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特集!あの人の本棚
277.

Predawn   (シンガーソングライター)


心のありかを探る読書体験(清水美和子 インタビュー)

Predawn
さまざまなプロフェッショナルの考え方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する思いなどから紐解いていくインタビュー。今回は、「音楽と本」にフォーカスしたライブイベント「Contexts」の第一回目に出演するPredawnこと清水美和子さんが登場。イベントの起案者であるマネージャーの方も同席し、会場となる神楽坂のライブハウスで話を聞きました。
心のありかを探る読書体験(清水美和子 インタビュー)

小鳥のさえずりのようにピュアで可憐な歌声と、1960〜70年代のポップ・ミュージックから90年代USオルタナティヴまで、様々な音楽的エッセンスを含んだサウンド&メロディ、そして、哲学的かつ文学的な歌詞世界を持つシンガーソングライター、清水美和子のソロプロジェクト、Predawn。昨年リリースされたセカンド・アルバム『Absence』も好調な彼女が、7月23日(日)に東京・神楽坂のライブハウス「神楽音」にて開催される新しいイベント「Contexts」に出演する。 第1回目である今回は、Predawnの他にベランダ、Alfred Beach Sandalが出演。「context=文脈」に重きをおくイベントということで、当日会場には“音楽家の本棚”と題したコーナーが設置され、出演者それぞれがお勧めする本が置かれるという。古い街並みと最先端ショップが交差する街、神楽坂で「音楽と本」を堪能する、素敵な一夜になりそうだ。 そこで今回、イベントに先立ち清水から「オススメの3冊」を選んでもらった。深い森のようなPredawnの音楽世界を、より深く知る手がかりとなるかもしれない。

役に立たないことこそ深く考えたいのかもしれない

――今日はどんな本を持ってきてくれました?

清水美和子(以下、清水) 今から紹介するのは、10代か20代の前半に読んだ時、「いつかまた読もう」って思って、すでに何度か読んだり、まだ読んでいなかったりする本です(笑)。まずは、最近また読み直して、もう3回くらい繰り返し読んでいるポール・オースターの『ムーン・パレス』。あらすじは……なんて言うんでしょう。1人の青年が主人公なのですが、ネタバレしないように話すのが難しい(笑)。とにかく、あっと驚く展開があるんですけど、読み終わって「これはいつかもう一回読まなきゃ」って思った本です。

――「もう一回読まなきゃ」って思ったのはなぜ?

清水 それは、読んでみてからのお楽しみですね(笑)。きっと、もう一度読んだら違う受け取り方、感じ方ができると思います。私が初めて読んだのは、主人公の青年と同じくらいの年齢だったんです、21歳だったかな。だから同じような目線で読めたんですけど、今はちょっと大人になって、主人公の向こう見ずなところも、懐かしいって思って読めるんじゃないかなと。ポール・オースターの作品は「日常に潜む歪み」とか、そういうモチーフが多くて。翻訳している柴田元幸さんの文体も好きで、いろいろ読んでいるんですが、初めに読む一冊としても『ムーン・パレス』はオススメです。

――柴田元幸さんは、チャールズ・ブコウスキー、スティーヴ・エリクソンなど、現代アメリカ文学、特にポストモダン文学の翻訳を数多くされていますよね。ちなみに原書を読むことも結構ありますか?

清水 そうですね。日本で出ていない本とか、もう絶版で手に入りにくくなってしまった本とか、たまに読むことはあります。すごく時間がかかってしまいますが(笑)。『ムーン・パレス』も以前、原書で読み返してみたことがあって。「ここの場面を、こんなにたくさんページ数を割いて描写していたんだな」っていう発見もあって楽しかったですね。

――続いてのオススメ本は?

