「ピュリッツァー賞」文学部門の受賞作おすすめ5選!【ノンフィクション】

更新:2021.11.17

アメリカのジャーナリズム界における、もっとも権威ある賞「ピュリッツァー賞」。受賞作を見れば、アメリカの世相がわかるともいわれています。今回は文芸部門のノンフィクションのジャンルにおける歴代の受賞作のなかから、特におすすめの作品を厳選してご紹介します。

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「ピュリッツァー賞」とは

 

アメリカ国内において大きな功績をおさめた報道・文学・音楽に贈られる「ピュリッツァー賞」。
 

ジャーナリストとして活躍し新聞社を経営したジョーゼフ・ピューリツァーの遺志にのっとり、ジャーナリストの質の向上を目的として1917年に創設されました。現在はコロンビア大学によって運営されています。

受賞作の発表は毎年4月。世界中の注目が集まることで有名です。日本人では、1961年に長尾靖、1966年に沢田教一、1968年年に酒井淑夫がいずれも写真部門で受賞しています。

 

アメリカ人が日本を描いた「ピュリッツァー賞」受賞作

著者
ジョン ダワー
出版日
2004-01-30

 

「一九四五年八月、焦土と化した日本に上陸した占領軍兵士がそこに見出したのは、驚くべきことに、敗者の卑屈や憎悪ではなく、平和な世界と改革への希望に満ちた民衆の姿であった。」(『敗北を抱きしめて』上巻から引用)

2000年に「ピュリッツァー賞」を受賞した作品。作者のジョン・W・ダワーは、近代日本史が専門の研究者です。太平洋戦争が終結した直後、GHQの占領下にある日本の様子を、政府高官から市民にいたるまでアメリカ人の視点で描いています。

急激な社会の変化に柔軟に適応し、たくましく生き抜いていった日本人。民主化を経てめざましく復興を遂げたその姿は、戦勝国アメリカが敗戦国に施した壮大な「実験」の結果でもありました。

図版も多く掲載されていて、GHQが日本におよぼした影響をわかりやすく知ることができる一冊です。

 

9.11の謎を解き明かす「ピュリッツァー賞」受賞作

著者
ローレンス ライト
出版日
2009-08-01

 

2007年に「ピュリッツァー賞」を受賞した作品。作者のローレンス・ライトはアメリカの作家、脚本家です。2018年には本書をもとにしたテレビドラマも制作され、ライトが総指揮を務めました。

2001年9月11日に起こった「アメリカ同時多発テロ事件」。全世界を震撼させた惨劇の経緯を、アメリカとアルカイダ双方の視点から辿っていきます。

過激なテロリストとして知られるアルカイダの指導者ウサマ・ビン・ラディンと、早くからテロの危険性を認識していたにも関わらず非業の死を遂げることになったFBIの特別捜査官、ジョン・オニール。この2人を中心に、9.11へのカウントダウンが緊迫感をもって綴られます。

衝撃的な出来事に関するさまざまな「なぜ」を解き明かすことで、悲劇を二度とくり返さないよう警鐘を鳴らす作品です。

 

人類とがんの終わらない闘いを描いた傑作

著者
シッダールタ・ムカジー
出版日
2013-08-23

 

2011年に「ピュリッツァー賞」を受賞した作品です。作者のシッダールタ・ムカジーは、腫瘍内科を専門とするインドの医師。「がんに関する正しい知識をもってほしい」という思いを込めて本書を記しました。

まだ「がん」という名前もつけられていない未知の病だったころの歴史、医師や研究者たちの飽くなき努力、医療の進歩、そして大勢の患者たちの壮絶な闘病記録……。闘いの様子を読むと、がんは病の皇帝だとする表題にも頷けるでしょう。

「隠喩的、医学的、科学的、政治的な潜在力に満ちた、絶えず形を変える致死的疾患であるがんは、しばしば、われわれの世代を特徴付ける疫病だと表現される。」(『病の皇帝「がん」に挑む ー 人類4000年の苦闘』上巻から引用)

日本人の死因第1位にもなっているがん。医学が発達し、寿命が伸びても、いまだ完全に打ち勝つことはできません。あらゆる側面からがんを捉えた本書を読んで、いつか向き合うことになるかもしれない敵の姿を探ってみてください。

 

ルネサンスのきっかけを解き明かす「ピュリッツァー賞」受賞作

著者
スティーヴン グリーンブラット
出版日
2012-11-01

 

2012年に「ピュリッツァー賞」を受賞した作品。作者のスティーヴン・グリーンブラットは、アメリカの評論家です。

イタリアのルネサンスの端緒となったのは、古代ローマの詩人ルクレティウスが著した『物の本質について』という詩でした。その思想があまりにも前衛的だったことからいわば封印されていた異端の書が、元教皇秘書のポッジョ・ブラッチョリーニによって再発見されたことをきっかけに、ルネサンスが花開くことになったのです。

驚くべきは、現代人にとってもさほど違和感のない、ルクレティウスの極めて進歩的な思想でしょう。宇宙は神が創ったものではない、死後の世界は存在しない、万物は粒子によって成り立っている……。こうした彼の思想は、宗教と迷信に支配された中世から、科学と理性の近代へと人々を目覚めさせる特効薬となりました。

公証人からキャリアをスタートさせ、ブックハンターとなったポッジョ・ブラッチョリーニが歩んだドラマチックな人生もあわせて、興味深く読める一冊です。

 

人間は自ら滅びるのか?地球の未来を考える「ピュリッツァー賞」受賞作

著者
エリザベス・コルバート
出版日
2015-03-21

 

2015年に「ピュリッツァー賞」を受賞した作品。作者のエリザベス・コルバートは、アメリカのジャーナリストです。

地球はこれまで、5度の絶滅を経験しています。直近は6600万年前の白亜紀に起きた、恐竜の絶滅。これを最後に大規模な種の消滅は起きていません。

しかし、今まさに6度目の絶滅が進行中だというのです。しかもこれまでの絶滅「ビッグファイブ」は、いずれも隕石の衝突や火山の爆発など自然現象に起因していましたが、6度目は人為的なもの。「最悪の外来生物」である人間が、自身の繁栄と引き換えに招いてきた自然破壊と温暖化がその原因です。

人間が生きやすいよう整えてきた社会は、生物界のバランスを崩壊させました。すでに地球上では多くの種が存続の危機に瀕していて、こうした事態を招いた人間すらも絶滅から逃れることはできない運命にあるというのです。

作者は、具体的かつ有効的な対策を明言していません。それについては、はからずも自ら滅びようとしている我々自身が考えなければならないということでしょう。

 

ノンフィクションというと、つまらない・難しい・敷居が高いという印象を受ける方もいるかもしれませんが、今回ご紹介した本はいずれも読み物としても面白い本ばかりです。がんや環境破壊など決して他人事ではないテーマもあるので、気になったものからお手にとってみてください。

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