5分でわかるTPP!内容や加盟国、メリット、アメリカの動きなど簡単に解説

更新:2021.11.19

長い年月をかけて大筋合意にいたった「TPP」。2017年にはアメリカのトランプ大統領が就任直後に離脱を発表し、話題となりました。この記事では、2019年現在の加盟国や内容、メリット、デメリット、そしてアメリカの動きをわかりやすく解説していきます。さらに理解を深める関連本も紹介するので、最後までご覧ください。

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TPPとは。内容、加盟国、略語など概要を簡単に解説

 

「Trans-Pacific Partnership Agreement」の略称である「TPP」。日本語では「環太平洋パートナーシップ協定」といいます。日々のニュースでもたびたび耳にする、貿易に代表される国と国の経済取引を円滑に進めることを目的とした、経済協定のひとつです。ちなみに「環太平洋」とは、太平洋と、その周辺に位置する国や地域を指します。

TPPの元になったのは、2005年に署名された「環太平洋パートナーシップ協定の原協定(TPSEP)」です。シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4ヶ国が参加しました。

2010年にアメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルーが加わり、拡大交渉会合が開始。日本も2008年頃から参加の検討をしていましたが、2009年に自公連立政権から民主党政権へ政権交代したこと、2011年に東日本大震災が起きて対応に追われたことなどから、見送っています。実際に参加を果たしたのは、再び自公連立政権になった2013年のことでした。

長年の交渉のすえ、2015年10月に大筋合意。2016年2月にニュージーランドのオークランドにて12ヶ国が署名をしています。

ここに参加したのは、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、日本、マレーシア、メキシコ、ペルー、アメリカ、ベトナムです。

しかし2016年10月にアメリカ大統領選挙に当選したドナルド・トランプが、就任直後に離脱を表明。12ヶ国で協定を発効する目途は立たなくなり、アメリカを除く11ヶ国で新たに協議がおこなわれました。そして2017年11月に大筋合意がなされ、2018年3月に署名されたのです。

11ヶ国が結んだ協定の正式名称は、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」というもの。「CPTPP」「TPP11」などと略されます。

11ヶ国の人口はあわせて約5億人で、これは世界の約6%にあたります。GDP(国内総生産)の合計は日本円で約1100兆円。これは世界全体の約13%です。

協定の主な内容は、農産物に関しては82.9%にあたる品目で関税が撤廃、工業製品は最終的に99.9%の品目で関税が撤廃されるというもの。そのほかモノの関税だけでなく、サービスや投資の自由化を進め、知的財産や金融サービスなど幅広いジャンルにおけるルールを構築しています。

 

TPPのメリット

 

TPPを締結する最大のメリットは、「規模」だといわれています。アメリカを含めた12ヶ国で考えると、人口は約8億人となり、GDPは世界の約40%を占め、EUやNAFTAを超える世界最大の貿易圏が誕生すると考えられていました。

実際にはアメリカが離脱したことで規模は小さくなりましたが、それでもASEANのおよそ4倍に相当する巨大な貿易圏であることは間違いありません。

また経済成長率の高い東南アジア諸国が参加していること、タイ、韓国、イギリスが参加を検討していることから、規模は今後も大きく成長していくとされています。各国の成長にともなう利益を享受できるというのは、大きなメリットだといえるでしょう。

そのほか、関税が撤廃されることにともない、輸出品の国際競争力向上、輸入品の価格低下、医療機器や医薬品の輸入価格が低下することによる国民の医療費の抑制などが挙げられます。またTPP域内のルールが統一されることで、投資環境の整備、知的財産権の保護、労働人材の流動性増加も考えられるでしょう。

簡単にいうと、貿易が活発になり、ビジネスがしやすくなり、消費者は外国産のモノを安く買えるようになるということ。日本政府の試算によると、これらのメリットを享受することで、日本のGDPは年間7.8兆円押し上げられ、46万人の雇用増加に繋がるそうです。

 

TPPのデメリット

 

