リンドグレーンのおすすめ書籍5選!世界的児童文学作家の生涯とは

更新:2021.11.20

第二のノーベル賞といわれている「ライト・ライブリフッド賞」を受賞した、世界的児童文学作家アストリッド・リンドグレーン。子どもたちの夢見る世界や、心の動きを豊かに描き出す彼女の作品は、各国で翻訳され、世代を超えて愛されています。この記事では、そんな彼女が作家になるきっかけとなったエピソードや、おすすめの書籍を紹介していきます。

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リンドグレーンの生涯。ピッピややかまし村の生みの親

 

1907年生まれ、スウェーデン南東部のスモーランド地方出身のアストリッド・リンドグレーン。兄と、妹2人の4人兄妹で、いつも賑やかな幼少期を過ごしたそうです。彼女の代表作のひとつである『やかまし村の子どもたち』は、スモーランド地方での暮らしが色濃く反映されています。

17歳から新聞社で働きはじめ、19歳でストックホルムに居を移し進学。自由な人生に憧れ髪の毛を短く切り、未婚の母となりました。まだ古い伝統が重んじられていた時代だったため、周囲は困惑しましたが、その後夫となるステューレとの出会いもあり、幸せな日々を送ったそうです。

リンドグレーンが児童文学作家になったきっかけは、娘のカーリンが風邪をひいたこと。もともと物語を読み聞かせるのが得意だった彼女は、寝ているカーリンにたくさんのお話しをしてやりますが、次から次へと新しい物語をせがまれるため、とうとう話の種が尽きてしまいました。

困ったリンドグレーンが「何のお話をしてほしい?」と尋ねると、「『長くつ下のピッピ(Pippi Långstrump)』っていうのがいい!」と返ってきたのです。『あしながおじさん(Pappa Långben)』という名前の響きから連想したのでしょう。

そこでリンドグレーンが語り聞かせてやった物語が、今も世界中で愛され続けているピッピの冒険物語なのです。

またリンドグレーンは、オピニオンリーダーとして社会論争に打って出る活躍もしました。晩年には作品の世界観が再現されたテーマパークの計画や、子ども専門病院の設立に尽力し、生涯子どもたちのことを考え抜いた人生だったそうです。

リンドグレーンの代表作『長くつ下のピッピ』

 

9歳のピッピは、とても力持ちな女の子。ニンジン色の髪の毛に、顔にはそばかすがいっぱい。片方は茶色の、そしてもう片方は黒の長靴下をはいて、足のちょうど倍の大きさもある黒い靴を履いた風変わりな恰好をしています。

お父さんからプレゼントされた白い麦わら帽子がトレードマークのサルのニルソン氏や、他の船員たちとともに、航海をしながらいろんな国をまわっていました。

しかし船長だったお父さんが嵐で行方知れずとなり、お母さんも小さい頃に亡くしていたため、幼いながら天涯孤独なってしまいます。お父さんが購入していた「ごたごた荘」でひとりで暮らすことになりました。

そこでピッピは、「ごたごた荘」の隣に住むトミーとアンニカと意気投合し、楽しく型やぶりな冒険をくり広げていくのですが……。

著者
アストリッド・リンドグレーン
出版日
2000-06-16

 

1945年に刊行された、リンドグレーンのデビュー作。続編の『ピッピ船にのる』『ピッピ南の島へ』とあわせて「ピッピ」シリーズとして親しまれています。

こんなふうに暮らせたら……という子どもたちの理想を思いのままにやってのけるピッピ。その行動はかなり破天荒ですが、持ち前の明るさと心の温かさに、世界中の読者が憧れるのも無理はないでしょう。学校にも通わず、大人が決めたルールに縛られない彼女の天真爛漫さから目が離せません。

「なぜ、うしろむきにあるいたか?……わたしたちの国は、自由な国じゃないこと?わたしがすきなようにあるいちゃ、いけないかしら?」(『長くつ下のピッピ』より引用) 

リンドグレーンの幼少期のエピソードから生まれた『やかまし村の子どもたち』

 

やかまし村には、北屋敷、中屋敷、南屋敷の3件しか家がありません。そんな小さな村に、主人公のリーサを含めて6人の賑やかな子どもたちと、その家族が暮らしています。

『長くつ下のピッピ』のように特徴的なヒロインが活躍するわけではなく、ほのぼのとした田舎の生活と子どもたちの日常の遊びが優しく描き出された作品です。

著者
アストリッド・リンドグレーン
出版日
2005-06-16

 

1947年に刊行された作品。リンドグレーンが子ども時代に過ごしたスモーランド地方の風景や、体験がもとになっているそうです。

かくれ小屋を作ったり、素敵な秘密を共有したり、大自然のなかでのびのびと遊ぶ様子は、子どもの読者にとっては冒険心をくすぐられること間違いなし。見たことのない料理もたくさん登場し、好奇心をくすぐられます。

やかまし村の大人たちが、常に子どもたちを見守り、時に導いてやる大きな優しさにも心があたたかくなるでしょう。時代が流れて環境が変わったとしても、幼少期の「家族と過ごした時間」や「友だちとの思い出」を大切にしたいと思わせてくれる物語です。

