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特集!あの人の本棚
267.

渡部恒雄   (米シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」非常勤研究員、「笹川平和財団」特任研究員)


米国政治ウォッチャーが語る、トランプ政権のキーパーソンから見たアメリカの行方(インタビュー)

渡部恒雄
トランプ政権の動向が注目されている。過激な発言や行動は大統領就任後もとどまらず、メキシコ国境の壁建設や難民・イスラム教7カ国の入国を拒否する大統領令へのサイン、トヨタ批判ツイート、さらには米中首脳会談最中のシリア爆撃など、常に物議をかもして、目を離せない。

果たして、「トランプのアメリカ」はどこに向かうのか。アメリカの有力シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」に10年間、在籍した米国政治ウォッチャーの渡部恒雄氏は、政権内には「革命派」と「現実派」が混在し、せめぎあいが続いていると語る。

現在は笹川平和財団の特任研究員として、日米関係や安全保障問題など幅広い分野で活躍中の渡部氏に、トランプ政権のキーパーソンという切り口から、今後の行方について、語っていただいた。
米国政治ウォッチャーが語る、トランプ政権のキーパーソンから見たアメリカの行方(インタビュー)

トランプ政権の読めない行方

私は1995年から2005年までの10年間、アメリカのシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」で研究員をしていました。アメリカでは、このCSISやブルッキングス研究所のような有力シンクタンクが、次官補といわれる局長以上の政府高官の人材供給源となっています。

そして、4年ごとの政権交代のたびに、このような有力シンクタンクから、専門家が政権に出入りしています。ですから、シンクタンクで仕事をしていると、誰がどんな政策を研究しているかわかり、彼らがポストについたあとどのような政策をとるかもだいたいわかる、というような状況です。ところが、トランプはこれを拒否しています。

それでどこから人材を採っているかというと、閣僚は「3G」から多く起用しています。3Gというのは、ゴールドマン・サックス出身の金融系ビジネスマン、ジェネラルズ(将軍)すなわち軍人、ガジリオネアとよばれる億万長者のさらに上を行く富豪です。

しかし専門家の起用が必要な局長級は空席のままです。これはかなりの問題なのですが、今後、どうなっていくのか、まだわかりません。

トランプ政権というのは本当に読めません。しかもトランプ自身が、読まれないことがよいことだと思っています。トランプの自伝は、原題を『The Art of the Deal』というのですが、これはつまり「取引の技術」という意味です。トランプはこの本の中で、「相手方に自分の手の内を見せないことが非常に重要で、それによって、自分は利益を大きくできる」ということを言っています。

トランプ自伝 ― 不動産王にビジネスを学ぶ

『トランプ自伝 ― 不動産王にビジネスを学ぶ』ドナルド・J. トランプ, トニー シュウォーツ

https://honto.jp/netstore/pd-book_02964335.html?cid=eu_hb_bizb03_124

トランプを勝利に導いた「異質」な政策軸

トランプはいろいろな面で異質な大統領です。それは大統領選挙での政策軸にもあらわれていました。彼の政策は予備選で戦った他の共和党候補者とは大きく異なり、貿易に関しては保護主義でTPP反対、軍事介入に関してもイラク開戦を徹底的に批判していましたし、シリアの内戦には不介入の立場でした。これはむしろ、民主党の主張に近いです。

ただ、この微妙な立ち位置が、大統領選で功を奏したともいえます。全米の得票数では、ヒラリー・クリントンのほうが300万票以上勝っていました。

ところがアメリカは選挙区ごとに過半数を獲得した候補者が、その選挙区に割り当てられた選挙人数を獲得し、その総計が多いほうが当選するルールなので、全米の得票数で過半数を獲得しても、選挙人の獲得数では逆転されることも起こります。これが今回です。2000年のブッシュ対ゴアも同じことが起こりました。

今回は、中西部のラストベルト(さびついた工業地帯)といわれるオハイオ州、ペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州において、トランプ候補がすべて勝利して、全米の選挙人の総計でクリントン候補をひっくりかえして、勝利しました。

中でもミシガン州は過去30年、民主党候補がずっと勝っていたところです。GM(ゼネラルモーターズ)というアメリカの自動車産業のお膝元でもあり、関連部品工場も多く、労働組合が強いので、民主党候補者が非常に強い場所でした。

