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特集!あの人の本棚
227.

KUSHIDA・柴崎竜人 対談   (プロレスラー/小説家、脚本家)


プロレスと小説に隠された、「物語」を綴る力の正体

KUSHIDA・柴崎竜人 対談
さまざまなプロフェッショナルの考え方・作られ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などから紐解いていくインタビュー。今回はホンシェルジュ連載陣の一人であり、1.4東京ドームを間近に控えたプロレスラー・KUSHIDAと、『三軒茶屋星座館』シリーズでもお馴染みの小説家・柴崎竜人によるスペシャル対談をお届けする。
プロレスと小説に隠された、「物語」を綴る力の正体
左:KUSHIDA / 右:柴崎竜人

2017年1月4日の戦国炎舞 ―KIZNA― Presents WRESTLE KINGDOM 11 in 東京ドームでは、髙橋ヒロムとのIWGPジュニアヘビー級王座防衛戦に挑む現チャンピオンのKUSHIDA。無類の本好きとしても知られる彼は、『NEW WORLD 新日本プロレスワールド公式ブック』では小説家としてデビュー(「東京ドーム」を寄稿)し、このホンシェルジュでも書評のコラム連載を開始。2016年末、新日本プロレスのジュニアを牽引してきたKUSHIDAが、小説家・脚本家として活躍する柴崎竜人と対談を行った。銀行に就職した後、アルバイトを転々としていた柴崎。気づいたら小説家になっていたという柴崎は、「小説家になることは難しくはない。続けるのが難しい」と語る。プロレスラーになる前は新聞社から内定をもらっていたのにもかかわらず、「10年後の未来」を見据えて単身で海外に渡ったKUSHIDA。今回は両者とともに、プロレスと小説に隠された、「物語」を綴る力の正体を探ってみた。

自分でも小説を書いてみて、改めて小説家の人は偉大だなと思いました(KUSHIDA)

KUSHIDA 僕は普段から海外に出てることが多いんですけど、デビューしたばかりの頃は英語もロクにできないから日本語に触れないと妄想ばかりしてるんですよ。ある意味、自分の変態性と向き合う時間になる。日本語の物語をゼロから生み出している作家さんって、変態性というか妄想力も凄いんだろうなって思うんですが。

柴崎竜人(以下、柴崎) 間違いないですね。

KUSHIDA 頭で思い浮かんだことと今まで経験したことをベースにシチュエーションを生み出していくわけじゃないですか。自分でも小説を書いてみて、改めて小説家の人は偉大だなと。それから本を大事にするようになりましたね。粗末にできないというか。

柴崎 ありがとうございます。

KUSHIDA 普段は家で書いてるんですか?

柴崎 僕は仕事場を設けていて。

KUSHIDA へえ! 家では書かないってことですか?

柴崎 自分にすごく甘いんですよね。ほっとくと何もしたくないし、ずっとテレビゲームとかしていたい。だからルールみたいなものを自分で毎日決めてるんです。僕は仕事をだいたい朝6時くらいから始めるんですよ。早朝に起きて30分くらい電車に乗って仕事場に行って。

KUSHIDA スイッチを入れるってことですよね。

柴崎 そうですね。だから5時前には起きて、6時にはデスクの前に座ってますね。

KUSHIDA へえ!

柴崎 僕はもともと夜型だったんですけど、夜に仕事をしていると、自分以外のヤツは皆楽しいことをしてるのかと気になって腹が立ったんですよね。電話して確認しちゃったりとか、ぜんぜん集中できなくて。パソコンに関しても15分くらい経ったら――その間の記憶がまったくないのに――なぜかテイラー・スウィフトのPVを見てたりして。「あれ? なんでテイラーのPV見てるんだろう?」みたいな(笑)。そういう状況だったので、朝型に切り替えてパソコンを使わずにポメラ(デジタルメモ)で原稿を書いてます。で、昼以降はインプットの時間にしていて。自分はアウトプットする10倍ぐらいインプットしないと、アウトプットできないんですよね。プロレスだと試合の時間よりも練習の時間の方が長いと思うんですけど、それと一緒で。

KUSHIDA わかります。インプットは何をすることが多いんですか?

