「密室」ミステリー小説おすすめ5選!推理の醍醐味を堪能しよう

更新:2021.11.18

ミステリー小説のなかでも特に人気が高いのが、「密室」を題材にした作品です。予想もつかない仕掛けが使われていることもあれば、意外なことが盲点になっていることもあり、推理の醍醐味を味わえるトリックだといえるでしょう。この記事では、そんな「密室」ミステリー小説のなかから特におすすめの5作を紹介していきます。

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「密室」ミステリー小説の魅力とは

 

「密室」とは、扉や窓に内部から鍵がかけられている、または監視されているなどの理由で、外部から侵入することが不可能な空間のこと。そんな状況で人が殺され、なおかつ犯人が内部に存在していない事件を「密室殺人」といいます。

非現実的なトリックの正体が独創的であること、反対に意外にも単純であることなどから、ミステリー小説の世界でも人気の犯罪です。「密室」ミステリーを専門とする作家もいるほど。

初めて世に出たのは、エドガー・アラン・ポーが1841年に発表した『モルグ街の殺人』だそう。史上初の推理小説ともいわれていて、以降「密室」ミステリーに魅了されたさまざまな作家によってバリエーションを増やしつつ、新たな作品が生まれ続けています。

 

「密室」で目を覚ますと、死体があった『ユダの窓』

 

物語は、「起こったかもしれないこと」という仮説を述べたプロローグから始まります。

いとこから紹介されたメアリと恋仲になり、婚約することになったジェームズ・アンズウェル。年明けの1月4日、彼女の父親であるエイヴォリーに会うことになりました。自宅へと招かれます。

当初の予定よりも少し遅れて到着したアンズウェル。エイヴォリーの待つ書斎へ案内されると、そこには彼の趣味であるアーチェリーの矢が3本壁に飾られていました。アンズウェルは、エイヴォリーに勧められるままウィスキーソーダを飲みますが、たちまち意識を失います。再び目を覚ました時、部屋には胸に矢が刺さって死んでいるエイヴォリーの姿がありました。

書斎には内側から鍵がかけられていて、室内にはエイヴォリーとアンズウェルの2人しか存在していません。殺人の疑いで逮捕されたアンズウェルを救うため、法廷弁護士のヘンリ・メリヴェールが「密室」の謎を解き明かします。

 

著者
カーター・ディクスン
出版日
2015-07-29

 

アメリカ出身の推理作家、カーター・ディクスンが1938年に発表した作品。カーターは数々の名作ミステリーで知られるジョン・ディクスン・カーの別名義です。

本作の「密室」は、タイトルにもなっている「ユダの窓」が鍵。ユダは、『新約聖書』におけるイエスの弟子で、唯一の裏切り者だった「イスカリオテのユダ」のこと。つまり完全な「密室」に見えても、どこかに盲点が存在することを表しています。

また物語の後半で語られる法廷劇も見ものです。謎が解き明かされた時に得られる爽快感は、「密室」ミステリーならでは。ぜひ体感してみてください。

 

雪で作られた「密室」のなかで事件が起こるミステリー小説『本陣殺人事件』

 

時は1937年、江戸時代から続く宿場本陣の旧家で、結婚式がおこなわれました。披露宴も無事に終わり、明け方近くになった頃、離れの方からただならぬ悲鳴が響きわたります。

慌てて駆けつけると、新郎新婦が布団の上で血まみれになって死んでいました。枕元には、家宝の琴と、3本指の血痕がついた金屏風が残されていました。

建物はしっかりと戸締りがされていたうえ、さらに辺り一面に降り積もる雪が、離れ自体を完全な「密室」にしていたのです。

 

著者
横溝 正史
出版日
1973-04-20

 

1946年に発表された横溝正史の作品で、金田一耕助が初めて登場する作品でもあります。

本作の舞台は、「密室」のトリックを使うのが難しいといわれている、開放的な日本家屋。しかし離れや雪を利用することで、見事な「密室」を作りあげています。また凶器として使われた日本刀が庭の中央に突き刺さっているのも秀逸。犯人は庭に出たと思われるのに、やはり雪に足跡はないのです。

複雑なトリックを解いた先に見えてくる犯人は、意外な人物でした。殺人の動機をひも解いていくと、人間の身勝手さを感じるでしょう。登場人物たちの心理描写にも注目です。

 

