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特集!あの人の本棚
22.

三谷宏治   ( K.I.T.虎ノ門大学院 教授)


壁を本棚で埋め尽くして、家を図書室にする

三谷宏治

あいさつで相手を食べる異星人に出会ったら?

―― 本棚を見せていただいて、SFの本が多い印象を受けました。

海外SFその1

海外SFその2

三谷 小・中・高校生のころは、ほぼSFしか読んでなかったですからね。あ、科学系の本も読んでたかな。それらを合わせたら全体の8割くらいになったと思います。

―― それは、かなり偏っていらっしゃる(笑)。なぜ、そういう本を読むのが好きだったのでしょう。

三谷 理由はよくわかりません。純粋に好きだったんだと思います。読むと世界が広がる感じが楽しかった。読んで「宇宙の年齢」を知るとするじゃないですか。当時は160億年と書かれていて、今は絞りこまれて約137億年と言われています。そういうことを知ると、やっぱり誰かにしゃべりたくなるんです。それで、母親に「ねえねえ、知ってる? 宇宙の年齢って160億歳なんだよ」とか言うわけです。

―― いきなり(笑)。

三谷 母親はまったくそういうことに興味がない人でした。でも、ちゃんと毎回「そうなんだ、すごいね。また教えてね」って言ってくれたんです。だから、また翌日、「ねえねえ、知ってる? 恐竜ってさ……」と話しかける。その無限ループみたいになってましたね(笑)。

―― それはすごくいいですね。

三谷 でもね、SFを読み続けて、中学生になったときに思ったんです。「ああ、こんなの、大人になったら何の役にも立たないんだろうな」って。

―― そんな(笑)。

三谷 だって、荒唐無稽な話ばかりなんですよ。宇宙を支配するとか、ワープ(光の速度を超えて移動)するとか、時間の壁を超えるとか。そんな簡単に超えられるわけないじゃないですか(笑)。でも、逆に、大人になってから、自分の発想の源はSFにあると再確認しました。

――SFが、ですか!?

三谷 名作といわれるSFは、最も根源的な問いに対して、本質的な解を提示するという構成になっています。例えば、『未知との遭遇』は、ファーストコンタクトものと言われる、いわゆる「異星人」との出会いを描いているわけですよね。ファーストコンタクトもののSFってたくさんあるんです。それは何を根源的なテーマにしているのかというと、「コミュニケーションとは何か」ということなんですよ。

―― なるほど。

三谷 地球上でのコミュニケーションギャップなんて、たかが知れています。特に人間同士だったら。星新一さんのショートショートではありそうですけど、いきなりあいさつで相手を食べる、とかないですよね(笑)。でも、異星人はそうはいかない。あいさつで相手を食べる異星人と会った時、さあ、あなたはどうしますか。そのあいさつを断れば、宇宙戦争が起きるんです。

―― ええと……どうしましょう(笑)。

三谷 簡単に答えは出ないですよね。前提があまりにも違う相手と、どうコミュニケーションすればいいのか。これはとても難しい問題です。寿命が100万年ある生物だったら? 個体としての意識を持たない生物だったら? こういう極端なシチュエーションを用意することで、ピュアにコミュケーションについて考えることができます。そして、SF作家はそれに対して一つの答えを出すわけです。『未知との遭遇』の場合は、それが音階だったわけですよね。

―― 架空の設定だからこそ、さまざまな答えがありうるんですね。

三谷 人工知能をテーマにすれば、人間の知性とはなにかということが考えられます。人間の知性のダメなところは、自己破滅的なところ。でも、そこまでムチャなことをやらかすからこそ、思考のジャンプもできる。人工知能には、自分を滅ぼすような発想はできないから限界がある。そういう考え方もできるわけです。一方で、人間の知性は、人工知能を生み出すためのステップでしかないという解答もある。人間の知性なんて追い越されるべきものだ、という考え方ですね。そうなると、人間の知性というものの本当の意味は何なのか、ということにもたどり着きます。

―― 哲学的な問いですね。

三谷 そうですね。極めて哲学的な問いに、具体的な答えを出すというのがSFなんです。自分がいつも、物事の根本を考えようとし、ひとつのテーマに対して幅広い考え方をしようとするのは、ずっとSFを読んできたからじゃないかと思います。

人間社会の答えはひとつではない

―― 一度は意味がないと思ったけれど、意外な効用があったわけですね。学生時代を終えられてからも、SFを読まれていたのですか?