ところが、トランプは共和党候補なのにTPP反対で、労働者を守ると言っていた。さらにイラク戦争反対だと言っている。一方、民主党のヒラリー・クリントンの方は、伝統的な民主党候補者よりも、自由貿易や軍事介入の支持度が高いという「逆転現象」が起きていました。

このため、「クリントンよりトランプのほうが、アメリカを変えてくれるかもしれない」ということで、それまで民主党候補を支持していた白人の労働者層がトランプ支持にまわりました。

加えて、伝統的な共和党支持の人の支持も得られた。共和党の支持者は、民主党よりもはるかに党への忠誠心が高く、基本的に共和党に入れます。彼らは、トランプが嫌いだからといって、間違っても、ヒラリー・クリントンには入れません。副大統領に指名されたマイク・ペンスの存在も大きかったといえます。

日本にとって重要なペンス副大統領の役割

ペンスは、イラク戦争を開戦から一貫して支持しています。また自由貿易を支持し、本来はTPPも賛成です。また、キリスト教保守派で、家族の価値観を大事にしています。つまり、トランプとは正反対で、共和党の基本的価値観を体現しているのです。

ですから、トランプはあぶないけれど、ペンスがいるから大丈夫ではないかと考えた共和党支持者は多かった。それに、トランプが途中でやめたら、ペンスがやることになるからまあいいだろう、という安心感もありました。

ペンスは国際的な軍事介入も支持していますから、当然、同盟国支持で、自由貿易支持です。下院議員を長く務めた後、インディアナ州知事を経験していました。インディアナ州というのは日本企業からの投資が多い州です。ペンス自身、州知事として来日し、日本企業からの投資の誘致も行っています。日本の経済界では彼と面識のある人も多いです。

今年2月、日米首脳会談のときに、麻生太郎副総理とペンス副大統領が会談による、「経済対話」の枠組みの設置に合意しました。そのように話をもっていった安倍総理は、なかなか上手かったと思います。

日本としても、最後は彼がトランプのかわりをやってくれるといいな、というところでしょう。私でしたら、トランプにアドバイスしたいですね。「日本には、石原慎太郎元東京都知事といういいモデルがあるよ。週に数日しか都庁に行かないで、あとは副知事に全部まかせて、楽だよ」と(笑)。

いずれにしても、トランプ政権には、予備選の早い段階からトランプの過激な主張を支持してきた革命派と、共和党本流の現実派の両方が参加しています。共和党は一枚岩ではないということが重要で、政権内も割れています。革命派が勝つのか、現実派が勝つのか、今はまだせめぎあいをしているところです。

キーパーソンとなるイバンカ・トランプと夫のクシュナー

その中で、そのどちらでもないのが、トランプの娘のイバンカ・トランプと夫のジャレッド・クシュナーです。この2人のことは、日本も大事にしたほうがよいと思います。

アメリカではよく、トランプの精神状態は自己愛性人格障害の傾向があるといわれています。こういう人はビジネスマンや芸術家として成功するケースが多いといわれる一方で、コンプレックスも持っており、他人の意見を素直に受け入れることができず、批判に敏感で、いやな話を聞きたくないという自己中心的な性格だと指摘されます。

では、そのような人物と話をしたいときはどうするか。私でしたら、その人が目の中に入れても痛くないほどかわいがっている人を通じて話をします。それがイバンカ・トランプです。トランプは子供の中でも一番、彼女が好きだと公言し、「娘でなかったらデートに誘っていた」と話しています。

それにこの2人はリベラルなニューヨーク知識人で、クシュナーは伝統的なユダヤ教徒であり、イバンカは結婚の際にユダヤ教に改宗している。リベラルなユダヤ系知識人というのは、かつてのナチスによるホロコースト(ユダヤ人の大量虐殺)の経験から、デモクラティックな価値を切実に大切にしています。

ちなみに、イバンカ・トランプはクリントン夫妻のお嬢さんのチェルシー・クリントンとは学生時代からの友人です。トランプ自身ももともと民主党員で、クリントン夫妻に献金したりもしていました。