清水 カズオ・イシグロさんの『わたしを離さないで』。カズオ・イシグロさんの作品は、最初に『日の名残り』を読んで、「これはクセになるな」と思って順番に手に取っていきました。『わたしを離さないで』も、オースターの『ムーン・パレス』と同様ティーンエイジャーのお話で、やはり若い頃に読んで、心を鷲づかみにされた思い出があります。まだ2回目は読んでないんですけど、いつか読みたいし、今読んだらどう感じるのか気になりますね。私、大学では哲学を学んでいたんですけど、「心のありか」みたいな、そんなところを考えながら読んでみたいなとも思います。

――きっと、物語の中にも哲学的な要素ってあるのでしょうね。

清水 そうですね。特に『わたしを離さないで』は、オリジナルの遺伝子を持つ人間と、ドナーとして生まれてきた子供たちのお話で、哲学的な切り口で読んでもいろいろ考えさせられるんじゃないかなって思います。

――「SF」という形を取っているからこそリアルに描ける抽象的な領域や、哲学的な表現というものも、きっとあるのでしょうね。

清水 それはあると思います。哲学でもよく、SFチックな設定とかあるんですよ。「思考実験」というんですけど、例えば「この世界は、5分前にできた世界であるということを否定できない」とか。「独我論」といって、「自分にとって存在していると確信できるのは自分の精神だけである」みたいな。それってちょっとSFチックですよね(笑)。

――そういう哲学的だったりSFチックだったりする発想は、Predawnの歌詞にも影響を与えていますか?

清水 そう……かもしれないですね。ぶっ飛んだ設定を通して、いろんな問題について考えることはよくあるので。もし、『私を離さないで』を読んで「いいな」と思った方は、『夜想曲集』も是非読んでみてほしいです。

――もう一冊は?

清水 大学生の頃、友人に勧められて読んだ大森荘蔵さんの『流れとよどみ 哲学断章』です。哲学書としては割と入門書的というか、書体は古いので最初はとっつきにくいんですけど、読み始めるとサクサク読めてしまう本です。大森さんが『朝日ジャーナル』に連載していたエッセイをまとめたものなので、一つ一つの章も割と短めで、でも読むと新しい世界観が得られるというか。説得力もすごくあって、腑に落とされてしまう(笑)。「あれ? 今まで思っていたことや、世界の見方って、何だったんだろう?」って。今でも、例えば自分が行き詰まったと感じた時などに読むと、別の考え方にスイッチできて「何だ、大したことないや」って思えることとか、ちょいちょいある気がします。

――清水さんが哲学を学ぶのは、やはり別の世界観や価値観、物の見方を取り入れたいと思うから?

清水 最初はそうだったのかもしれないですけど、今はどうだろう……。「哲学なんか、何の役にも立たないじゃないか?」っていう、おおよその見方には賛成なのですが(笑)。哲学って、いろんな学問に対して、「確かに役に立ってはいるが、なぜそれが正しいと言えるのか?」というところを追求していくもので、私はそういう役に立たないことこそ深く考えたいのかもしれないですね。当時の私には、何かについて深く考える手段が哲学でしかなかったというか。他に学びたいことがなかったとも言えますが(笑)。

――本書の中で、特に感銘を受けたところは?

清水 うーん、簡潔にいうのが難しいのですが、例えば私たちは「二元論的な見方」をしてしまいがちだと思うんです。これはあくまでも私の意見ですけど、手や足や目など、すべて二つずつあるし、「物質と精神」とか「善と悪」とか、そういう見方をついしてしまうんですけど、「実は違うんじゃないか?」というのが、『流れとよどみ』の切り口の一つなんです。

――なるほど。「もう一度、読み返してみたい本」ということで3冊チョイスしてもらいましたが、何か共通点もありそうですね。

清水 そうですね……ざっくり言うと、「心のありかを探る」というか。そんなところで共通しているんじゃないかなとは思います。Predawnの楽曲にも影響はありますね。『流れとよどみ』から引用というか、インスパイアされたフレーズもあるんです。「Sheep & Tear」という曲で(『A Golden Wheel』収録)、“African sunset”(アフリカの夕暮れ)と歌っているのがそれです。他にも、「JPS」という曲があって(同アルバム収録)、曲名はジャン=ポール・サルトルのイニシャル。彼の著書『嘔吐』にインスパイアされて歌詞を書きました(笑)。

――そういえば、清水さんがゲスト・ヴォーカルとして参加したRayonsの楽曲「Atarashii Hito (A Letter From Nowhere)」(『The World Left Behind』収録)は、オノレ・ド・バルザックの『谷間の百合』からインスパイアされて書いた歌詞でしたよね?

