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特集!あの人の本棚
168.

キノコホテル   (ミュージシャン)


自由を感じられる本(マリアンヌ東雲 インタビュー)

キノコホテル
さまざまなプロフェッショナルの考え方・作られ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などから紐解いていくインタビュー。今回は2年ぶり5枚目のアルバム『マリアンヌの革命』をリリースしたキノコホテルの中心人物、マリアンヌ東雲さんの登場です。
自由を感じられる本(マリアンヌ東雲 インタビュー)

SNSに綴られた昭和的B級カルチャーや少女漫画への愛着、SMへの偏愛など、マリアンヌ東雲の嗜好が「普通」じゃないということは、プロデュースと作詞作曲を1人で手がけたアルバム『マリアンヌの革命』を聴けば、より実感を伴って伝わってくるだろう。今回もバンドのメンバー4人だけで制作された本作。マリアンヌのパーソナリティと美意識が色濃く反映されている。彼女が異端なものを好むのには、ちゃんとした理由があるのだ。今回、それがよくわかるセレクトとなった。

特別な人に世の中のエンターテイメントを作ってもらいたい

たとえば好き たとえば嫌い 安井かずみアンソロジー

『たとえば好き たとえば嫌い 安井かずみアンソロジー』 安井 かずみ

―― まずは『たとえば好き たとえば嫌い 安井かずみアンソロジー』。安井かずみさんは作詞家なんですよね。

マリアンヌ東雲(以下、マリアンヌ) 昭和の歌謡曲、ポップスが華やかだった頃に第一線でやっていた方なんですけど、ヒット曲も多くて、女性の作詞家では最も成功した一人だと思います。ライフスタイル含め、日本人女性としてこんなに完璧な方はいないんじゃないかというくらい、ひとつのモデルケースみたいなものを提示した方で、非常に先進的でもある。1939年生まれでもう亡くなられてるんですけど、今時のセレブ気取りのお嬢さんとは比べ物にならないスケールを感じる方ですね。

世界のいろいろなところを旅して、その旅先で有名なスターやデザイナーと交友関係を持ったりする。また、女性だてらにスポーツカーを飛ばすような冒険的な一面がある一方で、お料理やおもてなしが得意だったりと女性的な部分もおありで。とにかく華やかで超スノッブ。もし2016年の今この方がいて、インスタなんかおやりになろうものなら、嫉妬の裏返しでいちいち叩かれるんじゃないかってぐらい(笑)。それくらい一般人離れした世界観と生活空間をお持ちの方です。

―― もはやスターですね。

マリアンヌ 安井さんが活躍されていた昭和40~50年代って今以上に女性は不自由だったと思うんです。当時、こういう女性はほかにはいなかっただろうし、今ですら、ここまで女性としてある種の完成形を極めた人もそんなにいないかもしれない。カッコつけることがカッコ悪いみたいなご時世ですけど、カッコつけたい気持ちが人を向上させたり何かの原動力になったりする訳ですから、決してあなどれないと私は思うんですね。当時の芸能人にしても映画スターにしてもそうですけど、普段の生活を含めて、いろんな意味で美意識が高い方々がエンターテインメントを作っていた時代があるわけです。

彼女の文章を読んでいると、そういう時代への憧れが沸き起こってくるんですよね。今は身近で手が届きやすいもののほうが、人から愛されて支持されやすい風潮がありますけれど、私はそういうものにシンパシーを感じられない性分なので、今でも特別な人に世の中のエンターテイメントを作ってもらいたいという理想があるんです。

失踪日記2 アル中病棟

『失踪日記2 アル中病棟』 吾妻 ひでお

―― 次は吾妻ひでおさんの『失踪日記:アル中病棟』です。

マリアンヌ 吾妻さんといえばアニメの『ななこSOS』くらいしか知らなかったんですけど、これはマネージャーが教えてくれた本です。私は無類のお酒好きなんですが、ある時期、本当にそれがないと何もできないくらい ―― いわゆるアル中になりかけてたことがあって。誰かと会うのも外に出るのも、それこそライブをするのも、お酒を飲んでいないと無理という荒み切った時期がありまして。そんな時に私の身の上を心配したマネージャーが、吾妻さんの著作を何冊か貸してくれたんですね。

そのなかの一つ『失踪日記:アル中病棟』が、凄まじく名作で。吾妻さんがアル中病棟に入るまでのお話、そして入っている時のお話で、非常にリアルなんです。とぼけた絵柄で、とても深刻な世界の話とは思えない。だけれども、迫り来る怖さというか、身につまされるものがある作品です。マネージャーは、これを読んで少しはお酒を減らしたら?と言いたかったのでしょうけど、逆にアル中病棟に興味が出てしまって、自分も入りたくなって結局お酒が増えてしまったの(笑)。

