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特集!あの人の本棚
16.

小野雅裕   (アメリカ航空宇宙局 (NASA) JPL 勤務)


Vol 1. 新しい世界を見たいという渇望がある。本、旅、宇宙の研究は、すべてこの渇望を満たすため

小野雅裕
さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などからひも解いていくインタビュー。今回のゲストは、JPL(NASAジェット研究所)で働く31歳の新鋭、小野雅裕さんです。東京大学、MIT、NASAと理系の道を進みながらも、純文学を愛し、自ら小説を書いたこともある小野さん。いったいどのような本によって形づくられてきたのでしょうか。自身に影響を与えてきた本をお伺いしました。
Vol 1. 新しい世界を見たいという渇望がある。本、旅、宇宙の研究は、すべてこの渇望を満たすため

世界を拡げる方法は、本を読むことと、旅をすること

―― まずはじめに、小野さんのプロフィールをざっとおさらいしたいのですが、現在はJPL(NASAジェット研究所)に勤務しているんですよね。読者には、NASAという単語のみが分かりやすいかもしれませんが。

小野雅裕さん(以下、敬称略にて) はい。物心ついたときから、宇宙に心ひかれていて。アポロやボイジャーのような宇宙船を作る仕事をするのが、小さいころの夢でした。そのまま夢を目指してがんばった、というより、夢にとりつかれていた、というほうが正しいのですが、やっとその入口の扉をこじ開けられたという状況です。

―― 経歴を見るとすごく順風満帆な人生にみえるのですが、先日出版された本(※)を読むと、ずいぶんと苦労をなさって今に至っているのですね。

『宇宙を目指して海を渡る』(東洋経済新報社)

小野 あまり苦労話を書いたわけではないのですが、そうですね。とにかく宇宙開発をするためのチャンスをつかみたかったので、そのために受験勉強もがんばれましたし、留学による苦労も乗り越えられたんだと思います。

―― なので、先ほど「夢にとりつかれていた」、と。

小野 そうですね(笑)。

―― 宇宙というテーマに関わりたいという思いは、どんなきっかけで抱かれたのでしょうか?

小野 父親が好きだったんです。天文マニアでした(笑)。 小学校に入るかそこらの頃に、立派な天体望遠鏡を買ってくれたんですね。というより、本当は自分がほしかっただけだと思うのですが「子供のため」ということにしたのでしょう(笑)。 ほんとうに楽しそうに星を眺める父と、毎週末の夜に宇宙を覗いているうちに、その世界の美しさにとりつかれていました。

―― 宇宙というと理系ど真ん中のテーマですが、他方で、小野さんは文学好きだとも伺っています。本も昔から好きだったのでしょうか。

小野 はじめは、中学受験がきっかけだったと思います。中学受験の国語の教科書では、さまざまな物語を目にしますよね。もちろんそこには物語の一部しか書かれていませんし、勉強のために読んでいたのですが、おもしろいなと思う文章がいくつかあったので、物語全体を読むようになりました。

―― 私も受験勉強をしていましたが、気になる文章があっても、元の物語まで探しはしませんでした(苦笑)。そのきっかけは、おもしろいですね。

小野 あとは、祖父の影響ですね。祖父が本好きで、たくさんの本をもっていました。祖父がほんとうに楽しんで本を読んでいる姿を近くで見ていたので、自然と自分も好きになってしまいました。ちなみに、祖父はアマチュア文筆家(※)でもあり、筆まめで、俳句や川柳を書き溜めたノートを何冊ももっているような人でした。

※ 「我が二等兵物語」と題された原稿用紙33枚にわたる遺稿を、小野さんのブログで見ることができます

―― 例えば、どんな本を読んでいたのですか?

