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特集!あの人の本棚
118.

安部勇磨   (バンド「never young beach」Vo/Gt)


絶望を克服する「言葉の力」(never young beach インタビュー)

安部勇磨
さまざまなプロフェッショナルの考え方・作られ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などから紐解いていくインタビュー。今回はnever young beachの安部勇磨さんに登場して頂きました。インタビューです。
絶望を克服する「言葉の力」(never young beach インタビュー)

昨年発売された1stアルバム『YASHINOKI HOUSE』がロングセラーを続け、現在インディーシーンで大注目を集めているnever young beach。70年代シティポップを彷彿とさせるサウンドを、時にエモーショナルな響きを持って奏でる彼らのもう一つの魅力は、言葉の豊かさにある。日常の些細な幸せを歌っているようにも、日々の倦怠感やもの悲しさを歌っているようにも聴こえるそれらの言葉が生まれる背景にはどのような本との出会いがあったのか。ホンシェルジュでは、彼らの「歌詞」に注目してインタビューを行った。前半では作詞・作曲を担当する安部勇磨(Vo, Gt)が好きな本について、後半では最新アルバム『fam fam』についての話を中心に伺った。

ネガティブなところは長所に変えられるし、そういうふうに捉えられてこその面白さが好き

―― では早速、望月ミネタロウさんの『東京怪童』の魅力について聞かせてください。

安部勇磨(以下、安部) 主人公がハシ君っていうんですけど、このハシ君とか若い子たちが皆病気を持ってて、彼らがいる病院の施設があるんです。このハシ君の病気は、事故のせいで脳みそに破片が入ってしまって、頭で思ったことを全部言ってしまうっていう病気なんですね。だから喧嘩とか争いが絶えない。そうやっていろいろ問題が起きるんですけど、僕はこのハシ君の不器用さ加減にグッときてしまって。すごいつっけんどんにしてしまうんですよ。言いたいことばっか言ってしまうから。だけどほんとはそういうことは口にしたくないし、僕ももっと皆から愛されたいんだって言いながら最後手術をするんですけど、そこで僕はもう、ぶわって泣いてしまって。だから僕はこれがまず大好きな漫画に入ります。21歳ぐらいの時に読んで、未だに好きです。

―― 『東京怪童』を読む前から漫画自体は読んでたんですか?

安部 漫画は読んでましたね。漫画喫茶で働いてたんですよ。20歳ぐらいから3、4年ぐらい。

―― 結構長いですね。

安部 結構長くて、ほんと何もしなくて良かったんで、何にもない時間ずっと漫画読んでました。読みたくないやつとかも読んでました(笑)。

―― 望月先生の漫画は他の作品も読むんですか?

安部 一応大体読みました。でも『ドラゴンヘッド』は暗すぎてダメでしたね。面白いんですけど。これ(『東京怪童』)はテーマは重いんですけど、病気のこともギャグにしてたり、どこか面白い感じになってるのがすごく良いと思いました。

―― 今回のアルバムに入っている「fam fam」という曲にも“ろくでもないジョークが僕は大好きなのさ/笑えない話も愛しい日々の泡さ”という歌詞がありますよね。

安部 そうですね。大体ネガティブなこととかコンプレックスとかは僕全部いじるんで、それで傷つく奴とか嫌いなんですよ。確かにいろいろあるとは思うけど、ネガティブなところは長所に変えられるし、そういうふうに言えてこその面白さが僕は好きなんで、僕は基本全部いじっちゃいます。

―― メンバーの皆さんでもそういう冗談を言ったりするんですか?

安部 言い合いますね。仲良いのですぐに気持ち悪いとか本気で言うし。親族が病気になった場合も「おめでとう! 入院できてちょっとゆっくりできるね」とか言って、ラッキーだと捉えるようにしてます。そっちの方が楽しいですし。

―― 「明るい言葉を口にすることでそれが本当になる」みたいなことを話してましたけど、言霊というか、そういう言葉の力っていうのはやっぱり信じてるんですか?