カオスノート

『カオスノート』 吾妻 ひでお

―― 『カオスノート』も吾妻さんの著作ですね。

マリアンヌ 『カオスノート』はアル中を克服されてから描かれた作品群なんですが、お酒の次はもしかして……?と勘ぐりたくなるくらいぶっ飛んでいますね。いわゆるナンセンス・ギャグなんですが本当に意味不明。これも去年あたりマネージャーが貸してくれまして。その頃の私が音楽やる気しない、もう何も考えたくないってダラダラして、それこそまたお酒に逃げそうになっていた時に出会った本です。要は何も考えたくない私にある意味ピッタリだった。吾妻さんが脳内にイメージするもの ―― 彼が見た夢だったり妄想だったりを、そのまま紙の上に落っことして自由に遊んでいる感じ。そこに意味だの何だのを求めたら負けですね(笑)。

だから、もうなんでもいいんだなって思わせてくれる本。考えたり、悩んだりしたくない時に、現実逃避できる本なんです。普段、私も奇妙な夢ばかり見てよくうなされるんですけど、他人の夢の話って聞かされても大抵面白くない。つまらないおしゃべりの定番だと思うんですけど、自分もこうやって記録しておけたら良いのに、と思いました。

―― 音楽から離れていた時に、ピタッとハマる何かがあったんでしょうね。

マリアンヌ とにかく身の回りの全ての情報が煩わしくて仕方なかった時期で。私にとって、本を読むというのは必ずしもインプットのためだけではなく、自分の中にあるオドロオドロしたものとか、嫌なものを追い払うという現実逃避的な意味合いを求めることもよくあります。

有末剛の緊縛基礎理術

『有末剛の緊縛基礎理術』 有末 剛

―― 次は『有末剛の緊縛基礎理術』です。

マリアンヌ 18禁だけどいいかしら?(笑)。いっとき、プロの方の手ほどきを受けて個人的に緊縛を習っていた時期がありまして。自分は何を学ぶにしても、こういうテキストとかは読んだりしないタイプなんです。例えば、楽器や機材を買ったところで取り扱い説明書は読まない。読んでもわからないし面倒ですから。でも、緊縛については別ですね。これは教則本ですから、女の子のモデルがおっぱいやおしりを出す必要は本来はないんです。しかしそうは言っていられないのがこの世界なんですね。全裸に白いハイソックスをはかされて恥ずかしそうな表情のこのモデルとか、ひとつの様式美として縛り手の感性の中に入っていなきゃいけないものなの。相手ありきのものですから。まあそこに興味がなければそもそも緊縛をやってみようだなんて思わないですよね。単に縄が好きなら荷物でも縛っていれば良いですし。

一般の人から見ると、ツッコミどころが満載の本だと思いますね。私は疲れた時によく眺めたりします。縄師ってなぜどの人もグラサンをかけて、作務衣を着ているのかしら?なんて思いながら。

―― 疲れた時に?

マリアンヌ 縛り方、固定の仕方って実は理にかなったやり方をしていまして、きちんと後からスムーズに解くことを考えてあるんです。一定のルールがあるんですね。ただ単に人間をぐるぐる巻きにして吊るして、はい終わりっていうものでもない。まずは縄の扱い方、なめし方……お鍋でぐつぐつやってから馬油を塗ってとか。この本を真面目に読みながら実践している人の姿を想像すると、なんとも微笑ましくなってしまうんです。変態なのにノウハウがあって、テキストがある。そんなの緊縛くらいじゃないでしょうか。なぜかというと一歩間違えると人を殺してしまうので、縛り方もちゃんと理論で学ばなくてはいけない。とことん真面目に真剣に変態をやる。そういうところが非常に好きです。

伯爵夫人

『伯爵夫人』 蓮實 重彦

―― なるほど。面白いですね。最後は『伯爵夫人』です。

マリアンヌ これは最近読んだ本です。表紙が気に入って、ある意味ジャケ買いなんですけれども、読んでみたら自分の好みのど真ん中だったんですよね。作者の蓮實(重彥)さんという方は作家であり評論家でもあるんですが、東大の総長をやっていた方で、だいぶお年を召した方なんです。なのに、22年ぶりの小説だっていう時点でいったいどんなジジイなんだと。すごく興味が湧いてきて。調べてみると、この方は東大の仏文を出て、教養学部の教授を経て、総長っていうパターンらしいんですけど、たしかに仏文学の人だってことが窺い知れるような本なんです。

