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特集!あの人の本棚
214.

hontoビジネス書分析チーム   (本と電子書籍のハイブリッド書店)


戦後最大の不正会計事件「イトマン事件」。なぜ今、その真相が暴露されたのか!?

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丸善とジュンク堂は、ビジネスパーソンや各界の専門家を主な利用者とする大手書店グループです。その購買データを分析すれば、ビジネスパーソンにとって「いま注目の本」が見つかるのではないか、というこの連載。今回は10月の「経済」分野に絞り、売れ筋のランキングとトレンドを読み解いてみました。
戦後最大の不正会計事件「イトマン事件」。なぜ今、その真相が暴露されたのか!?

いま語られる、戦後最大の経済事件

アメリカの大統領選挙やイギリスのEU離脱問題など、経済界にも大きな影響を与える出来事のあった2016年。経済分野の本を読むことは、知識を得て、多角的な視点で社会を眺めることに役立ちますが、「愚者は経験に学び賢者は歴史に学ぶ」という言葉もあるように、「経済の歴史」を紐解くことで見えてくる道筋もあるでしょう。

はたして10月の経済分野ランキング1位は、2016年10月6日に発売されるや1週間で10万部を突破した『住友銀行秘史』。本書では、戦後最大の経済事件として注目を浴びた「イトマン事件」に関するすべてを綴った手帳が公開され、話題となっています。

1980年代後半、住友銀行は闇社会の勢力に蝕まれ、大阪の商社・イトマン(伊藤萬株式会社)に巨額の乱脈融資を続けていました。そのさなか、銀行を守るために、不正融資の実態を詳細に記した「内部告発状」がマスコミと大蔵省銀行局に送られ、会長の辞任をはじめ銀行を大きく動かしていきます。

今まで明かされませんでしたが、この告発状を送ったのが、当時住友銀行にいた國重惇史だといいます。そんな、銀行を愛するバンカーのひとりとして、保身に走る上司とぶつかり裏社会の勢力と闘った国重氏が記したのが『住友銀行秘史』。全体像が未だに闇の中に隠された「イトマン事件」の真実を記録した、本書の魅力はどのようなものでしょうか。

住友銀行秘史

『住友銀行秘史』 國重 惇史

丸善・ジュンク堂「経済」書籍 2016年10月ランキング

(2016年9月26日~2016年10月25日までのデータ)

イトマン事件の発火点「内部告発状」の仕掛け人

裏社会に巨額のマネーが流れ、住友銀行(現:三井住友銀行)がおよそ5,000億円もの損失を被った「イトマン事件」。その発火点とも言える1990年5月14日付の内部告発文書は、「拝啓 土田銀行局長様 私共は伊藤萬の従業員であります」の書き出しから始まります。

そして、そこにはイトマンが不動産や株に投資した6,000億円が不良債権化していることの内訳が書かれていました。差出人は、「イトマン従業員一同」となっていましたが、イトマンの従業員は、トップシークレットとなるこんな数字を知る立場にありません。さまざまな憶測がなされましたが、結局は誰が告発したのかは不明のままでした。

そんな、墓場までもっていくと思われた話が、今年、突然に明るみにでます。その差出人こそが、著者である元住友銀行取締役の國重氏(現リミックスポイント会長兼社長)だったと本書では語られるのです。

國重氏は東京大学経済学部を卒業し、1968年に住友銀行に入行。その後、10年間企画部でMOF担(大蔵省担当)を務め上げたスーパーエリートです。MOF担とは大蔵省のキャリア官僚やノンキャリア、政治家などに食い込み、銀行にとって重要な情報をキャッチする立場です。たしかに前述の情報を得ていたとしても不思議ではありません。

事件から四半世紀を経て、事件を語ることのできるひとりとして記録を残すべく、国重氏は本書を執筆しています。その内容は、記録として価値が高いだけでなく、まさに歴史を綴っているといえましょう。

経済史に残る大きな事件を克明に記録

本書が世間から注目を集める理由のひとつが、登場人物のほとんどを実名表記されていることです。イトマン事件は単なる不正経理事件ではなく、派閥抗争・人事抗争をも含み、暴力団や地上げ屋など闇の勢力によって住友銀行が喰い物にされる前代未聞の事件でした。そのため、内幕を知る者は関係者に及ぼす影響を考え、事件の真実を墓場まで持っていきたいと考えるはずです。そんな銀行員の実態が赤裸々に明かされたことが、大きな注目を集めました。

本書に登場するのは、主要人物だけでも70名以上。危機に陥っている住友銀行で、事件に関連する人々が何を考え、どのような関わりを持ったのか。國重氏は8冊分の手帳に書き記していました。当時、記録を残すことを決めた気持ちを、同氏は以下のように綴っています。

何 かが起きている、このバブルを謳歌している日常の裏で、
恐ろしい出来事が起きているという直感はあった。
行動をしなければならない。何かしなければならない。

(『住友銀行秘史』より、以下引用部は同様)

なお本書に描かれる生々しい一部始終は、あくまで國重氏の視点からのものです。磯田会長に近い人や改革を求める人、さらには立場を保留にする人も絡んでいたイトマン事件には、別の登場人物から見た視点も当然存在します。そのため本書の読者は、「磯田派や中立派から見たら、事件はどのように見えたのか?」と想像を膨らませることができるのも本書の隠れた魅力でしょう。

事件を明るみにするためにマスコミと協力関係を築く

イトマン事件が世間に広く知られるようになったのは、1990年5月24日に日本経済新聞がイトマンの経営不安について報道したことがきっかけです。実は、國重氏はこの記事に深く関与していました。本書には、同氏と日本経済新聞の大塚将司記者との協力関係についても綴られています。

大手マスコミと私たちというのは、
取材する側とされる側という間を越えて、
時には共犯者のような関係になる

2人は連日のように打ち合わせを重ね、磯田会長の追い落しを仕掛けていました。当時、「住友銀行の天皇」と呼ばれた磯田会長を追い込むためには、一筋縄ではいきません。大塚記者が記事を、國重氏は内部告発文書を書いて、外と内の両面から行内の膿を絞り出そうとします。

なお、國重氏が「Letter」と称される内部告発文書を大蔵省に送ろうとしたときに、大塚記者は、彼は派閥抗争に利用されているのではないか、と日経上層部から危惧されていたようです。そんな心理戦のような内情も本書には描かれています。

日経の経済部が(イトマンを書くことに)ひびっている。内部告発が大切な意味を持ってくる。住銀から経済部にチェックが入ったかも。「派閥闘争の片方に加担していないな」だと

このような大きなリスクを負いながらも、2人は「本物のバンカー」「本物の報道記者」として、プライドをかけて仕事していました。

本書はさまざまな読み方ができる本ですが、現役のバンカーのみならず、多くのビジネスパーソンにとって、「仕事とは何か?」「守るべき理念とは何か?」を教えてくれる第一級の資料ともなるでしょう。

住友銀行秘史

『住友銀行秘史』 國重 惇史

今月の「経済」分野の注目本は以上です。11月はどのような本がランクインするのでしょうか。次回の配信もお楽しみください。

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