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特集!あの人の本棚
164.

東京大学新聞社   (公益財団法人)


東大教員・三浦瑠璃先生、地震を語る。

東京大学新聞社
国内の大学で最高峰である東京大学の「今」を伝える本が毎年出ているのをご存知でしょうか?作っているのは「東京大学新聞社」に所属する現役東大生たち。8月に出版された『東大2017』は、「この1冊で東大がわかる!」と謳い、受験必勝法から合格体験記、入学後の 生活のアドバイス、専門学部への進学、そして卒業後の進路に至るまで、徹底的に解説しています。

発行から32年目を迎えた今年のコンセプトは「とんがる東大」。本連載では『東大2017』の一部をご紹介することで、「とんがる東大」の今をお伝えします。
東大教員・三浦瑠璃先生、地震を語る。

2回目は、『シビリアンの戦争』(岩波書店)、『日本に絶望している人のための政治入門』(文藝春秋)などの著者である三浦瑠璃先生へのインタビュー。2016年は東日本大震災から5年という節目の年であり、4月には熊本地震も起こった年。東大教員である三浦先生に、自身が研究する学問分野の観点から地震について語ってもらいました。

東大2017 とんがる東大

『東大2017 とんがる東大』 東京大学新聞社編

震災で日本は変われなかった

―― 理Ⅰ入学後に農学部へ進学しますが、大学院では政治や政策を学びます。

三浦瑠璃(以下、三浦) 神奈川の県立高校出身なのですが、高校の授業では現在で言う政治経済を学んでいません。総理大臣の名前も分かりませんでしたし、政治学という学問があることも社会科学という分野があることも知りませんでした。

理Ⅰに入学後あまり勉強せず、進学振分け(現在の進学選択)で進学できる学部・学科は少なかったです。地球環境問題について勉強できそうだったので農学部の地域環境工学専修を選びました。が、この専攻は土壌の性質や水利工学など基礎が重要。想像していたような勉強はあまりできませんでした。

進路を考えるため1年留年している時に、ジャーナリストの船橋洋一さんが教えるゼミに参加しました。船橋さんは中国やワシントンで働いたことがあり、政治も経済も語れる国際志向の強い方で、ゼミでは広い世界を見せてくれました。社会科学という大きな海の存在を知り、新しく東大に設置された公共政策学教育部専門職学位課程に1期生として入学しました。政策など実務志向の強いことを学びました。

「微修正」ではない研究

―― 法学政治学研究科博士課程に進み、博士論文「シビリアンの戦争:文民主導の軍事介入に関する一考察」を執筆します。

三浦 普通の政治学者は、政治学の名著や論文を読んで教養を付け、博士論文を書きます。博士論文では、現代の問題はまだデータが十分でないので過去を扱うことが多いです。博士論文を書いて初めて、現代社会の問題を論じる時事的な興味にも手を拡げられます。しかし、私は政治学へ進むきっかけがそもそも時事問題だったので現代の問題にまず興味がありました。

特に関心があったのは留年を決めたころに始まったイラク戦争です。アメリカの軍人がイラク戦争に反対している点に興味を持ちました。こうした事象は、19世紀末に自由主義勢力の連立で成立したイギリスのアバディーン内閣が、軍人の反対にもかかわらずクリミア戦争に参戦した事実にさかのぼり、繰り返し民主国家に現れる現象だということも分かってきました。

そこでこのテーマを論文にしたわけですが、この研究は結果的にシビリアン・コントロールの根底を揺るがす問題提起を行いました。軍人は戦争をしたがって危険だから、職業軍人ではなく文民である政治家が軍隊の最高の指揮権を持つというのがシビリアン・コントロールの考え方です。しかし、その政治家を選出する主権者である国民が好戦的になれば、戦争が起こってしまいます。国際政治学の根底にある、自衛とはいえない戦争を起こすのは大日本帝国や帝政ドイツ、ナポレオンのころのフランスのような専制的な国家だとの考え方も崩したわけです。

とはいえ、現在の日本やアメリカ、フランス同士が戦争することは考えにくい。問題は、アメリカと対立している中国やイランの民主化が進んだ場合です。民主化しても相互に敵意が消えるとは限りません。民衆が戦争を支持し、民主的に選出された指導者が戦争を始める可能性があります。

―― 当時は研究にどんな面白さを感じていましたか。

三浦 博士論文には、新たなデータや文献を見つけて先行研究に反論する「積み上げ式」のものが多い。私の研究はむしろ「イラク戦争」を知りたいという感情に基づいています。その結果、学問の常識がひっくり返ったわけです。きっと先行研究に反論するという目的を持って研究したらうまくいかなかったかもしれません。「微修正」でない研究に面白さを感じました。

