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特集!あの人の本棚
234.

小林進一   (建築家)


「特徴のある家」を生み出す視点(小林進一 インタビュー)

小林進一
さまざまなプロフェッショナルの考え方・作られ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などから紐解いていくインタビュー。今回は東京と沖縄を行き来する建築家の小林進一さんに登場して頂きました。インタビュー前編です。
「特徴のある家」を生み出す視点(小林進一 インタビュー)

小林進一さんの建築事務所は、名前を「コバヤシ401.Design room」と言う。ちょっと変わったネーミングだが、どうも話を聞いてみると、照れ隠しのような、しかしご自身の姓名への愛情の表れのような。そんな、柔軟度の高そうな看板を掲げる小林さん、実際にお話を伺うと、思考も態度も軽やかに飛躍しながら、建築に無縁な一般の人に対して平易に、また丁寧に物事を説明・提案しようとする誠実な姿が印象的な人だった。

東京出身で、現在は大田区の住宅地に東京事務所を構えつつ、数年前からは沖縄のうるま市にも拠点を持つ小林さん。そんな彼に、学生時代の必読書から現在の飛行機のお供までを紹介してもらった。

抱えてる仕事のプロジェクトも普段読む本も一つだけではなく、同時並行して進めたいんです

――現在、東京と沖縄の2拠点で活動してらっしゃるんですよね。

小林進一(以下、小林) そうなんです。もともと妻の父が沖縄出身ということもあって、震災をきっかけに妻と子供が先に移住しました。向こうでの暮らしは4年目。今は7対3くらいで東京かな。でも、近いうちに逆にしたいと思っています。

――小林さんご自身は東京のご出身。大学もこちらで。

小林 そうです。東洋大学理工学部建築学科卒で、キャンバスは川越でした。普通の文系の大学生とかとは違って課題が多いので、必死でやっていましたね。そのぶん、クラスの仲間とは仲が良くなるんですけど。今は母校の朝霞キャンパスにあるライフデザイン学部の人間環境デザイン学科というところに週1で教えに行っています。

――どんな授業をされているんですか?

小林 建築、まちづくり、バリアフリー、ユニバーサルデザインが合わさった学科なんです。今やっているのは2年次の演習。180名くらいの学生を相手に、自分だけでなく、プロダクトデザインの先生とか建築の先生、生活支援デザインの先生など、10名くらいに先生たちと分担して授業を進めています。

――それはユニークな取り組み! かなり面白そうですね。

小林 学生にとってもそうですが、僕にとっても興味深い授業なんです。プロダクトの専門家と話す機会なんてほとんどないですからね。いろいろ話を聞いてみると、建築とは違うアプローチで物事を考えているようで、非常に面白い。

――小林さんご自身は、手掛けられている家の中における家具とかプロダクトについてはどんなスタンスなんですか?

小林 なるべく僕の手の中でやりたいとは思うんですけど、実際には物を選ぶお手伝いをするくらいですね。家具はメインのソファとか椅子を選んだりはします。

ケース・スタディ・ハウス―プロトタイプ住宅の試み

『ケース・スタディ・ハウス―プロトタイプ住宅の試み』 岸 和郎・植田 実

ケース・スタディ・ハウス

『ケース・スタディ・ハウス』 エリザベス・A・スミス

――さて、この2冊は終戦間もなくから約20年にわたり、カリフォルニアで行われた実験的な住宅建設プログラム、ケース・スタディ・ハウスについての本ですね。建築だけでなく家具も手掛けたチャールズ&レイ・イームズとかエーロ・サーリネン、リチャード・ノイトラなども参加していたという。

小林 実は、大学院の修論のテーマがカリフォルニアの住宅の流れと日本の関わりだったんです。その中心に据えていたのがケース・スタディ・ハウスだったんですよね。もともとこれは『アーツ・アンド・アーキテクチュア』という雑誌の企画で始まったもので、1969年に最後の建物が竣工しました。実験住宅とはいえ、非常に質の高いものが生まれています。

――なぜケース・スタディ・ハウスやカリフォルニアの建築に興味を持ったんですか?

小林 最初は写真集などを見て、なんとなく「かっこいいなあ」みたいな感じで入ったんです。そうして見ていくうちに、ヨーロッパからずーっと西に回って、アメリカ大陸を渡って西海岸に着いた建築の流れが、東回りでヨーロッパから影響を受けた日本と、ルートは違っても共通点があるんじゃないかと思って。

――なるほど。具体的にはどのようなところに?

小林 カリフォルニアの建築って地域性が出ているように思うんです。ほかの地域はマッス(量感、塊)とかが大事にされて、ヴォリュームの強いものが多いと思うんですが、カリフォルニアの場合は違う。アメリカでも他の地域はフィックス窓が多かったのに対して、開く窓が多かったり。線材などにも日本古来の木材を使った軸組に共通点があるように思います。カリフォルニアではフランク・ロイド・ライトの影響も強く、そういう意味ではこのケース・スタディ・ハウスにも比較的似たようなテイストの家が多く集まっている気がしますね。

――小林さんの好きな建物はどれですか?

