東京に馴染めずにいるあなたに贈る『東京百景』

更新:2021.12.11

東京に住み始めて、早3年。未だに、街に馴染めていません。隙あらば、埼玉の田舎へ帰ろうと模索してしまいます。 そんな私のように、東京にある種の疎外感を感じてしまうあなたへ贈る、又吉直樹『東京百景』。

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口癖は「地元に帰りたい」「山と川に囲まれたい」

筆者のことです。東京に住み始めて早3年ほど経ちますが、未だに東京に馴染めずにいます。

渋谷や新宿を歩けば人混みに酔い、表参道を歩けばハイブラの放つオーラに圧倒され、六本木を歩けば「この貧乏人がぁ!!」とエッグベネディクトを投げつけられるのではないかとヒヤヒヤしながら過ごしているのです。

そんな私ですが、こうは言いつつも東京という街が嫌いではない、というか大好きです。ワクワクするものがたくさんあるし、いつでも賑やかでなんだか楽しい。

それでも私の口から度々出るのは、「地元に帰りたい」「山と川に囲まれたい」。

こういった言葉が出てしまうのは、心のどこかで「ここは自分の居場所ではない」という思いがあるからなのです。あまりにも華やかすぎるこの街には自分なんて合わないと思い、そして東京という街に疎外感を感じてしまうのでした。

著者
又吉 直樹
出版日
2013-08-26

 

そんな私のような思いを抱えている人にぜひ読んで頂きたいのが、お笑いコンビ・ピースのボケ担当にして芥川賞作家の又吉直樹によるエッセイ『東京百景』。

あなたは、東京という街にどのようなイメージを持っていますか?ファッション、グルメ、カルチャー、最先端技術、流行が生まれる場所、それを生む人、求める人、夢を追う人、破れる人、イベントで群がる人、それに辟易する人、人、人。

さまざまなドラマがあって、劇的に人生が変わる街。夢を叶えるために住む街。それが東京だとイメージする人も多いのではないでしょうか。だから、そういった出来事もなく、そういった流れに乗ることもできない自分がこの街にいてはいけないと、疎外感を感じてしまうのです。

東京だって、ただの街。

しかし、本作『東京百景』で描かれている東京は、このようなイメージとはかけ離れています。吉祥寺で、下北沢で、原宿で……東京のさまざまな場所について綴られるそのエピソードたちは、淡々とした印象で描かれていきます。

そこには、東京の華やかさも、賑やかさもありません。ただ、普通の暮らしが描かれているのです。もちろん本作で描かれているのは、東京ならではの風景をきっかけにして生まれたエピソードなのですが、そこには劇的な描写や過剰なドラマ性は盛り込まれていません。

ここにあるのは普通の暮らし。東京だって、ただの街なのです。買い物に来る人がいて、遊びに来る人がいて、会社に勤めに来る人がいて、ここで暮らしている人がいます。

東京を疎外していたのは、私だったのです。街は私を含めて誰だって受け入れてくれていたのに、拒絶していたのは私の方でした。「東京に出たら、こうであるべき」という勝手な思い込みを作り、そうではない自分に落胆して、やがて東京に疎外感を感じるようになったのです。

この先、仕事が無くなる事も、家が無くなる事もあるだろう。
だが、ここに綴った風景達は、きっと僕を殺したりはしないだろう。
(『東京百景』より引用)

東京は、本当は誰にだって優しい。それなのに「自分の居場所ではない」と感じてしまうのは、きっと自分自身の弱さにあるのでしょう。

東京も、私の地元と同じように、ただの街です。東京に住んだら何か変わるなんていうのは、幻想にすぎません。本作の作者である又吉のように、誠実な目で東京という街を見つめれば、きっと考え方や見方も変わるのではないでしょうか。

東京という街に馴染めず、疎外感を感じている方は、ぜひ本作を読んでみてください。この街の見え方が、少しは変わるはずです。

余談ですが、実はピースが売れる前から、大の又吉ファンだった筆者(そして、今も大好き)。当時は出待ちしてサインをもらったりするほどの熱量でした。そんな経験も東京だからこそできたかと思うと、やっぱり東京は最高!素敵な思い出をありがとう!

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