Loading 81b424ebf5b28b6979c5bfbadb4fe3d86654abdce81e3c0259cc91c3ecd00497
特集!あの人の本棚
117.

川辺素   (バンド「ミツメ」Vo/Gt)


軽く歪んだ世界、その中にある言葉 (川辺素 インタビュー)

川辺素
さまざまなプロフェッショナルの考え方・作られ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などから紐解いていくインタビュー。今回はホンシェルジュ「本と音楽」連載陣の一人、ミツメ・川辺素さんに登場していただきました。川辺さんのルーツとなる本、そして最新アルバム『A Long Day』にヒントを与えた本とは? またボーナストラック的なおまけとして、ミツメの他メンバーによる本のセレクトもご紹介。
軽く歪んだ世界、その中にある言葉 (川辺素 インタビュー)

デビュー以来、インディ・シーンで注目を集めている4人組バンド、ミツメ。一見、淡々として穏やかなようで、そこに独特の歪みや実験精神を盛り込んだサウンドを通じて、彼らは中毒性の高いユニークな“ミツメ・ワールド”を作り出してきた。そんななか、今回はヴォーカルで歌詞を手掛ける川辺素にインタビュー。本好きの両親のもとで育ち、子供の頃から数々の名作に親しんできたという川辺。ミツメの新作『A Long Day』は“人の心の移ろい”をテーマにしたアルバムだが、そこには彼が読書を通じて興味を持った、心理描写や言葉へのこだわりが反映されていた。

字面から表情みたいなのが伝わって来るもんなんだっていうのは、小説を通じて知りました

―― ものごころついた時はどんな本を読んでました?

川辺素(以下、川辺) 小学生の頃、『モモ』(ミヒャエル・エンデ)とか読んでたのを覚えてますね。

―― 児童文学の名作ですね。漫画とかは?

川辺 禁止ではないですけど、あんまり読んでませんでした。親から“漫画買うんだったらこっちで”って活字のほうをそれとなくすすめられていたので。小学生の時に買った漫画は『ドラゴンボール』の最終巻くらいでした。ガチガチに厳しい家庭ではなかったですけど、どんな本を買うかは、内容をみて親がアドバイスをくれていたと思います。

―― 子供の頃から活字に触れていたんですね。そんななかで印象に残っている本はありますか?

川辺 『夏の庭』(湯本香樹実)とか、『塩狩峠』(三浦綾子)とか。

―― どれも推薦図書って感じの名作ばかりですね。そういう本を選ばれるということは、やっぱりご両親は読書好き?

川辺 結構、本棚には本が並んでましたね。中には村上龍とか村上春樹とかもあって。父親に薦められた本より、村上龍の本とかのほうが内容がキワどくて、そういうのを隠れて読んだりもしてました。あと、父親はデザイン系の仕事をしていたので、(アンドレ・)ブルトンとかダダイズムの本とか、『シド・ミード作品集 OBLAGON』、淡交社の『日本のやきもの』シリーズ、『ガウディの世界』みたいな美術書があったり。そういうのも読んでました。

―― お父さんの本棚の影響もあるわけですね。自分で選んで本を買うようになったのはいつ頃?

川辺 中学生の頃かな。当時、奈良に住んでいたんですけど、『池袋ウエストゲートパーク』(石田衣良)を読んで“東京ってこんな感じなんだ”って思ったり(笑)。そのあたりから、映画やTVドラマの原作を読むようになったんです。『岸和田少年愚連隊』(中場利一)とか『偶然にも最悪な少年』(グ・スーヨン)とか。映画より小説のほうが奥行きが感じられるものとかって多かったりするじゃないですか。それで自分で本を買って読むようになって、東野圭吾とか、江國香織とか、三浦綾子とか、本屋に平積みになっているものを読みあさってました。

―― なるほど。みなさん映画化されることが多い作家ですね。

川辺 あと、安部公房の『無関係な死』とか『R62号の発明・鉛の卵』を読んで、そこからSFも読むようになったんです。

―― アニメや漫画経由じゃなくて、安部公房からSFに! 硬派な流れですね。

川辺 父親の本棚にハヤカワSF文庫が並んでたりもしたんで血は争えないのかなと。

―― あの青い背表紙がずらっと。

川辺 昔はなんとなく表紙の絵が怖かったりして読まなかったんですが、こんなに面白いんだと思うようになって。オースン・スコット・カード『エンダーのゲーム』とか、ジョン・W・キャンベル『影が行く』、レイ・ブラッドベリ『華氏451』、(ウィリアム・S・)バロウズの『裸のランチ』なんかも好きでした。

―― 全部、映画化されている名作ですね。SFの魅力はどんなところですか?

