小説『移動都市』が面白い!シリーズ全編ネタバレ解説!異色のファンタジー

更新:2021.11.17

「60分戦争」から1000年後の地球。そこには荒廃した世界が広がっていました。人々は過去の記録から文明を復活させるべく、立ち上がるのです。 2001年(日本では2006年発表)にイギリスで発表された本作『移動都市』は、レトロな雰囲気のSFアドベンチャー。2018年(日本では2019年公開)にハリウッドで映画化もされ、話題を呼びました(『移動都市/モータル・エンジン』)。スタジオジブリアニメやスチームパンク系統の作品が好みの方には、ぜひともおすすめしたい冒険小説です。 今回の記事では、本シリーズを全巻分、解説。ぜひご覧ください。

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映画化の原作小説「移動都市」シリーズをネタバレ紹介!【あらすじ】

 

古代の工学士ニコラス・キルケがロンドンを移動都市に変えてから、この世界では都市間自然淘汰主義の思想のもと、多数の移動都市が建造されました。

やがて巨大な都市が轟音を立てて大地を移動し、小さな都市は大きな都市に食われ、そして大きな都市はより巨大な都市に食われるようになり、空には飛行船が飛び交うようになったのです。

ロンドンの史学ギルドの3級見習いトム・ナッツワーシーは空想好きで、いつも冒険の夢ばかり見ていました。ある日、彼はあこがれの冒険家にして史学ギルド長のサディアス・ヴァレンタインの仕事を手伝うことになります。
 

あこがれの人とともに仕事をすることに舞い上がっていたトムでしたが、彼には凶刃が迫っていたのです。

 

著者
フィリップ・リーヴ
出版日
2006-09-30

 

原作者フィリップ・リーブスのファンタジー小説である本作は2018年に映画化され、『ロード・オブ・ザ・リング』や『キングコング』で有名なピーター・ジャクソンが制作、脚本を務めました。映画のタイトルは『移動都市/モータル・エンジン』

武骨で重厚な巨大都市が動き回り、そして別の都市を食う(正確には捕獲して解体する)独自の世界感が魅力のファンタジー作品となっています。

物語は、最後の戦争(60分戦争)から1000年後の地球が舞台。文明が荒廃した世界で、人々が過去の技術を発掘して再利用し、文明を再び形成していきます。都市が都市を食うというのも、この資源の乏しい世界で生み出された都市間自然淘汰主義の考えからくる社会システムなのです。

本作はこの独特の世界観に加え、主人公で空想好きの史学士トム・ナッツワーシーと、過酷な過去を背負って生きるヒロイン、へスター・ショウのコンビが魅力的。この世界にあるさまざまな都市を舞台に旅する、ロードムービー仕立ての物語となっています。
 

レトロな雰囲気のSF冒険活劇が好きな人には、ぜひともおすすめしたい作品です。

まるで『ハウルの動く城』!? ジブリ作品にも通ずる魅力&面白さ!

先述したように、「移動都市」シリーズでは巨大な都市が小さい都市を食べらながら、成長して移動していきます。この巨大な都市が移動するという設定で、何か思い当たるものはないでしょうか。

そう、宮崎駿の所属するスタジオジブリが手がけたアニメ『ハウルの動く城』です。両作品は似た雰囲気を感じますが、もちろん別物。しかし、本作はジブリ作品に通じるような、ドキドキハラハラする世界観が魅力となっています。

そんな本作には移動都市の他に、主人公の夢見がちな少年、そして彼を支えて行動をともにする少女、兵器や人造人間、さらには飛行船、空中都市も登場。まるで、「ナウシカ」「ラピュタ」「ハウル」の要素を詰め込んだような内容となっているのです。

これだけでも、ワクワクしないはずがありません。壮大な物語を予感させてくれます。

主要キャラクターを紹介!勇気と優しさを持った少年と、顔に傷のある少女

 

・トム・ナッツワーシー

本篇の主人公。ロンドンの史学ギルドの3級見習いの少年で、空想好き。いつも冒険を夢見ている少年です。幼いころに両親を亡くしており、以来、史学ギルドで働いています。

お人好しで優しく、誠実な性格。本人はあまり意識していませんが見目のよい顔立ちであるため、その性格も相まって人に好かれやすい性質です。飛行船の操縦に関して優れた才能を持っています。

