価値基準が人と違う自分に悩んでいる人におすすめの本

更新:2021.11.17

「人の目を気にしない生活」を選んだがゆえに「人の目が異様に気になる」。 「ユニークな人になりたい」けど「常識はずれな人にはなりたくない」。 「普通なんてない」といいながら「平均が気になる」。 変わった人だねと言われることに喜びを感じつつも、その裏の裏まで気になってしまう…自意識過剰を順調に育てて来た筆者が送る、「自分との戦い」ならぬ「自分との痴話喧嘩」に悩むあなたにおすすめの新書、ご紹介します。

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魔のひとりごとタイム

人のいない帰り道というのは危ない。

職場から通勤に使っている路線の駅まで徒歩15分くらいあるのだけれど、小さいビルが多いこともあって、行きはともかく帰りの道がなかなか暗い。とは言っても5分あるくごとにコンビニはあるし、なんなら警察署もあるし、遅くまでやってる喫茶店やらなんやらもあるし、防犯上の問題があるわけではない。「人があまり通らない」という暗さがある。寒さが厳しいのもあって、心身が冷え込んでいく。

高校生の時からなのだけれど、歩きながらひとりごとを言う癖が抜けない。昼間はそこまででもないのだけれど、夜になるとすれ違っても口元が見えないだろうという安心感が手伝ってか、ついつい変なことを呟きながら歩いてしまう。そしてその症状は冬は特にひどい。

こんなことを言うと何を気取っているんだかと思われそうだけれど、「文字中毒」なのだと思う。本は読み終わったら落ち着かないし、スマホの電池が切れると、連絡うんぬんより「文字不足」にそわそわし始めてしまう。看板の見える昼間や、すれ違いざまに人の会話が聞こえる時にはいいけれど、全く「言葉」が入ってこない状況がいやでいやで仕方がない。

ちょっと雰囲気のあるバーなどに一人で入ると、情報量の少なすぎるメニュー表を上から下までなんども読み返す。注文後はラベル名を見ることに終始する。一時期通っていたところは、そんなそわそわした様子を察してか、カウンターの中でもカクテルについて書かれたおしゃれな本が置いてある席に通してくれるようになった。「バーテンダーさんってすごいな」と酒が回った頭で感じたものである。

話がそれたが、ひとりごとのこと。目から文字が入ってこないと、口に出すことで埋めたくなってしまう性なのだ。独り言は形容詞が多い。「寒い」「わびしい」「眠い」「さびしい」「うるさい」「うざい」「えげつない」…「かわいい」。

著者
四方田 犬彦
出版日

この本で分析する「かわいい」は、個人的な印象かもしれないが何かネガティブなものとして書かれている。

昨今、平成最後の天皇誕生日に、Twitterで「#天皇ハピバ」なる投稿が溢れたことが話題にもなったが、2006年に出版された本ながら「天皇をかわいいという女子高生」に言及するなど、なかなかとがった「かわいい」の本である。

「面白い新書教えて」と言われたらとりあえずこの本をすすめることにしている。レビューに書かれる通り、「新書」としては「データが少ない」とか「個人的な意見が多い」だとかで賛否が分かれそうな内容ではあるのだけれど、じゃあそもそも「新書」ってなんなのか、という話になれば突き詰めると「サイズ」の話になってしまうわけだし…。

この本をとりあえず人に勧めたくなる理由その1は、「ふと言っちゃう言葉」を再定義しようとしているところにある。語源やらなんやら、いわゆる「枕草子にはじまるエトセトラ」といったところ。読んでしばらくは、友人とでかけた際に「なんと無自覚にかわいいと連呼しているのだ、自分は!」というアハ体験の連続である。

おすすめ理由その2は、「かわいい」が意味深に使われている作品がたくさん紹介されているところだ。「枕草子」は有名すぎてさておき、太宰治の『女生徒』なるそこらへんにいそうでいない女の子の物語を教えてくれたのも、「家族ゲーム」なるなんか変な映画を教えてくれたのもこの本だった。ちなみに「グレムリン」(正確には「グレムリン」なるなんか聞いたことある映画がホラー作品であること)もこの本で知った。

本の結論は「かわいいって人によっても言い方によっても意味が違いすぎてもろいよね」みたいな感じなのだけれど、なんかそのふわっとした着地も「かわいい」と思えてしまう新書だ。

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