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特集!あの人の本棚
189.

藍坊主   (ロックバンド)


トンネルを抜けて、その先へ(藍坊主 インタビュー)

藍坊主

システムがない世界を切り開いていく「個人」というあり方は、自分がバンドをやっている意味を感じさせてくれる

―― ユウイチさんは村上春樹をセレクトされてますよね。春樹といえばやっぱりhozzyさん、みたいなイメージが強かったんですが。

田中 村上春樹はまさに、hozzyから影響を受けて読み始めたら面白くて、俺もハマったという経緯です。作品はバラバラに読んでいて、最初の方の話ってそれぞれつながってるらしいんだけど、でもそういうのを知らずに『羊をめぐる冒険』『風の歌を聴け』を読んで、『1973年のピンボール』を読む、というむちゃくちゃな順番(笑)。その中で特に好きなのが『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』です。

別にこの作品だから、ってことはないんですけど、春樹作品の主人公ってだいたい、組織に所属していないとか、社会的なものに属していない人が多いじゃないですか。もちろん、村上春樹は色々な読み方ができる作家だと思うんだけど、俺が好きなのは、孤立無援の立場でありながら「大きな社会」に関わらなければいけなくなるストーリー。あるいは、どんなルールで動いているか分からない世界に、急に放り込まれてしまう場面。例えば、システマチックなものに直面したら、それに勝つために、自分自身がよりシステマチックになるしかないじゃないですか。普通そうなるはずなんだけど、春樹の描く主人公たちは、あくまで個人のままで、大きな組織やシステムに立ち向かっていく。そこに、俺に限らず藍坊主はすごく共感できるんです。

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』 村上 春樹

―― ある種の不条理さと対峙する主人公は、なんというか、大きな社会に迎合することなく挑んでいく。

田中 『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』は全く地図のない世界と、「システム」と「ファクトリー」という社会の根底を作っているような組織に追われるという世界で、話が交互に進んでいくじゃないですか。この本で俺がすごく勇気付けられるのは、自分を失わないまま、大きな社会に関わっていく主人公の姿勢です。村上春樹はすごく意識的に、そのことを描いていると思うんですよね。例えば、イスラエルの文学賞を獲った際のエルサレム・スピーチで「壁と卵」という話をしたんだけど、その時に彼は、「自分は卵の側でいたい」ということを言っています。やっぱり(意識は)そうなんだなと俺は思った。春樹は卵のままで、壁的なものに立ち向かっていく姿勢について語る作家であるような気がするんです。壁的な作法を身につけずに、卵的な存在のままで壁と関わるというような。

特に『羊をめぐる冒険』がそうなんですけど、右翼の大物の秘書みたいな人としゃべるときに、すごく素敵だなと思うのが、「ねえ」って語りかけをするところ。で、もちろん向こうはすごく偉そうなわけですよ。だって自分は日本のシステムの中枢にいるような存在で、後ろ盾もある。そんな人に対して、普通だったら萎縮してしまうところを「ねえ、やめてよ」という、すごく個人的な言葉で語りかけるのが素敵だなと思っていて。ビビらないし、かといって相手より強いシステムの側に身を寄せない。あくまで個人の立場で、ということが一貫していて、自分たち藍坊主と照らし合わせてみると、すごく似ているなと思うんです。

やっぱり俺たちはバンドをやっているので、少し一般的な社会の枠組みからはオルタナティブなところにいるんですけど、そうはいってもやはり、音楽のシステムであったり、バンドのシステムというものがある。藍坊主はなかなかそういうものに、上手にはまっていかないんです。

―― オルタナティブなところのさらにオルタナティブなところにいる。藍坊主は、敢えてシステムにはまらないことを大切にしているように見えるんですが。

田中 そうとも言えるんですけど、もう少し上手くやれば、なんというか……地図的なものを手に入れることができるのかもしれないんです。でも藍坊主は自分たちで地図を描く。そういう状況に置かれた時に、人ってどう振る舞うべきなのかっていう話だと思うんですよ。『世界の終わりとハーボイルド・ワンダーランド』は特にそうだし、『1Q84』もそう。

