小説『平家物語 犬王の巻』の切ない魅力をネタバレ!長編アニメ映画が決定

更新:2021.11.19

平家の一族を描いた作品『平家物語』は、誰もが耳にしたことがあるでしょう。『平家物語 犬王の巻』はその続編として、2017年に発売されました。本作は、盲目の琵琶法師と能楽者の犬王の友情を描いた物語となっています。 2021年に、長編アニメ映画化が決定した本作の魅力をご紹介します。本記事にはネタバレが含まれますので、読み進める場合はご注意ください。

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小説『平家物語 犬王の巻』は、実話を基にした物語!ページをめくる手が止まらない【あらすじ】

 

源平合戦から海に沈んだ戦の遺物を実力者に献上してきた、イオの一族の友魚(ともな)。ある日を境に盲目となった彼は、京の都に居を移し、琵琶法師として暮らしていきます。

一方、猿楽の能を披露している一座・比叡座では、ある男の子が誕生しました。男の子の名前は犬王。彼は、誰もが腰を抜かし恐れ、逃げ惑う程のおぞましい姿をしていていました。

「俺のことを琵琶の曲にしろよ」
(『平家物語 犬王の巻』引用)

 琵琶法師として名を馳せてきた友魚と、呪いを受けて生まれた犬王が出会った時、『平家物語 犬王の巻』が始まります。

本作は、南北朝時代に実在していた能楽者の犬王と、その犬王の人生を謡った琵琶法師の友魚の、友情と反逆の物語を、作者の独特な言い回しで表現している作品です。犬王と友魚の2人の生涯を描くことで『平家物語』の続編も同時に綴っています。

著者
古川日出男
出版日
2017-05-26

2017年に単行本で河出書房新社から出版されました。『平家物語』の続編というキーワードにも心惹かれますが、表紙に描かれたひょうたんの面から覗く犬王の目が印象的です。

2019年7月現在、文庫化の情報はいまだありません。しかし、2021年にアニメ映画が決定しているので、文庫化期待が高まります。

作者・古川日出男とは?

作者・古川日出男は、1966年福島県郡山市出身で生まれます。1994年に『砂の王 ウィザードリィ外伝II』で作家デビュー。2002年『アラビアの夜の種族』で、日本推理作家賞と日本SF大賞を受賞します。 

その他にも数々の作品で賞をとり、2016年には『池澤夏樹=個人編集 日本文芸全集』で第9巻『平家物語』を完全翻訳しました。

『平家物語』は、平清盛を中心とした平家の一族の繁栄と没落までを描いた軍記物語です。鎌倉時代に生まれた作品ですが、内容は妖怪の話が入っているなど、当時の作品としては異質な雰囲気となっています。

著者
古川日出男(翻訳)
出版日
2016-12-08

作品の特徴は、その独特な世界観と文体です。読解力が必要になりますが、いつの間にかその独特な世界観に引き込まれてしまいます。

本作も、作者の特徴的な言い回しが存分に発揮され、初見では読みにくい印象があるでしょう。しかし、雰囲気で話の展開が伝わり、不思議と読み進めてしまう作品です。

小説『平家物語 犬王の巻』の魅力1:猿楽の役者・犬王

犬王の生まれた年は不明ですが、1413年に亡くなったとされ、室町時代の第3代征夷大将軍・足利義満の寵愛を受けたとも言われる猿楽の役者です。

本作の犬王は、実の母でさえ産まれた当初の彼を直視できないほどの姿をしていました。作中ではどの部位がどうなっているのかは明記されていませんが、毛が生えないところに毛が生え、爪があるはずの指先には爪ではなく歯のような白い物がついているようです。体だけではなく、その顔も醜悪をきわめていて……。

なんとか3歳まで成長した彼は、面を被り体の全てを人前に晒さない格好を強いられていました。周りからもつまはじきにされ、ただの三歳児には酷な状況だったに違いありません。
 