安部 あると思いますよ。たまに友達に冗談で「死ねよ」とか言っちゃうんですけど、「死ねよ」って言った瞬間に「あ、思ってない、ごめん」って言います。「好き好き」って。これはほんとに僕が信じてることで、例えばドラムのスズケン(鈴木健人)に「スズケン死ねよ」って言っても、脳みそって勝手に主語をとっちゃうらしくて、スズケンに向かって「死ねよ」って言ってるのに、脳みそ的には「死ねよ」だけがインプットされるらしいんですよ。「おいしい、おいしい」って言われてる水と、汚い言葉をかけ続けた水では凍らせた時に全然結晶の濃度が違ったっていう話を聞いて、人間もたくさんの水でできてる動物だし、本当だろうなあと思って。僕はついやっぱり若気の至りで冗談で「死ねよ」とか言うんですけど、言った後にやばいやばいって、それをプラスかプラマイゼロにするために「好き好き」って言います。そういうのは信じてますね。

―― じゃあ、次の本は『ブッダ』。

安部 『ブッダ』は、絶対読みたくない漫画史上一番だったんです。僕が嫌いな奴が皆面白いって言うし、あと長いし……と思ってずっと読んでなかったんですけど、漫画喫茶で暇すぎて、いよいよもうこれに手を出すしかないみたいな時があって。そこで初めて読んだんですよ。

―― (笑)。

安部 で、なにげなく読んでみたら、手塚治虫は一体何を考えてるんだろうと驚いてしまって。冒頭のシーンからヤバすぎると思いましたね。砂漠かどこかでおじいさんが歩いてて、途中で倒れるんです。で、おじいさんのために動物たちが果物を持ってきてくれたりする。キツネは木の実、熊は鮭。でも、ウサギは何も持ってこれないんです。で、ウサギが出した結論が、自分から燃えてお肉になってしまう。おじいさんに食べられるために。この一連のシーンを台詞無しで読んで、すごく感動しました。

それまでは死ぬことって怖いなあとか、事故で死んだりとか自殺しちゃったりとか、不条理だな、って思ってたんです。神様なんていないぜ、やっぱりロックンロールだ!みたいに思ってたんですけど、『ブッダ』を読んだら、神様は死すらネガティブに捉えてないんだなと。「死ぬことは怖いことじゃない。死んでも魂になってまた生き返るし、それが自然の摂理で運命だから、それを拒むことはできない」って。

僕はそれを読んで「確かにそうかもしれない」と思ったんです。それからは一気にいろんなことが楽になって、怒りとかなくなりましたね。あとは自分次第だから精一杯やって、死ぬ時は死ぬでしょうがない、結果を受け止めるしかないっていう、すごくポジティブなパワーを僕はこれでもらいました。

―― 『ブッダ』がきっかけで他の手塚作品も読んでみたりは?

安部 『火の鳥』を読もうとしたんですけど、『ブッダ』を読んだ後だったし、これ以上読むと悟りを開いてしまう気がして怖くなってやめました。

―― 次は本秀康さんの『ワイルドマウンテン』です。

安部 ファースト・アルバムの『YASHINOKI HOUSE』を録り終えた直後、漫画喫茶で働いてて暇すぎたので、『ブッダ』の時と同じく普段読まない漫画を読んでみようと思って読んだ本です。Village Vanguardとかユニオン(ディスクユニオン)の絵を描いてる人の漫画だと思って読んだら、まあ面白くて。それで本さんに会いたくなって、読んだ次の日、たまたま本さんがよく行くレコード屋でトークショーがあって、そこに行ったんです。その場でできたばかりの音源を渡して、そこから仲良くしてくれるようになって。

―― すごいですね。

安部 この漫画は人間味があるっていうか、本さんの描くキャラクターの顔とか仕草とか、喋り方の言い回しが、詩みたいだなと思ったんです。「バカ」って言うだけなのに、ちょっとひねくれてる感じがあったり。ストーリーもすごく面白いんですよ。ダメな主人公だけど愛嬌があって、なんだかんだ皆そいつが好きで。『東京怪童』と近いんですけど、そういうふうに愛着を持てるキャラが僕は好きなんです。

―― 本さんのレーベル、雷音レコードからレコードを出しましたけど、それは安部さんの方からお願いしたんですか?

安部 最初はCDの帯にコメントだけ書いてもらいたかったんです。本さんの漫画のユーモアや雰囲気から、僕の曲を絶対好きになってくれるだろうという自信があったので、断られてもいいやと思ってお願いしに行ったんです。そしたら本さんの方から「レコードを出す気はありませんか」って言ってくれて、僕も本さんにジャケを描いてもらうのが夢だったんで、お願いしますとなって、そのままリリースすることが決まった感じです。タイミングも良かったですね。

―― そうなんですね。マンガを3冊紹介してもらいましたが、マンガ以外の本も結構読むんですか?

