小説『ブギーポップは笑わない』の魅力をネタバレ考察!2019年アニメ化!

更新:2021.11.15

本作は、上遠野浩平が電撃文庫から刊行しているライトノベルです。不気味な死神ブギーポップを軸にした長編シリーズですが、作品それぞれにはほとんど話の繋がりはなく、連作のような形になっています。内容は青春学園モノであり、SFであり、伝奇的でもある不思議な作風です。 2019年1月4日に2度目のアニメ化がされた、本シリーズ。その原点にして頂点である1作目を解説しつつ、シリーズ全体の魅力をお伝えしたいと思います。

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小説『ブギーポップは笑わない』の魅力をネタバレ考察!名作ラノベが2019年アニメ化!

 

上遠野浩平がシリーズの1作目、電撃文庫から本作を発表したのは1998年ことです。

当時ライトノベルといえば、『ロードス島』の流れを汲む中世ヨーロッパ風ファンタジーが大半でした。そこへ新興の電撃文庫が、新人賞から古橋秀之、そして上遠野浩平という才能を送り込んだのです。

古橋は『ブラックロッド』にてオカルトパンクという、ライトノベルなのに「ライトではない」作風を開拓。上遠野はそこへさらに、ディープかつ現代劇という、それまでのファンタジーに反する世界観を提示したのです。

 

著者
上遠野 浩平
出版日

 

特に本作は、当時の「セカイ系」の流行も相まって、爆発的な人気を獲得。業界人のフォロワーも多数生み出す結果となりました。

こうして電撃文庫のその後の潮流――引いては現在のライトノベル業界に多大な影響を与えたのです。

「ブギーポップ」シリーズは1作目から20年経った今でも続いていますが、作者曰く、シリーズは1作目で完結しており、後のものは関連性の強い別作品のようなものなんだとか。

サブカルチャーを凝縮したかのような、シリーズの原点。2019年には新たなアニメ化も控えている本作が、いかに魅力的な作品かを詳細に見ていきたいと思います。

 

小説『ブギーポップは笑わない』のタイトルの意味とは?【あらすじ】

 

主人公の1人、竹田啓司は厄介事に直面していました。彼は偶然、「ブギーポップ(不気味な泡)」と名乗る怪人を知ってしまったのです。

竹田の苦悩の原因。それは、その怪人が彼の知り合い――というより、恋人関係にある1つ年下の宮下藤花だったからです。彼はブギーポップとは、彼女の精神的不安から生じた二重人格のようなものだと考えますが……。

しかし、しばらくして、ブギーポップは現れなくなります。常に無感情だったブギーポップが最後に竹田に別れを告げた時、彼は藤花の心の支えが取れて、消え去ったのだと考えました。

ブギーポップが人の不安によって生じるのなら、「笑わない」ブギーポップに代わって自分達こそが笑うべきなのだろう、と彼は思うのです。

そしてブギーポップが消えたのと同時期、人間が失踪する奇妙な事件がひっそりと集束して……。

『ブギーポップは笑わない』というタイトルは、この竹田の感想と、そして物語のラストシーンにかかっています。タイトルはブギーポップという存在が、人間は笑うためにあるのだということを示唆しているのではないでしょうか。

 

『ブギーポップは笑わない』の魅力をネタバレ考察:5人の視点から見た物語が映し出すもの

本作には、5人の主人公が登場します。

1人目はあらすじでも登場した、竹田啓司です。末間和子が2人目で、3人目は早乙女正美。そして木村明雄と、最後に新刻敬を合わせて5人です。

物語は、この5人の誰かがが登場する話で、その視点をとおして語る体裁を取っており、正確には彼らを主人公と呼ぶことには語弊があります。

物語冒頭の竹田の話は、あくまでプロローグに過ぎません。本格的に動き出すのは末間和子の視点からです。末間、早乙女、木村、新刻の4つの話が、物語の起こりから終わりまでの「起承転結」に対応しています。

5人の視点は時系列も関係もまったくバラバラで、それぞれの話は青春学園モノだったり、サスペンス的だったり、サイコホラーやSF伝奇アクションとさまざま。そして、これらを全てをとおして読んだ時、ようやく本筋が浮かび上がるという仕掛けになっています。

この辺りは、複数の視点をザッピングして操作する、ノベルゲームの感覚に近いといえるでしょう。

独立した5人の話は先に述べたジャンルが示すように、味わいがまったく異なります。そして、その味わいのなかにもほろ苦い後悔や、切ない悲恋が含まれてくるのです。

その全てに対して、直接的あるいは間接的に関係するブギーポップという不気味な存在が、バラバラだった話に統一感を与えて、いいがたい不思議な物語へと昇華させるのです。

さまざまな要素が渾然一体となるエンターテインメント。それが『ブギーポップは笑わない』なのです。

『ブギーポップは笑わない』の魅力をネタバレ考察:世界観、雰囲気が絶妙!

