Loading 81b424ebf5b28b6979c5bfbadb4fe3d86654abdce81e3c0259cc91c3ecd00497
特集!あの人の本棚
189.

藍坊主   (ロックバンド)


トンネルを抜けて、その先へ(藍坊主 インタビュー)

藍坊主

貧乏のどん底から始まる、バンドのあの感じ。それを今も、あの時の感じを取り戻したい。

―― 今回、みなさんには「藍坊主」をテーマに本をセレクトして頂きました。雑なフリ……というわけではなく、新しいアルバムでも感じた「原点回帰」というところに焦点を当てて、藍坊主というバンドの根底にはどんな本があるのかを聞いてみたいと思っています。

藤森 僕は『考えるノート』という本を選びました。この本に出会って、曲作りももちろんですけど、バンドの、メンバー間のことでもすごく楽になったんです。僕って、(自分の想いを)曲にするのは好きだけど、人に伝えるのがあまりうまくない。言葉にうまくできないから。しゃべっていて、例えば曲以外でもそうですけど、自分が思っていることを人に伝えるのってめちゃくちゃ大変じゃないですか。特に、このバンドの中では俺が一番下手かなと思っていて。

考えるノート

『考えるノート』 佐々木 直彦

藤森 自分の思っていたことは違う方向へ話が進んでいくこともよくあったし、どうやったらちゃんと伝えることができるのかなって考えていました。でも、この本に出会ってから、バンドというものがすごく楽に考えられるようになった。内容は思考の整理術で、自分が何を考えているかを書き出してみようというもの。以前連載しているコラムでも触れた「テーゼ」「アンチテーゼ」「ジンテーゼ」の弁証法を自分でやっていくみたいなものなんですけど、思っていることを書くと「お前本当にそう思っているの?」となり、議論が自分の中で1枚のノートになっていく。そうすると曲も作れるけど、曲以外のことでもすごく頭の中が整理できて楽になるんです。

―― この本に出会ったのはいつ頃?

藤森 2012年頃かなあ。僕はこれが、藍坊主の活動の中ではすごく重要な1冊になったと思います。ノートをいつも持ち歩いてるし、何か思うことがあると喫茶店とかに入って、自分の考えをまとめています。だからこれ、落としたら最悪(笑)。

―― 連載でもそうなんですけど、藤森さんが小説をあまり選ばないのは意外だなあと思っていました。アーティストさんは文学作品から何かを得る、といったイメージが強かったからかもしれないんですけど。

藤森 うーん、小説はほとんど読まないですね。

hozzy 実用書とかでしょ、新書とか。

藤森 そうだね、あと図鑑とかも読んでる。あっ、でも村上春樹は一通り読みました。春樹も紹介したいんだけど、hozzyと一緒に連載しているコラムで、僕が最初に出すのもなあと(苦笑)。

hozzy まあ……俺が好きな春樹は初期だよ。『1Q84』も、何回も読もうと思ったんですけど、ハードカバーを開いて最初のページからどうしてもその先に進めない。2002年に出た『海辺のカフカ』あたりから、世界的に人気を得たじゃないですか。そのあたりから春樹が鋭くなっちゃったんです、前よりも。前はもっと柔らかかったんですよ。文章表現もそうだし、もちろんストーリーも。俺は柔らかいイメージが好きだったんだけど、『海辺のカフカ』から、過度に複雑なストーリーになったり、スタイリッシュになっていった。シティ派小説と言われていつつも、実際にはそうでない、あの独特な雰囲気が好きだったのに……。

―― 春樹を偏愛していながらも、hozzyさんが今回セレクトしたのは、同じくらい好きな辻仁成の『音楽が終わった夜に』。アルバムの中にも「すべてが終わった夜に」というタイトルの曲がありますよね。

hozzy ちょうどその曲を書いている時に本を読み返していたんです。そうしたらやっぱり、超面白いと思った。辻さんの小説はよく読むんですけど、高校1年の時に音楽関連の小説やエッセイをとにかく読み漁っていて、作者が誰かも知らずにたまたま読んだら、すげえ面白いと思ったのが最初の出会い。『音楽が終わった夜に』は辻さんのエッセイ集なんですけど、バンドをやり始めたばかりですごく貧乏、大学も途中でいくのをやめてしまって……ということが書いてある。

音楽が終わった夜に

『音楽が終わった夜に』 辻 仁成

hozzy その中に「玉ねぎ」の話があるんです。昔の辻さんはあまりにも貧しすぎてお金が無かったから、当時のバンドメンバーの家を訪ねていって、「頼むから何か食べ物を分けてくれ」と言った。そうすると、相手は「俺も持ってない、悪いけど帰ってくれ」と言う。それでも何かあるだろうと押し問答をしていると、やがて相手は無言でドアを開け、中に入れてくれた。それで、そいつが押し入れの中でゴソゴソやっていると思ったら、玉ねぎを一つ持ってきて、「これは本当に俺の最後の食糧だから、半分ずつ食べよう」と言って、茹でるんですね。そして二人で食べる。それを読んで、単純だけどすごく旨そうだなと思った。

今までそんなに玉ねぎって食べたことがなかったんだけど、半分にして二人で分け合って、醤油だけをたらして食べるシーン。それがすごく好きで、ずっとイメージに残っていたんです。バンドって最初はこういう感じだよねって。実際に俺も、青葉台っていう場所で穀潰しみたいな生活をしていた時に(笑)、あまりにもお金がなさ過ぎて「金がないってこんなに怖いことなんだ」ということと、「貧乏な時に感じる独特の空気」を経験したんです。貧乏のどん底から始まる、バンドのあの感じ。それを今も、あの時の感じを取り戻したい。生活は戻りたくないけど、あの空気感を正当化できる気持ちっていうのは持っていないとダメなんです。というところで、俺たちのバンド活動と関連している本だと思った。たぶん、拓郎も玉ねぎが出てくる本だよね。

渡辺 俺はそっちじゃないね。『深い河』の方じゃない(笑)。遠藤周作の『沈黙』です。恥ずかしながら今まで本は全然読んでこなかったんですけど……。

沈黙

『沈黙』 遠藤 周作

―― 本を読まないのに遠藤周作って、結構ハードルが高いような気もしますが、なにかきっかけが?

