「野間文芸新人賞」歴代受賞作品おすすめ6選!後の芥川賞作家が多数!

更新:2021.11.20

これまで多くの有名作家が受賞をし、活躍の幅を広めてきた「野間文芸新人賞」。この記事では、賞の概要と、歴代受賞作のなかから特におすすめの作品を紹介していきます。

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「野間文芸新人賞」とは。対象作品や応募要項など概要を紹介

 

野間文化財団が主催する文学賞「野間文芸新人賞」。新人作家の創作活動を奨励しています。

野間文化財団は、講談社の初代社長である野間清治の遺志によって設立されたもの。1941年に「野間文芸新人賞」の前身である「野間文芸奨励賞」が作られ、戦後に一時中断されていましたが、1979年に改称して現在の形になっています。

対象は、前年の9月から8月までの1年間に発表された、新人作家による純文学の作品。「芥川賞」は文芸誌に掲載されたものが対象ですが、「野間文芸新人賞」は単行本も審査の対象になっています。例年11月ごろに選考委員会が開かれ、合議によって受賞作が決められます。

「野間文芸新人賞」を受賞した後に「芥川賞」を受賞する作家も多く、新人作家の登竜門になっている賞だといえるでしょう。

生と死で揺れる人に寄り添う、おすすめ「野間文芸新人賞」受賞作『日曜日の人々』

 

主人公の航充てに、自殺をしたいとこの奈々から、荷物が届きました。中に入っていた資料から「朝の会」という集まりの存在を知り、航も参加するようになります。

「朝の会」には、癒えない傷を抱え、生きることに悩む人々が集っていました。そこで航は奈々が抱えていた悩みに対面し、彼自身も死の世界へと引き込まれていくのです。

著者
高橋 弘希
出版日
2017-08-24

 

2017年に「野間文芸新人賞」を受賞した高橋弘希の作品です。

決して明るい物語ではありません。不眠症、摂食障害、自傷行為、盗癖などの描写もあり、彼らが抱える苦痛は読むだけでも辛いものがあるでしょう。ただ文章は淡々としていて、軽快といってもいいほど。だからこそ余計に、登場人物たちの苦しみがダイレクトに伝わってきます。

生と死の間で揺れ動き、最終的に死を選んだ人たち、生を選んでいる人たち。「朝の会」に参加する人々の選択を見届けることで、私たち読者は何を感じればよいのでしょうか。自分自身に問いかけ、向き合わざるをえない一冊です。

死を描いた哀しくて温かい「野間文芸新人賞」受賞作『想像ラジオ』

 

高い杉の木のてっぺんで、ラジオのパーソナリティをしているDJアーク。彼は深夜の2時46分に、「想像」という電波を使って、聞こえる人には聞こえるラジオ番組「想像ラジオ」を流しています。

想像のなかの番組のはずなのに、なぜリスナーからメールが届くのでしょうか。そもそもどうして彼は、木の上でひとりぼっちでDJをしているのでしょうか。アーク自身もわかっていませんが、それでも彼がDJを続けるのには、理由があります。

著者
いとう せいこう
出版日
2015-02-06

 

2013年に「野間文芸新人賞」を受賞した、いとうせいこうの作品です。

震災と津波によって、命を失ってしまったDJアーク。彼は家族の安否を知りたくて、杉の木の上から想像ラジオを流しています。リスナーも同じく、亡くなってしまったけれどまだ魂がさまよっている人たちです。本書は東日本大震災の2年後に発表されています。

突然大切な人の命が奪われること、反対に大切な人を残したまま死んでしまうということ……震災の無情さをこれでもかと突き付けられるでしょう。

また本書は、当事者以外の人が震災に向き合う姿勢も教えてくれています。彼らの本当の想いは知ることができないけれど、それでも「想像」することが大切で、人と人をつなげていくのだと思わせてくれる作品です。

音楽好き必読!みずみずしい青春小説『ミュージック・ブレス・ユー!!』

 

オケタニアザミは、大阪で暮らす高校3年生の女の子。髪は赤く染め、歯にはカラフルな矯正器具がついています。

勉強は苦手で冴えない日々を送る彼女を支えているのは、いつもつけているヘッドホンから流れてくるパンクロックです。

著者
津村 記久子
出版日
2011-06-23

 