川辺 現実と薄皮一枚ぐらいのSFが好きなんですよ。例えば『ブレードランナー(電気羊はアンドロイドの夢を見るか?)』まで行くと、世界が完全に違うじゃないですか。同じ(P・K・)ディックの作品でも、自分がグッと惹かれるのって『地図にない町』とかで。気がついたら街がない、自分も消えるんじゃないか……?みたいな、自分も話のなかに迷い込んじゃいそうなSFが好きで、そこにサイケデリックさを感じるんですよ。それで現実の境界が少し危うい物語にハマって、そういうものをどんどん読むようになったんです。音楽でも、そういうのをやりたいというのがあって……。

―― ディックの小説って、そういうパラノイアっぽい物語が多いですよね。自我が崩壊していくような。

川辺 その壊れていく感じに幻覚作用みたいなものを感じるんですよ。例えば『1984年』(ジョージ・オーウェル)も、そういうところがあって。だんだん、主人公がおかしくなってきて、気持が揺れ動いてるうちに考えてることが最初と変わってきたりとか。そんな、人間心理にフォーカスしている物語が好きでした。SFじゃないですけど、三島由紀夫の『永すぎた春』とかもそんな感じでSFを読むずいぶん前から好きだったし。

―― 三島のような純文学も読まれていたんですね。

川辺 受験の時に日本の近代史をやってて、あんまり歴史が得意だったわけじゃなかったんで、その時代の本をいろいろ読んでたら憶えるだろうと思ってまわり道な勉強の仕方をしてたんです(笑)。三島以外には、川端康成、谷崎潤一郎、太宰治あたりを読んでました。

―― 受験に出そうな作家ばかり(笑)。とくに惹かれた作家はいますか?

川辺 とくにだと三島かな。『美徳のよろめき』とか『宴のあと』とか、日本語がきれいなところが好きで。学校の先生が「三島の文章は巧い」とか言ったりすると、「それってどういうことだろう?」と思って先生に訊きに行ったりしてました。

―― 勉強熱心ですね! 先生はちゃんと答えてくれました?

川辺 「漢字の使い方とか、あえてひらがなを使っているところとか、そういうところに美的センスがある」みたいな話をされて、なるほどなって思った記憶があります。

―― 三島以外に文章のスタイルや言葉のセンスで惹かれる作家はいますか?

川辺 谷崎潤一郎かな。『刺青』なんかは100年前の作品ですけど、ぜんぜん文体も古い感じがしないし、むしろ完成してる感じがありますね、日本語が。

―― 三島や谷崎の日本語の使い方って、作詞をするうえで影響を受けていたりします?

川辺 作詞だとあんまり関係ないのかなとは思いつつ、文章にしても歌詞にしても、自分の中にパッと見てきれいだなと思う文体とそうでないものがあるんですよ。それで、さっき挙げた人の文章はなんでこんなにきれいに見えるのかなと考えたりしてたことは、結果的に作詞に影響があったのかもしれないです。同じ質感を、違う言葉で説明するようにしていたりとか、わざとひらがなにして、すっと意味が伝わって来るところもあるし、逆に漢字でしっかり書くことでギュッと入って来る部分もある。字面から表情みたいなのが伝わって来るもんなんだっていうのは、小説を通じて知りました。

―― 歌詞の場合、字面ってあまり関係ないじゃないですか。読むものじゃなくて聴くものなので。それでも、見た目の印象は気になる?

川辺 なりますね。まず歌ってみて、その言葉の響きが良いのが一番なんですけど、次はその文字を書いたりパソコンで見たりしてみて、見た目があまり良くなかったら変えたりもします。

―― 響きも見た目も全体のバランスを見て調整する。

川辺 はい。ほかの曲でこの表現を使ったからやめようとかもよく思うので、不自由だし、誰にも伝わらない気もしますけど小さいこだわりは多いです(笑)。

―― そのこだわりがミツメの美意識を作り出しているんでしょうね。小説からインスパイアされて曲を書いたりすることはありますか?

