【2019年】本屋大賞ノミネート作のおすすめポイントを徹底解説【前編】

更新:2021.11.17

全国の書店員たちが1番売りたい本を選ぶ「本屋大賞」。毎年4月に発表され、話題を集めています。今回は、2019年に最終選考にノミネートされた全10作品の魅力や見どころを、前編・後編に分けてご紹介。未読のものがあればぜひ読んでみてください。

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本屋大賞とは

 

「全国書店員が選んだいちばん!売りたい本」と掲げ、2004年に始まった「本屋大賞」。書店員が立ち上げたNPO法人「本屋大賞実行委員会」が運営しています。

本が売れない時代といわれている状況で、商品である本自体と、顧客である読者のもっとも近くにいる書店員が、売り場から売れる本を作ろうという経緯で発案されました。

同賞の発表にあわせて全国の書店でフェアが開催されるようになり、参加する書店員も増え、いまでは受賞作の売上げが、「芥川賞」や「直木賞」などの文学賞に迫る勢いになっています。

部門は、過去1年間に刊行された日本の小説が対象の「本屋大賞」、過去1年間に刊行された翻訳小説が対象の「翻訳小説部門」、ジャンルを問わず過去1年以上前に刊行された「発掘部門」、そして2018年からは過去1年間に刊行されたノンフィクション作品が対象の「ノンフィクション部門」が創設されました。

審査は、新刊本を扱っている書店に勤めていれば、アルバイトやパートでも投票可能。選考は12月から始まり、4月に結果が発表されます。この記事では、2019年に最終選考にノミネートされた全10作品の魅力や見どころをご紹介しましょう。

 

本屋大賞ノミネート作品1:芦沢央の『火のないところに煙は』

 

「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」という依頼があり、作家の「私」がかつて体験した恐怖を小説で発表した、という形式をとった連作ホラーミステリーです。

占い師から結婚したら不幸になると言われたカップル、祟られたからお祓いができる人を紹介してほしいという主婦、妄言をくり返すようになったサラリーマンの隣人、生きたまま焼かれる夢を見続ける女性、引っ越し先で不可思議な現象に巻き込まれる大学生……5つの話をまとめている「私」は、あることに気が付きます。

 

著者
芦沢 央
出版日
2018-06-22

 

作者の芦沢央は、2012年に『罪の余白』で「野性時代フロンティア文学賞」を受賞しデビューした人物。そのほか「日本推理作家協会賞」や「このミステリーがすごい!」にもたびたびノミネートされている、新鋭ミステリー作家です。本屋大賞へのノミネートは今回が初めて。

一見何の繋がりもないように見える5つの物語ですが、最終章を読み終えた時にすべてがひっくり返されて、じんわりと恐怖に包まれるでしょう。とにかく構成がすばらしく、読後は本書を読んでしまったことを後悔するかもしれません……。

実話なのかと話題になるほどのリアルな描写が魅力。怪異の世界を体験してみてください。

 

本屋大賞ノミネート作品2:伊坂幸太郎『フーガはユーガ』

仙台市内のファミリーレストランで語られる、不思議な双子の兄弟、優我(ユーガ)と風我(フーガ)のお話。彼らは特殊な能力をもっていて、さまざまな困難を乗り越えていきます。

不幸な家庭に生まれた2人の、ちょっと不思議な物語です。
 

著者
伊坂 幸太郎
出版日
2018-11-08

 

作者の伊坂幸太郎は、2008年に『ゴールデンスランバー』で本屋大賞を受賞しているほか、これまでに8回ノミネート、うち3回は2作品同時にノミネートされているという常連です。

彼らのもっている特殊能力は、ある条件下で2人の身体が入れ替わるというもの。双子の入れ替わりはさまざまなミステリーで用いられるトリックですが、本書の場合、入れ替わりは彼らの特異体質によって定期的に引き起こされる自然現象として描かれています。

父親から激しいDVを受けるという悲しくて辛い境遇にいながらも、不思議な能力を使って次はどんなことをしようか計画をする彼ら。お互いを思いあい、補いあう姿に惹き込まれます。前半で語られるエピソードが、後半にかけて見事に収束されていく伊坂節も健在。ファンが楽しみにしている他作品とのリンクもあるので、ぜひ探してみてください。

