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特集!あの人の本棚
125.

秋山 怜史   (建築家)


“協創”の思想を形作ったもの(インタビュー後編)

秋山 怜史
さまざまなプロフェッショナルの考え方・作られ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などから紐解いていくインタビュー。今回は建築家の秋山怜史さんに登場して頂きました。インタビュー前編に続き、その幅広いジャンルの愛読書とともに後編をお届けします!
“協創”の思想を形作ったもの(インタビュー後編)

建築家としてものを作りたい欲求もあるし、この世の中をもっと良くしたいという欲求もある

建築の詩人 カルロ・スカルパ

『建築の詩人 カルロ・スカルパ』 斎藤 裕

❋URL(リンク先)は、http://honto.jp/netstore/pd-book_01455032.html?cid=eu_hb_bizb03_025

―― 先ほど1人の作家にハマる話を伺いましたが、建築家として一番夢中になった建築家というと誰になりますか?

秋山怜史(以下、秋山) カルロ・スカルパですね。彼のことを書いてある、日本で出版されている本は、すべて持っています。建築の詩人と呼ばれるスカルパは、一方で職人としての修業を積んだ人で、不遇な時代も過ごしている。面白いことに、彼はフランク・ロイド・ライトに媚びを売っているんじゃないかと思えるくらい強い影響を受けているんですが、それでありながら、彼の作品はオンリーワンなんですよ。僕にはそういう、その人にしか出せないものへの強い憧れがあるんです。ただ、「好きな建築家はカルロ・スカルパ」という人に会ったことはないですね。

―― スカルパ作品は数多く見に行かれているんですか?

秋山 はい。それを見るために、海外旅行はイタリア北部だけしか行ったことがない、と言っていいかもしれません(笑)。

―― スカルパがライトに受けたような影響は、秋山さんもスカルパから受けていると思いますか?

秋山 自分で設計すると、まるでスカルパっぽくならないんです。とはいえ、スカルパの持っているような物語性や詩のような表現は、僕なりの形で踏襲しているとは思っています。ただ、現実問題として、建築というのは自分の好き勝手にできるものではない。お客さんに会って、顔を見ながら話を聞いて、他でもないその人のための家を設計することが重要です。自分なりのインプットはするけれど、アウトプットはお客さんを反映させるものにしなければならないと思っています。

―― 秋山さんは話上手だから、施主の方もどんどん乗ってきそうですね。

秋山 いえ、コミュニケーションの技術はまだまだ。僕なりの話の引き出し方は勉強中ですね。僕が訊きたいのは、どういった空間が欲しいかということより、その人の人となり。どういった人生を送ってきたかとか、どういったことに感動したかなどを大事にしたいと思っています。部屋がいくつ欲しいかとかは、極論するとどうでもいい。その人が何を大切に思っているかを教えてもらった上で、より建築的なヒアリングをしていきます。

―― 秋山さんが家を建てるのにあたって、一番大事にしていることは?

秋山 「居心地」ですね。世の中に感心する建築は多いけれど、感動する建築にはめったに出会わない。僕が目指すのは後者です。イタリアのヴェローナにあるカルテルヴェッキオという美術館がありますが、これは14世紀に建てられたお城をスカルパが改修した建物なんですね。最初に訪れた時、何気ない空間なのだけれど、心に迫るものがあって、2時間そこに立ち尽くしていました。その時の感動は今も自分の中に強く残っています。すげえな、って。

でも、これもさっきお話しした村上作品の“読むべき時”と同じで、“行くべき時”に行ったんだと思うんです。ちょうどその頃、僕はどういった建築家になればいいのか悩んでいた。それで、「免許取るから金をくれ」と言って親から旅行代金をせしめてイタリアに行ったんです。そんな時だったからこそ、カルテルヴェッキオの空間に感動したのかもしれないですね。

翔ぶが如く

『翔ぶが如く』 司馬 遼太郎

❋URL(リンク先)は、http://honto.jp/ebook/pd_26483736.html?cid=eu_hb_bizb03_025

西郷と大久保

『西郷と大久保』 海音寺 潮五郎

❋URL(リンク先)は、http://honto.jp/netstore/pd-book_26569439.html?cid=eu_hb_bizb03_025

―― ところで、秋山さんは子供の頃から建築家を目指されていたんですか?

秋山 いえいえ、高校時代でさえ全然考えていなかったんです。中学時代から歴史小説が好きになり、歴史の授業が一番好きだったくらい。ただ、好きになった女の子がインテリア好きで(笑)、それで突然理系に転向した、という(笑)。

―― それはすごい理由ですね(笑)。歴史上の人物で好きな人物像とかはあります?

秋山 僕はとにかく大久保利通が大好き。司馬遼太郎さんの『翔ぶがごとく』とか海音寺潮五郎さんの『西郷と大久保』はもちろん大好きで。歴史って見方によって切り口が全然違うじゃないですか。それが面白いんです。あと、僕が一番尊敬している人物はユリウス・カエサルとアウグストゥス(オクヴィアヌス)。

ガリア戦記

『ガリア戦記』 カエサル

❋URL(リンク先)は、http://honto.jp/ebook/pd_25421139.html?cid=eu_hb_bizb03_025

―― カエサルとアウグストゥスですか! 幕末に活躍した人物が好きという人は多いですが、カエサルという人は珍しくないですか? びっくりしました。

秋山 そうですよね(笑)。『ガリア戦記』はカエサルがガリアと呼ばれたエリアを統一していくことを書いた本。ヨーロッパってこうやってできたんだ、と考えると凄いですよね。しかも彼は10年間でそれを成し遂げた。柔軟な発想でユリウス暦を作ったのも彼。一方で、養子になったアウグストゥスは文筆能力もなければ戦闘能力もゼロ。それなのにカエサルはアウグストゥスが18歳の時に自分の後継者に指名、すべてを託したんです。人を見る目が凄いですよね。結果、アウグストゥスは地中海世界を統一してパクス・ロマーナを実現。ローマは最盛期を迎えたんですから。