カタストロフィーは起きない

―― 2012年3月に東日本大震災について論文を発表しました。

三浦 東日本大震災の時に、私はリスク妊娠のため都内で寝たきりでした。絶対安静にしていなければならず、原子力発電所事故が拡大しても逃げられずに死ぬかもしれないと思っていましたね。出産後しばらくは会議の手伝いなどをしていて、研究と距離を取り「自分のことが止まった」時期でした。

しかし、ジャーマン・マーシャル・ファンドの研究員の友人から、発生から1年たった東日本大震災について一緒に論文を書くことを提案され、調査を始めました。博士研究は「イラク戦争を知りたい」という個人的な興味から出発しましたが、震災後は「日本への危機感」を感じていました。現実の政治環境を知るために政治家へのインタビューを始めました。結果、民主党政権に復興戦略が欠けていたと分かりました。

震災後、日本全体がカタストロフィーを望んでいました。震災によって日本社会が変わると主張する人は実際に行動に移すというより、日本が変わる気分だけで盛り上がっていたのです。

そして「震災時に社会人でなかった、なって間もなかった若者こそが偉い、社会を変えるはずだ」と主張する評論が出始めました。しかし、それぞれの世代は、若いころに何かしらの「事件」が起こり、世代の性質を規定される面があります。1960年代はベトナム戦争、2000年代は9・11やイラク戦争が「事件」に当たります。震災という「事件」が若者に与える影響は特別なことではなく、カタストロフィーへの期待に現実は伴いません。私にとって震災は「日本は変われない」という事実を突き付けるものでした。

「変わりたくない日本」を生きる受験生へ

―― 最後に受験生に向けてメッセージをお願いします。

三浦 今の受験生は「変わりたくない日本」を生きる世代だと思います。日本は高齢化しています。高齢者は生きる中で築いた財産を失いたくないので、社会が変わることを望みません。

若者が社会を変えるためにできることは二つあると考えています。一つ目は政治で決めることを限るという方法です。多数決で決まる政治は少数者を抑圧します。民間が決められることが多い社会では少数者も自由に生きられます。もう一つが地域政党、一定の地域の小選挙区で支配的な政党を作って、政界に影響力を与えること。第1党が地域政党と連立内閣を組まざるを得なければ、地域の主張を通せます。

東大2017 とんがる東大

『東大2017 とんがる東大』 東京大学新聞社編

インタビュー対象者

三浦 瑠麗(みうら るり)
東京大学政策ビジョン研究センター 国際政治学者
06年公共政策学教育部専門職学位課程修了。10年法学政治学研究科博士課程修了。専門修士(公共政策学)、博士(法学)。16年より現職。著書は『シビリアンの戦争』(岩波書店)、『日本に絶望している人のための政治入門』(文藝春秋)など。「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日)や「あしたのコンパス」(フジテレビのネット放送)などに出演

シビリアンの戦争

『シビリアンの戦争 ―― デモクラシーが攻撃的になるとき』 三浦 瑠麗

日本に絶望している人のための政治入門

『日本に絶望している人のための政治入門』 三浦 瑠麗
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公益財団法人

東京大学の学生新聞である東京大学新聞を発行する公益財団法人。東京大学新聞の発行や東大新聞オンラインの運営を主に行う。また、東大を目指す受験生や東大生向けに、独自のムック本『東大20XX』を毎年発行している。

2016年8月に発売の『東大2017』のコンセプトは、「とんがる東大」。梶田隆章教授(宇宙線研究所所長)がノーベル賞を受賞して改めて注目された東大で行われる最先端の研究や、高校までの業績が評価され推薦入試で入学した東大生の素顔など、東大のとんがった部分を紹介している。

東大新聞オンライン
http://www.todaishimbun.org/

『東大2017』
http://amzn.to/2bubB4e

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本と電子書籍のハイブリッド書店「honto」による、注目の書籍を見つけるための分析チーム。ビジネスパーソン向けの注目書籍を見つける本チームは、ビジネス書にとどまらず、社会課題、自然科学、人文科学、教養、スポーツ・芸術などの分野から、注目の書籍をご紹介します。

丸善・ジュンク堂も同グループであるため、この2書店の売れ筋(ランキング)から注目の書籍を見つけることも。小説などフィクションよりもノンフィクションを好むメンバーが揃っています。

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2016年8月に発売の『東大2017』のコンセプトは、「とんがる東大」。梶田隆章教授(宇宙線研究所所長)がノーベル賞を受賞して改めて注目された東大で行われる最先端の研究や、高校までの業績が評価され推薦入試で入学した東大生の素顔など、東大のとんがった部分を紹介している。

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