三谷 一度、SFから離れた時期がありました。それは、就職して経営コンサルタントになってすぐのころです。私が育った家は八百屋を営んでいたので、ビジネスについてある程度は知っていたのですが、大企業の組織やサラリーマンといったものについてはまったくわからなかった。そのことをベテランマネジャーに相談したら、「だったらまずサラリーマン小説を100冊読めよ」と言われたんです。それで、城山三郎の『役員室午後三時』などを読み始めたわけです。

―― 振れ幅が激しいですね(笑)。

三谷 もちろんコンサルタントなので、経営学に関する本などもたくさん読むようにして、SFや科学本からは離れていたんです。そうして、1年くらい経ったとき、ちょっとショックなことが起こりました。それは、はじめて、自分の言うことが同僚の言うこととかぶったんですよ(笑)。自分がすごくつまらない人間になったように感じました。他の人と同じことしか言えないなら、価値がないと思ったんです。じゃあ、なぜこれまでの自分は人と違う考え方ができたのか。それはやはり、SFを読んでいたことが根底にあるからじゃないかなと思ったんですよね。なのでそこからは、ビジネスの本も読むけど、SFや科学系の本、趣味の本を同じくらい読むことにしました。

―― 自然科学の現象が、人間社会やビジネスに応用できる部分もあるのでしょうか。

三谷 応用できる部分はもの凄くあります、ただ正確に言うと、「一緒」ではありません。例えば、アリの集団を、よく働くアリ、普通に働くアリ、働かないアリに分けると、2:6:2の割合になるという話があります。よく働く2割のアリを除くと、残りの集団の2割がよく働くようになり、働かない2割を除くと、残りの2割が働かなくなって、割合が保たれるという説です。それは人間社会にも当てはまるなんていう話を聞いたことがありませんか?

―― はい、あります。

三谷 これは、北海道大学の長谷川英祐准教授の研究が元になった話なのですが、そもそも研究結果が誤解されてるんですよね。働かないアリの一部は病気などの原因があるため、働かないアリを排除しても、きっかり残りの2割が働かなくなるわけではないんです。一方、上のよく働くアリを除くと、残りの2割がもうちょっと働くようにはなるそうです。この話はとてもキャッチーなので、長谷川先生はよく講演などに呼ばれるそうですが、講演録で「皆さん、これはアリの話ですからね」と念を押しているのを読んだことがあります(笑)。しかも40匹くらいのアリについての研究なんですよ。

―― 意外と少ないですね。

三谷 すべてのアリを識別して、大学院生たちが必死で1日の行動を追うわけですから、そんな何百匹、何千匹という調査はできないですよね。それよりも、人間のことが知りたいなら、人間を観察したほうがいいですよ(笑)。

―― 人にはシンプルな法則にあてはめて、納得したいという気持ちがあるんでしょうね。

三谷 そういう傾向はありますよね。それは経営学も同じで、一社成功すると、そこと同じやり方をすれば成功するのではないかと思いがちです。でも、答えは一つではないんです。経営は自然科学ではありませんからね。さまざまな答えがありうる。同じホームセンターの企業でも、規模を拡大して生き残ろうとするところもあれば、規模は小さいままで地元に密着して生き残るところもあるでしょう。そういう意味でも、SFを読んできたことは役に立つと感じます。さまざまな状況に対して、根本的な独自の答えを出そうと考えるようになったからです。

(次回へ続く)

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プロフィール

三谷宏治
三谷宏治
K.I.T.虎ノ門大学院 教授

みたに・こうじ/1964年、大阪生まれ、福井育ち。東京大学理学部物理学科卒業。INSEAD MBA修了。1987年、BCG入社、1996年から2006年までアクセンチュアに勤務。戦略グループの統括を務める。現在、K.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院教授。早稲田大学ビジネススクール、グロービス経営大学院大学客員教授。社会人教育のほか、大学・高校・中学・小学校での子ども・保護者・教員向け教育を中心に活動中。『一瞬で大切なことを伝える技術』『ビジネスモデル全史』など著書多数。『経営戦略全史』は「ビジネス書大賞2014」で大賞を、「ダイヤモンドHBR読者が選ぶベスト経営書2013」で第1位を受賞した。
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お知らせ:『ビジネスモデル全史』がダイヤモンドHBRベスト経営書2014 第1位に選ばれました。投票いただいたみなさん、ありがとうございました。まだお読みになっていないみなさん、記念の黒オビとともに、全国書店でお待ちしています-。

ライターについて

Writer 1
崎谷実穂

さきや・みほ/求人広告、記事広告のライターを経て、現在ビジネス系のインタビューライター。ブックライターでもある。cakes、日経ビジネスオンラインなどで連載担当中。

プロフィール

三谷宏治
K.I.T.虎ノ門大学院 教授

みたに・こうじ/1964年、大阪生まれ、福井育ち。東京大学理学部物理学科卒業。INSEAD MBA修了。1987年、BCG入社、1996年から2006年までアクセンチュアに勤務。戦略グループの統括を務める。現在、K.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院教授。早稲田大学ビジネススクール、グロービス経営大学院大学客員教授。社会人教育のほか、大学・高校・中学・小学校での子ども・保護者・教員向け教育を中心に活動中。『一瞬で大切なことを伝える技術』『ビジネスモデル全史』など著書多数。『経営戦略全史』は「ビジネス書大賞2014」で大賞を、「ダイヤモンドHBR読者が選ぶベスト経営書2013」で第1位を受賞した。
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