清水 あ、そうでしたね。最近、私はものすごくスローペースで、なかなか読み終わらない本を読んでいるんですけど、Rayonsさんのアルバムの歌詞を書いている時に読んでいた本がそれで、ふとあの曲のメロディに合わせたいと思ったんですよね。岩波文庫だったかな、すごく古い翻訳で読んじゃったので、すっごく難しくて。でも、現代語にしたら陳腐になってしまうのかな……って思いながら、苦労して読んだ記憶があります。

――Predawnの歌詞は、いわゆる普通のラブソングとは少し違う、ちょっと抽象的だったり難解だったりする部分もあって、そこがまた魅力的だと思うのですが、やはり清水さんの読書体験が大きく影響しているのでしょうか。

清水 そうなんですかね。でも、一番本を読んでいたのは大学生の頃ですね、体力もあったし。

――その頃は、哲学書から小説から児童文学まで、なんでも読んでいた?

清水 そうですね。でも、小学生の頃はビデオデッキとかの説明書を読むのが好きで……可愛くないですよね(笑)。なんか、いわゆるファンタジックな児童書とか、あんまり好きじゃなかったんです。少し経ってから、『赤毛のアン』とか読んだりしてたんですけど。

――それは意外です(笑)。ちなみに、ビジネス書や実用書なども読むことあります?

清水 これが、読まなくもないんですよ。本格的なビジネス書まではいかなくて、実用書ですかね。お恥ずかしいんですけど、すごく早起きが苦手なので、早起き系の本とか読んだこともあります(笑)。ただ、何冊か読んで試してみたんですけど全然ダメでしたね。数日しか効果はなかったです、残念ながら。

――(笑)そう言う実用書を除くと、普段はどんな基準で本を選んでいるんですか?

清水 それこそ大学生の頃から知っていて、「いつか読みたいな」と思っている本がたくさんあるので、それを一つずつ読破して行ったり、あとは本屋さんで「何これ!」って思って引っ張ってきたり。なので、「新刊が出たから買う」というのとはちょっと違っていて。音楽もそうですけど、なかなか新作まで追いつかないんです。

「文脈なき時代」に向けたイベントを

――さて、そんな本好きの清水さんにぴったりの音楽イベント「Contexts」が、神楽坂に新しくオープンしたライブハウス「神楽音」で開催され、その第一回目にPredawnが出演されるんですよね。これはどのような経緯で実現したのですか?

清水 元々は「神楽音」で働くことになった友人から、「オープン記念としてPredawnに出て欲しい」というオファーを頂いていたんです。オファーを頂いた段階では共演も日程も決まってなくて、でも、ワンマンをやるとなると、私の方でもいろいろと心の準備も必要で……(笑)。それで「どうしよう?」となった時に、マネージャーさんから「ブッキングも含めて、私がやりたいと思うイベントをやってもいいかな?」と。それで立ち上げてくれたのが、今回のイベントなんです。

――イベントのコンセプトをマネージャーさんからお話いただけますか?

マネージャー 個人的に「神楽坂」に対するイメージが、歴史を感じさせる古い街並みと、最先端のショップなどが交差した場所というものだったんです。同じようにPredawnも、古今東西の音楽を取り込みながら、オリジナルな楽曲を作り続けているアーティストだなと。そこで、ルーツを大事にしながら未来へと繋いでいくような、素敵な音楽を鳴らすアーティストをお呼びするイベントにしたいなと思ったんです。

――英語で“文脈”という意味の「context」をイベント名に掲げているのも、そういう思いが込められているのですね。

マネージャー はい。「文脈なき時代」と言われたりもするのですが、文化の表層を器用になぞっただけのような有象無象が溢れる今だからこそ、文脈に重きをおいたイベントをやりたいなと。イベント名にちなんで、本と音楽も連動させたくて。素敵なアーティストたちが、どんな本を読んでいたのかを紹介できたら、コンテンツの一つとしてお客さんに楽しんでもらえるのではないかと考えました。私自身も本が好きなので、アーティストが選んでくれた本に加えて、その本に関連付いた本をセレクトして会場に置こうと思っています。

――ありがとうございます。ところで清水さん自身は、Predawnの音楽を通じて自分のルーツや、好きな音楽のエッセンスなどを聴き手に届けたいという気持ちはありますか?