 

本屋大賞ノミネート作品3:小野寺史宜の『ひと』

 

主人公は、大学入学前に父を、そして在学中に母を亡くし、ひとりぼっちになってしまった20歳の青年。全財産が150万円となり、大学を中退しました。

ふと立ち寄った総菜屋で、たったひとつ残っていたコロッケをおばあさんに譲ったことがきっかけで、彼はその店でアルバイトをすることになります。

孤独な青年と、彼を優しく見守る人たちの1年間を描いた作品です。

 

著者
小野寺 史宜
出版日
2018-04-11

 

作者の小野寺史宜は、2008年に『ROCKER』で「ポプラ社小説大賞」優秀賞を受賞してデビューした人物。「みつばの郵便屋さん」シリーズが人気を博しています。本屋大賞のノミネートは今回が初めてです。

なんてことない日常の瞬間を丁寧に描き出す作風が魅力で、本書でも特別大きな事件などが起こるわけではありません。孤独になった青年が日々の出来事を通じて周りの人々との縁をつくり、成長していきます。何気ないことの積み重ねで、彼が徐々に前を向いていくさまに勇気づけられるでしょう。

あたたかい気持ちになれる一冊です。

 

本屋大賞ノミネート作品4:木皿泉の『さざなみのよる』

 

末期がんのため43歳でこの世を去った、三姉妹の次女、小国ナスミ。彼女はいったいどんな女性だったのか、家族や同級生の視点で描いた連作作品集です。

人の死を扱った作品ですが、しんみりとしてしまうような悲しい物語ではありません。強くてたくましい女性だったナスミの人柄は、彼女が亡き後も関わった人たちのなかに生き続けていることがわかります。

 

著者
木皿 泉
出版日
2018-04-18

 

木皿泉という名前は、和泉務と妻鹿年季子という夫妻2人の共同ペンネームです。脚本家として知られていて、「やっぱり猫が好き」「野ブタ。をプロデュース」「セクシーボイスアンドロボ」などテレビドラマ化された作品が多数あります。小説家デビューは2013年。2014年に『昨夜のカレー、明日のパン』が本屋大賞にノミネートされました。

本書は、2016年に放送された「富士ファミリー」というテレビドラマの関連作品。ドラマ内ではナスミはすでに死んでいて、幽霊として家族を見守る存在でした。

本書の魅力は、なんといってもナスミのキャラクター。自由奔放でちょっと口が悪く、しかし自分の芯をしっかりともっています。彼女の死が残された人たちの生をプラスに変えていく様子は、読者にも勇気を与えてくれるでしょう。

 

本屋大賞ノミネート作品5:瀬尾まいこの『そして、バトンは渡された』

 

主人公は、幼いころに実の母親を亡くし、さまざまな事情から血のつながらない親たちの間をリレーのバトンのように移動してきた、高校2年生の少女です。

17年の間に7回も家族の形態が変わり、4回名字が変わった優子。あることをきっかけに、それぞれの親が去っていった理由を知ることになるのですが……。

 

著者
瀬尾まいこ
出版日
2018-02-22

 

作者の瀬尾まいこは、2001年に『卵の緒』で「坊っちゃん文学賞大賞」を受賞しデビューした人物。当初は、中学校の国語の教師と小説家の二足の草鞋を履いていたそうです。 本屋大賞にノミネートされるのは今回が初めて。

主人公の優子には父親が3人、母親が2人います。血のつながらない親たちの間をわたりながら、成長してきました。それでも彼女は不幸ではありません。本書に登場するたくさんの親たちは、みな優子に精一杯の愛情を注ぎ、彼女もそれを受けてまっすぐに育っているのです。

常識にとらわれない、新しい家族の形を提示している作品。最後はじんわりとあたたかい涙が流れます。

 

後編はコチラ。

 

2019年本屋大賞のノミネート作品を5作ご紹介しました。後編も続けてチェックしてみてください。

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