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特集!あの人の本棚
223.

田岡恵・髙井典子 対談   (グロービス経営大学院教授/文教大学教授)


グローバル時代における異文化対応力とは何か?

田岡恵・髙井典子 対談
日本人が海外で働くことが当たり前になり、日系企業で海外に駐在するだけでなく、現地法人で働く層や、日本にいながら世界各国を相手にビジネスするシーンが増えている。また、訪日外国人観光客数が年間2000万人を超える過去最高のペースを記録する中、ビジネス現場に限らず日常生活においても外国人旅行客と接する機会も頻繁になってきている。

グローバルなコミュニケーション機会が加速度的に増えるこれからの時代に求められる力とは何なのだろうか?グロービス経営大学院で英語MBAや異文化マネジメントの講座を教える田岡恵氏と訪日観光サービス分野の研究専門にする文教大学教授髙井典子氏、両教授の対談を基にヒントを提示したい。
グローバル時代における異文化対応力とは何か?
左:文教大学教授 髙井典子氏 / 右:グロービス経営大学院教授 田岡恵氏

ビジネスにおける異文化対応力とは?(田岡恵グロービス経営大学院教授)

英語ができればグローバル企業から採用されるという時代は終わり、昨今は本質的な実力をつけることに向き合わざるを得なくなっている。田岡氏は、異文化対応力を磨く前に基本的な能力として持っていなければならないビジネススキルを次のように指摘する。

髙井典子教授(以下、髙井) グローバルなビジネスに必要なスキルとはどのようものだとお考えですか?

田岡恵教授(田岡) 同僚・取引先等ステークホルダーの異文化価値観への対応力は必要になってくるのですが、それ以前に土台として身に着けておくべきなのが、基本的な能力、すなわちビジネスそのものの高い理解力と説明力です。ビジネスディスカッションの現場においては、「なぜその判断を行ったのか」の理由や背景を正しく理解し、かつ論理建てて説明できなければ意見交換にさえなりませんが、日本人はこれらの力がやや弱いのです。

説明するという分野において「日本人の特徴」として言えることですが、日本は世界で最も会社内組織の階層が強固な文化です。そのため、ヒエラルキー(組織の権威構造)のなかで自分がどういう役割を担うべきかという意識があまりにも強く、個人としての主張を前面に押し出さない傾向にあります。

一方他国では「交渉や会議の場に出てきた人が会社を代表するリーダーだ」と思って捉えてくる。すると、仮に自分が意思決定者でないとしても、肩書を脱いで自分の主張をすることを意識するべきでしょう。こうしたことはMBAでの学習過程においても必ず求め得られる、基礎的かつ重要な視点だと思います。

また相手の反応を見て理解されていないと思えば、相手に質問をしてみるとか、誤解されているようならそれを解く、あるいはお互いの前提の違いを知ることが必要です。日本人は交渉事では合意に至ることを目的にしますが、たとえばアメリカ人は自分の意見を通すことがゴールだったりしますから、決裂も辞さない面があります。そういうことを感度高く質問することで、そのような裏に隠れているものを表に出していく力が必要です。

グロービス経営大学院教授 田岡恵氏

異文化対応力を構成する3要素とは何か

田岡 これら基礎的な能力を身に着けた後に求められるのが「異文化対応力」です。異文化対応力の土台となるのが、「Cultural Intelligence(文化的知性)」と言えるでしょう。この「Cultural Intelligence」は次の3つの要素に分類されます。すなわち、「knowledge(知識)」、「mindset(心構え)」、「skill(具体的な行動)」です。

「knowledge」においては正しい知識を持っているだけでなく、自分で「知らないことを理解している」ことが大切です。「mindset」においては、相手が言っていることをきちんと聞くことができ、反応することができること。「skill」においては、みんながきちんと意見なり、態度なりを表現する場をつくれる技術をもっていること。一言で言ってしまえば、「ビジネスシーンにおいて気がきく人」と言えるかもしれません。こうしたことが異文化の中で仕事をするときには重要なのです。

このknowledgeの部分を体系的なフレームとして理解するには、田岡氏が監訳した『異文化理解力』(エリン・メイヤー著 英治出版)が非常に実用的で参考になる。ビジネス環境や仕組みを作り出すためのヒントとなる視点を「評価」や「リーダーシップ」といった、グローバルな職場環境において文化の違いが生まれやすい「8つのマネジメント領域」に沿って解説するなど、knowledge(知識)として理解する上での参考書となるはずだ。

『異文化理解力』は、「異文化間のコミュニケーションのコツ」や「多文化世界における説得の技術はどのように違うか」、あるいは「リーダーシップや階層がどのように構築されているか」など、相手の真意を理解し、自分の真意も伝えることができる、ビジネスパーソンに必須の教養が詰まった一冊だ。

異文化理解力

『異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』 エリン・メイヤー

「mindset」や「skill」を高めるためにどのような準備・経験を積むべきか

田岡 では「mindset」や「skill」を高めるために個人として何ができるのかというと、ひとつは、自分と違うものを受け入れる素養を養うこと。それにはできだけ若いうちに(出来れば20代が理想)異文化に触れる経験をすることです。感受性が豊かな、自分ができあがってしまう前の段階で経験することで異文化に対する対応力がまるで違ってきます。

