【第18回】普通の容姿の話

中学生や高校生のころ、CMのオーディションをたくさん受けた。

地図を片手に休日のオフィス街をうろうろしていると、白いワンピースを着た美少女がこつ然とあらわれる。

目的地と反対側に歩いていればそれはオーディションを今しがた受けてきた同業者で、

目的地へ向かって歩いているのであれば同じオーディションを受ける同業者だった。

「控室」という張り紙の貼られた会議室のドアを開けると、

白い服を着た黒い髪の美少女たちが長机を囲んで大人しく座っている。

機密情報の絵コンテには「清潔感があり、元気で明るい普通の女子高生」とある。

向かいの子も隣の子も、どう見たってみんな、めちゃくちゃきれいで清潔感に溢れている。

わたしもそれらしい清潔感を出すため、生活感いっぱいの部屋に干された一張羅の白いワンピースにアイロンをかけて着てきた。隣の女の子が念入りにリップを塗り直す。

「普通」の女の子がこんなに出来上がってるわけあるかよ。

恵比寿の繁華街のマンションの一室にある「隠れ家サロン」の扉を開けると、茶髪のロングヘアにパーマをかけた女の人が小さめの声で出迎えてくれた。花束のにおいがする。

白いベッドに白い壁、26歳のわたしは目をつぶって口から小さく息を吐く。

白いマスクを着けた女の人が、手のひらを私のこめかみに当てて、頭蓋骨に全体重をかけている。顔の骨が軋んでいる、めちゃくちゃ痛いけれど静かに静かに堪える。

顔の小さなモデルがInstagramに「気持ちよくて寝ちゃいました~」って書いていたのを見てここを予約したのに。

思いのほか個人差のある感想だったのか、それとも丸顔にはそれなりの施術があるということなのだろうか。

頬骨の辺りへグググググ、と圧をかけられると、ビンタの痛みの鈍い芯の部分だけを延々と味わわせられるように痛い。

女の人はひとつ工程を進めるごとに「ほら! ここ! 触ってみてください! シュッとしましたよね?」と手鏡を渡してくれるので、鏡を見ながら一緒に顔の出来上がり具合を確認する。

メガネを外した私は鏡越しにぼんやりした自分の顔を見る。

頬を触ればなんとなく頬骨が内側に入りシュッとしたような気がするけれど、明確な差まではわからなかった。

お姉さんから「いかがですか?」と顔を覗き込まれて

仰向けになったまま「ゴッドハンドですね!」と答えた。

私は自分の骨がきしむ音を少なくとも30分以上、黙々と聴いていた。

こんなに痛いのになんにも変わらないわけがない。

痛い、痛い、痛い。耐える、耐える、耐える。ゆっくりと悔しくなってくる。

わたしは何のために綺麗でいたいのだろう、なぜ綺麗になりたくて、どうしてそう思うようになったんだろう。そもそもどうしてきれいにしなくちゃいけないの?
きっとわたしは「作り物の普通」を内面化しているんだと思う、そしてそれは私が15年もいる芸能の仕事でやっている役割のほとんど全部なんじゃないか。

小顔矯正が一通り終わって鏡を見てみると、そこにあるのはやっぱり「普通」の顔だった。

悲しくてかっこいい人

著者
イ・ラン
出版日
2018-11-16

イ・ランは1986年に韓国で生まれた多才なアーティストだ。

2016年に韓国で出版されたこの本は2018年の11月に日本語訳でも出版された。

彼女の日常やこれまでのことが詰まった、正直なエッセイ集の191ページ「みんな、顔が大きくなる」には加齢とともに顔が大きくなることへの率直な疑問が綴ってある。

彼女の日常に触れられるようなエッセイの数々はときに声が出るほど笑えて、ときに胸を締め付けられるほど切実だ。一気読み間違い無しの一冊です。

撮影:石山蓮華

この記事が含まれる特集

  • 電線読書

    趣味は電線、配線の写真を撮ること。そんな女優・石山蓮華が、徒然と考えることを綴るコラムです。石山蓮華は、日本テレビ「ZIP!」にレポーターとして出演中。主な出演作は、映画「思い出のマーニー」、舞台「遠野物語-奇ッ怪 其ノ参-」「転校生」、ラジオ「能町みね子のTOO MUCH LOVER」テレビ「ナカイの窓」など。

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