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特集!あの人の本棚
241.

恩田陸   (小説家)


自身初の児童文学『七月に流れる花』『八月は冷たい城』が2冊同時発売。(恩田陸さんインタビュー)

恩田陸
2016年12月、恩田陸さんの新刊『七月に流れる花』『八月は冷たい城』が2冊同時発売された。本作は、講談社の名編集者、宇山日出臣さん(注1)が企画した児童書レーベル「ミステリーランド」全30巻の完結作。絵本作家の酒井駒子さん(注2)が表紙、挿絵を担当している。

恩田陸さんといえば、本屋大賞を受賞した『夜のピクニック』のような青春小説から、ミステリー、ファンタジーと幅広いジャンル、手法で読者を魅了してきた。今回出版された「ミステリーランド」の新刊は、そんな恩田さん初の児童文学。

六月という中途半端な時期に転校をしてきた少女が「夏の城」で夏休みを過ごすことになる『七月に流れる花』、同じく「夏の城」で夏休みを過ごす少年たちのまわりで起こる事件を描いた『八月は冷たい城』はともに、子どもから大人まで楽しめるダークなミステリーだ。恩田さんがこの2作に込めた想いを伺った。


注1:宇山日出臣(1944~2006)
講談社の文芸編集者。綾辻行人らをデビューさせ「新本格」ムーブメントを作り上げ、メフィスト賞を創設、ミステリーランドを企画するなどミステリー界に多くの影響を残した。

注2:酒井駒子(1966~)
海外でも高い評価を受ける絵本作家。代表作は『よるくま』『赤い蝋燭と人魚』『きつねのかみさま』『くまとやまねこ』『金曜日の砂糖ちゃん』『ぼく おかあさんのこと…』『ゆきがやんだら』など多数。
自身初の児童文学『七月に流れる花』『八月は冷たい城』が2冊同時発売。(恩田陸さんインタビュー)

読む順番は『七月に流れる花』から

―― 今回『七月に流れる花』と『八月は冷たい城』の2冊にわかれていますが、はじめから2冊にするというのは決まっていたのでしょうか?

恩田陸(以下、恩田) はい、決まっていました。男の子バージョンと女の子バージョンにするということも決めていて、同時並行で違う事件が起きる話を考えていました。

―― どちらから先に読めばいいのかわからないという声をネット上でいくつか見かけたのですが。

恩田 『七月~』から先に読んで欲しいですね。

―― ホンシェルジュでも『七月~』から!というのは念を押しておきます(笑)。

恩田 是非(笑)。強く伝えていただけるとありがたいです。

七月に流れる花(恩田 陸)

『七月に流れる花』 (ミステリーランド) 恩田 陸、酒井 駒子

自分でも探りながら書いていった

―― 今回の作品は、ダークな部分に、少しロアルド・ダール(注3)の雰囲気を感じたのですが、何かのオマージュということはあるのでしょうか?

恩田 特には考えていなかったですね。でも言われてみると、たしかに私はロアルド・ダールの児童文学が大好きなんです。『おばけ桃の冒険』とか『チョコレート工場の秘密』とか。やっぱり、どこかに影響は受けているだろうと思います。ロアルド・ダールの物語も結構シビアというか、ものすごく残酷なところと笑えるところがありますよね。

注3:ロアルド・ダール(1916~1990)
イギリスの小説家、脚本家。『チョコレート工場の秘密』などの児童文学から『あなたに似た人』などの大人向けの短編集まで幅広い年代に向けた作品を発表した。

おばけ桃の冒険(ロアルド・ダール)

『おばけ桃の冒険』 ロアルド・ダール

チョコレート工場の秘密(ロアルド・ダール)

『チョコレート工場の秘密』 ロアルド・ダール

―― 恩田さんの作品は、『チョコレートコスモス』のように他の作品から影響を受けたものと、『夜のピクニック』のように自分の体験から書かれたものがあると思うのですが、今回の作品は小学生の頃転校が多かったという恩田さんの経験が反映された、どちらかというとオマージュというよりは体験から出てきたお話なのでしょうか?

恩田 転校していた時の体験は、色濃く出ていますね。子どもにとって転校は大きな体験なので、その時の新しい場所に最初はなじめない不安な気持ちは覚えのあるものです。

―― 何かひとつのアイデアや特定のシーンから作品の構想を練られていくといったことを以前書かれていたと思うのですが、今回では、そのようなシーンはどこになりますか?