柴崎 本は読みますね。あとは美術館に行ったり、走ったり泳いだりしています。

KUSHIDA 夜にまた仕事場に戻ってくるんですか?

柴崎 いや、そのまま帰ります。

KUSHIDA 午前中に書いて終わりですか?

柴崎 書いて終わりですね。朝に5~6時間書くと昼の12時くらいなので、その後はゴハンを食べに出かける。

KUSHIDA それはいいリズムですね。

柴崎 夜の8時半ぐらいにはウトウトしてます(笑)。できれば10時前には寝たいですね。だから友達が減るんですよ。

KUSHIDA 友達がいないと一緒にどこか行ったりとか、なかなか難しくならないですか?

柴崎 僕は40歳になったんですけど、この歳になると皆もう結婚したり子供がいたりして、夜遊びに行ったりするのはだんだん減ってくるんです。それでもお付き合いとかはあって、昨日も仕事の付き合いで深夜2時くらいまで飲んでましたね。でも、そういう時でも6時前には起きるようにしてます。

KUSHIDA 小説家の方とお話しするのは初めてなんですが、小説家の生態ってやっぱり気になります(笑)。

柴崎 人それぞれ違いますね。僕も小説家の友人が何人かいますけど、皆スタイルが違う。夜に書いている人の方が多いんじゃないかなと思います。

地面から魚が生えていたとしても、自分の世界の中で矛盾しなければそれでいい(柴崎)

KUSHIDA 自分で文章を書いていると、何カ月もずっと同じ原稿を読むことになるじゃないですか。途中でワケが分からなくなったりしませんか?

柴崎 なってきます。「この物語はどうなってしまうんだろう?」ってずっと思いながら書いてますよ。

KUSHIDA そうなんだ(笑)。

柴崎 僕の『三軒茶屋星座館』というシリーズは原稿用紙だと1800~2000枚くらいある。これまでに自分が書いた作品のなかで一番長いお話なんです。これだけ長いと、最初に「こういうストーリーにしよう」ってプロットを決めて書き始めるんですが、それっていわば命綱みたいなもので、ちょっと本筋から外れそうになっても命綱さえ握っていたら、必ずゴールにはたどり着けるんです。実際、1巻はその通りにできたんですけど、2巻からは最初に考えてたものと少し変わってきて。書いてる最中にキャラクターやエピソードに新しい要素を入れたくなって、その方が面白いかもしれないと思い始めた。で、本筋から少し離れるんですけど、命綱にはまだギリギリ指が届くくらいの距離で。そしたら3巻になって、また面白いエピソードを思いついて、どうしてもそれが書きたくなって、ついに命綱からは完全に手を離してしまった。

KUSHIDA 散らかりっぱなしってことですよね。

柴崎 そうです。で、ある時点で命綱を離すか離さないかって決める瞬間があるんですよ。この1行を書いちゃったら後戻りできない、って。つまりそれが何を意味するかというと、この物語がどう着地するのか作り手にも分からない状態になるっていうことなんですよ。それってすごく怖いんですよね。ひょっとしたら面白くないところに着地するかもしれないし。

KUSHIDA その時間って苦しいですね。

柴崎 物語を書いている時って、常に命綱を離す瞬間って出てくるんですけど、そんなに長くないお話だったら命綱を離しても先が見えてるからいいんです。でも、さすがにこれだけ長いお話だと、手持ちのストックもないのに果たして大丈夫なのか?っていう怖さがあって。