マルキド・サド、ギヨーム・アポリネールとか、中世のフランス文学って変態というか、すぐウンコを漏らしたりする漫☆画太郎の世界みたいな感じで、とにかくひどい(笑)。漫☆画太郎の漫画をエロく、文学的にしたような、スーパーカオスの作品がいっぱいある。私は大学時代、本当にそういうものが大好きだったんです。文学の授業で、「悪徳の栄え」なんかをオススメ本として取り上げて、教授にドン引きされたりしてたタイプでしたから。『伯爵夫人』はその頃を思い出すんです。禁止用語的なものがどんどん出てくるんですけど、それがすごくポップで面白い。

―― 本の内容はどんなものなんでしょう?

マリアンヌ “伯爵夫人”っていう実は伯爵夫人でもなんでもない高級娼婦が語る、嘘だか本当だかわからないエピソードで占められてるんです。フランスの変態文学を澁澤龍彦あたりが翻訳して読み物にしたような感じで、文体や言葉の使い方にもそういう特徴があります。でも、東大の仏文の方ですから、これくらいはお手の物って感じなんでしょうけど。

私はこの本が昔の作品の復刊とかではなく、2016年の新刊だということに、気持ちが震える思いがあります。で、それが三島由紀夫賞という素晴らしい賞を受賞した。あまり普段から文壇をチェックするわけではないですし、ベストセラーにも疎いんですけど、『伯爵夫人』は久々に「来た!」と思わせる作品です。この本を読んで面白いと思ってくれる人としかもう付き合いたくないくらいですね。それくらいお気に入り。間口は相当狭いですけど。なんかね、すごくパンクなものを感じるんですよ。

―― しかも重鎮と呼んでもおかしくないキャリアの方が書かれた。

マリアンヌ そうなんですよ。非常に寡作なインテリのおじいちゃん。だって1936年生まれですよ。そんな方が、パンクなポルノを2016年に繰り出してきた感じがね。そのこと自体がすさまじくパンクです。装丁も素敵で、赤と黒のキノコホテル・カラーなのもイカしていますね。

―― こういうものに接すると、同じ表現者として刺激を受けると同時に悔しいなと思ったりすることもあるんですか?

マリアンヌ でもこれは悔しいというよりも、本当にあっぱれという感じです。ラノベみたいなのばっかり読んでいる最近の若い人に是非読んで頂きたい(笑)。私としては自分の青春時代を思い出してしまいましたね。父親の書斎や古本屋で見つけた、ちょっと得体の知れない本を背伸びして読んでいた10代の頃、当時触れていた世界観やムードが、今の時代になってふたたび花を咲かせている感じというか。

からっぽになってようやく本当の自分が出てくる時もある

―― マリアンヌさんの読書体験は、ご自身の作詞のアプローチにも影響を与えている部分はあるんでしょうか?

マリアンヌ うーん。本というよりは、詩集などにインスパイアされる事はありましたね。元々詩が好きなわけではないんですけれども、行き詰まった時にたまに開くのが富岡多恵子さんという方の詩集なんですが、『新宿泥棒日記』っていう、1969年に上映された大島渚監督の映画がありまして。紀伊国屋書店とか、当時の新宿の風景がヴィヴィッドに体感できる映画で、思春期にだいぶ感化された映画なんです。その中の登場人物が富岡多恵子さんの詩を暗唱する場面が出てくるんですが、それで生まれて初めて詩というものに興味を持ちました。でも、得た衝撃や感動を結局は自分の言葉にしなくてはいけないので、むやみにいろんな本や映画を見ればいいものではないと思ってるんです。

枯渇というか、敢えてからっぽの状態から何かが出てくるのを待つ時もあります。ジタバタしないでただじっと待つ。私、最近サボテンにはまっていまして、部屋でたくさん育てているの。サボテンって土に埋まっているイメージですけど、実は水耕栽培が出来るんですよね。水耕にする準備として、生えていた根っこを根本でちょん切って、数日そのまま陰干しをするという工程があるんです。そうするとサボテンが飢餓感を覚えて、一所懸命根を生やそうとする。そうやって敢えて飢餓状態にすることで、根を生やしやすくするわけです。ちょっとそれに似た部分もあるというか、からっぽになってようやく本当の自分が出てくる時もありますね。まあ、都合よく解釈するとそういうことになるのではないでしょうか。

―― アルバムの話に繋げると、最新アルバム『マリアンヌの革命』はそういう状態から生まれてきたものなんですか?