安部 『BRUTUS』自体は普段読まないんですけど、「居住空間」っていう特集の号があるんです。いろんな人の家とか、家具とか古道具が載ってる特集号があって、そのシリーズは古本ですべて揃えました。自分のギターもそうなんですけど、古道具とか昔のものが大好きなんですよね。どうやって削られてきたのかとか、いろんな人にオイルを塗ってもらったんだなとか、そういうのがいいなって思います。人間と一緒なんですけど、そいつにしか出せない雰囲気を出してるものがすごく好きです。ただ僕が『BRUTUS』を持ってきたらちょっと洒落すぎるかもしれないと思って。

―― (笑)。

安部 「ネバヤンの安部は『BRUTUS』なんか読んでやがるのか」と、表面的な部分だけを受け取ってちょっと馬鹿にしてくる奴がいると思ったから、とりあえず『BRUTUS』はしまっておきました(笑)。でも「居住空間」の号は大好きですね。

Photographs by Motoki Adachi

never young beach安部勇麿に影響を与えた本

『東京怪童』

『東京怪童』 望月 ミネタロウ

『ブッダ』

『ブッダ』手塚 治虫

『ワイルドマウンテン』

『ワイルドマウンテン』本 秀康
本と音楽の一覧 インタビューの一覧

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プロフィール

安部勇磨
安部勇磨
バンド「never young beach」Vo/Gt

never young beachのヴォーカル・ギター。2014年春に安部勇磨(Vo&Gt)と松島皓(Gt)で結成。初の音源となる『HOUSE MUSICS』を100枚限定で一部店舗のみで販売。クチコミで話題になり、即完売となる。同年9月には阿南智史(Gt)、巽啓伍(Ba)、鈴木健人(Dr)が加入し、現在の5人体制となる。

その後すぐに初ライブとなる「Fight Club」を開催。2015年5月には1stアルバム『YASHINOKI HOUSE』をリリースし、2015年上半期の「CDショップ大賞」ノミネート作品に選出される。同年7月にはFUJI ROCK FESTIVAL’15に出演。2016年1月には『YASHINOKI HOUSE』の12inchアナログ盤が発売され、2015年6月に雷音レコードより発売された7inchアナログ盤シングルに続く、第2弾アナログ盤となる。

さらに2016年4月には『YASHINOKI HOUSE』がカセットテープでも販売された。年間90本以上のライブをこなし、バンドとしてより輝きを増した彼らの2ndアルバム『fam fam』は現在絶賛発売中。6月25日の札幌を皮切りに、全国5カ所でのリリース・ツアーも決定している。
http://neveryoungbeach.jp/

ライターについて

Writer 5
ホンシェルジュ編集部・芸術/芸能班

音楽、映画、アイドル、その他の芸術/芸能に詳しいライターによる班。もちろん皆が本好きだが、そのレベルや守備範囲はさまざま。日本のエンタテイメントのトップランナーを通じて、本/読書の楽しみへの入り口をつくりたい。あるいは本/読書という切り口を通じて、トップランナーの新たな一面を引きだしたい。

プロフィール

安部勇磨
バンド「never young beach」Vo/Gt

never young beachのヴォーカル・ギター。2014年春に安部勇磨(Vo&Gt)と松島皓(Gt)で結成。初の音源となる『HOUSE MUSICS』を100枚限定で一部店舗のみで販売。クチコミで話題になり、即完売となる。同年9月には阿南智史(Gt)、巽啓伍(Ba)、鈴木健人(Dr)が加入し、現在の5人体制となる。

その後すぐに初ライブとなる「Fight Club」を開催。2015年5月には1stアルバム『YASHINOKI HOUSE』をリリースし、2015年上半期の「CDショップ大賞」ノミネート作品に選出される。同年7月にはFUJI ROCK FESTIVAL’15に出演。2016年1月には『YASHINOKI HOUSE』の12inchアナログ盤が発売され、2015年6月に雷音レコードより発売された7inchアナログ盤シングルに続く、第2弾アナログ盤となる。

さらに2016年4月には『YASHINOKI HOUSE』がカセットテープでも販売された。年間90本以上のライブをこなし、バンドとしてより輝きを増した彼らの2ndアルバム『fam fam』は現在絶賛発売中。6月25日の札幌を皮切りに、全国5カ所でのリリース・ツアーも決定している。
http://neveryoungbeach.jp/

安部勇磨 さんの本棚

never young beach安部勇麿に影響を与えた本(マンガ)

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安部勇磨
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