―― カエサルは何故それだけの偉業を成し遂げられたんでしょうか。

秋山 彼は元老院の三分の二の妻を寝取ったと言われるくらいの女たらしでもあり、人としての魅力に溢れていたんだと思います。2000年も前に出た本が今なお重版されているなんてどういうことだよ、と思いますよね。そんな本、あとは聖書くらいですよ(笑)。

さっき、ビジネス書を読むより長谷川滋利さんの『適者生存』を読むほうがいい、と言いましたが、『ガリア戦記』もそう。人間のやる失敗はローマ帝国で冒し尽くされていると言われていますから、政治家もビジネスマンも読むべきだと思います。

―― 秋山さんは政治家の方とも交流がありますよね。

秋山 政治も大好きだし、政治家の集まりにも顔を出します。関心があるのは、政治と教育ですね。建築家としてものを作りたい欲求もあるし、この世の中をもっと良くしたいという欲求もある。子供たちのためによい社会にしていくためにはどうしたらいいか。そういう想いは、建築教育を学んだことに加えて、歴史小説を読んだことで増幅されたという気がします。

―― 秋山さんが取り組んでいらっしゃる 「ペアレンティングホーム」というのも、そういった想いを背景にした活動のひとつでしょうか。

秋山 はい。ペアレンティングホームは「子育てと仕事を楽しく両立する」ための環境を整えていきたいという想いから始めた、日本で初めてのシングルマザー専用シェアハウスなんですが、2008年から準備を初めて、形になったのは2012年。4年間で4軒が生まれました。

―― これから先、やりたいと思っていることなどはありますか?

秋山 設計事務所のM&Aをやりたいと思っています。僕は住宅が一番好きですが、それ以前の問題として、僕の事務所くらいの規模だと大きい建物をやるだけのキャパシティとか、海外に打って出るような体力はないんです。でも、小さい事務所が集まることで組織になって戦うことができる。簡単には行かないと思いますが、そういう動きをしていきたいなと思っています。

終わらない庭 ― 昭和の三大作家とめぐる「宮廷の庭」

『終わらない庭 ― 昭和の三大作家とめぐる「宮廷の庭」』 三島 由紀夫、大佛 次郎、井上 靖

❋URL(リンク先)は、http://honto.jp/netstore/pd-book_02798226.html?cid=eu_hb_bizb03_025

武士道

『武士道』 新渡戸 稲造

❋URL(リンク先)は、http://honto.jp/ebook/pd_25158106.html?cid=eu_hb_bizb03_025

―― 今回は他にもたくさんの「読むべき本」をご用意いただいていたんですよね。

秋山 『陰翳礼讃』谷崎潤一郎(中公文庫)、『知的生産の技術』梅棹忠夫(岩波新書)、『禅と日本文化』鈴木大拙(岩波新書)、『後世への最大遺物・デンマルク国の話』内村鑑三(岩波文庫)、『思考の整理学』外山滋比古(ちくま文庫)。このあたりは大学の時に読むべし!と言われて読んだタイプの本ですね。

伊藤ていじさんによる『終わらない庭―昭和の三大作家とめぐる「宮廷の庭」』は、三島由紀夫が「仙洞御所」、井上靖が「桂離宮」、大佛次郎が「修学院離宮」の庭園について書いた随筆をまとめたもの。作家という“文章を書くプロ”が空間について書いている本だから、目の付け所などがとても面白いんです。

『武士道』(岩波文庫)も必読書。もともと新渡戸稲造が英語で書いたものですが(※1900年発表『Bushido: The Soul of Japan』。1908年に櫻井鴎村による日本語訳版が発表され、岩波文庫版は門下生の矢内原忠雄による1938年の訳)、日本のことを海外に正確に伝えるために書いた、非常に大切な本。自分のことをしっかり相手に伝えるという意味でも非常に重要だと思いますね。

建築業界は人に伝える能力をないがしろにしてきた。業界内に対する発信はすごくしているけれども、それ以外に対してはできていません。僕は建築雑誌ではなく、一般紙や新聞に狙って出ています。これからも、建築とは何かを話し、考えてもらえる機会をどんどん作っていきたいですね。

Photographs by Motoki Adachi

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プロフィール

秋山 怜史
秋山 怜史
建築家

1981年神奈川県生まれ。東京都立大学工学部建築学科卒業後、有限会社オンデザインパートナーズに勤務。2008年、一級建築士事務所秋山立花を設立。2014年から横浜国立大学非常勤講師を務める。2015年、神奈川県地方創生推進会議委員に就任。
http://www.klasic.jp/person/architect/158

ライターについて

Writer 11
山下紫陽

ライター・編集者。ジャンルはデザイン、アート、音楽など。幼少時から翻訳小説と洋楽にどっぷり浸かったためか地に足が着かないまま大人に。ここ10年は寒い・暗い・汚い系のミステリー/ハードボイルドばかり。好きな主人公はやっぱりフロスト警部

プロフィール

秋山 怜史
建築家

1981年神奈川県生まれ。東京都立大学工学部建築学科卒業後、有限会社オンデザインパートナーズに勤務。2008年、一級建築士事務所秋山立花を設立。2014年から横浜国立大学非常勤講師を務める。2015年、神奈川県地方創生推進会議委員に就任。
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