私が最初にイギリスに行ったのは27歳のときで、マネジメントではなく、下の立ち位置からのスタートでした。そのとき、自分が現地のイギリス人から「日本ってどうしてこうなの?」と尋ねられると、自国の文化に関心を持ってくれていると感じうれしく思っていたので、逆に自分も周りのイギリス人に「なぜイギリス人はこうなの?」と質問攻めにしていました。「あなたの文化を理解しようとしている」という姿勢は、相手に好感を抱かせ、受け入れてもらえるベースになると思います。

そして最終的には、『異文化理解力』にもあるように、「個人が切り出される」までその国の文化に入り込んでほしいですね。たとえば、一緒に学んだり、仕事をしたりすれば、ステレオタイプをいったん抱いて壊し、個人を知るまでのプロセスが経験できると思います。

たとえば、「イギリス人のジョンさん」との関係でいえば、最初は「イギリス人はこうなんだ」からしだいに「ジョンさんはこうなんだ」と考える。またもう一度、「イギリス人ってこういう共通点があるよね」との考えに至り、最終的には「文化は違うけど、こういうところは人間として共感できるよね」というところに行きつくのです。そうすれば、人と人という根源的なところで理解し合うことができます。

「個人として何ができるのか」についてのもうひとつの方法は、逆説的なようですが、「もっと日本文化を知る」ということだと思います。相手との相対感をきっちり出せるように、自分の文化はこういうことだといえること。自己を確立することが必要です。そうでないと、ビジネスにおける自分の意見というものも真実味を持って受け取ってもらえないからです。

若い人にはぜひ異文化に深く入り込める環境に飛び込んでほしいと伝えたいですね。

「◯◯人ってこうなんだ。わかったぞ」と思っても、次の瞬間ひっくりかえされる。知っても知っても、理解したつもりだっただけ、ということの繰り返し。文化とは重層的な存在であり、その奥底にある価値観や本質を理解することが「玉ねぎの薄皮を一枚ずつ剥いていく作業である」という表現には強く共感しますし、それこそ異文化体験の醍醐味だと思います。異文化体験は終わりのない学びの源泉であり、最高のエンターテイメントといえるでしょう。

グロービス経営大学院教授 田岡恵氏

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プロフィール

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田岡恵
グロービス経営大学院教授

グロービス経営大学院経営研究科教授、同大学院英語MBAプログラム研究科長室ディレクター。慶應義塾大学文学部卒業、筑波大学大学院国際経営修士(MBA in International Business)。海外での企業会計プロフェッショナル職を経て、現職。グロービス経営大学院では、会計および異文化マネジメント関連の講義を担当。共著に『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』

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髙井典子
文教大学教授

文教大学国際学部および国際学研究科教授、専門は観光行動論。同志社大学法学部卒業後、三井物産株式会社勤務、部門を横断する新規事業開発部署で川下ビジネスを担当後、1993年渡英し、英国の大学院で国際観光を学ぶ。サリー大学(University of Surrey)修士(MSc)、レディング大学(University of Reading) 博士(Ph.D.)。東京都観光事業審議会委員、日本観光研究学会理事。著書『訪日観光の教科書』(赤堀浩一郎氏との共著)は観光学術学会・教育啓蒙著作賞を受賞

ライターについて

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hontoビジネス書分析チーム

本と電子書籍のハイブリッド書店「honto」による、注目の書籍を見つけるための分析チーム。ビジネスパーソン向けの注目書籍を見つける本チームは、ビジネス書にとどまらず、社会課題、自然科学、人文科学、教養、スポーツ・芸術などの分野から、注目の書籍をご紹介します。

丸善・ジュンク堂も同グループであるため、この2書店の売れ筋(ランキング)から注目の書籍を見つけることも。小説などフィクションよりもノンフィクションを好むメンバーが揃っています。

プロフィール

田岡恵
グロービス経営大学院教授

グロービス経営大学院経営研究科教授、同大学院英語MBAプログラム研究科長室ディレクター。慶應義塾大学文学部卒業、筑波大学大学院国際経営修士(MBA in International Business)。海外での企業会計プロフェッショナル職を経て、現職。グロービス経営大学院では、会計および異文化マネジメント関連の講義を担当。共著に『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』

髙井典子
文教大学教授

文教大学国際学部および国際学研究科教授、専門は観光行動論。同志社大学法学部卒業後、三井物産株式会社勤務、部門を横断する新規事業開発部署で川下ビジネスを担当後、1993年渡英し、英国の大学院で国際観光を学ぶ。サリー大学(University of Surrey)修士(MSc)、レディング大学(University of Reading) 博士(Ph.D.)。東京都観光事業審議会委員、日本観光研究学会理事。著書『訪日観光の教科書』(赤堀浩一郎氏との共著)は観光学術学会・教育啓蒙著作賞を受賞

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