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特集!あの人の本棚
251.

石井 朋彦   (アニメーション映画プロデューサー)


鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド

石井 朋彦
「鈴木敏夫」という4文字を見て、スタジオジブリを想起しない人はまずいないだろう。そう、鈴木氏は『風の谷のナウシカ』から『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』など、スタジオジブリの大ヒット作を担当したプロデューサーである。

そんな鈴木氏の下で学び、徹底的に「仕事術」を叩き込まれたひとりに、石井朋彦氏がいる。『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』にプロデューサー補として携わった石井氏は、鈴木敏夫という偉大なプロデューサーの背中をただひたすら追いかけ、怒られ、苦悩しながら、6年間かけて鈴木氏の仕事術を身につけたという。

その仕事術を赤裸々に書いた書籍があるとしたら、興味が湧かないだろうか。まさにその一冊が、今回紹介する『自分を捨てる仕事術』である。その仕事術のエッセンスを紹介したい。
鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド

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現代の流れに逆行する鈴木氏の教え

本書には、鈴木敏夫氏、宮崎駿氏といった稀代の職人がいかにして生まれたか。その仕事のエッセンスが詰まっている。そして、それを引き継ぎ、石井朋彦というプロデューサーも生まれたというのだから、注目が集まるのも理解できる。

しかし、「個性」を尊重する現代社会において、「自分を捨てる」というタイトルに、いささか疑問を抱く人もいるだろう。あるいは、その考え方を受け入れることで、個性を手放す、諦める、妥協することになると感じる人もいるかもしれない。

しかし、読み進めていくとわかるのだが、『自分を捨てる仕事術』は鈴木氏の経験に裏打ちされた理論のあるメソッドであり、決して精神論ではない。自分を捨てることを継続することは、自らが成長するプロセスそのものなのだ。そして、その過程でしか見つけられない2つの要素こそ、現代社会を生きていく上で大切な強みになると気づかされる。

自分を捨てるために必要なこと

では、実際「自分を捨てろ」と言われて何をすればいいのか。端的に言えば、「誰かを真似すること」が自分を捨てることのはじまりになる。

例えば新しい企画書を出さなければならないのに、全く案が浮かばない。何回も会議を行っているけれど、取引先が縦に首を振ってくれないなど、あらゆる場面で仕事に行き詰まりを感じることがあるだろう。

そうしたときに、自分の中に解決策を求めても、そこにはよく知っている自分がいるだけで、糸口を見つけることは難しい。今の自分が持っていないもの、今の自分に必要なものは、自分以外の他人の中にあるものだ。だからこそ、利己的に他人を真似して、ヒントを得ることが必要になってくる。

ここで注意しておきたいのが、真似るのは“型”という点だ。本書でも石井氏が忠告しているように、真似ることができるのは言動だけで、思考を真似ることは難しい。

言動は目で見て、耳で聞こえるものだから、相手のやり方を真似することができる。しかし、思考は相手の頭の中で行われているもの、つまり目でも耳でも捉えることができないものだから、真似しようがないのだ。

もちろん、言動を真似ることで相手の思考に近づくことは可能である。そのため、思考を理解する上でも、言動、つまり型から変えていくことが必要になる。

言葉、動き、服装、持ち物……
何をどうしているのか、そのやり方をひとまず真似てみる。

例えば、自分が営業マンのひとりで、成績優秀な営業マンの真似をしようと思ったとき、身なりから真似するというのもひとつの手段である。スーツの色から鞄のメーカーまで真似てみる。訪問先での話の切り出し方を真似てみる。メールと電話の使い分けも、好んで飲むお酒やよく行くお店も真似てみる。自分の琴線に触れる相手であれば、とことん真似をするのだ。

鈴木氏の教えの中で、石井氏も驚いた真似の技術のひとつに、「意見を真似る」というものがある。他人の意見を真似るなんて、まるで仕事をしていない人間のようにも見えるが、そうではない。いろいろ交わされた議論の中で、「1番優れている」と思える意見が他人のものであれば、それを取り込むことも厭わない。