政権内の「革命派」の人たちに対し、彼らがある種の「安全弁」になるのではないかと思っています。日本人のビジネスマンとも付き合いがありますので、日本にとっても大事なラインだといえるでしょう。

「革命派」の頭目、スティーブ・バノン

さて、「革命派」の代表、スティーブ・バノンです。彼は大統領選で、トランプの女性蔑視発言で人気が低下していた渦中の2016年8月に選挙対策本部の最高責任者となり、支持率下落を食い止め、影響力を発揮しました。現在、政権の要となる上級顧問兼首席戦略官のポジションについています。

本人は地方に住む白人の労働者層へのシンパシーを持ち、反エスタブリッシュメントの思想を持っていますが、実はハーバードビジネススクールを出て、ゴールドマン・サックスにもいました。「となりのサインフェルド(原題:Seinfeld)」というテレビ番組に投資して成功し、資金をつくり、オルタナ右翼ともいわれる過激な保守系のウェブサイト「ブライトバートニュース」を主宰していました。

彼はスーツを着るのが嫌いだそうで、写真でもよく、ラフな服装で映っています。それは、彼が、アメリカの庶民の気持ちと連帯しているということを体現しているのかもしれません。実際、今のアメリカのリベラルな社会風潮に不満をもっている白人の中流から下の人たちの気持ちを、うまくくみ取る能力があるようです。

そして、白人至上主義なところがあり、米国は世界から食い物にされ、厳しい状況に追い込まれているというような、ダークな世界観を持っています。ダークというのは、言葉通り「暗い」という意味です。

彼は、アメリカ人の、特に白人はひどい目にあっていると思い込んでいます。実際は、経済は依然としてして世界一豊かですし、軍事力も圧倒的で、そんなにひどい状況にあるとは思えないのですが、アメリカは国家主権を他国や国際条約などに売り渡し、不利な貿易を強いられており、白人労働者が犠牲になっている。その典型がTPPだという考えです。

ですからTPPには断固反対で、「TPPを断念したのは歴史に残るたいへんな功績。アメリカはついに主権を取り戻した」という話を保守系団体のスピーチでしています。しかし現実は、自由貿易に背を向ければ、アメリカ経済の全体のパイは小さくなり、利益も減って、アメリカの影響力は下がっていき、労働者層が最初に不利益を被ることになるでしょう。

彼はあまり講演したり、発言をしたりしないので、何をやりたいのかよくわからないというところも、その存在が怖れられているところです。

同じくホワイトハウスの要となる大統領首席補佐官には、共和党全国委員長だったラインス・プリーバスが起用されています。彼は共和党の基本ラインの人で、バノンとは対立しているといわれ、今後、トランプ大統領がどちらの路線をとるかは、まだわかりません。

大統領側近ケリーアン・コンウェイ

トランプの「true believer(妄信者)」である「革命派」には、事実関係について乱暴な発言をする傾向が強いです。例えば、大統領顧問のケリーアン・コンウェイ。バノンと一緒に、トランプの選挙を支えた女性です。

大統領就任式の出席者数をめぐるエピソードで、こんな話があります。オバマ大統領の時は歴史的な多数の出席でした。それに比べれば、トランプの時は少なく、これは当然だと思うのですが、「true believer(妄信者)」の一人であるショーン・スパイサー報道官は「史上最大」と発表し、物議をかもしました。

実際、メディアがスパイサーの発言も矛盾を批判すると、ケリーアン・コンウェイは、「スパイサーが言っていることは、オルタナティブファクト(もう一つの事実)だ」と発言してさらに物議を醸しました。。

面白いといえば面白いのですが、問題は、政権内に事実が2つ以上あるということ、つまり、嘘を言ってもかまわないのだと、みなが思い始めているということです。これはかなり深刻な事態です。 加えて、冒頭で述べたように、この政権には、大統領が任命する専門家の政治任用が停滞しています。実は政権発足当初、5年前に大統領候補だったミット・ロムニーを国務長官にするという話がもちあがったことがありました。

彼が入れば、ロムニーの大統領選を手伝った共和党の専門家たちも自動的に入ることになったでしょう。しかし、前述のケリーアン・コンウェイが、「ロムニーは忠誠心がない。過去にトランプのことを偽物だと言っている」と批判し、この話は流れました。彼女の罪は重いと思います。