KUSHIDA 3巻分の矛盾を最終巻の4巻で全部回収しないといけない。

柴崎 そうです。とはいえ、自分の中の何を矛盾とするかは自分が決めていいんだと思っていて。

KUSHIDA 確かに。

柴崎 例えば、地面から魚が生えていたとしても、自分の世界の中ではそれが矛盾しないんだったら、それでいいと思うんです。

KUSHIDA はい。

柴崎 読む人によっては「現実的じゃない」「嘘っぽい」と捉えられるかもしれないけど、自分の中で信じられるかどうか。それは読者に対する責任でもあると思うし、自分の作品を面白いと言ってくれる読者には、「これが僕の世界だ」としっかり言える責任は持っておかないといけない。

KUSHIDA 小説って自分の脳内をさらけ出してるようで、恥ずかしくはないですか? 自分の思っていることが全部出るわけじゃないですか。

柴崎 僕が小説を書き始めた20代後半の時、編集さんに「親に見せられるような小説を書くな」って言われて。「そんなの読んでも誰も面白くない。お前の秘密を知りたいんだ」って。その時は純文学を書いていたので、そりゃそうだなと思って。自分が読んでいて面白いなと思った作品は、皆そこに秘密があったんですよね。

KUSHIDA ドキドキしちゃうような。

柴崎 小説の醍醐味って、いかに秘密を共有するかだと思うんですよね。

KUSHIDA 作者と読者との間で。

柴崎 そうですね。この人は私の秘密を知ってる、って思った瞬間に作品と繋がるじゃないですか。

KUSHIDA 繋がりますね。ファンになりますね。

柴崎 だから、ちゃんと秘密があるものっていうのは、いい本だなと思いますね。

KUSHIDA なるほど。いい本を書くために大切にするべきことって何かありますか?

柴崎 ルーティーンの積み重ねですかね。なにごとにも集中力は必要ですが、創作に耐えうるような高度な集中力を維持するには、結局ルーティーンを繰り返していくしかないんだろうなって気がします。くるくると回転することで独楽が自軸を安定させるように。どんなルーティーンでもいいんです。ただ毎日決まった予定を、時間通りこなすこと。なにより、深夜だろうと早朝だろうと決まった時間に決まった文量を書くこと。それを毎日休みなくやっていくんです。

KUSHIDA プロ小説家ですね。

柴崎 そうじゃないと持たないですね。

KUSHIDA すごいなあ。

柴崎 KUSHIDAさんは1年で東京にいる期間ってどれくらいなんですか?

KUSHIDA 1カ月に2日って時もありましたね。

柴崎 ほとんど外に出てる感じなんですね。

KUSHIDA はい。最近はそうですね。僕は旅行が好きなので、毎日寝床が違うって結構好きなんです。ルーティーンを決めて何かをするってこととは真逆かもしれないですけど、その時しか味わえない体験からビビッとくることがあったりするので。

柴崎 そうなると体調管理は仕事の基本になりますね。

KUSHIDA そうですね。すごく大変です。枕も持ち歩きますし。

柴崎 しかも皆さんケガと隣り合わせなわけじゃないですか。

KUSHIDA ケガしまくってますね。この前は頚椎をヤラれて、今も尾てい骨がずっと折れてるんですけど。

柴崎 その状態で試合出るんですか?

KUSHIDA ずっと試合してましたね。

柴崎 ええ!?

KUSHIDA 僕、尾てい骨が完全に折れてるって分かったのが、骨折してから1年後だったんです。

柴崎 ……凄いなあ。

KUSHIDA 海外遠征とか飛行機の中でずっと立ってましたね。座るのが辛かったので、アメリカに行く時には12時間くらい立ちっぱなしで。

柴崎 うわあ。

KUSHIDA もしかしたら折れてるかもしれないと思いながら。でもリングに上がるとすごく動けるんですよ。これが怖い。

柴崎 アドレナリンですかね。

KUSHIDA 試合の日に痛み止め飲んで「さすがにこれは無理だな」と思いながらリングに立ったら、お客さんの歓声で平気でしたね。だから、いつか一線を超えて死んでしまうんじゃないかって思ったりもします。

