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特集!あの人の本棚
73.

古書ウサギノフクシュウ   (鎌倉の古本屋)


古書店主として独立するまでの道のり。 人と本を繋ぐ交差点「古書ウサギノフクシュウ」

古書ウサギノフクシュウ
本棚のプロフェッショナルである本屋さんに、自店をあらわす本棚をつくっていただこうというインタビュー企画、「本屋さんの本棚」。今回取材した本屋さんは、2014年に鎌倉にオープンした『古書 ウサギノフクシュウ』。店主の小栗さんは自身のお店を持つ以前も、会社員として働く傍らカフェに本を卸すなど独自のスタイルで書店業に携わってきました。
そんな小栗さんが古書店主として独立されるまでの道のりをお伺いしました。
Caption image

書店員のおもしろさに味をしめてしまった

―― お店を持つ以前もどこかの本屋さんで働いたことはあるのでしょうか?

小栗店主(以下、小栗と表記) 大学生の時に、好きな本が読めると思って始めたアルバイトが書店業としての一番古い経歴です。そのままその本屋に就職したいと思ってたんですが、当時正社員の募集をしていなかったこともあり、大学卒業後は本とは全く関係の無い仕事に就きました。会社勤めをしながら仕事が休みの日を利用して、代々木上原にあるロスパぺロテスという古書店で店番の手伝いもしていました。

その頃、仲の良かった先輩が京都でエレファントファクトリーコーヒーという喫茶店を開くことになり、その店に置く古本の仕入れを頼まれたんです。実際には東京で仕入れた本を京都まで送って、本を並べてもらうのは先輩にお願いしてたんですが、この店の姉妹店(※)が三軒茶屋にできたのをきっかけに京都のお店は地元の方に任せて、東京のお店の本の仕入れを担当することになりました。その後、高円寺にアムレテロンという読書と手紙にまつわるお店があるんですが、この店の本の仕入れも担当してちょうど2年位経ちます。

※ムーンファクトリーコーヒー

―― 就職は諦めたものの、関わり方にこだわらなければ書店業を続けることは可能なんですね。続けたくなるようなおもしろさがあったということでしょうか。

小栗 自分の選んだ本を人に読んでもらうというおもしろさに味をしめてしまったんでしょうね。自分の気づいたことを記事にして人に読んでもらう、という仕事に憧れて編集者になりたかった時期もあったのですが、編集者になってやりたかったことの一部って、じつは本を売ることでもできるんじゃないかって気づいたんです。

記事を書く代わりに本を棚に納めることで『こういう場所や人、物がおもしろい』という提示をする。本を買ってもらうということは、そうした提示に対して何かしら共感なり反応をもらっているということになると思うんです。

古書店開店のきっかけ

―― 編集者と言えば、インスタグラムでは書評も書かれていますね。以前から書くことに対して何かアプローチはされていたのでしょうか?

小栗 大学4年生の時に読んでいた『12water stories magazine』という雑誌に編集長でもあった美術作家の永井宏さん主催のワークショップの案内が入っていたんです。ワークショップの会場が編集部となっていたので“編集部”の編集者に憧れている身としては、潜り込むチャンスだと思い参加してみることにしたんです。残念ながら仕事はありませんでしたが(笑)、ワークショップの内容は、永井さんが決めたその日のテーマに沿って文章を書く、といういたってシンプルなものでした。書いた文章はその日の参加者の前で読むことになっていたのですが、これがまた恥ずかしくもあり、かなり新鮮でしたね。そのワークショップには断続的にですが10年ほど通っていました。

―― 学生の頃からというとかなり長い期間通われていたということになりますよね。

小栗 ワークショップで初めて書いた自分の文章を褒められたことに気をよくしたのかもしれません(笑)。その後、2011年に永井さんが葉山・一色海岸のアトリエで自分の蔵書を販売する本屋を開くことになったのでその準備を手伝っていたのですが、開店の一週間前にご本人が亡くなられてしまったんです。せっかく準備していたということもあり、永井さん本人が考えていた“一色海岸書店”という名前で期間限定オープンすることになりました。その時に古本屋という仕事のおもしろさに気づいたように思います。

―― 本の卸しや書店員はすでに経験されていたかと思いますが、それまでの経験とはどう違っていたのでしょうか?

小栗 永井さんの存在というのは自分の中で目指している所にいる人、と言うかとても大きな存在であることは間違いありません。ですから、そういう人の本棚を見ることができたということがまず楽しかったですね。そして、磨いた本を自分で本棚に納め、お客さんと話しながら本を買っていってもらうという一連の作業をこの時初めて経験することができました。この時、それまで味わったことのない「お客さんとコミュニケーションをとりながら本を売るおもしろさ」を体験したことで、自分の店を持ちたいという気持ちが自分の中に戻ってきたんです。

ウサギのフクシュウを表す3冊とは

―― “一色海岸書店”が後に『古書ウサギのフクシュウ』を開く後押しになったというわけですね。お店の名前も永井さんの著作から付けられたとお伺いしました。

小栗 もともと好きだったリチャード・ブローディガンの『芝生の復讐』という作品があります。そして、永井さんもこの作品へのオマージュとして『兎の復讐』という作品を書かれていたこともある。そこで、屋号はこの二つの作品から『ウサギノフクシュウ』という言葉をいただくことにしました。

