夏目百合子が選ぶ「夏に読みたい心がひんやりする本」5冊

夏目百合子が選ぶ「夏に読みたい心がひんやりする本」5冊

更新:2021.12.12

一時期よりも若干落ち着いたとはいえ、まだまだ暑い日が続く今日この頃。今回は、そんな火照った心と体を芯からじんわり冷やす、おすすめ小説5冊を厳選してみました。 今まであまり本を読んでこなかったけれど、ちょっと読んでみようかなと思い始めている方、もちろん普段から本を読まれる方も、今回ご紹介する作品を読んで、暑い日本の夏を一緒に乗り越えましょう♪

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一時期よりも若干落ち着いたとはいえ、まだまだ暑い日が続く今日この頃。今回は、そんな火照った心と体を芯からじんわり冷やす、おすすめ小説5冊を厳選してみました。

江國香織さんをはじめとする私が好んで普段から読む作家さんには、文章が美しくて読みやすいことが共通しています。それに加えて、今回選んだ5冊はラストの展開が衝撃的でわかりやすくインパクトがあるので、小説を読む習慣がない方でも読みやすい作品になっていると思います。

私は小さいころから、外遊びが苦手でおうちで友達とおままごとをしているか、一人でひたすら本を読んでいる女の子でした。読書をすることで自分の中の言葉や表現の引き出しが増える。引き出しが増えると、見える世界が変わってくる。同じ景色でも、言葉を知っている人とあまり知らない人とでは感じ方が全く違うと私は思うのです。読書はそういった意味である種の中毒性を持っています。

今まであまり本を読んでこなかったけれど、ちょっと読んでみようかなと思い始めている方、もちろん普段から本を読まれる方も、今回ご紹介する作品を読んで、暑い日本の夏を一緒に乗り越えましょう♪

戦慄の純文学的恐怖作

著者
藤野 可織
出版日
2013-07-26
第149回芥川賞受賞作。【戦慄の純文学的恐怖作】というキャッチコピー通り、最近読んだ作品の中では一番ゾクゾクしました。仕事の空き時間に読み終え、暗い夜道を帰宅するのがつらかったほど。普通に横を通り過ぎる人や車のライトにもビクビクしながら帰りました。まず「わたし」が「あなた」に語りかける二人称の出だしから怖いです。

この作品については賛否両論あるようですが、私はラストの展開といい語り手の正体といいどこをとっても堪らなく好きです。若干説明不足なところも計算済みなのでしょうか、勝手に恐ろしい方へ想像が膨らんで、恐怖心をさらに掻き立てられます。

単行本には、表題のほかに「しょう子さんが忘れていること」と「ちびっこ広場」という2作の短編がくっついているのですが、正直私の頭ではどちらも100%理解は出来ず、「???」という感じです。難しい。でも堪らない。もう一度すべて忘れてしまってこのお話を読みたいです。あのゾクゾクをもう一度味わいたい~!

2段階で恐怖に落とされる

著者
吉田 修一
出版日
2010年に映画化もされたこの作品。ご存知の方も多いのではないでしょうか。私は小説を読んでから映画を見たのですが、どちらも面白かったです。

この作品のゾクゾクポイントは、ネタバレしないようにお伝えするのがとっても難しいのですが、2段階で恐怖に落とされるところですね。一度衝撃の事実に驚かされた後で、まだ落ち着いてないのにもう一段階さらに深い恐怖に放り投げだされます。リアルに鳥肌が立って、ドキドキおろおろします。

さらに怖いのが、解説で川上弘美さんもおっしゃっている通り読み返すたびに新しい怖さを感じる点。全部怖いです。自分の身の周りにもこんな人がいるかもしれない。読書は見える世界を変えると冒頭で書きましたが、こんな猜疑心いりません!(笑)

女性なら誰もが一度は感じたことのある、恐怖を描く

著者
柚木 麻子
出版日
2015-03-28
「女子会」という響きと、表紙の可愛らしいイラストに惹かれて衝動的に手に取ったこの作品。まんまと騙されました…。今回選んだ5冊は、どれも心霊現象的なホラーではなく人間の奥底に潜む恐怖を感じさせるものにしたのですが、この作品はそれがとても顕著に、リアルに描かれています。

女性なら誰もが一度は感じたことのある、同性同士の関わり合いの中での違和感、困惑。それらが究極に達したとき、恐怖に変わります。ある場面で、重要人物の女性二人が自転車の二人乗りをするのですが、そのシーンがとても強く印象に残っています。

女性として、気付きたくない部分というか、考えたくないところを明確に抉ってくるので、読み終えた時にはドッと疲労感が押し寄せてくると思います。特に20代、30代の女性にはぜひ一度読んでみてほしい一冊です。

狂気と、切なさと、美しさ

著者
小池 真理子
出版日
2015-02-18
この本は8編の短編で構成されているのですが、すべて救われないというか、なんともやるせない切ない気持ちになる物語です。

男女関係や、生と死。重たいテーマが根底にありながらも、小池真理子さんのいつもの美しい描写によってどの物語も気持ちよく心の奥底に染み入ります。

その中でも私が特に印象に残っているのは「修羅のあとさき」です。精神的に追い込まれた女性の成れの果てを描いているのですが、小池さんの手にかかると狂気と、切なさと、美しさが混ざり合い、恐ろしいくらいに胸に残ります。この手の作品は、普通はただの狂気の沙汰で終わるのですが、怖いのはこの女性の幸福感が伝わってくるところです。

一人の異性を愛しすぎてしまった女性。この女性が他の誰よりも幸せであるという事実こそが、この物語のテーマであると、私は感じました。

奇妙な三角関係の、衝撃的ラスト

著者
江國 香織
出版日
私が愛してやまない江國さんの作品の中でも、この物語は群を抜いて衝撃のラストで終わる作品だと思います。

8年一緒だった恋人に出て行かれた女性と、その恋人の新しい恋人。奇妙な三角関係をつづっていくのですが、中盤まではいつもの江國さん節で、普通じゃない状況をあたかも当たり前のようにふんわり描いていくのですが、その日常がある出来事で突然終わりを告げます。

何故そのような出来事が起こってしまったのか。それは本人にしかわかりません。江國さんの作品はほとんど拝見したのですが、このラストはかなり衝撃的でした。その事実を超えた意味合いを感じました。結末をどのように感じたか、語り合いたいような、そっと胸にしまっておきたいような、そんな不思議なお話です。

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