柴崎 なるほど。

KUSHIDA 凄い力が出るので。

柴崎 やり続けるしかないんですね。

KUSHIDA 自分の肉体と精神が乖離し始めるんです。精神的には病み始めて疲れているんだけど、お客さんの前に出ると元気が出る。2016年はタイトルマッチが多くて、責任あるところを任せてもらった試合が多くて、充実感は感じながらも肉体的には疲れてる。でも一方で興奮もしているし……みたいな、心と身体がバラバラになっていく感覚に一時はなりましたね。

プロレスラーって自分の道を見つけられると、いろんな広がりを見せるんです(KUSHIDA)

柴崎 この間、真壁(刀義)さんに初めてお会いしたんですよ。明らかに異質な人がいるなと思って。

KUSHIDA 鎖巻いてますからね(笑)。

柴崎 スーツの下に鎖がぶら下がってるから「ネクタイ代わりですね」って言ったら、「そうなんですよ。実はでも俺、金属アレルギーで」って(笑)。そういうことを包み隠さず話してくれるところが人間的にもいいなと思いました。

KUSHIDA プロレスラーって結構そうやって人の心に入ってくるじゃないですか。仲間になりやすいというか。レスリングとか組み技系の人って引き込む動作なんですよね。ボクシングとかだと突き放す動作なので、敵対心を前面に出している人って、総合格闘技とか打撃系の人なんです。

柴崎 へえ! それ面白いですね。

KUSHIDA プロレスの場合だと、フォールを奪って引き込まないといけない。技も引き込んで投げなきゃいけないし、関節技だって肌と肌が触れ合うので、アマレスとかレスリングをやっている人とはすごく仲良しになれるというか、僕自身シンパシーを感じるんですね。

柴崎 面白い! プロレスの中でも分かれたりするんですか?

KUSHIDA プロレスラーでも細かく言えばありますけど、だいたい引き込み系ですね。人間味があるというか、温かい感じはしますね。

柴崎 その違いは知らなかったです。同じ格闘家でも違うんですね。

KUSHIDA だから打撃系の人は苦手なところがありますね。緊張感がずっとある感じで。

柴崎 スキを見せられないみたいな。

KUSHIDA そうですね。プロレスは手の内をすべて見せますからね。懐の深さを見せつけて「どうぞ倒せるものなら倒してみてごらん」っていうスタイルだから。

柴崎 プロレスラーって凄いなあ。小説家の場合は100人集めたら全員挙動不審だと思うんですよ。100人が100人、お互いに視線を合わさないで、1時間どうやって過ごそうって考えてるような人たちなので。でも、意外と一対一だと関係築けるんですよ。ただし3人以上になった瞬間、いかに視線を合わせないかゲームが始まる。誰も勝者のいないウィンクキラーが(笑)。

KUSHIDA (笑)プロレスラーも個人事業主の集まりみたいなものなんで、集団になると面倒くさくなりますよ。アピールする場だったら皆が前に出て行くし、社交辞令的なところだったら皆、知らないフリとかするし。

柴崎 プロレスラーって皆さんキャラクターが立ってるじゃないですか。表舞台に出ていく人って、自分の見せ方というかキャラクターや性格も含めて試合内容とか考えるんですか?

KUSHIDA そうです。

柴崎 試合中に「こいつなら次はきっとこう考えるだろうな」とか。

KUSHIDA それぞれ自分で見つけてきた結果ですね。例えば、真壁さんも鎖巻いてくれって誰かに言われたわけじゃなくて、自発的にやり始めたと思うんですよ。髪の毛を金髪にしたり、自分なりの道を見つけられるかどうかが大変なんですよ。1年間140試合あるなかで反応がぜんぜん得られない試合もあれば、すごく成功したなって実感できる試合もある。プロレスラーって自分の道を見つけられると、チャンピオンになれたり人気が出たり、いろんな広がりを見せるんですね。僕自身、プロレスを始めて10年経って未だに道を探してます。新日本プロレスにいる人はキャラが立っている人ばかりなんですけど、例えば自分の使う必殺技とか、プロレスに関することは誰も教えてくれないんですよ。誰かに言われてやるのではなく、自分で考えてやらなきゃいけない。