俺は春樹の作品のなかで「拳銃」と「火薬」が出てくる話が好きなんですけど、この2つが出てくるのは、だいだいさっき述べた枠組みの話であることが多い。そういうシステムに対立する「個人」、システムがない世界を切り開いていく「個人」というあり方は、自分がバンドをやっている意味を感じさせてくれると思うし、音楽やバンドというオルタナティブな世界の中でも、なかなか居場所を見つけられない自分たちに、すごく励ましというか、勇気をくれる話でもあるんですね。

hozzy なるほど。村上春樹の小説の主人公はどんなシチュエーションにあっても飄々としていて、言ってしまうと、感情がなくうつるくらい。しゃべってはいるんだけれども、なにも語っていないように見える。そして迎合しない。

―― 割と一貫して、感情を表に出さない「透明」な存在であることが強調されている気もします。

田中 初期の話なんか親も出てこないし、生活感が無いですよね。

hozzy 「僕はどちらでもよかったけど、寝ることにした」みたいな。お前どんだけ殻に篭ってしゃべってんだと(笑)。主人公なのに心が全く見えないので、リアリティがないんですよ。反対に自分の外の世界を描いている方が、話に入って行ける不思議な魅力を感じます。

田中 俺はこういう読み方はあんまりしないんですけど、「自分で決めたわけじゃないんだけど、ここにいる」とか、決定論的なこともよく出てきますよね。あんまり気にしていないんですけど、読む人によってはすごく気にしているんだろうなとは思う。自分で選んできたのか、選ばれてきたのかということに対する描写もすごく多いから。持たざるものとシステムとの対峙みたいな読み方もできるので、そこが一番好きなところです。

―― なるほど。そう考えると春樹作品の傾向は、藍坊主というバンドに非常に似ていますね。話を聞いていて腑に落ちました。

hozzy 村上春樹は日本の文学界から孤立しているというか、認められていませんよね。昔、新人賞を獲った後も批判されて、日本の文学界を壊されると思った当時の文壇としては、「これが良しとされたら我々の価値が無くなる」というくらいの衝撃だったと思うんですよ。そこからすごく批判されて、海外にいって、ものすごく評価されるわけですけど。あの人の存在はすごいですよ、本当、主人公みたいなところがある。僕は僕のやり方でやるので、関わらないでくださいみたいな。

田中 とはいえ、影響受けている人って一杯いるから、今でこそスタンダードになっちゃっているけど、当時はたぶん異端中の異端だったんだろうね。

―― 最後に結成16年を迎えた藍坊主の、今後の向かう道みたいなものをお聞きしたいなと思っています。アルバムの一曲目である「ボトルシップ」は、“自分らしさ”を再定義した、藍坊主第二章の船出を描いている作品ですよね。歌詞にある「旅の目的は空の上にいる君に ここにいると伝えること」は決意表明にも捉えられる。

hozzy 俺は個人としての活動を去年からやっていて、ライブもやっているんだけど、今回みたいなアルバムの制作に、ものすごく関わってくることだと気付きました。循環できるんですよ、藍坊主に。やっぱり自分が作った音楽って、まず使えるか使えないかというのとは別に、バンドでこれをやる必要がないな、という曲が絶対にできる。今までだったら変わったことをしてみる、という時に、その変化球な曲を持ってきていた。でも、もうそれはやめて、「バンドとして一番かっこいい曲」をやりたいって思えてきたんです。

このあいだも曲を作っていてパッと思い浮かんだんだけど、「こっちは個人の方でこっちは藍坊主」という振り分けが、すごくスムーズに整理できるようになった。ストレートなことを、ストレートな状態でやることができるようになったので、とにかく楽しいんです。個人の方を聴いていて、「なんで藍坊主でこの曲やらないの?」と思う方にもそこは分かってもらえたらなと。

田中 今ツイキャスとかもやっているんですけど、単純に今自分たちがやっていることをたくさんの人たちに伝えたいというのが動機です。自分は映像を撮ったりして頻繁にアップしてるんですけど、それも、バンドで面白いことをしていると知ってもらいたいなという理由からです。今後も機会があったら、場所を限定せずに発信していきたい。バンドとして作った良いものが広がっていけばいいな、と思っています。

