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特集!あの人の本棚
220.

古舘佑太郎   (ミュージシャン・役者)


「本をめくるように」音楽を鳴らす(古舘佑太郎 インタビュー前編)

古舘佑太郎
さまざまなプロフェッショナルの考え方・作られ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などから紐解いていくインタビュー。今回は映画や舞台でも活躍中のアーティスト、古舘佑太郎さんに登場していただきました。インタビュー前編です。
「本をめくるように」音楽を鳴らす(古舘佑太郎 インタビュー前編)

昨年3月に無期限活動休止を発表した4ピースロックバンド、THE SALOVERS。そのフロントマンでもある古舘佑太郎のファーストフルアルバム『BETTER』がリリースされた。「本をめくるように」という曲から始まる今作は、まるで本当に本を読んでいるかのように1ページずつ、ゆっくりと心に刻まれる。文学が好きな人ならきっと、その楽曲の世界観に引き込まれるだろう。その音楽と本との深い関連性を、彼の読書遍歴から紐解いたインタビュー前編。

『キャッチャー・イン・ザ・ライ』と自分をかぶせてしまう

── THE SALOVERS時代の楽曲に「文学のススメ」という曲があったり、今回の最新アルバムにも「本をめくるように」という曲があったり、古舘さん自身、本が好きなのかなと思うんですけど、そもそも本に初めて触れたのっていつ頃だったんですか?

古舘佑太郎(以下、古館) 小学生の時は、むしろ本が苦手で敬遠していたんです。でも小5ぐらいの時に、友達が面白いって言ってた星新一のショートショートを買って、初めて面白いと思ったんですよね。それまでは読み始めてすぐにやめたりしていたんですけど、短編だったので読みやすくて、面白いなあと思ったっていうのが最初です。でもそこから他の本を探ったりはしなかったです。

―― それが小学生の時。

古舘 で、中2ぐらいのときから音楽も聴くようになって、バンドとかもやりたいって思うようになったんです。そのあたりから、それまで体育会系だったのに文系みたいなものへの憧れを持つようになって本を読み始めるんですよ。で、とりあえず図書室で本を借りようと思って借りたのが『地底旅行』っていう本なんです。いわゆるあの有名な『センター・オブ・ジ・アース』的なやつですよね。で、その『地底旅行』がめちゃくちゃ面白くて、休み時間とかも本を読んでいたら周りから「フルが読書してるの考えられない」ってびっくりされて。そういうのもちょっと嬉しかったりして、格好から入った部分もあるんですけど、それから他にも本を読むようになりましたね。

―― 本を好きになった時期と音楽をやりたいと思った時期が一緒と言っていましたけど、音楽は何がきっかけで入ったんですか?

古舘 音楽に入ったきっかけは、くるりが一番大きかったかもしれないです。その前ももちろんいろいろ聴いていたんですけど、本腰入れて好きになったのはくるりでしたね。

―― 先日『くるりのこと』という本が出ましたよね。

くるりのこと

『くるりのこと』 くるり, 宇野 維正

古舘 あれもめちゃくちゃ良かったです。でも同じ職種の立場で読んだら、普通にあの本は凹みますよ。くるりは神様だと思っていたんですけど、あの本を読んで、自分は神様って崇めて憧れとかで逃げているだけだなと思ったんです。その神がいかに努力して、いかに迷いながら傷だらけでやっているかが分かってしまって、自分と比べて凹みましたね。それほど良い本だったなあと思います。あの本の良いところは、物語性を追求しようとしていないところなんですよね。ドキュメントというか、淡々としたインタビュー形式なので。大きく良い話をしようと思っていないところが逆に、とんでもないヒストリーを物語っているんですよね。

キャッチャー・イン・ザ・ライ

『キャッチャー・イン・ザ・ライ』 J.D. サリンジャー

―― なるほど。話を戻しますが、中学生の頃から本を読むようになって、そのあとは?

古舘 15歳になった時に父親が「これ読め」って『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(邦題:ライ麦畑でつかまえて)を渡してきて。そういうことは普段まったくないので「読んでみようかなあ」と思って読み始めたんですけど、ストーリーの展開もないからやっぱり最初はつまらなくて。でも我慢して読んでいくうちに、今までは冒険ものとかばかり読んでいたんですけど、文学みたいなものの良さがちょっと分かるようになったんです。で、それを訳していたのが村上春樹で、そこから村上春樹の作品をひたすら読むようになるんですよね。その時期が多分今までの人生で一番本を読んでいたというか、ただ読む量が多いだけじゃなくて、身も心も熱中して読んでいた時期だと思います。

―― 村上春樹さんって結構好き嫌いが別れる作家だと思うんですが、苦手な人に村上春樹作品の魅力を教えてもらえますか?