柴崎 自分でストーリーを考えているのと一緒ですよね。キャラクターの物語を。

KUSHIDA 本当にその通りですね。「自分はこのベルトを狙って頑張るんだ」「こいつを倒すんだ」っていうのをコメントで発して、それにお客さんが何人ついてくるかで流れが生まれてくるのが、プロレスの面白いところなんです。だから逆に自由すぎて怖いなっていうのが僕がデビューして思ったことですね。

柴崎 ちなみに試合の最中って何を考えているんですか?

KUSHIDA いろんなことを考えるんですよね。お客さんの反応を耳で聞きながら、コーナーポストから飛ぶ時は相手に命中しなければ死ぬかもしれないから、気合い入れて受け身を取ろうとか、次はこんな技がくるのかなとか、こうやって受け身を取ろうとか、ありとあらゆることを考えていますね。試合が終わって夜寝ても、歓声が聞こえてきてその日は寝られないです。身体は疲れているんですけど、寝られないんですよね。精神は起きてる状態なんです。タイトルマッチ前日もドキドキして緊張で寝られないじゃないですか。で、タイトルマッチが終わった日の夜も寝れないんです。だから2日くらい徹夜になる。もうフラフラになりながらも目は冴えてるみたいな。

柴崎 めちゃくちゃ過酷ですね。想像以上に過酷だ。

KUSHIDA で、また練習しなくちゃいけないしっていう。でも逆に、プロレスレラーとして今生きてるんだ!って酔う自分もいて……。危ないですよね。

柴崎 ベッドで歓声が聞こえるって凄いですね。普通に生きていたら経験しないことじゃないですか。ちなみにさっきのキャラの話なんですけど、本人が持っている個性の延長線上に考えることが多いんですか?

KUSHIDA そうですね。そうじゃないと無理が出てくるというか。だからリング上の姿って丸裸なんですよね。拡大解釈しているところはあるかもしれないけど、人となりが出てると思いますね。1.4東京ドームでは初めて下の世代と戦うんですよ。人間同士のぶつかり合いという意味で、どうなるか楽しみですね。

柴崎 KUSHIDAさんが考える「面白い試合」ってどういう試合なんですか?

KUSHIDA 自分にとってですか? お客さんにとってですか?

柴崎 そこは違うわけですよね。

KUSHIDA 違います。同じだったりもしますけどね。合わさる時はやっぱりすごく高い評価をもらいますね。

柴崎 自分にとって面白い試合っていうのは、いろんな技が出せるとか?

KUSHIDA 自分のやりたいことをやるだけですね。反応は一切気にせずに。僕の場合、関節技の応酬があったり、緊張感あふれる読み合いがあったり、一見すると地味な試合が好きなんですよね。飛んだり跳ねたりすると歓声が湧くのは当然なんですけど、そういうところに媚びない。ただ自分のやりたいことを貫く、みたいな。

柴崎 例えば、子供の頃のプロレスごっこって、技一つ一つかけたり、かけられたりすること自体が面白くて、無邪気に楽しいじゃないですか。プロになってもそこが原点であるものなんですか?