渡辺 大学一年生の時に宗教の授業があったんですけど、たまたま『沈黙』が題材で、レポートを書くために読んでいたらめちゃくちゃ面白かった。繰り返し読んだのはこの本くらいでした。ひたすら読んだ後は『深い河』を読み、次に『海と毒薬』とか、遠藤さんの作品はいくつか買ったんです。周りに本を読む友達がいたから、ほかの作家さんも教えてもらったんですけど、なんか、遠藤周作以外は読めなかったなあ。

hozzy 文章の流れとかテンポって、作家によって絶対に合う、合わないがあるからね。

―― その遠藤周作の作品の中でも『沈黙』を選んだわけですけど、魅力はどこに?

渡辺 あんまり、なんで面白いかは考えたことがなかったんですけど、今回改めて考えてみたんですね。『沈黙』では最後、神父さんにとってのキリスト教とは、いわゆるみんなが思っているキリスト教というものではなく、「彼にとってのキリスト教の本質ってこれだったんだ」という終わり方をすると思うんだけど、当時は音楽で飯を食っていくことを考えていた頃で、ラストまで読んだ時に「プロで音楽をやっていくこと」と「音楽を通して伝えたいこと」が自分の中で少しずつ変わってきたのが分かったんです。今はもう完璧に別のものになっているんですけど、音楽についての関わり方を見つめ直す機会を与えてくれたような気がしています。

言い換えると……音楽に対してまっすぐ走り抜けられなくなった本です。「何も考えずにただひたすら走っていくんじゃないぞお前、ちょっと待て」と引き止めてくれた。「プロ」を通して「音楽」を使って「何か」を伝えていきたいっていうことはこっち、自分が好きで音楽を使ってやりたいことはあっち、ということがはっきりしたんです。音楽への接し方を明確に変えてくれた。

Photographs by Sakie Miura

本と音楽の一覧 インタビューの一覧

コメント

コメントを書く・見る 0

プロフィール

藍坊主
藍坊主
ロックバンド

神奈川県小田原市出身の4人組ロックバンド。ジャンル、サウンドのスタイルを様々に変化させながらも、秀逸なメロディーと2人のソングライターにより表現される「日常」と「実験的」な世界観の歌詞、確かな演奏力と透明感のあるボーカルが魅力のバンド。 2004年のメジャーデビュー後は数々のフェスやイベントに出演し、2011年5月には自身初の日本武道館公演を開催し大成功に収める。2015年には自主レーベルLuno Recordsを設立しより精力的に活動範囲を広げている。2016年9月14日(水)には『ココーノ』以来、1年9ヶ月ぶりとなる自身8枚目のアルバム『Luno』をリリース。

連載陣Vo hozzyは「MUSIC ILLUSTRATION AWARDS 2014」にてBEST MUSIC ILLUSTRATOR 2014を受賞する等、ジャケットデザインの描き下ろしの他にも映像作品の制作、レコーディング機材の制作や楽曲のトラックダウンを自身で行う等、アーティストとして様々な魅力を発揮している。2015年7月からよりパーソナルでコアな表現活動のためのプロジェクト「Norm」をスタート!Ba 藤森真一は関ジャニ∞「宇宙に行ったライオン」や水樹奈々「エデン」等への楽曲提供を行う。

藍坊主公式HP http://www.aobozu.jp

ライターについて

Writer 5
ホンシェルジュ編集部・芸術/芸能班

音楽、映画、アイドル、その他の芸術/芸能に詳しいライターによる班。もちろん皆が本好きだが、そのレベルや守備範囲はさまざま。日本のエンタテイメントのトップランナーを通じて、本/読書の楽しみへの入り口をつくりたい。あるいは本/読書という切り口を通じて、トップランナーの新たな一面を引きだしたい。

プロフィール

藍坊主
ロックバンド

神奈川県小田原市出身の4人組ロックバンド。ジャンル、サウンドのスタイルを様々に変化させながらも、秀逸なメロディーと2人のソングライターにより表現される「日常」と「実験的」な世界観の歌詞、確かな演奏力と透明感のあるボーカルが魅力のバンド。 2004年のメジャーデビュー後は数々のフェスやイベントに出演し、2011年5月には自身初の日本武道館公演を開催し大成功に収める。2015年には自主レーベルLuno Recordsを設立しより精力的に活動範囲を広げている。2016年9月14日(水)には『ココーノ』以来、1年9ヶ月ぶりとなる自身8枚目のアルバム『Luno』をリリース。

連載陣Vo hozzyは「MUSIC ILLUSTRATION AWARDS 2014」にてBEST MUSIC ILLUSTRATOR 2014を受賞する等、ジャケットデザインの描き下ろしの他にも映像作品の制作、レコーディング機材の制作や楽曲のトラックダウンを自身で行う等、アーティストとして様々な魅力を発揮している。2015年7月からよりパーソナルでコアな表現活動のためのプロジェクト「Norm」をスタート!Ba 藤森真一は関ジャニ∞「宇宙に行ったライオン」や水樹奈々「エデン」等への楽曲提供を行う。

藍坊主公式HP http://www.aobozu.jp

藍坊主 さんの本棚

注目記事

月間ランキング