 

本作の面白さは、多数の登場人物それぞれの視点から語られる、多角的な物語にあります。

ともすれば、それらは個々の主張が強すぎてしまい、ストーリーとして破綻してしまいかねないほど。しかし、それらをうまく内包しつつ、魅力を最大限に発揮させるのが「ブギーポップ」シリーズの絶妙な世界観なのです。

物語の舞台は基本的に、現代日本に酷似した社会です。人々が平和に暮らし、その一方で技術的には停滞の兆しがあって、代わり映えしない日常にどこか倦んでいるような雰囲気のある世界。まさしく現代と生き写しです。

登場人物のほとんどは、そんな世界で当初普通に生活しています。それがなんらかの掛け違い、行き違いによって、うっかり世の中の深層に足を踏み入れてしまうのです。不審死、猟奇殺人、死神、魔女に怪人、秘密組織「統和機構」と、作品のキーとなり大仰に語られる「世界の敵」。

時には敵で、時には味方、話の展開によって役割と立場が大きく変動していきます。常に変わらないのは、ブギーポップが「世界の敵」の敵であり続けることだけでしょう。

個別には荒唐無稽でしかないこれらが、倦怠感の漂うリアルな世界観で語られることによって、奇妙な現実感を帯びてくるのです。そして、そのなかで語られる思想、死生観はフィクションの枠を越えて読者の元に届きます。

 

『ブギーポップは笑わない』の魅力をネタバレ考察:SF、異能、並行世界などの要素で読者を楽しませる!

本作には、実に多彩な要素が含まれています。

まず主要人物である、ブギーポップ。彼(宮下藤花に体を間借りしていますが、性自認は男)は人類、あるいは地球という文明社会全体を脅かす危機=「世界の敵」に対するカウンターとして現れる、異質な存在です。特殊能力こそ持ちませんが、身体能力を限界まで駆使して極細ワイヤーで戦う、世界の守護神のようなキャラとなっています。

明言はされていませんが、シリーズのスピンオフ作品である漫画『ブギーポップ・デュアル 負け犬たちのサーカス 』、アニメ『ブギーポップは笑わない Boogiepop Phantom』の描写からすると、ブギーポップと名乗る存在は複数いる可能性があります。

そんな彼と相対する超能力者、MPLS。MPLSとは現行人類から偶発的に生まれた、進化した人類(いわば進化の可能性)のこと。基本的には単に強力な異能を持つだけですが、強すぎる力が災いするらしく、彼らが「世界の敵」となる場合が多いです。

そしてMPLSを研究して、オーバーテクノロジーを保持する統和機構という組織や、人類を監視する超常的存在――すなわち宇宙人といったSF的要素も出てきます。

著者
上遠野 浩平
出版日
2012-08-09

さらに、これだけに留まりません。「ブギーポップ」シリーズの作者、上遠野浩平は自作の世界観を、ほぼ全てリンクさせています。

たとえば、「ナイトウォッチ」3部作は「ブギーポップ」の地球崩壊後の遠未来を描いたSF。変わり種としてはファンタジーミステリーの「戦地調停士」シリーズがありますが、これは本編から影響を受ける異世界の物語となっています。

これら多数の作品の中核に位置するのが「ブギーポップ」シリーズ。もちろん全作品を制覇する必要はありませんが、多彩な楽しみ方が出来るのでまったく飽きません。

『ブギーポップは笑わない』の魅力をネタバレ考察:シリーズ作品を整理してみた

本作が発売されたのは、1998年のことでした。2018年でちょうど20周年となります。巻数は22巻と少し多いですが、1度手を付けると一気に読み進めてしまうことでしょう。

ただ新しく読み始める方のために、シリーズをわかりやすく整理してみたいと思います。

まず何はなくとも欠かせないのが、1作目『ブギーポップは笑わない』です。その後の全ての要素含んでおり、完成度はピカイチ。

次に重要なのは、本編およびスピンオフで重要な位置を占める2作目『ブギーポップ・リターンズVSイマジネーター』Part1と2です。そこに誕生秘話を含んだ短編集『夜明けのブギーポップ』を加えれば、おおむね雰囲気は掴めます。

著者
上遠野 浩平
出版日

『ブギーポップ・イン・ザ・ミラー「パンドラ」』から『ブギーポップ・ウィキッド エンブリオ炎生』までが大きな物語の導入部で、『ブギーポップ・パラドックス ハートレス・レッド』以後は世界観の拡張が計られます。

作中の登場人物を新たな主人公とした『ビートのディシプリン』、『ヴァルプルギスの後悔』などのスピンオフもその一環。

そして現在は、最終巻として予告されている『ブギーポップ・ストレンジ』に向けて、物語が段々と集束していっているところです。

『ブギーポップは笑わない』の魅力をネタバレ考察:結末から見えてくるもの、テーマとは?

本作はさまざまな人物の行動、無数の思惑によって紡がれる群像劇です。ある側から見れば悪のおこないであっても、逆から見れば正義となるような、簡単に白黒の付けられない奇妙な物語となっています。

著者
上遠野 浩平
出版日
1998-02-06

 

どちらとも付かない、あるいはどちらにでもなり得る。そうした物語をとおして作者が描こうとしたのは、ずばり人間そのものでしょう。限りなく強く、限りなく弱い不思議な生き物、人間をテーマとした「人間讃歌」です(ちなみに作者は『ジョジョの奇妙な冒険』ファンを公言しています)。

荒々しく、もの悲しく、やり場のない苛立ちすら感じるものの、最後に読み終わった時に感じるのは奇妙な爽やかさです。それこそ青春小説のような、爽やかな読後感が本作を名作たらしめているのでしょう。

この不思議な感覚は、多数のフォロワーを生み出した今でさえ、『ブギーポップは笑わない』固有のもの。未読の方に、ぜひ1度味わって頂きたいです。

 

いかがでしたか?「ブギーポップ」シリーズの魅力は伝わったでしょうか。1度はまってしまうと、日常で奇妙なことを見聞きした時、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』が聞こえてくるようになるかもしれません。

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