ではTPPのデメリットも見ていきましょう。

まずは、デフレが進行する可能性があることです。TPPで関税が撤廃、もしくは下がると、海外から安いモノが流入します。すると、対抗するために国内のモノも値下げをせざるを得なくなるのです。特に農産業への影響が大きいと考えられています。

次に、食料自給率が低下する可能性です。もともと日本の食料自給率は各国と比べて極端に低く、カロリーベースで38%しかありません。TPPで国内の農産業が打撃を受けると、さらに下がってしまうのではと懸念する声が挙がっています。

また、食の安全が担保されないという意見もあります。遺伝子組み換え作物など、日本に比べて安全規制が緩い国の食品が流入する危険性が指摘されています。

最後に、医療格差の拡大です。日本では「健康保険法」によって国民全員が平等に医療を受けることができる環境が整っています。しかしTPPに参加すると、医療の「ビジネス面」が重視される恐れがあるのです。医療保険の自由化や混合治療の解禁によって、高額の医療費を払える人だけが高レベルの医療を受けられることになりかねないと危惧されています。

 

TPPに関するアメリカの動きをわかりやすく解説

 

アメリカがTPPの交渉に参加するきっかけとなったのは、2008年に起きた「リーマン・ショック」にともなう不況です。

当時大統領を務めていたバラク・オバマは、2010年の一般教書演説で、今後5年間で海外輸出を2倍に増やすという計画を発表しました。この計画を達成するための手段として、TPPを中軸に据えたのです。

その後、難航する交渉をまとめて合意にまでこぎつけたものの、オバマ大統領は任期切れ。後任としてドナルド・トランプが大統領となり、就任初日に離脱を決断しました。その理由は、国内産業、特に「重厚長大産業」の保護です。

農業に弱く、工業に強い日本とは反対に、アメリカは農業に強く、工業に弱い国。かつてのアメリカを支えていた鉄鋼業や重工業が集中するペンシルベニア州やオハイオ州は「ラストベルト」と呼ばれ、経済発展から取り残され、多くの住民が苦しい生活を余儀なくされていました。

TPPによって、海外の優れた工業製品が安く国内に流入すると、アメリカの企業はこれに対抗してより人件費の安い国に工場を移転し、製品価格を下げる必要に迫られます。すると、国内の産業や雇用が失われることになるのです。

多くの人が打撃を受けるのは明白。トランプ大統領は選挙時に、彼らからの票を獲得するために「アメリカ・ファースト」を公約に掲げ、当選後は公約通りにTPPから離脱したのです。その後もトランプ大統領は、自由貿易に背を向けるような保護主義の政策を展開しています。

 

世界経済の仕組みと課題をわかりやすく解説

著者
野口 悠紀雄
出版日
2018-08-22

 

作者の野口悠紀雄は、日本を代表する経済学者のひとり。大蔵省の元官僚です。本書では、世界経済における日本の現状と、アメリカ・中国・東南アジア・EUなどの各国の経済動向をまとめたもの。これからの日本は世界のなかでどう動いていけばいいのかを解説しています。

第二次世界大戦後、国際社会は自由貿易を掲げつつも、EUやASEAN、そしてTPPなどの経済ブロックを構築してきました。しかしイギリスのEU離脱、アメリカのTPP離脱など、これまでの潮流とは異なる動きも出てきています。

経済の仕組みを説明したうえで、今後の課題を提示してくれるわかりやすい一冊。世界の変化を見逃さない目を養うために、読んでおきたい作品です。

 

TPPなど世界の貿易がよくわかる一冊

著者
中田一良
出版日
2018-02-24

 

TPPにはじまり、FTAやEPA、一帯一路など、日々のニュースではさまざまな経済に関する単語が飛び交っています。なかでも多いのが、貿易にまつわることでしょう。

本書では、よく耳にはするけれども深く理解できていない政策の背景や、各国の状況を詳しく解説。図説が多用されているので、わかりやすいのが特徴です。

「さいきん牛肉が安くなっているのは何でだろう?」などの身近な疑問は、世界の経済に繋がっています。経済初心者の方におすすめしたい作品です。

 

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