Loading 81b424ebf5b28b6979c5bfbadb4fe3d86654abdce81e3c0259cc91c3ecd00497
特集!あの人の本棚
07.

加藤崇   (株式会社加藤崇事務所 代表)


人生のロールモデルを、本のなかに探していた (加藤崇インタビュー・前編)

加藤崇
さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などからひもといていくインタビュー。第4回のゲストは、Googleに買収されたことで一躍有名になった、ヒト型ロボットベンチャーSCHAFTの共同創業者兼元CFO、加藤崇さんです。SCHAFTに参画する前は、企業再生のプロとして、成城石井や牛角といった小売・外食グループの再建担当役員も務めた加藤さん。大の本読みでもあり、小説からビジネス書まで、さまざまなタイトルをおすすめしてくださいました。
人生のロールモデルを、本のなかに探していた (加藤崇インタビュー・前編)

人生のロールモデルを、本のなかに探していた

――加藤さんは昔から本好きだったのでしょうか。

加藤崇(以下、加藤) 僕、ちゃんと本を読みだしたのって高校生からなんです。そのとき夢中になって読んでいたのが、庄司薫さんの本です。日比谷高校3年生の「庄司薫くん」を主人公とした『赤頭巾ちゃん気をつけて』。そこから、『白鳥の歌なんか聞こえない』『さよなら快傑黒頭巾』『ぼくの大好きな青髭』と続く四部作なんですけど、これがとてもおもしろいんですよ。

――『赤頭巾ちゃん気をつけて』は芥川賞受賞作ですね。これらの作品のどんなところをおもしろいと思われたのでしょうか。

加藤 多感な時期の若者の悩みが、あまねく網羅されてるんですよね。『赤頭巾ちゃん気をつけて』は、女の子と付き合うことについてだし、『白鳥の歌なんて聞こえない』は死について。『ぼくの大好きな青髭』は学生運動の話なのですが、学生運動って理想郷を求めることだと思うんですよ。理想的な社会とはなにか、ということをナイーブに学生が考えた結果、運動が広がっていった。

――はい。

加藤 このシリーズには若者だからこそぶち当たる壁と、そのときの若者の気持ちが、丁寧に描かれているんです。しかも庄司薫さんはこの四部作のあと、小説はもう出してないんですよね。そういう引き際のよさも素敵だな、と思っていました。

――作家としてのスタイルにも惹かれていたんですね。

加藤 大学生の時に読んだのは、五木寛之さんの『青春の門』シリーズ。伊吹信介という九州の筑豊で生まれた少年の成長譚です。2つ目の「自立編」で、彼は早稲田大学に入ります。大学で信介は政治運動に身を投じることになり、だんだん大学も行かなくなって、赤線(※)の女性の家に入り浸るようになるんですよ。そのあたりが4作目に書かれていて。

※ 日本で1958年3月以前に公認で売春がおこなわれていた地域の俗称

――第4部は、「堕落編」ですね。

加藤 はい。主人公はお金がないから、朝、献血しに行くんです。昔は献血したらお金がもらえたんですね。そしてその金で飯を食って、また赤線の女の子の家に戻ってセックスして、という荒廃した毎日を送る。そうすると、だんだん自分が何をしてるのかよくわからなくなってくるんですよ。でも、坂口安吾の『堕落論』じゃないですけど、人間は下の下まで落ちて、底辺に触れると、そこで「ゼロ」を発見するんです。

――なるほど。

加藤 ゼロを知ることで、1や2、3の価値がわかってくるんです。生まれた時から5や10の生活をしていると、その価値はわからない。そうして、信介はいろいろなものの価値に気付き始めて、今度は演劇に目覚めるんです。いま単行本では第7部の「挑戦編」まで出ています(※)。

※ 「第8部 風雲篇」については1993年7月から1994年4月にかけて雑誌『週刊現代』に掲載され、掲載は終了しているが単行本化されていない。

自分ができないことを、本の主人公が体験してくれる

加藤 僕がこういう本を読んできたのは、人生のお手本や先輩がほしかったからだと思います。梅田望夫さんが『ウェブ時代をゆく』という本で、「ロールモデル思考法」という考え方を紹介していますが、それに近いと思います。つまり、人生を歩むにあたって、単に「有名になりたいな」などという漠然とした思いをもってボンヤリ進むのではなく、人生のステージごと、自分の置かれたシチュエーションごと、自分があこがれを抱く具体的な人物を見つけて、「生き方」や「仕事の仕方」を含め、その人と同じようにやってしまう、ある時は、その人になりきってしまうということです。そしてそれは別に、実在の人物でなくてもいい。小説の主人公にあこがれてもいいんです。