清水 その辺り、あまり整理されていなくて……むしろ、整理され過ぎて「私、こんな音楽が好きでやってます」っていうのが出てしまうのも、自分がやる音楽としてはどうなのかなと思っていて。なるべく自分の中で消化して、新しい音楽として出したいという気持ちの方が、強いかもしれないですね。

――Predawnの音楽はシンプルなのにとても豊かに響くのは、清水さんの中に蓄積された様々なルーツ音楽が、Predawnというフィルターを通して聴こえてくるからなのでしょうね。

清水 そうだといいなって思います。

――昨年、セカンド・アルバム『Absence』をリリースして、今はどんな活動状況ですか?

清水 割と毎週のようにライブをやったり、地方のイベントに出たりしながら、ちょいちょい曲を書いています。あとは、秋にツアーをやるので、それに向けての準備を……まだしていないのですがこれからやります(笑)。あとは、相変わらずダラダラしていますね。

――すでにライブでは新曲も披露していて、それも素晴らしかったのでサード・アルバムも楽しみにしています。

清水 ありがとうございます。ただ、あんまり新曲をライブでやり過ぎると、アルバムを出すときにみんなが知っている曲ばっかりになっちゃうってことに、今更ながら気づきまして……(笑)。これからは、もう少し小出しにしていこうかなと。そういう知恵も最近は働くようになりました(笑)。

Photographs by Takanori Kuroda

ムーン・パレス(ポール・オースター) わたしを離さない(カズオ・イシグロ) 流れとよどみ―哲学断章(大森 荘蔵)
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プロフィール

Predawn
Predawn
シンガーソングライター

シンガーソングライター、清水美和子のソロプロジェクト。1986年、新潟県生まれ、東京都郊外育ち。2008年からPredawn という名前でソロ活動を始める。完全自主制作盤として「10minutes with Predawn」をライブ会場と一部店舗で販売し、1年半で約2000枚を完売させる。2010年6月に、作詞・作曲・演奏・歌唱・録音をすべて一人で行った、1stミニアルバム『手のなかの鳥』をリリースし、日本全国でロングセールスを記録。その後、数々の大型フェスやライブ活動を重ねつつ、2013年3月に1stフルアルバム『A Golden Wheel』をリリース。発売した初週にオリコンインディーズチャートで1位となる。2016年9月に2ndフルアルバム『Absence』を発表した。また、Rayons、andymori、QUATTRO、Eccy、Marble Sounds[ベルギー]、Turntable Films、菅野よう子、TOWA TEI、大野雄二など、錚々たるアーティストの楽曲へのゲストヴォーカル参加、木村カエラとのコラボ、映像への楽曲書き下ろしなど、多岐にわたって活躍している。
http://www.predawnmusic.com/

「Contexts 1」
出演 Predawn / ベランダ / Alfred Beach Sandal
2017年7月23日(日)
東京・神楽坂「神楽音」
OPEN 18:00 / START 18:30
https://www.contexts2017.com/
*前売りチケット完売。当日券の有無は、イベント当日のアナウンスとなります。

ライターについて

Unnamed
黒田隆憲

90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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シンガーソングライター、清水美和子のソロプロジェクト。1986年、新潟県生まれ、東京都郊外育ち。2008年からPredawn という名前でソロ活動を始める。完全自主制作盤として「10minutes with Predawn」をライブ会場と一部店舗で販売し、1年半で約2000枚を完売させる。2010年6月に、作詞・作曲・演奏・歌唱・録音をすべて一人で行った、1stミニアルバム『手のなかの鳥』をリリースし、日本全国でロングセールスを記録。その後、数々の大型フェスやライブ活動を重ねつつ、2013年3月に1stフルアルバム『A Golden Wheel』をリリース。発売した初週にオリコンインディーズチャートで1位となる。2016年9月に2ndフルアルバム『Absence』を発表した。また、Rayons、andymori、QUATTRO、Eccy、Marble Sounds[ベルギー]、Turntable Films、菅野よう子、TOWA TEI、大野雄二など、錚々たるアーティストの楽曲へのゲストヴォーカル参加、木村カエラとのコラボ、映像への楽曲書き下ろしなど、多岐にわたって活躍している。
http://www.predawnmusic.com/

「Contexts 1」
出演 Predawn / ベランダ / Alfred Beach Sandal
2017年7月23日(日)
東京・神楽坂「神楽音」
OPEN 18:00 / START 18:30
https://www.contexts2017.com/
*前売りチケット完売。当日券の有無は、イベント当日のアナウンスとなります。

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