このころから、トランプ政権に入る人は、過去にトランプを批判していないかがチェックされるようになりました。そうなると、まともな人は基本的にトランプを批判していますから、政権に入れません。これが、トランプ政権の一番のネックとなっています。

ケガの功名、ティラーソン国務長官とロシアの謎

ただ、ロムニーのかわりに、レックス・ティラーソンを国務長官に起用したのは、「ケガの功名」でした。彼は石油メジャー最大手のエクソンモービルで、生え抜きでCEOにまでなった人です。きわめてまっとうな現実派かつ実務派で、国際状況もよくフォローしており、日米同盟の重要性も理解しています。

一つ、弱点はプーチンとかなり仲がよいこと。実はトランプはロシアに近づこうとしていて、共和党議会の主流派サイドから、懸念の声があがっています。

トランプとロシアの関係には、まだたくさんの謎があるのですが、トランプがどれほどプーチンと関係をよくしようと思っても、共和党本体は徹底的にロシアを警戒していますし、プーチンもそれほど簡単には歩み寄らないでしょう。なぜなら、今、プーチンが国内で人気があるのは、アメリカを手玉に取っていると思われているからです。

もしアメリカがプーチンと手を組むのであればたくさんの条件を飲まされかねません。クリミア半島併合やウクライナの親ロシア勢力への軍事支援、さらにはシリアにおけるアサド政権支持とロシアの軍事的特殊利益の承認が求められるほか、経済制裁も解除しなくてはならなくなるでしょう。

そんなことをすれば、中国に対して、武力による台湾との統一や尖閣諸島や南シナ海の領有権への武力による制圧を肯定するメッセージとなり、国際秩序は混乱します。トランプもそこまでやろうとは考えていないはずです。ならばなぜ、あれだけロシアに近づいているのか。これは今もって謎です。

また、トランプが税務申告を公表していないことについても、ロシアが関係している金が動いているのではないかという話があり、本当のところはわかりません。ロシアというのは、今後のトランプの方向性を見ていくためのキーワードになりそうです。

※本稿は「麹町アカデミア・遊学堂」主催の講演『どうなる?トランプのアメリカ』をもとに、「hontoビジネス書分析チーム」が執筆しました。(構成・編集:田中奈美)

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プロフィール

渡部恒雄
渡部恒雄
米シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」非常勤研究員、「笹川平和財団」特任研究員

東北大学歯学部卒業後、歯科医師となる。社会科学への情熱を捨てきれず米国留学、ニューヨークのニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチで政治学修士課程修了。1995年にCSIS(戦略国際問題研究所)入所。客員研究員、研究員、主任研究員を経て、2003年3月から上級研究員として、日本の政党政治と外交政策、アジアの安全保障、日米関係全般についての分析・研究に携わる。2005年に帰国し、三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団政策研究ディレクターを経て現職。現在、東京財団上席研究員、CSIS非常勤研究員、沖縄平和協力センター上席研究員を兼任。

ライターについて

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hontoビジネス書分析チーム

本と電子書籍のハイブリッド書店「honto」による、注目の書籍を見つけるための分析チーム。ビジネスパーソン向けの注目書籍を見つける本チームは、ビジネス書にとどまらず、社会課題、自然科学、人文科学、教養、スポーツ・芸術などの分野から、注目の書籍をご紹介します。

丸善・ジュンク堂も同グループであるため、この2書店の売れ筋(ランキング)から注目の書籍を見つけることも。小説などフィクションよりもノンフィクションを好むメンバーが揃っています。

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渡部恒雄
米シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」非常勤研究員、「笹川平和財団」特任研究員

東北大学歯学部卒業後、歯科医師となる。社会科学への情熱を捨てきれず米国留学、ニューヨークのニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチで政治学修士課程修了。1995年にCSIS(戦略国際問題研究所)入所。客員研究員、研究員、主任研究員を経て、2003年3月から上級研究員として、日本の政党政治と外交政策、アジアの安全保障、日米関係全般についての分析・研究に携わる。2005年に帰国し、三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団政策研究ディレクターを経て現職。現在、東京財団上席研究員、CSIS非常勤研究員、沖縄平和協力センター上席研究員を兼任。

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