2008年に「野間文芸新人賞」を受賞した津村記久子の作品です。

派手な見た目で、音楽が大好きなアザミ。でも彼女自身は周囲から浮きたくないと思っています。また、これまで進路について考えることなく過ごしてきたものの、自分だけが置いていかれるのではないかという焦燥感も抱いていて、自分の気持ちにまっすぐなゆえの不安定さという、思春期特有の感情が丁寧に描かれているのが魅力です。

成績優秀で正反対の性格をしている友人、チユキとの関係も魅力的。お互いを大切に思い、だからこそ卒業して離れ離れになることに不安を覚えてしまうのでしょう。

ラストシーンは、アザミの心の成長を感じられるもの。爽やかな勇気をもらえる、みずみずしい青春小説になっています。

どうしようもなさすぎる衝撃的な私小説が「野間文芸新人賞」を受賞『暗渠の宿』

 

恋人ほしさに水商売の女性に入れあげて家賃を滞納する、定職につかずに酒に溺れる、ようやくできた恋人と同棲しようとするものの、DVで泣かせる……どうしようもない男性を描いた作品です。

しかし文体は堅く、馴染みのない漢字を用いていて、文学界の重鎮を思わせるその作風が読者を惹きつけます。

著者
西村 賢太
出版日
2010-01-28

 

2007年に「野間文芸新人賞」を受賞した西村賢太の私小説です。あまりにもリアルで生々しく、よくもここまでさらけ出せるなと驚いてしまうでしょう。

主人公は感情の起伏が激しく、読者から見ると突拍子もない言動をくり返します。呆れるほど情けなく、悲惨で、それなのに笑えて一気に読み進めることができる作品です。

自らを徹底的に客観視する作者の筆力に感心するとともに、彼が描く主人公のなかにどこか共通点を見出してしまう自分自身にも驚いてしまうでしょう。

「野間文芸新人賞」を受賞した中村文則の魅力が詰まった作品『遮光』

 

結婚を考えていた恋人を、事故で亡くした青年。しかし周囲には、その事実をひた隠しにしています。しかもただ隠しているだけでなく、彼女はまだ生きている、自分は幸せであると、自分自身をも騙して生きているのです。

そんな彼は、あるものを入れた小さな瓶を肌身離さず持っているのですが、徐々にその人格は崩れていき……。

著者
中村 文則
出版日
2010-12-24

 

2004年に「野間文芸新人賞」を受賞した中村文則の作品です。

主人公が持ち歩いているのは、恋人の「指」。唐突な恋人の死を受け入れることができず、自分自身をも騙しながら生きているため、怒りは静かに膨らんでいきます。愛だと思っていた感情が、ある日を境に狂気に変わって爆発し、人を殺してしまうのです。

恐ろしさすら感じる主人公の行動ですが、現実と向き合うことができない苦しみは誰しも抱いた経験があるはず。彼は本当に狂っているのでしょうか。物語には常に薄暗い雰囲気がまとわりつき、読後も心から離れません。タイトルにあるとおり、人間の光と闇を感じる一冊です。

「野間文芸新人賞」を受賞した衝撃だらけの短編集『無情の世界』

 

愛と欲望をテーマにした短編集です。

表題作の「無情の世界」では、男子高校生が、深夜の公園で出会った露出狂の女に性欲を掻き立てられます。しかし近づいてみると、驚愕の事実が発覚し……。

著者
阿部 和重
出版日

 

1999年に「野間文芸新人賞」を受賞した阿部和重の作品です。

死体の女に欲情した男子高校生を描く「無情の世界」、小学生が父親の不倫相手に手紙を書いた「トライアングルズ」、不倫をしている男性が、自分の妻の不倫現場を目撃する「鏖(みなごろし)」という3つの短編が収録されています。

過激な表現も多く、また暴力の描写も多いのが特徴。しかし不思議な軽やかさもあり、明るいストーリーではないのに「面白い」と感じてしまうのです。

眼前に映像がありありと浮かんでくるような、作者の描写力にも注目。読み始めたら最後、物語の世界にのめり込んでしまい、逃してくれません。

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