―― やっぱり最終的にはライブに足を運んでもらって、生の藍坊主を聴いて欲しいですよね。

藤森 あんな異空間ないですもんね。あんなにたくさんの人がいてあんなに大きな音がして、みんなで手を挙げて叫んでいるっていうのって、普通に考えたらあり得ない。もちろんCDを買って欲しいという気持ちもあるんだけど、どちらかだけじゃなくて、どっちにも力を入れているから新しいものが見えてくるというのは間違いなくある。

―― 今後もシンプルな、昔の藍坊主らしさを感じられる曲作りを続けていく?実験は時折入れつつも。

hozzy 実験は……任せる(笑)。メンバーのアレンジに。原曲の時点でだけど、俺が作った曲はライブでできないものも多くて、そこはもうやめようという話を藤森とかとしています。藍坊主はバンドだし、やっぱりライブでやってすごく良い曲、それを絶対に取り入れていこうと。それが原点回帰にもつながるだろうし、俺はそうやって、これからも曲を作っていきます。

Photographs by Sakie Miura

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プロフィール

藍坊主
藍坊主
ロックバンド

神奈川県小田原市出身の4人組ロックバンド。ジャンル、サウンドのスタイルを様々に変化させながらも、秀逸なメロディーと2人のソングライターにより表現される「日常」と「実験的」な世界観の歌詞、確かな演奏力と透明感のあるボーカルが魅力のバンド。 2004年のメジャーデビュー後は数々のフェスやイベントに出演し、2011年5月には自身初の日本武道館公演を開催し大成功に収める。2015年には自主レーベルLuno Recordsを設立しより精力的に活動範囲を広げている。2016年9月14日(水)には『ココーノ』以来、1年9ヶ月ぶりとなる自身8枚目のアルバム『Luno』をリリース。

連載陣Vo hozzyは「MUSIC ILLUSTRATION AWARDS 2014」にてBEST MUSIC ILLUSTRATOR 2014を受賞する等、ジャケットデザインの描き下ろしの他にも映像作品の制作、レコーディング機材の制作や楽曲のトラックダウンを自身で行う等、アーティストとして様々な魅力を発揮している。2015年7月からよりパーソナルでコアな表現活動のためのプロジェクト「Norm」をスタート!Ba 藤森真一は関ジャニ∞「宇宙に行ったライオン」や水樹奈々「エデン」等への楽曲提供を行う。

藍坊主公式HP http://www.aobozu.jp

ライターについて

Writer 5
ホンシェルジュ編集部・芸術/芸能班

音楽、映画、アイドル、その他の芸術/芸能に詳しいライターによる班。もちろん皆が本好きだが、そのレベルや守備範囲はさまざま。日本のエンタテイメントのトップランナーを通じて、本/読書の楽しみへの入り口をつくりたい。あるいは本/読書という切り口を通じて、トップランナーの新たな一面を引きだしたい。

プロフィール

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ロックバンド

神奈川県小田原市出身の4人組ロックバンド。ジャンル、サウンドのスタイルを様々に変化させながらも、秀逸なメロディーと2人のソングライターにより表現される「日常」と「実験的」な世界観の歌詞、確かな演奏力と透明感のあるボーカルが魅力のバンド。 2004年のメジャーデビュー後は数々のフェスやイベントに出演し、2011年5月には自身初の日本武道館公演を開催し大成功に収める。2015年には自主レーベルLuno Recordsを設立しより精力的に活動範囲を広げている。2016年9月14日(水)には『ココーノ』以来、1年9ヶ月ぶりとなる自身8枚目のアルバム『Luno』をリリース。

連載陣Vo hozzyは「MUSIC ILLUSTRATION AWARDS 2014」にてBEST MUSIC ILLUSTRATOR 2014を受賞する等、ジャケットデザインの描き下ろしの他にも映像作品の制作、レコーディング機材の制作や楽曲のトラックダウンを自身で行う等、アーティストとして様々な魅力を発揮している。2015年7月からよりパーソナルでコアな表現活動のためのプロジェクト「Norm」をスタート!Ba 藤森真一は関ジャニ∞「宇宙に行ったライオン」や水樹奈々「エデン」等への楽曲提供を行う。

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