横田増生のおすすめ本5選!ユニクロやヤマトへの潜入が話題のジャーナリスト

更新:2021.11.16

実際に自分が働くという衝撃の潜入ルポで話題となった横田増生。その取材にかける熱量と、わかりやすい文章で人気を博しているジャーナリストです。2018年には『ユニクロ潜入一年』が「ノンフィクション本大賞」にノミネートされ、ますます注目を集めています。そんな横田の作品のなかから特におすすめのものを紹介していきましょう。

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横田増生とは

 

1965年生まれ、福岡県出身の横田増生。アイオワ大学のジャーナリズムスクールで修士号を取得した、生粋のジャーナリストです。1993年に帰国した後、物流業界紙「輸送経済」の記者、編集長を務め、1999年にフリーになりました。

デビュー作は、2003年に発表した『アメリカ「対日感情」紀行』です。横田がアメリカで暮らしていた際、メディアで伝えられている「アメリカ」と、自分の肌で感じた「アメリカ」が異なることに違和感を覚え、全50州をめぐって市民たちにおこなったインタビューをまとめたもの。メディアが伝えているものがいかにステレオタイプであるかがわかり、話題となりました。

さらに横田増生の名を世に知らしめたのは、アルバイトとして物流センターの作業員となり内部事情を描いた『アマゾン・ドット・コムの光と影』や、独自の取材で過酷な労働環境を暴いた『ユニクロ帝国の光と影』です。

後者ではユニクロとファーストリテイリングが名誉棄損で裁判を起こしたため、より注目を集めることとなりました。その後も横田は名前を変えてまで同社に潜入取材を試みるなど、ジャーナリズム精神を発揮。「企業にもっとも嫌われるジャーナリスト」の異名をとっています。

『ユニクロ潜入一年』は、2018年にYahoo!ニュースと本屋大賞が新設した「ノンフィクション本大賞」にノミネートされました。

 

横田増生の名を広めた作品『ユニクロ帝国の光と影』

 

2011年に発表された作品。ユニクロ側が名誉棄損として損害賠償を求めたことで、結果的にジャーナリスト横田増生の名を広めることとなりました。

メディアがあまり報じることのない大企業の影の部分を徹底的に取材し、労働環境の実態や、創業者である柳井正の経営哲学などをあぶり出しています。

 

ユニクロ帝国の光と影 (文春文庫)

2013年12月04日
横田 増生
文藝春秋

 

本作に端を発した訴訟は、原告側の敗訴という形で決着がついています。

一時期のユニクロは、低迷していた日本企業のなかで成長を続ける数少ない企業のひとつで、服飾業界の救世主としてもてはやされていました。メディアでもその躍進は大きく取り上げられ、柳井正のユニークな経営を礼賛した報道を覚えている方も多いのではないでしょうか。本書は、そんな風潮のなかで初めての批判本として注目を集めました。

海外の工場の劣悪な環境や、サービス残業をせざるを得ない各店舗の実態、執行役員が次々と辞めていくさまなどを、柳井正の幼少期や父親との関係となど人物像まで掘り下げながら明らかにしていきます。

その一方で、製造から小売りまでを一貫して担うアパレルのビジネスモデル「SPA」を始めたことや、消費者の心理を変えていったことなど、ユニクロの功績も事実として知ることができるでしょう。

 

横田増生の代表作『ユニクロ潜入一年』

 

『ユニクロ帝国の光と影』に関する裁判は収束したものの、横田はその後ファーストリテイリング社が開く中間決算発表会見への参加を名指しで拒否されてしまいます。

さらに、柳井正が経済誌のインタビューで「うちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたい」と発言していることを確認しました。

これが横田増生のジャーナリズム魂に着火することとなり、彼はアルバイトとして潜入取材を試みるのです。

 

著者
横田 増生
出版日
2017-10-27

 

「週刊文春」誌上で「ユニクロ潜入ルポ」を発表すると、大反響を呼んだそう。横田増生はその2日後に解雇を言い渡されました。アルバイトとして働いている最中にあえて最初の記事を公開したのは、ユニクロがどのような対応をするのか、内側から見たかったからだそうです。