小野 覚えているものですと、ジャンルがバラバラなのですが、『はてしない物語』、『24の瞳』、『岳物語』などを読んでいましたね。祖父の本棚から読んだものは例えば、司馬遼太郎の『坂の上の雲』、山崎豊子の『大地の子』、吉川栄治の『三国志』などでしょうか。特に『大地の子』は、中国へ関心を抱いたきっかけになりましたし、『三国志』はとにかくおもしろかった。1日1冊のペースであっという間に読み切ってしまった記憶があります(※)。

※ 『三国志』全8巻。吉川英治歴史時代文庫(講談社)

―― 小野さんは、旅も好きなんですよね。

小野 はい。新しい世界を見たいという渇望があるんです。宇宙への関心もそう。僕は、世界を拡げる方法には、本を読むことと、旅をすることがあると思っているんです。僕が本を好きなのも、旅を好きなのも、宇宙について研究しているのも、根っこはすべて同じですね。

―― なるほど。

小野 影響を受けた本のひとつに、遠藤周作の『深い河』があります。はじめは中学の図書館で読んだのですが、中学生のころはその価値を真に理解してはいなかったですね。MITの留学中に再び『深い河』を読み返す機会があり、そこから、インドへ行ってみたい!という思いが強くなりました。

―― インドへも旅したのですか?

小野 ずっと行きたかったのですが、なかなか機会がなくて。結局、慶應義塾大学の講師を終えてから今のJPL(※)に勤めるまでの間に、1.5ヶ月の空白期間を無理やりつくって、その期間に行ってきました。2013年にやっと。

※ NASAジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)

―― 念願かないましたね!

小野 はい。やはり、行ってみなければ分からないものですね。先ほどの『深い河』や、三島由紀夫の『豊饒の海』で触れられていた輪廻転生の概念などが、インドへ行ってみることで一気に腑に落ちました。二次情報で得られる情報というのは、どうしても断片的になってしまうと思います。現地に行くと、つまり一次情報にふれると、断片的でないあらゆる情報に一度にふれることになるので、フォーカスが合う感覚(腑に落ちる感覚)が得られるんです。

何に役立つかという視点で、本を探してはいけない
本は自分の視野自体を拡げてくれる

―― 大学生向けの講演をされるときに、「一番心に残っている10冊」を紹介されたようですね。この10冊はどのような基準で選んでいるのですか?

小野雅裕の心に焼きついている10の作品

  • 『深い河』 遠藤周作
  • 『豊饒の海』 三島由紀夫
  • 『春琴抄』 谷崎純一郎
  • 『三国志』 吉川栄治
  • 『ローマ人の物語』 塩野七海
  • 『怒りの葡萄』 スタインベック
  • 『白鯨』 メルヴィル
  • 『レ・ミゼラブル』 ユゴー
  • 『嘔吐』 サルトル
  • 『人を動かす』 デール・カーネギー

小野 読後感で選んでいるかもしれません。1冊だけビジネス書がありますが、他はすべて文芸書です。あまりビジネス書は読みません。読んで、いいなと思ったものは、ここで紹介している『人を動かす』くらいですね。この本は、学生を指導したときにも、現在の仕事でプロジェクトをまわすときにも、何にでも生きています。

―― 小野さん自体は、これらの本とどうやって出合ったのですか?

小野 さまざまですが、例えば『怒りの葡萄』は、中学時代の地理の先生の勧めです。正確にいうと、私は直接聞いていなかったのですが、友達と本の話をしていたときに「あの先生が勧めていたよ」と聞いて、興味をもったんです。

―― 尊敬する人のおすすめだったから興味をもった、ということですね。

小野 そうですね。論文の参考文献を読むようなものです。先の『人を動かす』も、僕が尊敬する京都大学の加納先生が勧めてくださったものです。本は確実に「人を構成する」と思っているので、尊敬する人をつくりあげた本を読むということは、それを自分にとりこめるということだと思うんです。

―― おもしろい考えですね。

小野 一方で「この本が何に役立つだろうか」という視点で読むべきではない、と思っています。

―― 「役立つ」という視点で本を選ぶ人は多いと思いますが。

小野 「何に役立つか」という視点は、いまの自分の視野にある範囲のものですよね。もちろん仕事に使う資料探しなどでは必要な視点ですが、本来、本は自分の視野自体を拡げてくれるものだと思うんです。いまの視野で役立つものを選ぼうとすると、いつまでも視野が拡がりません。

―― なるほど。

小野 ひとりの人が送ることのできる人生は限られていますが、本は、他人の人生を追体験できるんですよね。そうすると、体験を何倍にも拡げることができます。人生の幅を拡げられるんです。

―― 小野さんは普段、どうやって本を見つけているんですか?