しかし、犬王の魅力はその不幸にめげない精神力にあります。犬王は自分の生まれを嘆くことはせず、むしろ自分の素顔を晒して、同じ年頃の子共達を驚かす豪胆さすらあったのです。
 

そして、自身の「穢い(きたない)」体から、「美しい」体を手に入れるための努力を惜しみません。そんな強い彼の姿が、美しく描かれています。

小説『平家物語 犬王の巻』の魅力2:琵琶法師・友魚

友魚は、家族と壇ノ浦という海で海人として暮らしており、イオの一族と呼ばれる海人集団の一員でもありました。イオの一族は、その潜水能力を高く評価されていました。

その力を利用するため都からやってきた人間が友魚に地図を渡し、記された場所に眠っている物を取ってきてほしいと頼みます。彼はこれを承諾し、父と一緒に海に潜ったのです。
 

父が海に沈んだ物を手にすると、突然それが光り輝き、その影響で父は亡くなりました。友魚は命は取り留めたものの、視力を奪われてしまいました。

彼が目にしたのは、皇位の象徴である三種の神器の一つ・草薙の剣という宝剣。友魚は、自分たち家族をこんな目に合わせた者を知るために京の都へと向かうことを決めます。そしてその旅の途中で師匠と出会い、都でも有名な琵琶法師として名を馳せていくのです。

「語り方」が魅力的な友魚。彼は琵琶法師として、犬王の人生を綴った物語『犬王の巻』を聴衆に披露します。聴衆にこの物語を聞かせる時、多くのことを語りません。しかし、短い言葉で的確に犬王のことを語るので、聴衆は早く続きを知りたいと思ってしまいます。それは、読者も同じように感じるでしょう。

小説『平家物語 犬王の巻』の魅力3:「呪い」と「琵琶法師の連続殺人事件」

本作で何度も登場する、犬王にかけられた「呪い」と「琵琶法師の連続殺人事件」は物語の中で密接に関係しています。彼がこの世の物とは思えない体で生まれたのは、実の父親にかけられた呪いのせいです。

犬王の父は当時、大和猿楽の一座として名を馳せていた比叡座の現棟梁。彼は、自分の代が繁栄することを望んでいました。

そのために、当時もっとも都で流行していた平家物語を語る琵琶法師の命と、まだ母親のお腹の中にいた犬王の穢れの無い姿を犠牲にします。

そして、犬王は歪な姿で生まれ、彼の体中には犠牲になった琵琶法師の霊が取り付いていました。どのように呪いを解くのか、「呪い」と「琵琶法師の連続殺人事件」は、本作を読むうえで欠かせない要素になっています。

小説『平家物語 犬王の巻』の魅力4:結末までネタバレ!犬王と友魚、彼らの結末とは……!?

本作は、犬王と友魚が出会ってからが物語の本筋と言ってよいでしょう。犬王が平家物語の新たな演目を演じれば、たちまち友魚は彼の話を聴衆に謡います。

そして、犬王が観客を沸かしていくごとに、体にまとわりついた琵琶法師達は成仏していき呪いが解けていきます。

呪いを解き誰もが見惚れる美貌を手にした犬王は、比叡座の棟梁にまで上り詰め大往生しました。そして友魚は、友一、友有と改名をしていき、最後は室町時代の初代征夷大将軍・足利尊氏の墓の前で『犬王の巻』を謡います。

彼らは生涯、お互いを無二の友として大切に思っていました。

著者
古川日出男
出版日
2017-05-26

本作は会話のシーンは少なく、一章がとても短いです。犬王と友魚が会話している姿もほとんどなく、それでも不思議なことに、友魚の語りを聞くと2人の友情が深いことが伝わってきます。

それは、作者の特徴である独特な言い回しがうまく噛み合わさっているからなのでしょう。
 

彼らが出会ってからが、まさに怒涛の展開と言ってよい程テンポよく物語が進み、いつの間にか終章へと辿り着いてしまいます。難しい表現でも読みやすく感じてしまうのが、本作の一つの魅力です。

「平家物語」のその先に、存在したかもしれない友情物語。必見です。

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