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特集!あの人の本棚
107.

望月 新   (建築家)


建築家が選ぶ、建築作品集やエッセイの魅力 (望月新インタビュー)

望月 新
さまざまなプロフェッショナルの考え方・作られ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などから紐解いていくインタビュー。今回は建築家の望月新さんに登場して頂きました。
個人住宅を中心に活躍、「望月建築アトリエ」を主宰する建築家の望月新さんは、どのような思想をもち、またどのような本を紹介してくださるのでしょうか。
建築家が選ぶ、建築作品集やエッセイの魅力 (望月新インタビュー)

仕事の取り組み方や設計のデザインも含めて、吉村(順三)さんのことはとても尊敬しています

個人住宅を中心に活躍、「望月建築アトリエ」を主宰する建築家の望月新さん。住まう人が居心地よく暮らせる空間づくりに定評がある望月さんは、生活者としての確かな、そして温かな目線と、建築家の息子として生まれ、常に建築デザインを身近なものとして感じてきて育った人ならではの洗練を兼ね備えた人。そんな望月さんは、中央線高尾駅にほど近い、自然豊かな場所にある自宅から、新宿の事務所まで、1時間弱の通勤時間を読書の時とする本好きでもある。読書をするようになったきっかけは、最初に入った会社の事務所の所長が読書家だったこと。「プロフェッショナルとして生きていくには知識が武器になる、と言われました。実際、所長は美味しいビールの注ぎ方から建築のことまで、いろんなことを知ってるんですよね」と、楽しそうに話してくれた。

今回はそんな望月さんに、実際に影響を受けた建築家が書いた本や、彼らにまつわる本、それに建築とは関係ないけれども個人的に大好きな本などを紹介してもらった。セレクトは建築について詳しくない人でも楽しめる本、新たな発見のある本ばかりとなっている。ちなみに望月さん、電車の中ではもっぱら時代小説やノンフィクションなど、仕事とは関係ない本を読むことが多いとか。好きな本には宮城谷昌光『太公望』や、宮本輝『流転の海』、それに吉村昭の歴史小説といった、壮大なストーリーのものが多いそうだ。

―― 望月さんはお父様も建築家でいらっしゃるんですよね。

望月新(以下、望月) うちの実家の一部がアトリエになっていたんです。そこに所員の方がいて、父の仕事を見てたんですが、元々もの作りが好きだったので、高校生の頃からアルバイトで模型を作ったりしていたんですね。それで、何となく楽しいかなと思って建築学科に進んだんです。ただ、元々父と一緒にやろうとは一切考えていなかったので、卒業後は他の事務所に行きました。父は大学で教えながら設計をしてたので、わりと自由に設計をやっているように感じましたが、実際にやってみるとそうはいきませんね(笑)。

―― (笑)。今日はそんな望月さんに、建築にまつわる本をご紹介いただきます。

建築家 吉村順三のことば 100 建築は詩

『建築家 吉村順三のことば 100 建築は詩』 監修 永橋爲成/編集 吉村順三建築展実行委員会

―― まずご用意いただいたのが、国際文化会館、愛知県立芸術大学、箱根ホテル小涌園などの建築で知られる吉村順三さんの言葉を集めた『建築家 吉村順三のことば 100 建築は詩』です。

望月 吉村さんの凄いところは、皇居の新宮殿の基本設計なども手掛ける有名な建築家になられてからも、すごく小さい住宅も設計するんですよ。その設計のスタンスは、大きなビルだろうと小さな住宅であろうと全然変わらない。例えば、こんな小さい家ですが設計してくださいますか、と依頼されると、時間さえ待ってもらえればと言って一生懸命取り組むような方なんですね。そういう仕事の取り組み方や設計のデザインも含めて、吉村さんのことはとても尊敬しています。

―― 吉村さんに影響を受け始めたのは学生時代から?

望月 そうですね。でも学生の頃はル・コルビュジエとかのモダニズム建築や(作られた当時の)最先端の建築の方に惹かれるところがありました。でも、卒業して実務を進めていくうちに、吉村さんなど作品や姿勢に魅力を感じるようになった。実際に建物を見に行ったり、図面の資料とか見ると、今でも素晴らしいな、と思うわけです。学生の頃は表面的な部分を見てかっこいいなとか思うんですけど、仕事をするようになると建築って機能が必要だということが身を持ってわかるようになるんですよね。吉村さんは寸法を決めていくこと、つまり高さや長さ、そういうものの感覚を磨きなさいと書いてあります。例えば、天井や建具高さがどれぐらいの寸法が気持ちが良いのか。それにはすごく大きな影響を受けました。あと、この本はとにかく言葉の力がすごい。(ページの端を)折ってあるところは僕が特に大切だと思ったところです。建築で悩んだ時など、この本を開く僕のバイブル的な一冊です。