平和な街の少年探偵の活躍を描く『名探偵カッレくん』

 

シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロのような、世界的に有名な探偵になることを夢みている少年カッレ。しかし彼が暮らすストゥールガータン街は、犯罪などほとんど起こらない平和な街です。パトロールくらいしかすることがなく、カッレは退屈な日々を不満に思っていました。

とある夏の日、カッレは友達のアンデスと隣の家に住むおてんば娘のエーヴァ・ロッタとともに休みを謳歌していました。すると突然、エイナルというおじさんが街に現れます。エイナルおじさんの怪しい行動の数々を不審に思い、カッレは探偵として調査することにするのですが……。

著者
アストリッド・リンドグレーン
出版日
2005-02-16

 

1957年に刊行されたリンドグレーンの作品です。

名探偵になることを本気で夢みる少年と友人たちの、スリルとユーモアにあふれた日常をいきいきと描き出しています。児童文学らしい複雑すぎない伏線やトリックに、ワクワクしながら読み進めることができるでしょう。

犯罪のにおいを逃すまいと、常に出会った人間の特徴を注意深く観察し、地道な調査をするカッレの姿は意外と隅におけず、読者に名探偵になる将来を予感させてくれます。

カッレ、アンデス、エーヴァ・ロッタの3人の活躍は続編の『カッレくんの冒険』と『名探偵カッレとスパイ団』でも描かれているので、本書の魅力にはまってしまった人はぜひ残りの2作も読んでみてください。

リンドグレーンが描く三兄妹のにぎやかな日常『ちいさいロッタちゃん』

 

お兄さんのヨナスやお姉さんのマリヤのように、はやく一人前に遊びたくてたまらない末っ子のロッタ。3歳の女の子です。

お父さん、お母さんと兄妹の5人で、「もんくや通り」と呼ばれる小さい通りの黄色い家に住んでいます。負けず嫌いで強情っぱりのロッタは、お父さんから「かわいいもんくや」と呼ばれているのでした。

ある日、両親から「堆肥を下にしき、雨をたっぷり浴びせてやる」と麦や野菜がよく育つということを聞いたロッタは、田舎のおじいさんとおばあさんの家で、雨の降るなか突拍子もない行動に出てしまい……。

著者
アストリッド=リンドグレーン
出版日
1985-12-01

 

1958年に刊行されたリンドグレーンの作品です。本書の語り手は、ロッタの姉のマリヤ。兄妹3人がくり広げるにぎやかな日常が子どもらしい言葉で綴られています。思わず笑ってしまうような失敗や、楽しい争いを微笑ましく読むことができるでしょう。

また『ちいさいロッタちゃん』は、それまでリンドグレーンが書いてきた作品のなかでも、より年少の読者を対象に書かれたもの。本書以降彼女は、幼年童話にも挑戦していくこととなるのです。

『ロッタちゃんとクリスマスツリー』『ロッタちゃんとじてんしゃ』『ロッタちゃんのひっこし』とともに「ロッタちゃん」シリーズとして親しまれています。

中立国からみた第二次世界大戦の記録『リンドグレーンの戦争日記1939-1945』

 

1939年に勃発した第二次世界大戦。リンドグレーンはこの年の9月1日から、世界で何が起きているかを把握し、自分の考えをまとめるために、戦争にまつわる日記をつけることにしました。

当時のヨーロッパの情勢が正確に記録されている一方で、暗くて重たい戦争の様子がユーモアや皮肉を込めた文章で綴られているのが特徴です。

刻々と変わる戦況のなか、中立国のスウェーデンとしての立場や、子どもをもつ母親としての想い、傷ついていく周辺国への深い同情なども書き留められており、リンドグレーンの心の描写に胸を動かされるでしょう。

著者
アストリッド・リンドグレーン
出版日
2017-11-18

 

日記を書き始めた当初はまだ32歳だったリンドグレーン。秘書教育は受けていたものの、本は1冊も出版していない一介の事務員でした。新聞や雑誌、書物やラジオの情報をもとに、戦争日記をつけていきます。1940年には政府管轄の戦時手紙検閲局で働き始めることとなり、日記はより正確な記録となっていきました。

読者の心を掴む文章力はすでに発揮されていて、無駄がなく簡潔なため、ほとんど書き直すことなく出版されたそうです。

ちなみに『長くつ下のピッピ』が刊行されたのは1945年。本書のなかでも、その執筆に触れられています。戦争についてあらためて考えなおすことができるとともに、リンドグレーンのファンは読んでおきたい一冊です。

子どもたちを愛し、子どもたちのために何ができるかを考え続けたアストリッド・リンドグレーン。そんな彼女の生涯を知って作品を読むと、今まで以上に物語に込められた想いを感じることができるかもしれません。出版されている児童文学だけでなく、私生活でも6年間という長い期間丁寧に戦争日記を記録し続けたリンドグレーンは、本当の意味での作家であると感じます。

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