救いや欲望が「闇」へと変わり、私たちを襲う
著者
荻原 浩
出版日
2013-11-15
こちらは、出演者のひとり、ひらくさんの蔵書。私にとっては、気になっていたけど読んではいなかった、というよくあるパターンの小説だった。

証券会社からマルチの社員、そしてホームレスになった男が、新興宗教団体を始める話……というあらすじ。ホームレス生活を送る主人公の一人称から始まる。冬に読むと余計に骨に染みる路上生活の寒さ、冷たさ。大地から感じる冷え。同じく路上生活者であった美青年、そして辻占い師と出会った彼が、彼らの才能を見て思いついたのが、「新興宗教」というビジネスだった。

主人公の前職はマルチ商法会社の社員だ。私は以前、マルチ商法を取り扱った小説『ニューカルマ』を読んだことがあった。まったく同じからくりが紹介されている。いわゆるマルチ商法、ネットワークビジネスと、ビジネスとして「新興宗教」を大きくする仕組みは、似ている。よい商品を広く勧めることと、よい教えを広く勧めること。効率の良い、儲かる仕組みは、似ているのだ。
著者
新庄 耕
出版日
2016-01-04
『ニューカルマ』の主人公は、騙されることから物語が始まる。もともと持っていたものを、少しずつ失っていく。しかし、『砂の王国』の主人公は、何もないところから始まり、人を騙すことから始める。

だからこそ、『砂の王国』の前半は、つい、主人公たちを応援してしまう。何もなかった彼らが、一体どんなものを作り上げるのか、わくわくするのだ。あくまで、ビジネス。過去、カルト化してしまい犯罪を犯したような、反社会団体にはならないだろう……と高をくくってしまう。だって、作り上げた本人たちは、信じていない。才能を使って、効率よくお金を儲けようとしているだけ、あくまで、合法的に。そう、ビジネスとして。

しかし、タイトルの『砂の王国』が暗示しているように、この小説は、主人公の単なる成功譚では終わらないのだ。
著者
["ジェイソン モス", "ジェフリー コトラー"]
出版日
こちらは、出演者の一人、サオリリスさんが紹介していた本。最初は気付かなかったが、サオリリスさんの紹介を聞いていて、徐々に既読本だと思い出し、壇上で話は盛り上がった(私は記憶力が悪いので、こういうことはよくあるのだ……)。

著者であるジェイソン・モスは、シリアルキラーに興味があった。シリアルキラーとは、殺人を目的に殺人を行う犯罪者のことだ。連続殺人事件を起こした有名なシリアルキラーたちと文通した、本ではある。単なる「心理分析」報告本ではない。

ジェイソン・モスは優秀な学生だった。天才少年とも呼ばれたことのある彼は、刑務所の中に要る連続殺人犯と交流を重ねる。有名人であり、信奉者も多い有名殺人犯たちから返事を引き出すことは、簡単ではない。犯罪心理学を学び、自身の高い知能を使い、彼は、殺人犯たちを「分析」「研究」する。

それはとてもスリリングで、特に、犯罪心理に興味がある者にとっては、「おもしろい」ものだろう。私もおもしろい、と思った。しかし、読者である我々はただの観客だが、彼は、当事者だった。一方的に、観察し、分析できるわけがない。彼も、殺人犯から、興味を持たれていたのだ。

とある事件の後、彼は、殺人犯たちとの文通をやめた。そして、犯罪被害者を救う弁護士となった。

しかし、2006年、自殺によりこの世を去った。
著者
スティーヴン キング
出版日
1988-03-30
小説だが、スティーヴン・キング『ゴールデン・ボーイ』もまさに「深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返す」話である。

「心の闇」という言葉はもう陳腐に聞こえる時代だが、自分が求める救い、自分が求める欲望が、大きな闇となって、自身を襲うことは、いつでもどこでも起こり得てしまう、現実なのだろう。

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