・へスター・ショウ

本篇のヒロイン。顔にひどい傷があって歪な顔立ちになっているため、常にスカーフで顔を隠しています。サディアス・ヴァレンタインの命を狙っておりロンドンに忍び込みますが、トムに阻まれて彼とともにダストシューターからと落っこちてしまい、図らずも行動をともにすることに。

気性が激しくてやさぐれた性格ですが、本来は寂しがり屋で優しい少女です。

・キャサリン・ヴァレンタイン

もう1人のヒロインともいえる存在。史学ギルド長のサディアス・ヴァレンタインの娘です。元は水上都市プエルト・アンヘレスで母と暮らしていましたが、母が亡くなったため父親に引き取られてロンドンに来ました。

ヴァレンタインが命を狙われてから、その真実を探るために行動を起こすなど、可憐な容貌に合わず大胆な性格です。

・サディアス・ヴァレンタイン

史学ギルド長で、考古学者。トムのあこがれの人物であり、勇猛な冒険家です。物語に関する重要なカギを握っており、それがもとでへスターに命を狙われています。

・チャドリー・ポムロイ

史学士で、大ロンドン博物館の研究員。トムの直属の上司です。キャサリンの事情を知ると、仲間達を集めて、よき協力者となります。

・シュライク

古代の戦争で機械に改造された「ストーカー」と呼ばれる兵士。いわゆるサイボーグです。恐ろしい風貌に合わず、人間だった頃のなごりから女や子供の人形を好む一面があります。

へスターが昔に傷を負ったときに彼女を匿って育てたことがあり、それ以来彼女に執着するようになるのです。

・アナ・ファン

東洋人の女性飛行船乗り。「風の花(フェン・フア)」とも呼ばれています。飛行船ジェニー・ハ二ヴァ―号の船長で、奴隷商人に狙われたトムとへスターを助けたことことから、2人と関わりを持つ人物です。飛行船乗り同士からの信頼が厚く、優れた戦闘技術を持つ女傑。

シリーズ2作品目『略奪都市の黄金』では、意外な過去が明らかになります。

 

『移動都市』をネタバレ解説:少年と出会った、暗殺者の少女

 

巨大な移動都市ロンドンの史学ギルドに所属する、3級見習いのトム・ナッツワーシー。彼は仕事をさぼったため、上司のチャドリー・ポムロイから叱責を受け、罰として都市下層階にある「ガット」で作業する羽目になりました。

しかし、そこには彼のあこがれの冒険家で、史学ギルド長のサディアス・ヴァレンタインと、その娘のキャサリン・ヴァレンタインがいました。あこがれの人物と仕事ができることで、罰ではなかったとすっかり舞い上がっているトム。しかし、同時にサディアス・ヴァレンタインを狙う怪しい人物がガットに紛れ込む事態が発生するのです。

その人物に気がついたトムは、暗殺者を追いかけていきました。その人物をとらえると、正体はなんと、顔にむごい傷を受けた少女だったのです。彼女の名は、へスター・ショウ。

やがて彼女は、ダストシューターから飛び降りて逃走。一方、トムもまた何者かに突き飛ばされ、ロンドンから振り落とされてしまうのでした。

著者
フィリップ・リーヴ
出版日
2006-09-30

 

冒険を夢見る少年と、それに同行する少女という、ファンタジーアドベンチャーの王道ともいうべき始まり方の本作。厳密にいうと世界設定は文明が荒廃した未来の世界が舞台なので、ファンタジーというよりは『マッドマックス』や『風の谷のナウシカ』のような、ディストピア系のSFというべきでしょう。

そうした殺伐とした世界設定である一方、空に飛行船が飛び交い、大地に武骨で巨大な機械都市が疾走し、多くの冒険者や海賊が活躍するという、どこか郷愁を掻き立てるレトロな世界観が魅力的です。

