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特集!あの人の本棚
270.

黒木渚   (ミュージシャン・小説家)


傷ついた人を描くマナー(黒木渚 インタビュー)

黒木渚
小説家、黒木渚がデビューした。2015年にはセカンド・アルバム『自由律』の限定盤特典という形で、初の小説『壁の鹿』を発表。そして2017年、文学界でのデビュー作となる『本性』は、3編の小説を収めた初の単行本だ。喉の治療により2016年夏から音楽活動休止中の彼女だが、本作から迸るエネルギーは紛れもなく彼女の「声」である。今回はメールインタビューという形で取材に応じてくれた。
傷ついた人を描くマナー(黒木渚 インタビュー)

現在はホンシェルジュで不定期連載中の黒木渚。大学・大学院で文学を専攻し、ポスト・モダニズム文学を研究していたという経歴については過去のインタビューで語ってくれたが、文学に造詣が深く読書家であると同時に、彼女の音楽の根底にある「型にはまらない自由さ」みたいなものが、『本性』からも感じられる。

本作に収録された「超不自然主義」「本性」「ぱんぱかぱーんとぴーひゃらら」。どの小説もイメージが勝手に浮かんでくるというか、見た目はこういう奴なんだろうなぁとか、地元のあいつに似てるよなぁとか、えせ占い師、新型メンヘラ、セックスレスの人妻、博打狂いの肉体労働者、クズ男に依存する風俗嬢など、むき出しの「人間」が濃厚に描かれている。

今回、そのフリーダムすぎる人間模様はどうやって生まれてきたのか、小説家・黒木渚にメールインタビューで回答してもらった。

官能的・暴力的なシーンほど集中して書いています

―― まずは『本性』を完成させた感想を聞かせてください。

黒木渚(以下、黒木) 『本性』の執筆中は『壁の鹿』を書いていた時期と状況が違っていたせい(おかげ?)でしょうか、完成の瞬間にもまだ書くことへの強い渇望がありました。創作することへの執着が化け物みたいに大きく育って、書くことまでもスケールアウトさせようとしてくるのを感じました。

―― 「超不自然主義」には占い師が出てきます。前回のインタビューで黒木さんは予言書を持ってきてくれましたよね。「良い予言をする人しか信じないですね。自分の未来は自分で決めたいと思ってるんで」と話してくれたことを思い出しました。

黒木 1時間1000円で他人に予言を授ける商売なんて、私には価値も思想もフワフワに感じるんですが、世の中にはそのフワフワに対する需要が結構あるんだということに驚きます。超不自然になりたいと思っている女が、超無責任で超インチキな占い師に超デタラメな予言を貰ってブーストしたらどうなるんだろうと考えたので登場させました。

―― 「超不自然主義」と「ぱんぱかぱーんとぴーひゃらら」のいずれもユンボ(ショベルカー)が出てきますが、重機というか産業用機械みたいなものに魅力を感じたりするんですか?

黒木 出身が宮崎なので産業用重機よりもどちらかと言えばヤンマーやクボタのような農業用重機との思い出の方が多いのですが、メカを操縦している場面を眺めるのは好きでした。工場でのライン製造の映像を見るのも好きです。

―― 「本性」ですが、主人公の恵を「超不自然主義」のサイコのような単身者にすることもできたと思うんですが、既婚者にしようと思ったのはなぜでしょう?

黒木 私が抱いている結婚に対する幻想と、既婚の友人達から聞くリアルな結婚生活があまりにズレていて衝撃的だったのがキッカケだと思います。「幸せな花嫁さん」というイメージが見事にぶち壊されました。そもそも「花嫁」というのは厳密に言ってしまえば結婚式の1日だけしか生きられない幻の生き物なのに、何故かいつまでも初々しい花嫁で居続けるような童話的な幻想を抱いていた自分に対し「君に現実が書けるかな?」と挑戦するような気持ちでした。

―― 未婚・既婚問わず、黒木さんが描く「男女あるある」って、読んだ本以外に、人から聞いた話とか実体験がベースになっているんですか? 

黒木 かなり取材する方だと思います。友達と食事してる時も会話を録音させてもらったりして参考にします。身の回りの人だけだと好きな人間のサンプルばかりになるので、全く知らない人のSNSを遡り癖や語彙をトレースしたりしてキャラ作りすることもあります。

―― 恵の言う「要するに、真実よりも演出なのだ」という一言が印象に残りました。恵とタクシー運転手の嘘は誰も傷つかない「嘘」だと思うんです。黒木さんは嘘は許せない方ですか? 場合によっては嘘も仕方ないと思う方ですか?

黒木 笑える嘘ならむしろ好きなくらいです。でも、しょうもない嘘は嫌いです。私の中には「情報伝達のための(ガチガチの記号として使う)言葉」と「あそびのための言葉」みたいな区切りがあって、私の好きな嘘はすべて後者に含まれています。前者の枠組みの中で嘘をつくのは、不誠実なことなので傷つきます。

―― 「ぱんぱかぱーんとぴーひゃらら」ですが、「本性」とはまた違うリアリティがあって生々しさを感じました。実際、自分の地元には、巨大なパチンコ屋が幹線道路沿いに無数にあり、平日の昼間からパチンコに夢中になっている人がたくさんいる。そういうところに出入りする人々に興味というか関心が、黒木さんの中にはあったりするんですか?