横田は実際に3店舗で働き、採用面接や過酷なシフトなどを経験。すべてにおいて作者自身が直に関わっていることなので、リアリティがあって説得力抜群です。

ただ本書でわかるのは、マイナスの面ばかりではありません。肉体的にも精神的にも厳しい状況のなかで、同僚や部下たちと真摯に向き合う社員の姿も描かれています。また、実際に働いたからこそ言える「改善点」が記してあるのも見どころでしょう。

実名で働くと門前払いされかねないからと、1度離婚をしてすぐに再婚し、戸籍を妻の姓に改名をしてまで臨んだ潜入ルポ。横田増生の代表作ともいえる作品です。

 

横田増生が宅配業界に潜入!『仁義なき宅配: ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』

 

いまや日本の「社会インフラ」として定着した宅配。洋服や本、日用品など、注文をすればほぼなんでも指定の場所に届けてもらうことができます。

その裏側を支えているのが、宅配業者。より多くの荷物を、より安く、そしてより速く届けるために、大手3社はしのぎを削っているのです。いったい現場はどのような状況なのでしょうか。

本書には、横田増生が実際に宅配トラックの助手席に座る「横乗り」をしたり、物流センターで仕分けをしたりと潜入取材をしたルポが綴られています。

 

著者
横田 増生
出版日
2015-09-02

 

横田の場合、潜入取材の手法にインパクトがあるためそちらばかりが注目されてしまいますが、宅配市場の構造や歴史的背景、大手各社の特徴などもデータでしっかりと示しています。わかりやすさという点でも魅力的でしょう。

宅配ドライバーの給料が配達した荷物の個数で決まることや、物流ターミナルではアルバイトの人が長続きしないためかしっかりとしたマニュアルがないまま、寒い室内で延々とクール便を仕分けをしているなど、実際に現場にいるからこそ書ける文章には生々しさがあります。

2015年に本書が発表されたことがきっかけで、宅配業界の労働環境に注目が集まるようになったそう。「安い」「便利」のしわ寄せが現場に集まっていることを知ることができる一冊です。

 

日本とフランスを徹底比較『フランスの子育てが、日本よりも10倍楽な理由』

 

フランスは、「G7」と呼ばれる先進7ヶ国のなかで唯一、出生率を2.0に回復させた国として知られています。一方の日本は低下の一途をたどり、年々過去最少を更新している状況です。両者の違いはどこにあるのでしょうか。

横田増生は、2004年から2008年の4年間、フランスで主夫として生活をしていました。本書は、その時の経験とフランスの家庭へのインタビュー、そして子育てに関する政策や統計データをまとめ、日本と比較をした作品です。

 

著者
横田 増生
出版日
2009-02-25

 

「無職のシングルマザーでも四人の子どもを育てられる国と、共働きでも子育てに経済的な不安を感じてしまう国の違いとは?」(『フランスの子育てが、日本よりも10倍楽な理由』帯から引用)

日本と外国を比較した作品はほかにもありますが、本作は実際に横田増生が主夫として暮らした経験をもとに書かれているので、実感をともなった主張に説得力があります。

たとえばフランスは、家族や育児に対するGDP比予算が日本の4倍もあるだけでなく、実際の現金給付も多いのだとか。また職場における男女差が小さく、夫も家事や育児をする習慣があるため、家庭と仕事の両立も図りやすいのだそう。

フランスと比較することで、日本に足りないこと、目指すべきものが見えてくるのではないでしょうか。

 

横田増生が受験戦争に切り込む『中学受験』

 

首都圏では、小学生の5人に1人が中学受験をするそうです。

横田増生は自らも小学生の子どもをもつ親として、「お受験」に関する情報はさまざまなものがあるのに実は肝心な部分が世の中に知られていないのではないかと感じ、中学受験に深く切り込んでいきます。

 

著者
横田 増生
出版日
2013-12-21

 

たとえば経営が破綻すればつぶれてしまう私学では、いじめなどの悪評を公立以上に隠蔽したり、教育委員会の管轄外のため何かがあっても外部が介入できないという実態があったりするそう。

中高一貫教育の問題点や学習塾の商業主義など、これまでほとんど報道されることのなかったマイナス面に目をつけています。費用についても具体的な数字を用いながら説明しているので、わかりやすいでしょう。

中学受験を考えている親御さんはもちろん、昨今の受験戦争に興味がある方にもおすすめの一冊です。

 

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