マリアンヌ そうかもしれないですね。今回のリリースまで間が空いた期間、ほとんど曲作りをしていなかったので。これから果たして自分はどんな曲を書いていくのか、そもそも曲を書けるのかしら、敢えて考えたり案じたりせずにからっぽになっていたところでアルバムの話をいただいたんです。収録されている10曲のうち8曲くらいは書き下ろしなんですけれども、年が明けて2016年になってから全部書いて仕上げていったんですよね。自分は着実に一歩一歩というのが本当にできないタイプなので。気分が乗った時にわーっと早く仕上げて遊ぶっていう。それで成功できたら、そんなにラクなことはないと思いますし、それはそれで非常に難儀なことなんですけれども。

―― からっぽ同然のところから一枚のアルバムに仕上げることができたっていうのは、すごい達成感がありそうですね。自信にもなるでしょうし。

マリアンヌ そうですね。悪く言うとまた調子に乗ってしまう(笑)。

―― (笑)。マリアンヌさんがアーティスト活動をするにあたって、まずは自分が楽しむっていうのは大切なことだったりしますか?

マリアンヌ 自分に嘘をつかずに徹底的にやりたいことをやるって、実はとても難しいことじゃないですか。それが上手く出来たら誰も苦労しませんよね。私はもうキノコホテルを長くやっていますけど、なんだかんだで100パーセント本当にやりたいことをやれているかというと、まだまだ、全く及第点には及ばないんです。だからこそ続けているんでしょうけどね。キノコホテルを好いてくださる方も、たぶん私が自由に心のままにやっている姿を見たいと言ってくださる方が結構多いと思うんです。そこにキノコホテルの存在意義があると言っても過言ではないぐらいですので。そういう意味で自分はもっともっと自由に、ワガママにならなくてはいけない、という思いが常にあるんですよね。

Photographs by Motoki Adachi

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プロフィール

キノコホテル
キノコホテル
ミュージシャン

マリアンヌ東雲(歌と電気オルガン)、イザベル=ケメ鴨川(電気ギター)、ファビエンヌ猪苗代(ドラムス)、ジュリエッタ霧島(電気ベース)。すべての楽曲を手がけている鬼才・マリアンヌ東雲を中心に創業された謎めいた女性だけの音楽集団。2007年6月に創業、インディーズ時代を経て、2010年2月にファースト・アルバム『マリアンヌの憂鬱』をリリース。以降、CDやアナログ盤等作品のリリース、定期的な単独公演ツアー開催やフェス出演、また海外公演も行うなど、精力的に活動を続けている。実演会(=ライブ)の総数は2016年の時点で約400回。サイケデリック、ガレージ、リズム&ブルース、パンク/ニューウェイヴ、プログレッシヴ・ロックなど、様々なサウンドを昇華した濃厚な音楽性で、老若男女、メジャー/アンダーグランドを超えて幅広く浸透しており、その中毒性は高い。9月11日からは全国ツアー「キノコホテル単独実演会<サロン・ド・キノコ~ゲバゲバ大革命>」がスタートする。http://kinocohotel.org/

ライターについて

Writer 5
ホンシェルジュ編集部・芸術/芸能班

音楽、映画、アイドル、その他の芸術/芸能に詳しいライターによる班。もちろん皆が本好きだが、そのレベルや守備範囲はさまざま。日本のエンタテイメントのトップランナーを通じて、本/読書の楽しみへの入り口をつくりたい。あるいは本/読書という切り口を通じて、トップランナーの新たな一面を引きだしたい。

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マリアンヌ東雲(歌と電気オルガン)、イザベル=ケメ鴨川(電気ギター)、ファビエンヌ猪苗代(ドラムス)、ジュリエッタ霧島(電気ベース)。すべての楽曲を手がけている鬼才・マリアンヌ東雲を中心に創業された謎めいた女性だけの音楽集団。2007年6月に創業、インディーズ時代を経て、2010年2月にファースト・アルバム『マリアンヌの憂鬱』をリリース。以降、CDやアナログ盤等作品のリリース、定期的な単独公演ツアー開催やフェス出演、また海外公演も行うなど、精力的に活動を続けている。実演会(=ライブ)の総数は2016年の時点で約400回。サイケデリック、ガレージ、リズム&ブルース、パンク/ニューウェイヴ、プログレッシヴ・ロックなど、様々なサウンドを昇華した濃厚な音楽性で、老若男女、メジャー/アンダーグランドを超えて幅広く浸透しており、その中毒性は高い。9月11日からは全国ツアー「キノコホテル単独実演会<サロン・ド・キノコ~ゲバゲバ大革命>」がスタートする。http://kinocohotel.org/

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