黒木 ありまくりです! 誰に対しても(モノに対してでも)この人はどういう気持ちで生きているんだろう?という興味があります。何かが欠けていたり堕落している人には特に、失望するようで羨ましいような、または見とれてしまうような瞬間があったりします。 

―― 究極のダメ男でもある岩崎のモデルって誰かいるんですか?

黒木 明確な個人のモデルはいません。取材や妄想をふまえて捏造した最強のクズという感じです。でもなんか憎めない。というか読書の皆さんには少しだけ愛されて欲しいと思ってしまいます。退廃的な生活の中でも彼の心には超合金のヒーローがいて、少年的なロマンと共に生きているのです。

―― ストーリー終盤の岩崎の「俺はおかしいか?」という世の中へ向けた心の叫びが炸裂する様はすごい迫力でした。ある種の衝動が岩崎を突き動かしているのがよく分かるんですが、黒木さんもこういうシーンを書いてるときはいつもよりテンション高ぶったりするのでしょうか?

黒木 官能的・暴力的なシーンほど集中して書いています。テンションが上がるというような目に見えて分かる興奮ではなくて、「無音の轟音」みたいに相反するものが激しくぶつかり合う圧力です。書き終えた後で何者かに対して「はぁはぁ……ざまあみろ!」と思います(笑)。

自分の手札をすべて消化してしまうことが良いと思う

―― 「超不自然主義」「本性」「ぱんぱかぱーんとぴーひゃらら」に出てくる、サイコ、恵、アッコという女性キャラクターたちは、皆それぞれタイプは違いますが、男性に依存していた、もしくは依存していますよね。“男女の関係”というのは、黒木さんが物語を書く上で大切なモチーフというか一要素だったりするんでしょうか?

黒木 恋愛の話って書くのが楽しいです。破滅的なものも、穏やなものも、「愛っちゃ愛やなぁ」といちいち確認しながら書くのが面白いです。

―― キャラはプロットありきで思い浮かぶんでしょうか? それとも先にキャラから思い浮かぶこともあるのでしょうか?

黒木 話を書く前に綿密なプロットとキャラデータを同時に作ります。プロットでは時系列順に物語を並べていますが、書きながら時間軸を組み替えて構成し直します。キャラデータはかなり詳細で、実際には小説に書いていない身体的特徴や家族構成、性格をつくる要素になった原体験なども妄想します。

―― 3編を通じて、それぞれの登場人物を物語が大きく包み込んでいる印象を受けました。今後、どんな小説を書いていきたいと考えていますか?

黒木 書いた本数もまだまだ少ないので、やみくもに思いついたものを書きまくって、自分の手札をすべて消化してしまうことが良いと思っています。これ書いたら人からどう思われるだろう、内容がキツくて嫌われてしまうかも、なんていうことは気にせず絞りカスになるまで出し切った後に見えるものは何だろうとワクワクします。

―― 前回のインタビューで「14歳からずっと日記を付けてるんですけど、それに面白かったこととかを書き溜めてて、それが今になって役に立ってるんですよ」と話してくれましたが、今回もその日記は役に立ちましたか?

黒木 役に立ちました! 冷凍保存されていた過去の語彙なども参考になったりして、やっぱり財産だなと思いました。

―― 音楽と向き合うことと、小説と向き合うことというのは、黒木さんの中でどう区別されているのでしょうか?

黒木 本質的は同じだと思います。好きなことを好きなだけつくって、正解を自分で見つけていく作業なので。どちらも最高に面白いです。早く音楽にも復帰したいなあ!と強く思います。

本性(黒木 渚) 壁の鹿(黒木 渚)
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プロフィール

黒木渚
黒木渚
ミュージシャン・小説家

宮崎県出身。大学在学中に作詞作曲を始め、2010年にバンド「黒木渚」を結成。文学研究にも没頭して大学院に進む。2012年、「あたしの心臓あげる」でデビュー。iTunesが選ぶ「ニューアーティスト2013」に選出された。2014年からソロに。アルバム『標本箱』(2014年)、『自由律』(2015年)をリリース。2016年のシングル「灯台」はiTunesのトップソングで4位にチャートインした。最新ライブDVD「黒木渚 ONEMAN TOUR『ふざけんな世界、ふざけろよ』FINAL 2016.06.03 東京国際フォーラム ホールC」が、オフィシャル通販限定にて発売中。
http://www.kurokinagisa.jp/

ライターについて

Writer 5
ホンシェルジュ編集部・芸術/芸能班

音楽、映画、アイドル、その他の芸術/芸能に詳しいライターによる班。もちろん皆が本好きだが、そのレベルや守備範囲はさまざま。日本のエンタテイメントのトップランナーを通じて、本/読書の楽しみへの入り口をつくりたい。あるいは本/読書という切り口を通じて、トップランナーの新たな一面を引きだしたい。

プロフィール

黒木渚
ミュージシャン・小説家

宮崎県出身。大学在学中に作詞作曲を始め、2010年にバンド「黒木渚」を結成。文学研究にも没頭して大学院に進む。2012年、「あたしの心臓あげる」でデビュー。iTunesが選ぶ「ニューアーティスト2013」に選出された。2014年からソロに。アルバム『標本箱』(2014年)、『自由律』(2015年)をリリース。2016年のシングル「灯台」はiTunesのトップソングで4位にチャートインした。最新ライブDVD「黒木渚 ONEMAN TOUR『ふざけんな世界、ふざけろよ』FINAL 2016.06.03 東京国際フォーラム ホールC」が、オフィシャル通販限定にて発売中。
http://www.kurokinagisa.jp/

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