小野 本屋やネットなど、常に本を気にかけています。そして、少しでも気になる本があったらとにかくすぐに買ってしまうことにしています。お金がもったいない気もしますが、その本を気になった、ということをなにより大事だと思っているんです。

―― わかります。買いそびれた本にまた出会おうとしても、本屋の店頭になかったり、ネットでも在庫切れだったり、そもそも本のタイトルが思い出せなかったりしますよね。

小野 そうなんです。あと、そうして家を図書館状態にしておくと、ふとした瞬間気になったことを、すぐに探すことができますよね。あの本に書いてあるんじゃないかな、と。あるいは、あの本に書いてあった、と読み返す。そういう、アイデアをすぐに調べられる状態をつくりだすことが、実はとても大事なことだと思っています。だから、気になった本は片端から買うようにしているんです。

―― 本は、気になった場所を拾い読みするのですか?

小野 そういうこともありますが、基本的には、頭からじっくりと読んでいきます。読むものが文芸書が多いこともあるのですが、頭から読んでいって、おもしろくなければ途中でやめてしまいます。まぁ、おもしろいと思って買っているので、大抵最後まで読んでしまいますが(笑)。

―― 冒頭がおもしろければ、大抵おもしろいということですね。以前のインタビューで、ライフネット生命の出口会長もそう話していました。

小野 僕も、本ははじめが大事だと思っています。論文と一緒です。今回、自分でも本を書きました(※)が、はじめの章に一番気をつかって、何度も書き直しました。

『宇宙を目指して海を渡る』(東洋経済新報社)。

(次回は、MITへの留学を通じての気づきを紹介します。続きます...)

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プロフィール

小野雅裕
小野雅裕
アメリカ航空宇宙局 (NASA) JPL 勤務

おの・まさひろ/1982年大阪生まれ、東京育ち。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業し、同年9月よりマサチューセッツ工科大学(MIT)に留学。2012年に同航空宇宙工学科博士課程および技術政策プログラム修士課程修了。2012年4月より2013年3月まで、慶応義塾大学理工学部の助教として、学生を指導する傍ら、航空宇宙とスマートグリッドの制御を研究。2013年5月より、アメリカ航空宇宙局 (NASA) ジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)で勤務。主な著書は、「宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び NASA転職を決めた理由」(東洋経済新報社)。

ライターについて

Writer 2
東海林真之

honciergeを運営する会社の代表。出版社に勤める両親のもとで生まれ、本に囲まれて育つ。 本屋をうろつき衝動買いをするのが趣味だが、書店員に限らず「人のおすすめを通じた本との出会い」は出会いの体験を豊かにするはず!という思いからhonciergeを開始。より多くの幸せな本との出会いを、みなが感じられるように、試行錯誤中。

プロフィール

小野雅裕
アメリカ航空宇宙局 (NASA) JPL 勤務

おの・まさひろ/1982年大阪生まれ、東京育ち。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業し、同年9月よりマサチューセッツ工科大学(MIT)に留学。2012年に同航空宇宙工学科博士課程および技術政策プログラム修士課程修了。2012年4月より2013年3月まで、慶応義塾大学理工学部の助教として、学生を指導する傍ら、航空宇宙とスマートグリッドの制御を研究。2013年5月より、アメリカ航空宇宙局 (NASA) ジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)で勤務。主な著書は、「宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び NASA転職を決めた理由」(東洋経済新報社)。

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