それでも建てたい家

『それでも建てたい家』 宮脇 檀

―― こちらの宮脇檀さんは建築家でありながら、エッセイストとしても活躍された方ですね。

望月 宮脇さんは吉村順三さんに師事した方なんです。宮脇さんの本は非常に読みやすくて、たぶん一般の方が読んでも入り込みやすいと思います。僕も殆どの本を買って読んだんじゃないかな。彼は多くの住宅を設計した住宅作家でもあり、また家具、特に椅子のレクターなんですね。一般の人って多分建築というものにインテリアから入っていったりするでしょう? だからとっつきやすい。あと彼は料理好きでもあって、そんなことから新しい考えのもとでオープンキッチンを作ったりもしている。建築の本って、すごく論理的で難しいけれど、宮脇さんの本は違う。旅行の話なども楽しいです。

父の椅子 男の椅子(建築家宮脇檀・名作椅子コレクション)

『父の椅子 男の椅子(建築家宮脇檀・名作椅子コレクション)』 宮脇 彩

―― この本は宮脇檀さんの娘さんの本。檀さんのエッセイにもたびたび登場する方ですね。

望月 はい。これはお父さんが世界各国の椅子のコレクターだったことを書いています。僕は宮脇さんの影響で、「マレンコ」(注:マリオ・マレンコのデザインで1971年にアルフレックス社より発売されたカバーリング式のソファにして同社最大のベストセラー)っていうソファを買ったんです。宮脇さんが仕事から疲れて帰った時にこの「マレンコ」にゴロンと横になって、っていう文章を描いていらして、自分もいつか欲しいなって思って。それで、この家を建てたときに買いました。あとはダイニングに使っている「Yチェア」(注:ハンス・J・ウェグナーが1949年にカール・ハンセン&サン社より発表、翌年発売されたダイニングチェア)とかも出てきます。こういうものは、施主の方にもお勧めしてますね。ゆったりして座りやすく、デザインが洗練されていて何にでも合うので。

我輩は施主である

『我輩は施主である』 赤瀬川原平

―― これは作家であり、前衛芸術家でもあった赤瀬川原平さんが家を建てることになった顛末を書いた本。ちょっとイレギュラーなセレクトですね。

望月 はい。赤瀬川さんが建築家の藤森照信さんと家を建てたんですが、その家が奇抜な……“ニラハウス”って言うんですよ(笑)。赤瀬川さんが家を建てるにあたって、土地探しから藤森さん――F氏って書いてあるんですけど――に設計を依頼して、案が出てきて、みんなで壁塗りながら作業したりしていくまでの話。参加型の家づくり、面白い家づくりなんですね。藤森さんから屋根のデザインの最初のスケッチが出てくると、屋根にヒゲみたいのが生えてるんで、これなんですかって聞いたら、ニラ植えますって(笑)。屋根にニラ植えるっていう。

―― こういう家づくりに共感するところがあった?

望月 ええ。楽しく家を作るというか……そんな風に皆さんにできたらいいなとは思います。参加型ってのはなかなか難しいんですけれどね。なんとなく家作りが楽しい時間だった、そういうお客さんっていらっしゃるんですよ。設計の打ち合わせとかがすごく好きで、家が出来て満足なんだけど、打ち合わせとかがなくなっちゃうのがすごく寂しいって。まあ、そういうプロセスが面倒臭いっていう人もいるんですけど。家っていわば一生に一度の、最大の買い物ですから、楽しみながら作っていくっていうのは非常にいいことだと僕は思っています。

Photographs by Motoki Adachi

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プロフィール

望月 新
望月 新
建築家

1973年、東京都生まれ。97年に東京工芸大学建築学科を卒業、同年シグマシステム建築事務所入所。99年にAPD建築事務所に入所、01年に父の事務所である望月大介建築アトリエに参加する。08円に独立、東京・新宿に望月建築アトリエを設立、代表を務める。一級建築士、東京建築士会会員。
http://www.klasic.jp/person/architect/20

ライターについて

Writer 11
山下紫陽

ライター・編集者。ジャンルはデザイン、アート、音楽など。幼少時から翻訳小説と洋楽にどっぷり浸かったためか地に足が着かないまま大人に。ここ10年は寒い・暗い・汚い系のミステリー/ハードボイルドばかり。好きな主人公はやっぱりフロスト警部

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望月 新
建築家

1973年、東京都生まれ。97年に東京工芸大学建築学科を卒業、同年シグマシステム建築事務所入所。99年にAPD建築事務所に入所、01年に父の事務所である望月大介建築アトリエに参加する。08円に独立、東京・新宿に望月建築アトリエを設立、代表を務める。一級建築士、東京建築士会会員。
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建築について詳しくない人でも楽しめる、建築にまつわる本

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