5分でわかるタックスヘイブン!仕組みや問題、対策税制等をわかりやすく解説

更新:2021.11.15

「租税回避地」と呼ばれるタックスヘイブン。2016年に発表された「パナマ文書」をきっかけに、さまざまな問題に注目が集まっています。この記事では、仕組みや概要、問題点、有名な国と場所、対策税制などをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。

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タックスヘイブンとは?仕組みを簡単に解説

英語では「tax haven」、日本語では「租税回避地」や「租税避難地」と訳され、税率が非常に低く設定されている国や地域のことをいいます。「haven」は「避難地」という意味で、天国を意味する「heaven」ではありません。

税率は国際的な基準が存在しないため、国ごとに大きく異なります。そこで他国から企業を誘致するために、税率を低めに設定する国や地域ができ、そのような場所を総称して「タックスヘイブン」と呼ぶようになりました。

タックスヘイブンに法人や子会社を設立して納税すれば、低い税率を利用して節税することができる仕組みです。

しかし近年ではこの制度を悪用し、資金を隠したり、大企業が税金逃れをしたりすることが問題視されるようになっています。またタックスヘイブンの匿名性がマフィアやテロ組織など非合法組織の資金洗浄に利用されることもあるようです。

そのため現在では、世界各国で規制や対策が進められています。

タックスヘイブンの問題点

上述のとおり、大企業や富裕層の税金逃れ、非合法団体の資金洗浄が問題視されています。経済のグローバル化にともない、タックスヘイブンを利用した税金逃れが世界各地で発生、それにともなう税収減が生じているのです。

こうした問題が世界的に注目されるようになったきっかけが、2016年5月に公開された「パナマ文書」です。

「パナマ文書」とは、タックスヘイブンであるパナマに置かれた法律事務所「モサック・フォンセカ」が保管していた機密文書のこと。約2.6テラバイトもの容量が流出し、その内容は世界各地の首脳クラスの有力者や企業が、税金逃れをしていたことを示すものでした。

「パナマ文書」には21万以上の団体の取引記録が記されていて、アイスランドのグンロイグソン首相や、パキスタンのナワズ・シャリフ首相は辞任に追い込まれています。

また日本人の利用も記録されていて、政治家の取引記録はなかったものの、439件の個人や企業が確認されました。

タックスヘイブンを利用した税金逃れは一定の資産がなければ難しいため、このような行動をとることができるのは一定以上の富裕層に限られます。富裕層が税金を逃れる一方で、低所得者層に負担のしわ寄せがされていることが最大の問題だといえるでしょう。

タックスヘイブンで有名な国や場所

パナマ以外に国際的に知られる国や地域として、シンガポールやイギリス領のケイマン諸島、アメリカのデラウェア州などが挙げられます。

これらの国や地域に共通しているのは、税率が低いだけでなく、企業への規制が緩く個人情報の秘匿性が高いこと、そして登記上だけで存在する「ペーパー・カンパニー」の存在を認めていることです。

特にデラウェア州は、経営者を優遇する会社法を整備しているため、州の人口よりも登記されている企業の方が多いほど。アメリカの週刊誌「Newsweek」は、他の州がデラウェア州によって税収を奪われているとして、「世界最悪のタックスヘイブンはアメリカにある」と述べました。

タックスヘイブンに対する日本の対策税制

タックスヘイブンはさまざまな問題を生み出してはいますが、税率を世界で一律に決めることができない以上、どうしても税率の低い国や地域が生じてしまうことも事実です。完全に根絶することは、現実的には難しいでしょう。

ただ各国は「タックスヘイブン税制」と呼ばれる対策をおこなっています。

日本では、1978年に「租税特別措置法」に盛り込まれ、2017年の改正によって内容が強化されています。タックスヘイブンを利用していると認定された場合、タックスヘイブンで申告した分の所得も、日本での課税分に合算できるというものです。

さらに2015年には、「OECD(経済協力開発機構)」や「G20」に加盟する40ヶ国で「タックスヘイブン税制」が全面導入することが決定されました。世界各地で対策税制が整備されてきています。

元官僚が警鐘を鳴らす

著者
志賀 櫻
出版日
2013-03-20

作者の志賀櫻は元大蔵省の官僚で、在籍中はタックスヘイブン問題に直接かかわってきた税のスペシャリストです。本書では、自身の経験や実例を交えつつ、タックスヘイブンの実態や問題点について論じていきます。

富裕層の税金逃れが横行し、税負担の公平性が損なわれていることを問題視。そして、なぜこのような制度がなぜ存在するのか、さまざまな勢力の動向にまで言及しています。

経済学の用語が頻出するため、理解を深めるにはある程度の知識が必要かもしれませんが、本書を読み解くことができれば、タックスヘイブンをめぐる問題の概要を知ることができるでしょう。

タックスヘイブンと「パナマ文書」を理解できる入門書

著者
渡邉哲也
出版日
2016-05-20

本書は「パナマ文書」をめぐる一連の問題をまとめた作品です。税金逃れが国家に与える影響や、タックスヘイブンをめぐる各国の利害関係、違法な経済活動による「地下経済」の実態にまで話がおよびます。

本書が発表されたのは、「パナマ文書」が公開された約1ヶ月後。説明は簡潔でわかりやすく、タックスヘイブンに関するよい入門書だといえるでしょう。

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