恩田 電車からぱっと降りて畑の中をずっと歩いて行く、というイメージは、最初からありましたね。駅じゃないところで電車が急に止まって……子どもの頃、そうした風景を見た記憶が印象に残っているんです。なぜかはわからないのですが。

ローカル線って、時々変なところに止まるじゃないですか、その時は富山だったかな、いきなり何もないのに、ずっと電車が止まってしまって。でも扉は開いていて、外を見ると田んぼだった、という景色をすごく覚えていて。

―― 「みどりおとこ」(注4)など象徴的なモチーフが出てきますが、はじめから正体などを考えて書かれたのでしょうか?

恩田 いいえ、書きながら考えていったように思います。書きはじめた当初から、「みどりおとこ」について、「この人はいったい何なんだ?」ということをずっと考えていました。『七月~』から先に書いていたのですが、本当にちゃんと世界設定が見えるようになったのは、『七月〜』の終わりくらいですね。

『八月~』を書き終えて、「みどりおとこ」は何なのかがようやくわかりました。書きながら考える、という執筆スタイルは普段から多いのですが、この作品もそうでしたね。自分でも最初のシーンは、ここはどういう世界なのかわからなかったので、探りながら書いていました。

注4:みどりおとこ
『七月に流れる花』『八月は冷たい城』の鍵となる人物。髪も顔も手も足も緑色。恩田さんが2007年に発表した短編集『朝日のようにさわやかに』に収録された「淋しいお城」にも登場する。

―― わからないまま書くのは、怖くないですか?

恩田 色んな意味で怖いです(笑)。ちゃんと辻褄が合うのか、とか、ちゃんとオチが作れるのか、とか。でも逆に、自分でも手探りでいるというのは、登場人物の心情とシンクロすることができるので、自分も書いていてドキドキしますね。まぁ、色んなドキドキがあるんですが(笑)。

―― そうなんですね(笑)。

恩田陸×酒井駒子の最強タッグ!

―― 今回、酒井駒子さんが表紙、挿絵を描かれていますが、どういった経緯で酒井さんにご依頼することになったのでしょうか?

恩田 元々酒井さんのファンで、以前も本の表紙(『蛇行する川のほとり』)をお願いしたことがあります。甘さと暗さのバランスが素晴らしいですよね。今回も、この小説にぴったりだと思い、お願いしました。

蛇行する川のほとり(恩田 陸)

『蛇行する川のほとり』 恩田 陸

―― 挿絵もすごく物語と合っていて、本当に引き込まれたのですけれども、このシーンを描いてください、といった打ち合わせはあったのでしょうか?

恩田 挿絵のシーンは、すべて酒井さんにお任せしました。どれも美しくて、はじめて見たとき感激しました。挿絵の刷り色もいろんな色があって綺麗ですよね。あの色味は、装丁家の祖父江さんと藤井さんが選んだものです。

―― 元々ファンだったとのことですが、酒井さんの本で1冊おすすめをあげるとしたら何でしょうか?

恩田 酒井駒子さんの絵は全般的に好きなので、どの本も好きですが……しいてあげるなら『よるくま』です。

よるくま(酒井 駒子)

『よるくま』 酒井 駒子

当時の自分と似たような読者に向けて

―― 今回2冊を出版したレーベル、講談社ミステリーランドのコンセプトは「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」と伺いました。今回の作品が今まで書かれたものの中で、一番低年齢向けのものになりますか?

恩田 そうですね。最初から「児童文学」とうたったのは今作が初めてでした。大人って、なるべく子どもに嫌なものを見せないようにしますけれど、子どもって薄々感づいていたりするじゃないですか。だから、そういうものもひっくるめて提示したいというか、「世界は残酷だけども、その残酷なところも含めて美しい」っていうのが裏テーマになっていることに、書き終わってから気がつきました。そういうことも含めて、世界の一端に触れてほしいというか。そんな思いはどこかにあったのかな、と。まあ後付けのようなものですけれども。

―― 小学生にすすめるとしたら本作、というところでしょうか。では、中学生に自作をすすめるとしたら何でしょうか?

恩田 この二冊も、どの年齢の方にも読んでいただける小説なので、難しいですね。あとは、中学生でしたら、学園ものでしょうか。『六番目の小夜子』が入りやすいかな。もしくは『上と外』。中学生が主人公ですし。作品を書くときにあまり読者の年齢を意識したことがないんです。

こういう小説が好きな子は、小学生でも中学生でも見つけ出して読んでくれるでしょうし。ですので、年齢層というよりは、必ずどの世代にも一定数いるダークなものやミステリー、幻想的な物語が好きな人たちに向けて書いている気がします。

―― 今回の作品を読んだ後に恩田作品を読むとしたら、次は何がいいでしょうか?