無論、その意見が自分のものではなく、他人の意見であるということははっきり言及した上で、話を進めていく必要はある。自分の意見に固執して話が停滞してしまうよりは、総合的に判断してその場で最も重要だと思える意見と関連づけて話を組み立てた方が、より生産的だからだ。

真似したいと思うきっかけや相手は、決して前向きなものだけではない。“すごい”“かっこいい”という尊敬から生じる場合もあれば、“悔しい”“負けたくない”という劣等感から生じる場合もある。それを受け入れて真似することも、「自分を捨てる」上では必要な要素になってくる。

石井氏は、同じプロデューサーとして数々のヒットを飛ばし、劣等感さえ抱いていた川村元気氏さえも真似する。一見、売れているプロデューサーの真似をするなんて、同業者としてプライドがないように感じるかもしれない。しかし石井氏は、当時から売れていた川村氏に対して「自分にないものを持っている」と考えたのだ。そこで「真似る必要があると思った」というのが、その後成功を収めた石井氏の言葉である。

真似をすることで見えてくる2つのこと

そうして、自分を捨て、真似をすることで見えてくるのが、何にも代えがたい2つの要素だ。

ひとつ目は、個性である。

石井氏の言葉に、「盗むのだ。盗んで手に入れたものを使って、自分のために、相手を利用してやるんだ」というものがある。

真似をすることは今までの自分を否定するわけではない。自分の型に捉われることなく、他人の型を受け入れることによって今までの型を崩し、新しい型を自覚する。わかりやすい表現で言えば、必殺技を増やしていくイメージに近い。

石井氏はさらにこう教えてくれる。

「いったん、自分を空にして真似してみる。そのなかで、自分のなかに残るものだけを、『必要なもの』だと判断し、なじまなかったものはきっぱり捨てる」

型を真似ることで、できないと思っていたことができるようになることもあれば、はじめて知るやり方もある。そうやって、やれることが増えていく中で、どうしても真似できないことも出てくる。同じようにやれるけど、何か違和感が残ったり、ちょっと無理しないとできなかったり、全く真似できなかったり。

そういう「真似をしてみたけれどできなかったこと」は、潔く諦めることも必要になってくる。そうして真似できる型、真似できない型を自覚していくうちに、どちらにも当てはまらない型が自分の中にあることに気づくのだ。

それこそが、本当の強みとなる自分の個性である。

石井氏は自分の「核」を両親だとしているが、その答えに行き着く前に、こうも言っている。

「自分なんてどこにもいない。
自分のなかには何もない。
何かあるとしたら、それは外、つまり他人のなかである」

確かに、個性は存在する。しかし、それは自分と向き合うことで手に入れられるわけではなく、他人と向き合うことではじめて見出せるものなのだ。

そしてもうひとつは、本質を見抜く力だ。

ひとくちに他人を真似るといっても、真似できるようになるまでの道のりは決して簡単ではない。それは、己の考えに囚われ苦悩する石井氏の姿として、本書でも十二分に描かれているが、鈴木氏の教えによって今まで石井氏の常識を覆していくところに、石井氏本人および読み手の発見と成長がある。 顕著な例として挙げられるが、「人を肩書きで判断しろ」という部分だ。

通常、「人を肩書きで判断するな。本質を見ろ」と言われるが、ここではそうは言われない。むしろ真逆のことを言われる。本書に綴られた鈴木氏の独自の持論を紹介しよう。

鈴木氏の言う「人を肩書きで判断しろ」という言葉には、相手が「どういう立場にいて、何ができる人なのかを知ることが大切だ」という意味が含まれる。そして、「その人と、これからどのような仕事ができるのかを客観的に判断する」ことが何よりも重要であることだと教えられる。

つまり、「肩書きを持った何かができる人」がいなければ仕事は成り立たず、「肩書きも持たない何もできない人」と飲み歩いても時間の無駄だという理論だ。

そういう目を持たなければ、化学反応は起こらない。化学反応が起こらなければ、一緒に仕事はできない。だからこそ、「相手の立場」と「力」から仕事の可能性を見極める必要性があるのだ。

