『三国志』小説おすすめ5選!読みやすい作品を、作者別にご紹介

更新:2021.12.8

三国志に対して「なんだか読みづらそう!」というイメージを抱いている方もいるのでは?今回は、初めての方にも読みやすい三国志の小説を5つご紹介します。

ブックカルテ リンク

三国志の代表選手、吉川英治作品!

吉川英治の『三国志』は、当時日本人ではなじみの薄かった三国志を広く知らしめた作品です。勧善懲悪の長編小説。日本では最も知名度が高い小説です。

著者
吉川 英治
出版日
1989-04-11


中国大陸を滔々(とうとう)と流れる黄河。そのほとりで一人の青年が川面を眺める場面から、物語は始まります。この青年こそ、主人公の劉備。彼は貧しい家に生まれましたが、病の母親に高価な茶を買うため、商人の船を待っていたのです。

初登場から誠実なイメージの主人公である劉備。黄河のほとりで船を待つ彼の印象は最後まで変わりません。戦は負けてばかりで世渡りも下手、ただひたすら「時を待つ」劉備。そんな彼の人望に惹かれ、関羽、張飛を始めとする豪傑や天才軍師である諸葛亮孔明など、綺羅星のごとき人材が集まり、動乱の時代にささやかな華を咲かせます。

吉川三国志は、蜀の劉備=正義、魏の曹操=悪のイメージを植え付けたともいわれています。その点では賛否両論ある小説ですが、入門としてはぴったりだと思います。読み始めたら最後、続きが気になって気になって、本が手放せなくなるでしょう。

ちょっと癖あり?シバレン三国志

柴田錬太郎の『英雄ここにあり』は、エロチックな描写も出てくるのが印象的です。天下の覇者たらんとする男たちが、陰謀と策略を巡らせ、血みどろになりながら戦う世界。男達の絆の強さが力を込めて描かれます。一方、悲劇の美女・貂蝉をはじめとする女達は戦いの世界からはじき出され、破滅していきます。

著者
柴田 錬三郎
出版日


義兄弟の契りで結ばれた関羽、張飛が暗殺されたときの劉備の怒りの深さ。それは国を滅ばしかねない危険なものでした。孔明が理で説得し、趙雲が半ば脅すように説得しても、劉備は同盟国への戦を止めようとしません。結果的にはこれが、劉備自身の命を縮めることになります。

自らを信頼する主君・劉備に応えようとする孔明の誠実な生き方が、まぶしくも悲しいと感じる長編です。史実ではわかっているはずの男たちの運命が気になってしまい、辛い辛いと思いながらもやめられなくなる小説となっています。

孤軍奮闘するその後の孔明の姿と、蜀の運命は、続編『英雄 生きるべきか死すべきか』に描かれます。ぜひこちらも読んでみてくださいね。

読みやすい文章、含蓄のある言葉

三国志の時代をもたらしたきっかけは、黄巾の乱。その影には、一人の女性の姿がありました。彼女こそ、五斗米道のリーダー・張魯の母である少容であり、本作の狂言回しです。陳舜臣の『秘本三国志』では、彼女たちの視点から見た物語になっています。

『秘本三国志』では、読みやすい文章の中に、ときおり投じられる含みのある言葉が印象に残ります。歴史に基づいたキャラクターの言葉だからこそ、読者の心にすっと入ってきます。

「宗教によって国を安定させよう」と考える部下たちは、それぞれの国の英雄の元で助言、画策を行います。もちろん魏も蜀も呉も例外ではなく、後漢の宮廷にも五斗米道の息のかかった人物が送り込まれていたのです。

著者
陳 舜臣
出版日
2004-02-01


少容は、曹操と「どちらが人々の心を得ることができるか」賭けをしていました。そして、孔明もその賭けに乗るのです。孔明は、曹操や劉備の死を見届け、自らもまた死を迎えようとした時、枕元に座する彼女に「あなたが勝ったのだ。私は人の心は救えなかった」と言います。彼女は「いいえ、心の安らぎだけでは人々は救われません」と答えました。

作者は、「心のよりどころである宗教と、安定した生活を守る政治家という両輪が必要なのだ」と述べています。平易な文章の中に含蓄がありますよね。

三国志では最大の悪役とされる魏の曹操にスポットを当てた『曹操』もあわせて読むと、それぞれの人物像が深くわかることでしょう。

冷静な文章で熱い世界を描く

著者
宮城谷 昌光
出版日
2008-10-10


宮城谷昌光の『三国志』では、漢語の多い硬い文章が特徴です。内容も男たちの友情、陰謀、裏切りなどの心理合戦が展開され、硬派な三国志を読みたい方におすすめ。

宮城谷作品の特徴は、漢語が多用されている点でしょう。そのため、知性的で突き放した印象を与えます。英雄や豪傑など野心家たちが政権を巡り、戦いを繰り広げる様子からは、歴史の非情さも明確になるかのようです。

個人の描写、特に女性描写が少ない作品ですが、外伝『蔡琰(蔡文姫)』は、戦乱に翻弄された女性の悲劇を描きます。心ならずも異国へ連れ去られ子どもを産みながら、その子を置いて中国へ戻らなければならなかった女性が描かれているのが印象的です。

意外に読みやすい、三国志

北方謙三の『三国志』は、ハードボイルド的展開と思いきや、予想を裏切る人間くさい登場人物たちの物語。男も女もどこかかわいげのある人物ばかりで、男女ともに読みやすい作品といえるでしょう。

著者
北方 謙三
出版日


本作は「草原が燃えていた」という文章から始まります。燎原の炎のような時代の幕開けにぴったりの表現でしょう。

登場人物は一人ひとりキャラクターが立っており、特に三国志時代初期の英雄・呂布の描写が良い味を出しています。呂布といえば巨躯、勇猛果敢、単純、残酷で戦い好きな男のイメージですが、初恋の女を一途に慕う純情さもあって、愛嬌を感じられることでしょう。

北方謙三の『三国志』では、史実に忠実に、流れを滞らせることなく人間たちが次々と死んでゆきます。滔々たる時の流れを感じさせるのが、終盤の諸葛孔明の死ぬ場面です。「人は生き、人は死ぬ、それだけのことだ」——どんなことを成し遂げようとも、失敗しようとも、ただそれだけのこと。孔明の述懐で物語は幕を閉じます。

読後は、心の中に荒涼とした風が吹くでしょう。一方で、どこか満ち足りたものも感じられる小説です。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る