本作はトムとへスターが活躍する都市の外、そしてヴァレンタインの娘であるキャサリンが活躍するロンドンの、2つの舞台が交互に進行していきます。 3人はそれぞれ裏切りや空想と現実の乖離、あこがれの人物への失望を目の当たりにして、過酷な世界を生き抜いていくのです。

飛行船の名前に「ジェニー・ハ二ヴァ―」や「モケレ・ンベンベ」など、未確認生物の名前が使われているのも本作の面白いところでしょう。

 

「移動都市」シリーズ2作品目『略奪都市の黄金』をネタバレ解説:氷上の幽霊都市

 

ロンドンでの惨劇から2年後。トムとへスターは、アナ・ファンの忘れ形見となったジェニー・ハ二ヴァ―号を使って、飛行船乗りとして生計を立てていいました。

ある日、そんな彼らの前に1人の男が現れます。彼の名は、ペニー・ロイヤル。
 

作家であり探検家である彼は、自らを「教授」と称しました。そして南にある故郷に戻りたいらしく、トムとへスターとの旅に同行することを申し出たのです。果たして、彼は何者なのでしょうか。

そんな彼らは、旅の途中で反移動都市同盟の過激派に襲われてしまいます。そして命からがら逃げだした後、北の氷原にある移動都市アンカレジに拾われるのです。

そこを治めるのは、まだ少女といっていい歳の頃の女の子、フレイア・ラスムッセン辺境伯でした。

 

著者
フィリップ リーヴ
出版日
2007-12-12

 

前回から2年経ち、つらい惨劇から立ち直ったトムは、へスターとともに優秀な飛行船乗りとしてたくましく成長しました。そんな彼らの新しい舞台となるのは、かつて戦争で使われたウイルス兵器のために大半の人々が死に絶えてしまった氷上都市、アンカレジです。

そして、そこで登場する新たな人物が、アンカレジの若き辺境伯であるフレイヤ・ラスムッセン、探検家にして作家のペニーロイヤル教授、その氷上都市を監視する謎の盗賊集団「ロスト・ボーイ」達です。

フレイヤは先代の辺境伯、すなわち彼女の父と母がアンカレジに蔓延した疫病のために亡くなったため、若くして当主となった少女です。堅苦しい尊大な言い方で、まるで大昔の貴族のような彼女ですが、中身は年頃の女の子そのもの。

ペニーロイヤルは自称「教授」ですが、初登場から妙に胡散臭い男として登場します。自伝の冒険小説では勇猛な人物として書いていますが、トムと行動しているときの彼は小心者そのもの、おまけに宿屋の家賃を踏み倒すなど、お世辞にも立派な人間には見えません。

コール、スキューア、ガーグルの3人は、ロスト・ボーイという少年だけで構成された盗賊集団の一員で、アンクルという謎の男の指示で動いています。彼らは氷上都市を狙ってアンカレジに忍び込んで、住人を監視しているのでした。

氷上都市は、アルハンゲリスクという移動都市も狙っていますが、実はこの都市の名前はすでに前巻『移動都市』で出てきますので、チェックしてみてください。

登場人物や敵対者が増えて、再びトムとへスターに受難が訪れます。なかでも最大の受難は、2人の間に現れるフレイヤの存在でしょう。トムと同様、歴史に興味があり、話が合ううえに彼女もトムに好意を抱いています。

この三角関係は、いかなる形で結末を迎えるのでしょうか?

 

「移動都市」シリーズ3作品目『氷上都市の秘宝』をネタバレ解説:レンの冒険、そして恋

 

かつての氷上都市アンカレジは、アメリカ大陸のヴィンランドに降り立ち、そこで定住することになりました。新たなるアンカレジに住み着いた、トムとへスター。そして彼らの間に、レンと名付けた娘が生まれます。

十数年の月日が経ち、かつてのアンカレジの辺境伯であったフレイヤは学校の教師となり、そして、かつてロスト・ボーイだったコールは技師として、アンカレッジでひっそりと暮らしていました。

しかし、そこにロスト・ボーイの一員だったガーグルが現れます。

彼は言葉巧みにレンに取り入り、アンカレジの図書館にある本を持ってくるように頼みました。退屈な生活に飽きていたレンは彼の言いなりになってしまいますが、その異変に気付いたトムとへスターたち、そしてロスト・ボーイ達の間で争いが起こるのです。