一見、鈴木氏の無茶とも思えるような教えに対して、ただひたすら真似をしていく石井氏の実体験。そこには「今、必要とされるモノ」が何であるかという、本質を見抜く力を得る手がかりがある。それこそが、今の世の中を生き抜いていく上で必要なものだ。

本書には他にも、現代を生き抜くビジネスマンに役立つノウハウがいくつもある。それらの教えを目にして、思わず首を捻ってしまう場合もあるだろう。だがそれは、「まだ自分を捨てられていないからだ」、と鈴木氏と石井氏に言われるに違いない。

自分の価値観がわかる「月島雫タイプor魔女のキキタイプ」

最後に、鈴木氏が好んでよくする質問をしたいと思う。

鈴木氏はジブリ作品のヒロインを例にとり、「世の中には2種類の人間がいる」ということを説明するのだが、あなたはどちらのタイプが好きだろうか。

まずは「人生やキャリアに夢と目標を持ち、そこに向かって突き進もうと頑張るタイプ」。『耳をすませば』のヒロイン、月島雫がそのタイプだ。好きな男の子がバイオリン職人を目指しているのに影響を受けて、自分も好きな読書の分野で頑張り、小説家になろうと決意する。

一方、「人生やキャリアにおける夢や希望よりも、自分に与えられた目の前の物事を一つひとつこなすタイプ」。『魔女の宅急便』のキキがそれに当てはまる。親から受け継いだ“魔女”という血、つまり能力を生かしてどう働くか考え、宅急便を開業。その仕事をこなしていく中で挫折を味わい、出会いと学びを通して飛べなくなった自分を乗り越えていく。

鈴木氏は、ことあるごとにその質問を繰り返しては、キキの生き方が好きだと語っているそうだ。その理由はお分かりになるだろうか。本当に才能があるかわからない中で、夢や希望にしがみつき、自分のやりたいことに向かってがむしゃらに頑張る月島雫のような生き方をするのか。それとも、他人と向き合いながら今の自分に求められていることを考え、自分のできることをひとつひとつこなしていくキキのような生き方をするのか。

後者を選んだ人にはもちろん、前者を選んだものの「自己流の壁」にぶつかっている人には、本書『自分を捨てる仕事術』がきっと道を開く1冊になるだろう。

自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド

『自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』 石井 朋彦

https://honto.jp/ebook/pd_28209236.html?cid=eu_hb_bizb03_106

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プロフィール

石井 朋彦
石井 朋彦
アニメーション映画プロデューサー

1977年生まれ。1999年スタジオジブリ入社。「千と千尋の神隠し」からプロデューサー補として、鈴木敏夫氏のもとで仕事を学ぶ。ジブリ退社後、多数のアニメーション作品を企画・プロデュース。現在は、株式会社クラフター取締役プロデューサー。2016年8月発売の『自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』が初めての著書となる。

ライターについて

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hontoビジネス書分析チーム

本と電子書籍のハイブリッド書店「honto」による、注目の書籍を見つけるための分析チーム。ビジネスパーソン向けの注目書籍を見つける本チームは、ビジネス書にとどまらず、社会課題、自然科学、人文科学、教養、スポーツ・芸術などの分野から、注目の書籍をご紹介します。

丸善・ジュンク堂も同グループであるため、この2書店の売れ筋(ランキング)から注目の書籍を見つけることも。小説などフィクションよりもノンフィクションを好むメンバーが揃っています。

プロフィール

石井 朋彦
アニメーション映画プロデューサー

1977年生まれ。1999年スタジオジブリ入社。「千と千尋の神隠し」からプロデューサー補として、鈴木敏夫氏のもとで仕事を学ぶ。ジブリ退社後、多数のアニメーション作品を企画・プロデュース。現在は、株式会社クラフター取締役プロデューサー。2016年8月発売の『自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』が初めての著書となる。

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