古舘 まず『風の歌を聴け』っていう村上春樹の処女作があるんですけど、その世界観がすごすぎて、もうぐうの音も出ないんです。何がすごいって、登場人物もほとんど日本人だし、明らかに舞台は日本なのに、それを感じさせないんですよ。その異国感みたいなものが自分はものすごく好きで。あの情緒は本当に好き嫌いだと思うんですけど、僕はもうツボですね。

風の歌を聴け

『風の歌を聴け』村上 春樹

―― THE SALOVERSの話になってしまいますが、異国感っていうのは古舘さんの曲を聴いていても感じることがあります。

古舘 初期とかはかなり春樹の影響を受けていると思います。「廃れ港」っていう言葉とかを使っていたんですけど、ほとんどそれは春樹の影響だし、「風」とかを使うのもやっぱり春樹の『風の歌を聴け』から来ていますね。『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』、その次の『羊をめぐる冒険』で、『ダンス・ダンス・ダンス』になるんですけど、その4部作は全部主人公が一緒なんですよ。続編になっているんです。でもその処女作から『ダンス・ダンス・ダンス』を書き上げるまでに相当な時間がかかっていて、終わる頃には春樹自身もただのバーテンダーだったのがとんでもない作家になっているんですよね。だから作風も変わっていくし、続編として読んじゃうと、あまりにも最初と最後で主人公が違いすぎるんですよ。それが半端なくグッとくるんです。

―― どんな内容のお話なんですか?

古舘 鼠と「僕」っていう主人公が、1960年代の大学時代に一夏を過ごしたのが『風の歌を聴け』で。それから大学を卒業して翻訳の仕事を始めて、昔使っていたピンボール台を探すのが『1973年のピンボール』。その頃はまだ鼠とちょっと連絡を取り合っているんですね。その2作までは匂いが近くて、散文的な要素が強いというか、あまりストーリーが変わっていかないんです。それが、『羊をめぐる冒険』でガラッと変わるんですよ。『羊をめぐる冒険』ではそれまで連絡をとっていた鼠とまったく連絡が取れなくなってしまうんです。で、「いるかホテル」っていうボロッボロのちっちゃなホテルが出てくるんですけど、『ダンス・ダンス・ダンス』で、その「いるかホテル」にまた久しぶりに行くんです。でもそのボロボロだった「いるかホテル」が「ドルフィンホテル」っていう名前に変わって巨大リゾート地になっているんですよ。もう鼠とあの夏過ごした頃のグルーヴ感とかはもうなくて、時代背景ももうあの頃とは違う。そうやって露骨に伏線を張って回収しているわけじゃないから、『ダンス・ダンス・ダンス』のどこかにほんのりと前作の匂いが感じられるようになっているんです。どこかで繋がるんだけど遠い、みたいな喪失感がもう、高校一年生の時に読んで、その当時の心境とがっちり合っちゃったんだと思います。

―― なるほど。続編だけど、続編じゃない。

古舘 多分普通の続編だったら明らかに繋がっているようにできているから順番通り読んでいくんですけど、その4部作に関しては『ダンス・ダンス・ダンス』から読んでも読めるし、『羊をめぐる冒険』から読んでもいけるし、順番が逆でもいいくらいなんですよ。読みながら自分で、「これの何年前、まだこいつは大学生であの夏があったんだ」とか想像しながら勝手に繋げられるんですよ。その作業が楽しいんです。

―― でもそういう感覚は、現実世界のものに近いかもしれないですね。

古舘 そうだと思います。どこかでふと昔を思い出して切なくなったりするじゃないですか。そういう感覚と近いかもしれないです。今は全然違うけど、昔確かにあったもの。

―― その郷愁みたいなものって「Sixteen years old, Seven years ago」っていう曲だったり、古舘さんの音楽にも繋がりますよね。

古舘 春樹の文学にはすごく影響を受けましたね。春樹を読んでいたのが高校一年生のときで、それくらいから自分で曲を書き始めるようになったんです。その当時僕が書いていた歌詞って、その年齢の割にはちょっと大人びていて、それって絶対春樹の真似をしたかっただけなんですよね。

オン・ザ・ロード

『オン・ザ・ロード』ジャック・ケルアック

―― 海外作家の作品は他には読まないんですか?