――必ずしも、1人をそのままお手本にしなくていいんですね。

加藤 僕は幼少期に両親が離婚し、母親に女手ひとつで育てられました。だから、男親のロールモデルがいなかったんですよね。男としていかに生きていくべきか、ということについてずっと悩んできました。父親の背中が追えれば、「こんなふうに仕事に取り組むのか」「こういうふうに家庭を築くのか」「こんなふうに年をとっていくのか」ということがわかる。でも僕にはそれがなかった。そこで、それを本に求めたんでしょう。本を読み始めてからは、ヘビースモーカーならぬ、次から次へと本を読むヘビーリーダーになりました(笑)。

――だから、同じような年の主人公の人生を描いた本に影響を受けたんですね。

加藤 そうだと思います。「薫くんシリーズ」を読んだら自分が薫くんになったかのような気持ちになりましたし、『青春の門』はけっこう荒っぽい小説なので、読んだあと「おーし、じゃあおれもケンカしに行こう!」なんて勢い込んで街に出たりして(笑)。そうそう、高校生の時に矢沢永吉の『成り上がり』を読んだのも、やっぱりロールモデルですよね。自分の家が貧しかったということもあったし、成功するとはどういうことなのかが知りたくて読んでいました。今振り返ると、すごく参考になりましたね。

――本は自分がしていない体験も、追体験させてくれますもんね。自分が堕落しなくても、小説の主人公が堕落すればそれを体験できる。

加藤 それが本の良さですよね。心理学者の河合隼雄さんが、カウンセリングの腕を上げる方法のひとつが、小説を読むことだと言っていました。自分が精神を病んだり、ドメスティックバイオレンスの被害にあったり、家庭崩壊したりしていなくても、それをテーマにした小説を読めば、当事者としてそれを追体験できる。患者さんの気持ちを少しは理解することができる、と。これは、本のすごい効用ですよね。

――社会人になってからも、ロールモデルを探して読んだ本はありますか?

加藤 真山仁さんが書かれた経済小説『ハゲタカ』でしょうか。ドラマも楽しみに観ていました。自分自身が企業再生の仕事をしていたので、主人公のモデルとなった、事業再生の実務家として著名な越純一郎さんにあこがれていたんです。スティーブ・ジョブズの本もそういう視線で読んでいました。僕は死後に出た『スティーブ・ジョブズ』よりも、“iCon Steve jobs : The Greatest Second Act in the History of Business”(邦題:『スティーブ・ジョブズ − 偶像復活』)という2005年に出た本のほうが好きです。これは原書で読んで、すごく影響を受けました。ずっとそうやって、本を通じて自分の人生の手本みたいなものを探してきたんです。

(次回は、加藤さんが本の内容を頭にいれる方法です。続きます...)

ビジネスの一覧 インタビューの一覧

プロフィール

加藤崇
加藤崇
株式会社加藤崇事務所 代表

かとう・たかし/1978年、東京都武蔵野市生まれ。早稲田大学理工学部応用物理学科卒業。オーストラリア国立大学経営学修士(MBA)。株式会社東京三菱銀行、KPMG日本法人を経て、技術系ベンチャー企業の代表取締役(社長)、高級スーパー「成城石井」と焼肉の「牛角」の持株会社役員などを歴任し、株式会社加藤崇事務所を設立。その後、2名の東大助教と共にヒト型ロボットベンチャーの株式会社SCHAFTを共同創業、取締役CFOとして米国Google, Incへの売却に成功。近著に『未来を切り拓くための5ステップ:起業を目指す君たちへ』。

ライターについて

Writer 1
崎谷実穂

さきや・みほ/求人広告、記事広告のライターを経て、現在ビジネス系のインタビューライター。ブックライターでもある。cakes、日経ビジネスオンラインなどで連載担当中。

プロフィール

加藤崇
株式会社加藤崇事務所 代表

かとう・たかし/1978年、東京都武蔵野市生まれ。早稲田大学理工学部応用物理学科卒業。オーストラリア国立大学経営学修士(MBA)。株式会社東京三菱銀行、KPMG日本法人を経て、技術系ベンチャー企業の代表取締役(社長)、高級スーパー「成城石井」と焼肉の「牛角」の持株会社役員などを歴任し、株式会社加藤崇事務所を設立。その後、2名の東大助教と共にヒト型ロボットベンチャーの株式会社SCHAFTを共同創業、取締役CFOとして米国Google, Incへの売却に成功。近著に『未来を切り拓くための5ステップ:起業を目指す君たちへ』。

加藤崇 さんの本棚

当時の問題意識に解を与えてくれるような本、影響を受けた本

当時の問題意識に解を与えてくれるような本、影響を受けた本

加藤 崇
Profile 272
全ての学生に贈る、人生で「一打逆転」を狙おうと思った時に読む本

全ての学生に贈る、人生で「一打逆転」を狙おうと思った時に読む本

加藤 崇
Profile 272
人生(学生生活、仕事)のロールモデルになった本

人生(学生生活、仕事)のロールモデルになった本

加藤 崇
Profile 272

週間ランキング

月間ランキング