Alfred Beach Sandalが選ぶ「未知の瞬間を感じられる本」
どうも、ホンシェルジュです。
わたくし北里彰久といいまして、Alfred Beach Sandalという音楽ユニットのBIG BOSSかつボーカル・ギターとして活動しているんですが、このたびホンシェルジュに任命されまして、本を紹介する運びとなりました。はじめまして。どうぞよろしくです。

ここ半年ばかり思い返すと、ニューアルバムの制作期間中だったもんですからすっかりそちらにかまけてまして、あまり本を読む時間もなかったのですが、そんなこんなでアルバムできあがりまして無事8月26日に発売することになりました。宣伝みたいで恐縮ですが、『Unknown Moments』というタイトルのワンダーなアルバムです。

今回紹介する本は、アルバムを作ってるときに読んでた本ですね。個人的にはその時の気分を如実に反映してて、アルバムとのリンクもすごくあるなと思うんですが、どうですかね。まあ、アルバム聴いてないからわからんよね。

とにもかくにも、テーマはUnknown Momentsです。未知の瞬間、みなさんは感じてますか。混乱と恐怖と喜びが一体になったような感覚、時空の歪みが生まれてしまうような、そんな逢魔ヶ時。

私たちは今、乱世に生きているじゃないですか。ねえ、まともじゃないですよこんな不寛容な世は。こうなったら半分野蛮、半分冷静に荒波をSurfしていくしかないじゃないですか。混乱の中に希望があるんだと思いませんか? ちょっと自分が何言ってるのかもうわかんないですけど、とりあえず仲良くなりましょう。

ホセ・ドノソ 『別荘』

チリ人作家ドノソの1978年作。73年のチリ・クーデターによる左翼政権の崩壊に触発されて書かれた、と説明されるように、自由や権力を巡る政治的な寓話としての側面が紹介するときにはわかりやすいのかも。

でも、登場人物のブルジョワ一族、ベントゥーラ家の面々のどこかねじの外れて狂気じみた人物造形や、彼らが巻き起こす悪夢のようなアナーキードタバタ活劇は、そういった前提抜きにして単純にめちゃ面白い。その面白さはわかりやすい喜怒哀楽というよりも、もっと不条理で混乱に満ちたものだけど。

読んでいると、読者である自分だけじゃなく、書いていた作者も小説の嵐のような渦の中に巻き込まれながら物語を進めてたような感じがあって、興味深いです。登場人物、ベントゥーラ一族だけで50人ぐらいでてきて覚えるの大変だけど、この大混乱、体験してみると面白いよ。

著者
ホセ ドノソ
出版日
2014-08-05

三木成夫 『胎児の世界 -- 人類の生命記憶 -- 』

著者の三木成夫(故人)は肩書きとしては解剖学者、発生学者ということだが、その論考はかなり射程が広く、もはや思想家、哲学者といったおもむき。

保育園での講演をまとめた『内臓とこころ』(河出文庫)を先に読み、かなりぶっとばされてこれも読んでみたんですが、しゃべりをまとめた前者がとてもPOPでわかりやすいのに対して、こちらは三木氏の天才ブッ飛び度合いをより強く感じられる本となっております。

人間の胎児が、その発生の各段階で悠久の生命の進化の記憶をおもかげとして再現する、それがこの本のメインの内容なんですが、実証的なデータを示した後で、それの意味するところをものすごく詩的で感情的な文章で表現する三木先生、読んでいて恍惚とした表情が見えてくるほど非常にエクスタシーに満ちた祝祭的な本だと思います。何を祝福しているのかと問われたら、それはもう「生命」ということになってしまう。

そこまでいうか!というようなムチャクチャな(天才的な)話の飛躍がありながら、それがトンデモとかではなくどことなくユーモアと感動に包まれたものとして読めてしまうのは、三木成夫という人物の魅力ということなのだろう。伊勢神宮の遷宮に生物がもっているいのちのリズムとグルーヴを見るなんて、これだけ書いたらただただワケわからんもんな。

著者
三木 成夫
出版日
1983-05-23

山本精一 『ギンガ』

精一さんの文章大好きで、オールタイムベストに近い感じで時々思い出したかのようにひっぱりだして読んでます。エッセイなんですが(エッセイなのか?)、話が唐突に違う次元に飛んだりしても、なんつーか、全然平気な感じなのがやばいです。文章のリズムがすごいよい。

著者
山本精一
出版日
2009-01-16

エドガー・アラン・ポー 『ポー詩集』

推理小説とかミステリ好きなんで、ポー好きです。でもなんで詩集なのかというと、アルバムのタイトル考えてる時に、なんかいい英語の言葉ないかなーと、パクるつもりで読んでたからなんですけど(結局パクってないです)。詩もオモロいです。英語全然達者じゃないんで味わいきれてるとは言えないですけど、小説読んでて感じる不穏さや喪失感、不気味な美しさやロマンチックな感覚みたいのが、ぎゅっと凝縮された形で感じれて、これまたリズムがよかった(ライミングについて細かく解説載っけてくれてるのもありがたい)。

言葉っていうのはそれ自体でリズムとメロディを内に持ってるなっていうのは前々から思ってることなんですけど、他で書いてる詩論読んだらポーは詩の内容とか意味よりもそこのとこを散々言ってるので、なんか共感するっす。ポーの詩はなんかビート聴こえてくる感じしますもん。肉体的っつーか。

著者
エドガー・アラン・ポー
出版日
1997-01-17

冨樫義博 『幽遊白書』

初期の設定を最後の方で全部ひっくり返してしまうんですけど、たぶん作者のタイムリーな創作衝動みたいなのが刻一刻と変わっていってしまって、その結果「ああもうこういうの違うわ」みたいな風にどんどんなっていって、結果ラストでめちゃくちゃ平和な時間が訪れるっていう。

リアルタイムで読んでた時は「もっとちゃんと終わらしてくれ~」と思ってましたけど、なんていうか、今読んだら最後のグダグダにぐっとくるものありましたね……。今まで魔界と戦ってた意味がなし崩しになってく感じ。あの空気はめちゃくちゃ反戦じゃないですか。

著者
冨樫 義博
出版日

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