恩田 『七月~』『八月~』が好きな人であれば、ゴシックな世界観の『麦の海に沈む果実』はいかがでしょうか。ミステリーの『ユージニア』もいいと思います。あれもダークな話だし、すんなり入っていただけるんじゃないかなと。

麦の海に沈む果実(恩田 陸)

『麦の海に沈む果実』 恩田 陸

ユージニア(恩田 陸)

『ユージニア』 恩田 陸

ミステリーランドと宇山日出臣さんへの想い

―― 続いて、ミステリーランドに関する質問をさせていただきます。宇山日出臣さんがミステリーランドを企画されたかと思うのですが、宇山さんとはどういったお話をされたのでしょうか?

恩田 最初に、宇山さんがケストナー(注5)の『わたしが子どもだったころ』という本をミステリーランドに参加する作家皆に送ってきてくださいました。子どもの頃の自分に読ませたいようなもの、っていうテーマを宇山さんは考えてらっしゃったと思うんです。それがすごく印象に残っていますね。

ケストナーって、反骨精神を持った人で、戦争にもちゃんと反対したんですよ。だから、そのケストナーの作品を送ってくれたのは、綺麗ごと抜きで、子どもだったころの自分に向けたものを書いて欲しいのだという意図を理解しました。だから、ミステリーランドの他の作品も、(対象とする読者年齢の割には)結構残酷なものも多いですよね。私もあえて易しい文章にはしなかったし、子どもの頃の私と、今の子どもたちに向けて書いたつもりですし、達成できたかなと思います。

注5:ケストナー(1899~1974)
エーリッヒ・ケストナー。『飛ぶ教室』などの児童文学で知られるドイツの小説家。第二次世界大戦中にファシズムを非難したため、ナチスに執筆を禁じられた。

―― 講談社に宇山さんが入られたのも、中井英夫さん(注6)の『虚無の供物』を文庫化したい!という思いからとのことで、繋がりがあるなと。

恩田 そうなんですよね。私自身、子どもの頃夢中になって読んでいた「講談社文庫」は、宇山さんが作ったものばかりだったと後から知りました。あれもそうだったのか、これもそうだったのかと。今回2部作を刊行することで、やっと宇山さんに恩返しが出来たかなという想いがあります。願わくば、この2作を読んだ子どもたちの中にも、「自分もトラウマを与えてやるぞ!」と思う人が増えてくれるといいなと強く思っております(笑)。

注6:中井英夫(1922~1993)
推理小説や幻想文学の分野を中心に活躍した小説家。詩人、短歌編集者としても活動。代表作『虚無への供物』は、小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』、夢野久作の『ドグラ・マグラ』と並び、三大奇書のひとつに数えられている。恩田さんは小学6年の時に『虚無への供物』を読んだとのこと。

虚無の供物(中井 英夫)

『虚無の供物』 中井 英夫

八月は冷たい城(恩田 陸)

『八月は冷たい城』 恩田 陸、酒井 駒子

Photographs by Yoko Yamashita
at Roppongi Bar14

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プロフィール

恩田陸
恩田陸
小説家

(おんだ・りく)一九六四年宮城県生まれ。蠍座。A型。第三回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となった『六番目の小夜子』で九二年にデビュー。二〇〇五年『夜のピクニック』で第二六回吉川英治文学新人賞と第二回本屋大賞、二〇〇六年『ユージニア』で第五九回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集賞を受賞。他の著書に『夢違』『夜の底は柔らかな幻(上・下)』『ブラック・ベルベット』『消滅 - VANISHING POINT』『蜜蜂と遠雷』などがある。ミステリー、ホラー、SF、ファンタジーなどあらゆるジャンルで、魅力溢れる物語を紡ぎ続けている。

ライターについて

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大場諒介

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒
いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中

プロフィール

恩田陸
小説家

(おんだ・りく)一九六四年宮城県生まれ。蠍座。A型。第三回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となった『六番目の小夜子』で九二年にデビュー。二〇〇五年『夜のピクニック』で第二六回吉川英治文学新人賞と第二回本屋大賞、二〇〇六年『ユージニア』で第五九回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集賞を受賞。他の著書に『夢違』『夜の底は柔らかな幻(上・下)』『ブラック・ベルベット』『消滅 - VANISHING POINT』『蜜蜂と遠雷』などがある。ミステリー、ホラー、SF、ファンタジーなどあらゆるジャンルで、魅力溢れる物語を紡ぎ続けている。

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