KUSHIDA はい、僕は常にプロレスができる喜びを忘れないようにした方がいいなと思ってます。基本も大事だし、オーソドックスなスタイルのプロレスだったり、メキシコのルチャリブレだったり。感情を剥き出しにして闘ったり――いろんな状況や対戦相手に対応できるプロレスラーでありたい一方、無邪気にプロレスを楽しんでいた子供の頃の気持ちも忘れないようにしようと思ってます。そうしないとお客さんは楽しんでくれないだろうなって。

柴崎 なるほど。

KUSHIDA まさにプロレスごっこですね。そういうのは忘れないようにしたいなって思いますね。それは小説に置き換えるなら、処女作なのかもしれない。僕の場合だったら実家の布団の上でやっていたプロレスごっこですね。実は意外と純粋で一番理想とするものなのかなと思ったりします。

柴崎 ああ、すごく分かる。

KUSHIDA 誰にも媚びていないし打算がないじゃないですか。そういう部分が毎試合出せればいいなと思います。難しいですけど。

柴崎 原体験には敵いませんもんね。それを追いかけているというか。僕も小説を一番初めに書いたのが中学生の時なんですよ。

KUSHIDA へえ! それは世には出していないんですか?

柴崎 もちろん出してないです。

KUSHIDA 早いですね。中学生でも書けるんだなあ。

柴崎 当時はリレー小説がクラスで流行っていて、1人が4行書き、次の人が4行書く、っていうのを4人くらいで回してやっていたんです。それが面白かったので、自分でもちょっと書いてみようかなと。ちょうど夏休みの作品展みたいなのがあったから、自分は小説を書こうと思って始めたのが最初なんです。それ以降はしばらく小説から離れるんですけど、その時の体験が楽しくて。それまでは他人の物語を読んでるばっかりだったのに、自分の好きなように物語を考えていいってことが楽しかったし、自分は日本語で文章を書くのがすごく好きだと思ったんですよ。作家は誰もが持ってると思うんですけど、日本語がバチッとハマる瞬間があって、その気持ち良さが原体験としてあるんです。さらにクラスメイトが「面白いね」って言ってくれたのも嬉しかったし、そこから15年くらい経って小説を書き始めることになるんだけど、やっぱり書いていて楽しいなっていう自分の原点に戻るんですよね。

KUSHIDA わかります。感覚的なものですよね。

いろんな役を考えたいから、手元にカードをなるべく持っておきたい(柴崎)

柴崎 今、次の作品の準備をしています。

KUSHIDA 準備って何をしているんですか? 取材とか?

柴崎 取材もしていますし、資料の読み込みとかもあります。きっと想像しているものよりも、すごく地味な作業です。

KUSHIDA 一つの職業を書くにしても、その職業のことをちゃんと知っていないと書けないですよね。そうじゃないと嘘っぽい言葉になってしまうというか。

柴崎 そうなんですよね。100個インプットして100個アウトプットするわけじゃないので。ただ、どれを使うかなんです。たとえばポーカーは手札のなかでカードを組み合わせて、最高の役を作りますよね。そのとき、もし手札が5枚じゃなくて100枚あったなら、組み合わせの可能性はより広がることになります。それと同じでいろんなエピソード、物語を考えたいから、手元にカードをなるべく揃えて持っておきたいんですよ。

KUSHIDA いろんな職業の人と話したいっていう欲はあるんですよね。

柴崎 そうですね。仕事の楽しいところと辛いところって、知らない人間にとっては一番面白いというか。今日も話を伺っていて、例えば寝ていて歓声が聞こえるなんていうのは想像がつかないシチュエーションじゃないですか。

KUSHIDA プロレスラーって字面だけじゃ、そんな深いところまで分からないですもんね。

柴崎 分からないですよね。プロレスはやっぱりエンターテイメントとして完成されたものだから、その裏側の部分なわけじゃないですか。その職業の秘密というか、そこは知りたいなと思うし、KUSHIDAさんの小説にもそういうことが書かれているんですか?

KUSHIDA 結構書いてますね(※ここでマネージャーがKUSHIDA作の小説が掲載されたムックを柴崎氏に渡す)。あ、でも恥ずかしいので僕がいる前で見ないでください(笑)。

柴崎 分かりました(笑)。ありがとうございます。

KUSHIDA 自分で書いてみて小説家の方ってめちゃくちゃ大変だなと思いましたね。尋常じゃないなと思って。普通の人にはできないし、それこそ変態にしかできないなと思います。

柴崎 変態ですね(笑)。KUSHIDAさんの作品、あとで読ませていただきます!