小林 ケース・スタディ・ハウスではないんですが、R.M.シンドラーのキングス・ロード(ロサンゼルス)の自邸が好きですね。ちょっと日本的で……他のものとは違う個性がある。彼はフランク・ロイド・ライトの事務所に勤務していたのですが、結局袂を分かっている人。彼の仕事はラインが綺麗で、素材の多くを木に依っています。ケース・スタディ・ハウスの中では有名なイームズの自邸とか。イームズは建築物件をほとんど残しておらず、単独で設計したもので残されているのは唯一ではないかと思います。この家の魅力にはインテリアの力も大きく関わっていますが。

――『ケース・スタディ・ハウス―プロトタイプ住宅の試み』は学生時代に読まれた本?

小林 はい、そうです。ケース・スタディ・ハウスには著者の一人である建築家の岸和郎さんが早くから注目されていて、修論を書くので調べているうちに行き当たった本ですね。久々に開いてみたら、付箋が挟んであったり、線が引いてあったりして、当時を懐かしく思い出しました。だいぶ内容は忘れてしまいましたけど(笑)。タッシェンから出ているほうは結構最近出た本ですね。

――実際、学生時代にカリフォルニアのモダニズム建築めぐりとかは?

小林 それが……学生時代、バックパッカーとしてアジアとか中東には行っていたんですが、恥ずかしながらアメリカには辿り着いていないんです(笑)。卒業してからアメリカには行きましたけど、カリフォルニアには行ってない。カリフォルニアの建築を研究されていた方からも「行かなきゃだめだよ!」と言われたんですけど、これまで残念ながら機会に恵まれなかったんですよね。

日本の近代建築(上:幕末/明治篇)

『日本の近代建築(上:幕末/明治篇)』  藤森照信

新・建築入門――思想と歴史

『新・建築入門――思想と歴史』  隈 研吾

――先ほどカリフォルニアと日本の建築の共通点のお話がありましたが、日本の近代建築に関しての本といえばこのあたりですか。

小林 日本の近代は意外と好きで見てはいました。でもこのあたりは「戦後日本の建築史みたいなものを一通り知っておきなさい」と大学で言われて読まされていたもののうちの1冊。最初は「何でこんなの読まなきゃならないんだ?」って感じだったんですけど、読んでみたら意外に面白くて。なかでも隈さんの本は、歴史なんだけど、意匠論なども入っていて面白かったです。

――日本の近代建築で小林さんが好きなのは何ですか?

小林 池辺陽さんの「立体最小限住宅」、清家清さんの「森邸」、広瀬鎌二さんの「SHシリーズ」といった、いずれも1950年代に発表された住宅群ですね。あとは増沢洵さんの「コアのあるH氏のすまい」とか。小さくて綺麗な住宅が好きだったんです。

――この2冊も建築家の書いた本ですね。藤森さんはもともと建築史家ですが。

小林 そうですね。藤森さんは文章がうまくて、いつも読みやすく書いてくれるので、凄いなあと思います。僕らもお客さんに話す時に、専門用語を使わず、ちゃんと伝わるように話せるようにしたいと思っているんですけど、なかなか難しい。実は大学のゼミの先生は藤森さんのところにいた人なんですよ。僕自身は直接的に藤森さんと関係はないのですが。藤森さんは常に自分だけの視点を探している人。僕も自分なりの視点で物事を解釈したいと思っています。

――隈さんはどうですか。

小林 隈さんも文章は圧倒的にうまい。この『新・建築入門』は隈さんが40歳くらいの時に書いた本ですが、とにかく読みやすい。余談ですが、この3年前に彼は「M2ビル」(当初はマツダのカーディーラーとして作られたが現在は売却され、東京メモリードホールという葬儀場となっている)っていう、巨大なイオニア式の円柱のある強烈な建物を手掛けてかなり批判されたんですが、考えてみたらあれは30代の時の作品なんですよね。そう考えると凄いなあと思います。

建築のエッセンス

『建築のエッセンス』  斎藤 裕

――これはどんな本ですか。

小林 建築における材料について掘り下げた本です。僕もまだ若い頃に読んだんですけど、著者に注目して買ったわけじゃないんですよね。でも、読んでみて、物に対する意識の高さに驚きました。写真もいいんです。

――斎藤さんは日本建築学会賞を受賞している建築家でもあり、建築写真家としても活躍してきた方ですね。

小林 そうなんです。ルイス・バラガンやトビア・スカルパなどを再評価した人でもあります。彼らのことも本の中に出てくるんですが、建築における素材について、こんなことまでできるんだ!という可能性を示してくれています。自分には出来ないけれど、凄いなあと思って読みました。

――小林さんの素材選びは?