川辺 あります。詩で言うと(リチャード・)ブローディガンの『芝生の復讐』とか。読んだのは結構前なんですけど、こういう軽く世界が歪んでいる感じが好きだなと思ったりしながら(歌詞を)書いてましたね。ファースト(・アルバム)の時とかは特に“ブローディガンとかがアメリカで思ってやろうとしてたことって、日本でやるとしたらどういうことなんだろう?”みたいなことを想像したりして。書いてる自分でもわからなくなるようなところを目指したりしてましたね。

―― 歌詞だけじゃなくて、曲もブローディガンを意識してました?

川辺 サウンド自体はバンドみんなで作っているので、なんとも言えないんですが、その時は、90年ぐらいのオルタナ(アメリカ感)みたいなのを日本人が日本人なりにやるとしたらどういう感じかな?とか思ってて。もとのテイストをそのまま持って来るっていうのは、ちょっと違うと思ったので、どういうふうに考えて作ってるんだろうとかはアメリカの作品を読んで知れたら……と思ってました。

―― 直輸入はしたくない?

川辺 聴いてその手法をサンプリングのように真似ることはすぐ出来るんですけど、そうじゃなくて“どういう思考回路というかプロセスを経て作ったら、そういうふうになったのか?”みたいなのことを考えて、考え方を真似て自分なりに作ってみるのが好きなんです。たぶん、そこには勘違いも含まれると思うんですけど、そういうのがかえってオリジナリティみたいなものにつながったりするんだと思うんですよね。

―― 確かに。ちなみに今回のアルバムを作っていた時には、どんな本を読んでいました?

川辺 今回は記号性の強いワードを用いるのをやめたかったり、限定的なシチュエーションではなくてどこでも何にでも当てはまるような歌詞がいいなと思っていて、ディックの小説は奇想天外な話ではあっても、普段の生活の少し向こう側のように感じられる話が多いなと思ったんです。なので読み返してました。あと、『スロー・ラーナー』(トマス・ピンチョン)とかアメリカの作家の短編集的なものを結構読んでました。アメリカの大衆的な小説で地方特有の話が舞台になっていないものは、舞台を東京に置き換えても想像できるというか普遍的なものに感じやすい気がします。

―― 誰にでも当てはまる歌詞っていうのがひとつテーマにあったと。

川辺 そうですね。あと“人の心の移ろい”というのもテーマとしてありました。「嬉しかった」「寂しかった」という言葉だと強過ぎる些細な心の変化なんですが。プラスかマイナスかは歌詞だけじゃわかんないけど、曲を聴いていると少し寂しい気持ちになったり、嬉しい気持ちになったりするぐらいの程度の歌詞だと良いな、と思ってました。

―― 『A Long Day』というタイトルの意味は、いろいろあった長い一日ではなく、何も起こらなくて時間がゆっくり過ぎて行く一日なんですね。

川辺 そうですね。最初は歌詞のなかに象徴的に出て来る単語、例えば「ライト」とか、そういうタイトルでいいかなって、メンバーで話をしてたんですけど、話し合って行くうちに「何も起こらない一日」みたいなイメージが浮かび上がってきたんです。アルバムの途中に長いインストがあったりして、それが退屈さを連想させたりもするし。気持ちの整理がついたりするのって、何にもない日だったりするし。

―― 新作のジャケには窓が写っていますが、窓の外でも眺めながら、ぼんやりと考え事をしているような一日?

川辺 そうですね。『A Long Day』は、そういうアルバムだと思います。

大竹雅生(Gt,Syn)、nakayaan(B)、須田洋次郎(Dr)が選ぶ『A Long Day』とリンクする1冊

『白痴』 坂口安吾

『白痴』 坂口安吾

大竹雅生 “私はそのころ耳を澄ますようにして生きていた。もっともそれは注意を集中しているという意味ではないので、あべこべに、考える気力というものがなくなったので、耳を澄ましていたのであった。(「いづこへ」より)”。

三島由紀夫が著者のことを「トンネル」だと評したように、坂口安吾の文章は端々に狂気を感じさせつつも、どこか風通しの良さを感じる。それは本作の幾つかの短編の主人公達がそうであるように、未来をそのままに受け入れ、静かに洞察する視線があるからだろうか。『A Long Day』の、伸び縮みする音に無抵抗に身を任せ、どこへ向かっていくのか分からない雰囲気も、この短編集に通じるところがあるのかもしれない。

