「語彙力が無い」と落ち込むな。熱さえあれば、それで良い。『ひゃくえむ。』

更新:2021.11.19

「凄い。」 何度も聞かされた、ありふれたこの一言に。私は気圧されるほどの重さを感じた。 「本気」な奴が、「熱」を込めれば、伝わる。そこに、小難しい言葉は要らない。 そんな、単純にして絶対的な事実を思い知らされた漫画を紹介します。

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愛してるけど、言葉って大変ね。

どうも、3ヶ月ぶりの吉野シンゴです。ごぶさたしておりました。

ここ最近の私はというと、「「ご無沙汰」という字は平仮名で書くと可愛らしい」という世界の根底を覆す極秘事項に気が付いてしまった為、その世紀の大発見を学会で発表するための論文執筆に追われていました。

何はともあれ無事に生還。久しぶりに「困シェルジュ」を書かせてもらっています。

さて、皆さん。「語彙力が無い」と悩むことってありませんか?

物書きに限らず、学生なら課題やレポートで/社会人ならメールや報告書で。はたまた友人との会話や、TwitterなどのSNSに文章を投稿するときに。語彙力の無さに悩まされる場面は多いことかと思います。

伝えたいことはたくさんあるのに、それを表現する言葉が見つからない。なんてこと。

私は、しょっちゅう悩んでいます。

悩みに悩んだ挙句の果てに、文章を書くことに抵抗意識を覚え始めたのが、たしか3ヶ月前。 

上手な言葉を紡いだ文章を書こう書こう書こうともがくあまり、私は文章を書くこと自体が出来なくなってしまったのでした。 
 

しかしある日。そんな悩みが一瞬で吹き飛ばされる、とんでもない「熱」を持つ作品に出会いました。

 

「本気」な奴が、「熱」を込めれば、伝わる。そんだけ。

「たいていの問題は 100mだけ誰よりも速ければ 全部 解決する」(『ひゃくえむ。』第1巻より引用)

『ひゃくえむ。』は、たった100メートルを速く駆けることだけに全てを懸ける男の「人生」を描いた作品です。 

そんな、単純で潔いコンセプトが魅力的な漫画なのですが……私の心を飛び跳ねさせたシーンが、本作の第2巻に登場します。

著者
魚豊
出版日
2019-07-09

成長するにつれ、短距離走における自分の限界らしきものにぶち当たってしまった天才・トガシ。陸上競技を続けるか否か悩んでいた彼のもとに、廃部寸前の陸上部で唯一真面目に練習をしていた浅草から、「走りが見たい」との依頼が。

精神的にもスランプに陥っていたトガシは、しつこい彼女の依頼をしぶしぶながら引き受ます。たった10秒・たった100メートル走るだけなら……と、走り出すのですが……

その走りは、スランプの影もなく。自分でも信じられないほどの「全力疾走」ができたのです。

そんな完璧な走りを見て、浅草が呟いた言葉は……

出典:『ひゃくえむ。』第2巻

このシーン。コレ、1コマではなく見開きで2ページなんですよ。

「凄い。」(『ひゃくえむ。』第2巻より引用)

このたった3文字に右1ページを割いてます。 「心か」より潔いと話題です。私の中で。

理屈なんか無くったって良い。 ただただ熱が伝わるこのシーンに、私はとんでもない重さを感じたのです。 

しかし、ただ「凄い。」と言えば想いが伝わる、とかそんな話じゃないんです。

浅草は、崩壊した陸上部の中で、たった一人でも陸上を続けてきた少女なのです。部員が他に誰もいなくても、皆に後ろ指をさされようとも。彼女は本気で陸上に向きあってきました。そんな彼女の言葉だからこそ、語彙なんてちっぽけなものはぶっ飛ばして、トガシに/私に突き刺さったのです。

小手先でこねくり回した高い語彙力の言葉なんかよりも。 とにかく熱の籠った、ド直球な一言こそが人の胸に響くんだ。ぶん殴られたような衝撃を受けました。 

「熱」さえあれば、言葉は人に届く。そう、私は彼らに学びました。 

だから。語彙力なんか無くっても、「本気」で「本音」を書こう。途轍もない勇気を貰った気分です。

この想いを胸に、私はこれからも文章を書いていこうと誓います。

熱さえあれば、小難しい語彙は要らない。 
彼らに勇気をもらった私は、「「ごぶさた」は、かわいい」とだけ書いた論文を教授に提出した。 
私の持てる熱意の全てをそこに込めれば、最低文字数も構成形式も締め切りも、ぜんぶ乗り越えられると思った。 
駄目だった。撥ね返された。「ごぶさた」熱が、足りなかったようだ。精進しますぜ。

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