小林 僕は場所ごとに建築案を作るので、素材もその場所に合ったものを使うようにしています。基本的にはクライアントの希望をうまく噛み砕き、敷地を見て、案を決めていきますね。その作業って、ちょっと料理人に近いんじゃないかな。与えられた材料の中で一番美味しいものを作れ、っていう。

――調和型の建築家。

小林 いやあ、比較的独善的ではないほうだとは思いますよ。80~90年代の建築家には割と悪しの強いものが多いですけど(笑)、それって時代的にお金が余っていたということもあると思うんです。僕も常にチャレンジはしたいと思っているし、面白いもの、特徴の出た家を作りたいとは思っています。もちろん、クライアントの希望ありきなので、勝手はできないですけど、提案はしています。

風のマジム

『風のマジム』  原田マハ

――建築以外の本、例えば小説なんかも結構読まれるんですね。

小林 そうですね。昔は斜に構えていましたけど、今はおじさんになったので(笑)、痛快な勧善懲悪ものに弱くなりました。

――日本の小説が多いですか?

小林 はい。やっぱり訳が入ると文章が難しくなるじゃないですか。何かがしっくりこない感じがすることが多いんですよね。有名な小説は読むこともありますが、翻訳者の力によることもあるのかもしれないけれど、なかなか読み進められないことの方が多くて。

――これは勧善懲悪ものじゃなくて、実話に基づいたお話なんでしたっけ。

小林 原田マハさんの『風のマジム』は、女の人が沖縄でラムを作るという話なんです。派遣社員の女性が南大東島で純沖縄産のさとうきびを使ったラムを作るという話なんですが、沖縄繋がりの本というとつい手を伸ばしたくなるんですよね。ここで描かれているお酒、実はここにあるんです。「COR COR」っていうんですけど(といってボトルを手に取る)。

――そうなんですね! どんなお酒ですか?

小林 さとうきびの香りがすごくするお酒、美味しいお酒です。この香りを嗅ぎながら一人で飲んでいると、気持ちは沖縄に飛んでしまいますね。

――本を読まれるのは、沖縄・東京間の飛行機の中などが多いんでしょうか。

小林 そうですね。それで年間60冊くらいは読めちゃう。飛行機に乗る時には建築の本とセットで4~5冊、だいたい同時並行で読んでいるものを持っていきます。1冊だけだと飽きちゃうんで(笑)。仕事もそうなんですよね。並行していくつかのプロジェクトを進めたい。

――なるほど。そうじゃないとなかなか進まないですしね! ところで、沖縄でのお仕事は順調に増えていきそうですか?

小林 今のところは店舗が1件、住宅が2件。沖縄が経済が低調なので、なかなか難しいところではあるのですが、頑張りたいと思っています。沖縄だと別の意味のチャレンジもあって、断熱材とか防水とかがこっちとは全然違うんですよ。

――台風が凄いですしね。

小林 そうなんです。あと、地元で聞くところによると、どうも白アリも凄いらしい(笑)。昔の沖縄の木造住宅は島に生えていた固い木を使って建てられていたのですが、今は輸入材で柔らかいのでやられてしまうみたいなんです。そんなこともあって、沖縄はRC(鉄筋コンクリート)が中心ですね。職人さんもRCに慣れているし。ただ、最近は「基本はコンクリートだけど木の質感が好き」という人も増えてきています。そういう方には構造的な部分をコンクリートにして、ほかの部分を木にするなどの案を提案しますね。僕自身もハードルがあることでやりがいもアップしますから。

――そうですか。これから小林さんが沖縄でどんな建築を提案していかれるのか、楽しみです!

Photographs by Motoki Adachi

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プロフィール

小林進一
小林進一
建築家

1972年生まれ。東京都大田区出身。東洋大学工学部建築学科卒業、東洋大学大学院工学研究科建築学博士前期課程修了後、98年に建築設計事務所にて設計実務に携わる。2002年、株式会社ESPAD環境建築研究所にて住宅、共同住宅、クリニックなどを担当。2010 年、一級建築士事務所「コバヤシ401.Design room」を設立する。2014年から東洋大学ライフデザイン学部非常勤講師を勤める。
http://www.klasic.jp/portfolio/129#profile

ライターについて

Writer 11
山下紫陽

ライター・編集者。ジャンルはデザイン、アート、音楽など。幼少時から翻訳小説と洋楽にどっぷり浸かったためか地に足が着かないまま大人に。ここ10年は寒い・暗い・汚い系のミステリー/ハードボイルドばかり。好きな主人公はやっぱりフロスト警部

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小林進一
建築家

1972年生まれ。東京都大田区出身。東洋大学工学部建築学科卒業、東洋大学大学院工学研究科建築学博士前期課程修了後、98年に建築設計事務所にて設計実務に携わる。2002年、株式会社ESPAD環境建築研究所にて住宅、共同住宅、クリニックなどを担当。2010 年、一級建築士事務所「コバヤシ401.Design room」を設立する。2014年から東洋大学ライフデザイン学部非常勤講師を勤める。
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