ユーモアあふれる本格「密室」ミステリー小説『三毛猫ホームズの推理』

 

羽衣女子大学に通う学生が殺害される事件が起き、刑事の片山義太郎は上司の指示で聞き取り調査を始めました。文学部長である森崎智雄と話を進めるうちに、被害者が売春をしていたことや、売春行為が組織的におこなわれていたことが判明します。

片山は血も苦手なうえに女性も苦手なのですが、実態を探るために大学へ潜入捜査を始めました。そんななか、新校舎の建築現場にあるプレハブの中で、森崎の遺体が発見されるのです。

死因は、頭蓋骨と頸骨の骨折。凶器は見つかっておらず、プレハブは内側から鍵がかけられて完全な「密室」となっていました……。

 

著者
赤川 次郎
出版日

 

1978年に発表された赤川次郎の作品で、「三毛猫ホームズ」シリーズの1作目です。

主人公は、被害者のひとり森崎が飼っていた「ホームズ」という名の猫。森崎の死後も片山に懐き、ともに事件を捜査していきます。殺伐としたなかでホームズの行動は愛くるしいですが、その一方で事件を解決へと導く流れは絶妙です。

本作における「密室」は、内側から鍵がかけられたプレハブ小屋。犯人がいかにして「密室」を作り、森崎の遺体を閉じ込めたのでしょうか。赤川次郎特有のユーモアもありつつ、しっかりミステリーを楽しめる作品です。

 

奇妙な館で起きる連続殺人事件『時計館の殺人』

 

新米編集者の江南孝明は、オカルト雑誌の取材のため、とある館を訪れることになりました。その館は彼にとって因縁深い人物である中村青司が建築した時計館で、10年前に亡くなった少女の霊が出るといわれています。森の中に佇み、滅多なことでは誰も寄り付かない場所に建っていました。

カメラマンや副編集長、霊能者、大学の超常現象研究会などあわせて9人で3日間泊まり込み、霊との交信をおこないます。しかしその最中、連続殺人事件が起きてしまうのです。

 

著者
綾辻 行人
出版日
2012-06-15

 

1991年に発表された綾辻行人の作品で、綾辻の代表作「館」シリーズの5作目です。1992年には「日本推理作家協会賞」も受賞しました。

本作の「密室」は、ほかでもない時計館。誰も立ち寄ることのない森の奥に佇み、江南をはじめとする9人しか存在していないはず。そのなかで次々と事件が起こるのです。

時計館は旧館と新館に分かれていて、それぞれの物語が交互に進行。登場人物たちは双方を行き来するのですが、それが読者の予想をかき乱す仕掛けになっています。時計館ならではのカラクリに、騙されずにいれるでしょうか。

 

完璧なセキュリティーが作る「密室」ミステリー小説『硝子のハンマー』

 

物語の舞台は、とある介護サービス会社。その日は日曜日でしたが、株式上場を目前とした会議のため、役員たちが休日出勤をしていました。しかし、最上階にある社長室で、社長の頴原が殺される事件が発生するのです。

最上階へ行くためのエレベーターには暗証番号が施され、廊下には鉄壁のセキュリティと監視カメラが設置されています。また付近のフロアには秘書たちがいたことから、頴原は完全な「密室」で殺されていました。

これらのセキュリティに対処でき、なおかつ社長室に隣接する専務室で仮眠をとっていた、専務の久永が逮捕されます。しかしまったく身に覚えがない彼は、弁護士の青砥に無実を訴えました。青砥は防犯コンサルタントの榎本に事件の解明を依頼、2人の捜査が始まります。

 

著者
貴志 祐介
出版日

 

2004年に発表された貴志祐介の作品です。「防犯探偵・榎本」シリーズの1作目で、2005年には「日本推理作家協会賞」を受賞しました。貴志が20年間温めたトリックが用いられていて、読みごたえがあります。

本作は2部構成になっていて、前半は青砥と榎本の捜査、後半は犯人が社長を殺害するにいたった動機と、実際の犯行の様子が描かれています。あらゆる可能性を検証して謎を解明していく過程がとても緻密に描かれていて、「密室」ミステリー小説の醍醐味を味わえるでしょう。

その一方で、真犯人がわかった時の恐怖は、ホラー小説並み。悲しくて恐ろしく、大きな衝撃を受けます。

 

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