『侏儒の言葉』 芥川龍之介

『侏儒の言葉』 芥川龍之介

nakayaan 自殺する少し前の芥川龍之介の随筆集。嫌味を極めた知識人の逆説的な、ちょくちょく直接的な御意見番。病もあり尖り切った感性の彼の言葉の数々は刺激的、余りに刺激的です。現代でもその鋭利さと輝きは変わらず、「わたし」の章のような笑ってしまうような暴論も含めて、彼の言葉選びのの秀逸さで面白く読めてしまいます。アルバム最後の曲、「幸せな話」を聴きながら本作を読むことで、天に召される感じが一層得られるかもしれません。

『漂蕩の自由』 檀 一雄

『漂蕩の自由』 檀 一雄

須田洋次郎 檀一雄の放蕩旅行記。とにかくいろんな国へ行きたくなる本。タイトルの漂蕩というのはおそらく漂流と放蕩を合わせた造語ですが、『A Long Day』の、安定しない、どこかさまよっているような音の雰囲気と重なるように思い、この一冊を選びました。

Photographs by Motoki Adachi

ミツメ・川辺のルーツとなる本、『A Long Day』にヒントを与えた本(一部抜粋)

『美徳のよろめき』 三島 由紀夫

『美徳のよろめき』 三島 由紀夫

『刺青』 谷崎 潤一郎

『刺青』 谷崎 潤一郎

『芝生の復讐』 リチャード ブローティガン

『芝生の復讐』 リチャード ブローティガン

『スロー・ラーナー』 トマス ピンチョン

『スロー・ラーナー』 トマス ピンチョン
本と音楽の一覧 インタビューの一覧

プロフィール

川辺素
川辺素
バンド「ミツメ」Vo/Gt

ミツメのボーカル・ギター。ミツメは2009年、東京にて結成した4人組のバンド。オーソドックスなバンド編成ながら、各々が担当のパートにとらわれずに自由な楽曲を発表し続けている。そのときの気分でいろいろなことにチャレンジしています。6月8日(水)には最新アルバム『A Long Day』がリリース。同日には東京・渋谷WWWにて、翌9日には大阪心斎橋Pangeaにて、アルバム『A Long Day』の完全再現ライブ「mitsume plays "A Long Day”」を開催。また、ワンマンツアー「A Long Tour」も決定している。詳細は『A Long Day』特設サイトにて。http://mitsume.me/alongday

ライターについて

Writer 6
村尾泰郎

ロックと映画の評論家。子供の頃から本好きで、小学生の頃に読んだH・G・ウェルズ『宇宙戦争』に衝撃を受けてSFに夢中になり、コミック、アニメ、ホラー、パンク/ニュー・ウェイヴなどに囲まれて思春期を送る。

プロフィール

川辺素
バンド「ミツメ」Vo/Gt

ミツメのボーカル・ギター。ミツメは2009年、東京にて結成した4人組のバンド。オーソドックスなバンド編成ながら、各々が担当のパートにとらわれずに自由な楽曲を発表し続けている。そのときの気分でいろいろなことにチャレンジしています。6月8日(水)には最新アルバム『A Long Day』がリリース。同日には東京・渋谷WWWにて、翌9日には大阪心斎橋Pangeaにて、アルバム『A Long Day』の完全再現ライブ「mitsume plays "A Long Day”」を開催。また、ワンマンツアー「A Long Tour」も決定している。詳細は『A Long Day』特設サイトにて。http://mitsume.me/alongday

川辺素 さんの本棚

ミツメ・川辺のルーツとなる本、『A Long Day』にヒントを与えた本

ミツメ・川辺のルーツとなる本、『A Long Day』にヒントを与えた本

川辺素
川辺素
ものづくりの憧れ。小説と映画の素敵

ものづくりの憧れ。小説と映画の素敵

川辺素
川辺素
ミツメ・川辺素が考えた「美しさ」についての本

ミツメ・川辺素が考えた「美しさ」についての本

川辺素
川辺素
初めての渡米、読もうと思っていたアメリカの作品

初めての渡米、読もうと思っていたアメリカの作品

川辺素
川辺素
ミツメ・川辺素が選ぶ「現実に入り込んでくる5作品」

ミツメ・川辺素が選ぶ「現実に入り込んでくる5作品」

川辺素
川辺素

注目記事

月間ランキング