“フクシュウ”という言葉が物騒なので屋号として使っていいものかずっと迷いはあったのですが、カルヴィン・トムキンズの『優雅な生活は最高の復讐である』という本のタイトルにもなったスペインのことわざを思い出したことで、迷いはなくなりました。

―― “優雅”という単語はどこか古本を連想させますね。

小栗 本の置かれている状況を考えた時、アマゾンや電子書籍が普及する中で、自分のやろうとしている古書店の世界ってものすごく逆行していると思うんです。そんな、少なくなっていくであろう紙の本を読む人を少しでも増やそうとする行為って自分なりの復讐でもあるのかな、と。店の名前にはそんな想いも込めています。

―― 書評を読ませていただくと小栗さんの個性がかなりでているかと思うのですが、本を選ぶ時の指標などあるのでしょうか。

小栗 本棚に個性がでているとはよく言われるのですが、じつは自分の好きな本だけ並べる、ということはしていません。自分の好きな本というと自分の知っている本ということになると思うんですが、この店に来てくださるお客さんはいろんな作家であったりジャンルの本を知っているわけですよね。そういった状況で多くの方に多くの方に喜んでいただくためには、知っている本を置いているだけではまず難しいそこで大事にしているのがお客さんからの本の買い取りなんです。自分の知らない本も受け入れることで本棚が広がりますし、知らないなりに棚に納めることで自分でもその本を吸収することができる。

―― 店の本棚の一部はお客さんが作っている、ということですね。街の人が読んでいた本を受け入れ、読みたくなる本を置くということが大切だと。

小栗 もともと本屋をやるんだったら地元に溶け込みたいという気持ちがあったので、この街の人達がどういった本を好むのかということは常に考えています。一人でやっている店なので、すべての人に対して満足のいく本棚を作るのはなかなか難しいのかもしれませんが、本を買い取ることでもその本を持ってきてくださった方や買ってくださった方との関係を続けていくことができますよね。そんな風に、ある人が読み終えた本を他の誰かに受け渡すまでの、交通整理をする中継地点のようなことができたら、と考えています。


「場所を作り、コミュニケーションを図ることで有機的なものを作っていく「そんなことを当時から考えている人だったという永井宏さんの本屋構想がきっかけで生まれた鎌倉の街の古書店。そこには読みたくなる本との出会いと、いつでも本を受け取ってくれるという安心感とが意識的にもたらされています。読まなくなった本を循環させるための本棚とは、じつはこの街に住む人達が欲しかったシステムの一つなのかもしれません。

古書ウサギノフクシュウを表す本

兎の復讐、そして77ラヴソングス 永井宏 芝生の復讐 リチャード ブローティガン 優雅な生活が最高の復讐である カルヴィン トムキンズ
書店巡りの一覧 インタビューの一覧

プロフィール

古書ウサギノフクシュウ
古書ウサギノフクシュウ
鎌倉の古本屋

鎌倉の古本屋。「ウサギノフクシュウ」という店名は美術作家・永井宏さんの著書のタイトルからいただいたもの。その話は、私は兎を捕まえに行く、と いう書き出しで始まります。永井さん自身、「まあ後先も考えず、とにかく気に入ってしまったのだ」と言っていたくらいだから深い意味はないのかもしれませんが、ぼくも何か不思議な魅力を感じて、とにかく気に入ってしまったのです。鎌倉という長い歴史のある街で、これからウサギがどんな物語を紡いでいくのか、一緒に楽しんでいただければ幸いです。

取り扱うジャンルは、旬のもの・定番・店独自の視点などバランスよく。特に力を入れていくのは文芸、エッセイ、詩、カルチャー、美術など。

住所 神奈川県鎌倉市御成町13-38-2F。
営業時間 11:30 - 20:00 月・水曜日 定休.

ライターについて

AKIKO
AKIKO

時々ライターもする自由業。趣味は本屋さん巡りと小旅行。
https://rooooots.wordpress.com/

プロフィール

古書ウサギノフクシュウ
鎌倉の古本屋

鎌倉の古本屋。「ウサギノフクシュウ」という店名は美術作家・永井宏さんの著書のタイトルからいただいたもの。その話は、私は兎を捕まえに行く、と いう書き出しで始まります。永井さん自身、「まあ後先も考えず、とにかく気に入ってしまったのだ」と言っていたくらいだから深い意味はないのかもしれませんが、ぼくも何か不思議な魅力を感じて、とにかく気に入ってしまったのです。鎌倉という長い歴史のある街で、これからウサギがどんな物語を紡いでいくのか、一緒に楽しんでいただければ幸いです。

取り扱うジャンルは、旬のもの・定番・店独自の視点などバランスよく。特に力を入れていくのは文芸、エッセイ、詩、カルチャー、美術など。

住所 神奈川県鎌倉市御成町13-38-2F。
営業時間 11:30 - 20:00 月・水曜日 定休.

古書ウサギノフクシュウ さんの本棚