リーダー格のガーグルを殺されて、やけを起こしたロスト・ボーイの1人がレンを連れ去り、トム達は彼女を追います。しかし彼女は、途中で海賊狩りにあってしまうのでした。

 

著者
フィリップ・リーヴ
出版日
2010-03-12

 

前作のラストでアンカレジがたどり着いたヴィンランドとは、1000年前にヴァイキングがアメリカに渡った際に住み着いたといわれている、伝説の土地の名前です。

そして物語は、15年経ったアンカレジから始まります。

新しいヒロインは、トムとへスターの15歳になる娘のレン。彼女は、平和なアンカレジの生活に退屈しきっていて、外の世界を冒険することを夢見ています。その一方、思春期ということで母親のへスターとの衝突が絶えません。父親のトムとは仲がいいので、へスターは娘に嫉妬心のような感情まで抱くように……。

レンは年頃の少女。年上のロスト・ボーイであるガーグルにときめいてしまいますが、口のうまい狡猾な盗賊に成長した彼は、アンカレジにある謎の書籍を回収させるために、彼女を利用しただけなのでした。

その後レンはさらわれた挙句に、奴隷として水上都市ブライトンに売られてしまいます。しかし、そこにいたのは、あの人物。新たな冒険小説で大儲けをした、ペニーロイヤルだったのです。さらにレンは、そこで出会ったアフリカ系の少年、セオ・ンゴニとしだいに親密な関係になっていきます。

人物が増えて、複雑さを増す本巻。さらに、セオをさらった反移動都市同盟のグリーンストームには、かつてヘスターの里親になったストーカー、シュライクがいて……。多くの登場人物の因果関係がからみ合います。その後に待ち受ける、彼らの運命とは?

 

「移動都市」シリーズ4作品目『廃墟都市の復活』をネタバレ解説:新たなる世界

 

トムはレンと再会しましたが、今度はヘスターと別れてしまい、再び意気消沈してしまいます。それから半年が経ち、2人は再び飛行船乗りとなって世界中を周っていました。

しかし、そんなある日、トムはとある街でどこかで、見たような女性と出会いました。それは、トムがロンドンにいたころの史学ギルドの先輩であった女性だったのです。大慌てで彼女に声をかけましたが、しかし彼女は人違いだというばかりで……?

一方、レンと親密になったセオは故郷に戻ることに成功し、アフリカの反移動都市同盟ザグワ軍に入隊します。

トムとレンはその後、道中で再びペニーロワイヤル教授と再会。彼は、廃墟となったロンドンに何者かがいるという情報を、トムに教えるのでした。

 

著者
フィリップ・リーヴ
出版日
2018-11-21

 

いよいよ最終巻。本巻では、かつて活躍したロンドンの史学士たちが再登場しますが、彼らは廃墟となったロンドンで一体何をしているのでしょうか?

一方、移動都市とグリーンストームは和平の道を目指しますが、グリーストーム内部で内乱が発生。和平の鍵を握るのは、グリーンスト―ムの穏健派のナーガ大将ですが、和平交渉に赴いた彼の妻レディ・ナーガが、事件に巻き込まれてしまうのです。

そして、トムとレンと別れてから、賞金稼ぎとして生きるへスター。彼女も、その内乱に巻き込まれてしまうのでした。孤独な彼女の運命とは……?

その一方で、かつての仲間を探しにロンドン跡地に向かうトムとレン、それに同行する若き軍人、ヴォルフの思惑とは?

『移動都市』からのキャラクターが再登場する最後の巻。トムとヘスターに待ち受ける結末は、ぜひご自身でお確かめください。

 

作中には、「何千年前にシロナガスクジラが絶滅した」「35世紀の陶器」といった何気ないセリフや描写に、本作の舞台が現代から途方もない年月を経た未来の世界であることが伺えます。

ストーリーだけでなく、登場する道具や乗り物、地名にも目を向けてみてください。「移動都市」シリーズの世界観に、奥ゆきが生まれるはずです。

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