Photographs by Motoki Adachi

『NEW WORLD 「新日本プロレスワールド」公式ブック』 『三軒茶屋星座館 秋のアンドロメダ』 『あなたの明かりが消えること』
インタビューの一覧

プロフィール

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KUSHIDA
プロレスラー

学生時代に総合格闘技でプロデビューした後、2005年に単身メキシコに渡り、プロレスデビュー。その後日本と海外のマットを渡り歩き、2011年4月に新日本プロレスへ移籍。2016年8月には「SUPER J-CUP 2016」に優勝、さらに2016年11月、大阪府立体育会館大会ではBUSHIを破り、自身4度目となるIWGPジュニアヘビー級王座(第75代)を奪取。2017年1月4日(水)新日本プロレスの年間最大ビッグマッチ「WRESTLE KINGDOM 11 in東京ドーム」では髙橋ヒロムとの初防衛戦が決定している。


KUSHIDAのプロレス浪漫飛行

http://ameblo.jp/ts-kushida/

WRESTLE KINGDOM 11 in東京ドーム 特設サイト
http://wrestlekingdom.jp/


新日本プロレス オフィシャルウェブサイト
http://www.njpw.co.jp/

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柴崎竜人
小説家、脚本家

1976年、東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。東京三菱銀行退行後、バーテンダー、香水プランナーなどを経て、小説『シャンペイン・キャデラック』で三田文學新人賞を受賞し作家デビュー。映画『未来予想図 ~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~』、ドラマ『レンアイカンソク』など脚本も多数手掛ける。近著『三軒茶屋星座館』は文教堂 三軒茶屋店で10週連続ランキング1位を記録した。 2016年10月、三軒茶屋星座館第4巻『三軒茶屋星座館 秋のアンドロメダ』発売中。12月には文庫『あなたの明かりが消えること』が発売された。
http://www.shibazakiryuto.com/

ライターについて

Writer 5
ホンシェルジュ編集部・芸術/芸能班

音楽、映画、アイドル、その他の芸術/芸能に詳しいライターによる班。もちろん皆が本好きだが、そのレベルや守備範囲はさまざま。日本のエンタテイメントのトップランナーを通じて、本/読書の楽しみへの入り口をつくりたい。あるいは本/読書という切り口を通じて、トップランナーの新たな一面を引きだしたい。

プロフィール

KUSHIDA
プロレスラー

学生時代に総合格闘技でプロデビューした後、2005年に単身メキシコに渡り、プロレスデビュー。その後日本と海外のマットを渡り歩き、2011年4月に新日本プロレスへ移籍。2016年8月には「SUPER J-CUP 2016」に優勝、さらに2016年11月、大阪府立体育会館大会ではBUSHIを破り、自身4度目となるIWGPジュニアヘビー級王座(第75代)を奪取。2017年1月4日(水)新日本プロレスの年間最大ビッグマッチ「WRESTLE KINGDOM 11 in東京ドーム」では髙橋ヒロムとの初防衛戦が決定している。


KUSHIDAのプロレス浪漫飛行

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柴崎竜人
小説家、脚本家

1976年、東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。東京三菱銀行退行後、バーテンダー、香水プランナーなどを経て、小説『シャンペイン・キャデラック』で三田文學新人賞を受賞し作家デビュー。映画『未来予想図 ~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~』、ドラマ『レンアイカンソク』など脚本も多数手掛ける。近著『三軒茶屋星座館』は文教堂 三軒茶屋店で10週連続ランキング1位を記録した。 2016年10月、三軒茶屋星座館第4巻『三軒茶屋星座館 秋のアンドロメダ』発売中。12月には文庫『あなたの明かりが消えること』が発売された。
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