古舘 春樹繋がりでジョージ・オーウェルの『1984』を読んだり、あとはケルアックの『オン・ザ・ロード』が好きでしたね。貧乏自慢じゃなくて、ちょっと裕福な若者がどこにも行き着けなくてふわふわしている。その都会の中で自分を見つけられない感じは、ちょっと自分とかぶせて読んじゃうところがあるのかもしれないです。地方から来た人ってやっぱり東京に対しての想いも強いし、故郷もあるし、一旗揚げたいっていう気持ちも強い。僕はずっと東京で育ってきたので、それこそ『キャッチャー・イン・ザ・ライ』とかも、自分とかぶせちゃうんですよね。

―― なるほど。で、高校生で村上春樹に出会って、そのあとはどんな読書遍歴をたどるんですか?

古舘 その当時は春樹もそうだし村上龍も読んでいたし、本棚をどんどん買い足してずーっと本を読んでいたんですけど、大学に入ってからあまり読まなくなるんです。当時、視力がどんどん落ちてきていて、その視力が落ちたのと比例して本を読まなくなっていくんですよ。僕はそれ、全然無自覚だったんですけど、あるときラジオに出て自分が本を読まなくなった話をしたら、そのラジオのパーソナリティの人に「それってもしかして視力落ちてません?」って言われて。どうやら視力が落ち始めると、活字を読むことをストレスに感じて本から遠ざかるっていうのがあるらしいんですよ。で、その頃から本から離れて漫画を読むようになるんです。漫画の方がやっぱり読んでいて楽なんですよね。

―― どんな漫画を読んでいたんですか?

古舘 手塚治虫とか、今まで知らなかったので読んでみようと思って読んだらめちゃくちゃはまって。それからどんどん漫画に対しての抵抗がなくなって、最近の少女漫画とかも読むようになったりして。で、もう自分の趣味は完全に漫画にいったと思っていたんですけど、岡崎京子に出会って、この人は漫画で文学をやっているなと思ったんです。だからそれをすごく読んでいましたね。で、そのタイミングで本を全部売ってしまって『キャッチャー・イン・ザ・ライ』と春樹の三部作しかなくなって、本棚が全部漫画になったんです。でも漫画って買っても速攻で読み終わっちゃうじゃないですか。本なら一冊あれば結構な時間読んでいられるから、そっちの方がコスパがいいなと思って今はまた本を読んだりしていますね。

(後編に続く)

Photographs by Motoki Adachi

本と音楽の一覧 インタビューの一覧

プロフィール

古舘佑太郎
古舘佑太郎
ミュージシャン・役者

1991年4月5日生まれ。東京都世田谷区出身。2015年3月自身が率いていたバンドTHE SALOVERSが無期限活動休止。約半年後の10月21日にソロアルバム『CHIC HACK』をリリース。音楽活動の他に、舞台、映画、ドラマ等で役者としても活動中。WebマガジンNeoLにて連載小説「青春の象徴 恋のすべて」を執筆中。2016年11月9日に1stフルアルバム「BETTER」をリリースした。
http://www.yutarofurutachi.com

【ライブ情報】
ファーストフルアルバムリリースワンマンツアー「BETTER」
2017年1月20日(金)大阪・Pangea
2017年1月21日(土)名古屋・CLUB UPSET
2017年1月28日(土)渋谷・Milky Way
チケットは各プレイガイドにて発売中

ライターについて

Inshot 20161208 001644
岩澤春香

1995年生まれの大学生。音楽レビューの執筆や記事の編集をしながらライターを目指しています。好きなお話は星の王子さま、好きな作家はリルケ、好きなギターはグレッチ・アニバーサリー。

プロフィール

古舘佑太郎
ミュージシャン・役者

1991年4月5日生まれ。東京都世田谷区出身。2015年3月自身が率いていたバンドTHE SALOVERSが無期限活動休止。約半年後の10月21日にソロアルバム『CHIC HACK』をリリース。音楽活動の他に、舞台、映画、ドラマ等で役者としても活動中。WebマガジンNeoLにて連載小説「青春の象徴 恋のすべて」を執筆中。2016年11月9日に1stフルアルバム「BETTER」をリリースした。
http://www.yutarofurutachi.com

【ライブ情報】
ファーストフルアルバムリリースワンマンツアー「BETTER」
2017年1月20日(金)大阪・Pangea
2017年1月21日(土)名古屋・CLUB UPSET
2017年1月28日(土)渋谷・Milky Way
チケットは各プレイガイドにて発売中

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