁寧に展開していきます。

単純に美南と隆平がやりとりの中で親密度を増すだけでなく、隆平に近づくシングルマザーがいたり(園児の保護者なので、美南としてはどうしても遠慮が出る)、園を出入りするイラストレーターであるカツミに意味深なメールを送られたり、恋愛小説らしい障害も発生。それでも、本質的な悪人が出てこないのが、この小説の魅力のひとつでしょう。

子どもがいる人にも、また子どもがいない人にも、ぜひ一度手に取ってみてほしい、そんな静かな作品となっています。

文句や愚痴ばかりでは前向きになれないと教えてくれる作品を生み出している大崎梢。いまを頑張りたい人へのエールに満ちた物語たちをぜひとも楽しんでみていただきたいです。

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