Loading 81b424ebf5b28b6979c5bfbadb4fe3d86654abdce81e3c0259cc91c3ecd00497
特集!あの人の本棚
283.

和嶋慎治   (人間椅子)


向こう側の世界から、こちら側を見るための本(和嶋慎治 インタビュー前編)

和嶋慎治
さまざまなプロフェッショナルの考え方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する思いなどから紐解いていくインタビュー。今回は、初の著書である自伝『屈折くん』を発表し、活動の幅を広げた人間椅子の和嶋慎治さんが登場。最新アルバム『異次元からの咆哮』にまつわる本についてインタビューしました。
向こう側の世界から、こちら側を見るための本(和嶋慎治 インタビュー前編)

人間椅子の20枚目のスタジオ・アルバム『異次元からの咆哮』が完成した。熟練の域に達した技術とみずみずしい遊び心が同居する本作は、人間椅子とともに異次元を旅するような感覚を味わえる、キャッチーな快作だ。作詞・作曲の大半を手掛けるギター・ヴォーカルの和嶋慎治は、ホンシェルジュ「本と音楽」連載陣の一人でもある。今年2月に刊行された自伝本『屈折くん』にも大きな反響が寄せられている彼に、今回のアルバムを語るうえで関連がありそうな本を数冊持参してもらい、作品の背景に迫った。

「実体なんてないんだ」という認識ができれば、苦しみはなくなるはず

── 新作『異次元からの咆哮』、聴けば聴くほど味の出るアルバムです。今回はなぜ、こういったテーマを選ばれたんですか?

和嶋慎治(以下、和嶋) 僕たち人間椅子は、以前から、日常よりも非日常的なものをテーマにして歌いたいというのがありまして。例えば、前作『怪談 そして死とエロス』では、それをわかりやすく怪談という形でやってみて、非常に手応えがあったんです。それに続く形で“怪談II”みたいなものを作りたいなと思って。でも、そのまんま“怪談II”だと、ただの続編になってしまうんで、違う切り口でこちら側の世界ではないことを歌いたいと思ったんですよね。この現実の理不尽さとかを伝えたかったんだけれども、自分の言葉でいざそれをやろうとすると、キツくなり過ぎる気がしたんですよ。そんなわけで、向こう側の世界からそういうことを言ってみるのはどうかなと思いまして。そうすればフィクションと見なされるし、わりとキツめのことを言っても洗練されると思ったんですよね。

―― なるほど。今回、各楽曲のテーマはすんなり決まったんですか?

和嶋 詞を書くうえでのテーマは、ほぼ悩みませんでしたよ。非常に自由にやれたんです。ところで、しっかり聴いてくれるお客さんたちが確かにいるという自覚が、以前よりもあるわけです。そうすると、「これを言ったら相手が傷つくだろうな」とか「どう普遍的に言ったらいいんだろう?」ということを考えるようになったんですよね。つまり、優しさが必要というか。

―― ある意味、サービス精神みたいなものが必要になってくる?

和嶋 そうです。やっぱり、どんなアートをやるにしても、エンターテインメントじゃないといけないと思って。例えば、1曲目の「虚無の声」は仏教の「色即是空」を言いたかったんですよね。みんな現実に執着して囚われるから、苦しむんです。「実体なんてないんだ」という認識ができれば、苦しみはなくなるはず。この曲はこういうタイトルにしましたけど、本当は「空(くう)」と「虚無」は違うんです。仏教に詳しい人は、この違いを指摘すると思うんだけど、こっちのほうがキャッチーでカッコよく聴こえるから、敢えてそうしました(笑)。「世の中に実体がないなら、暴力や犯罪をやってもいい!」とか思ってしまうかもしれません。でも、実体がないものだからこそ、それを大事にしなくてはいけない、と。そこで、“すべて愛おしい”という歌詞が浮かんだんです。たぶん、仏教の慈悲の心ってそういうことだと思うんですよ。以前だったら、こういう書き方はしなかったと思います。ある種の優しさを入れたんです。

―― 他の曲にも、宗教や哲学に関する言葉がよく出てきます。例えば「風神」には「ゾロアスター」「ソクラテス」、「悪夢の添乗員」には「ブディズム」「アラーと耶蘇(やそ)」。この辺も、和嶋さんの日頃の読書が関係するのかなと思いました。

和嶋 それもありますし、自分は仏教的なところに一番親しみがありますからね。世界的に見て、宗教同士の争いも嫌なので、そこにも囚われたくないという意味を込めて、「悪夢の添乗員」を書きました。もしかしたら、既存の宗教のあり方は、21世紀にはなくなっていくのかもしれませんね。あと、「超自然現象」という曲では、超能力やこの世にはないパワーのことを歌にしようと思ったんですけども、最初、難解な言葉で歌詞を書いたら、聴く人は楽しくないし自分でもつまらないなと思ったんです。短い歌詞なんですが、一番時間がかかりましたね。ここを乗り越えたら、他の曲もわりとすらすらっと書けるようになったんです。この曲で一つの扉を開くことができました。

『悪魔祈祷書 (現代教養文庫―夢野久作傑作選 (883))』 夢野 久作

―― どの曲も歌詞カードを読むだけで情景が浮かんできますね! そろそろ、お持ちいただいた本について伺いましょう。いずれもアルバムに関連した作品だそうですが。

和嶋 まずは収録曲のタイトルに使った本から。夢野久作の『悪魔祈禱書』という小説です。夢野って、自分の中ではキャッチーな存在なんですよ。アンダーグラウンドではあるんですけど、「お! ちょっとカッコいい!」みたいなポップな感じかな。つまり、若者用の変格小説というか。10代の頃に一番読みました。大人になると、わりと小説としては破綻してるなというのがわかってきて、あまり読まなくなったんです(笑)。でも、タブーを読んでるような面白さがあって、ロックと通ずるものがあるな、と。みんな、まず『少女地獄』あたりから入るんですよ。そして、『ドグラ・マグラ』を読んで、「ちょっとわからない」となるんです。僕が最初に読んだのは中学生の時で、『空を飛ぶパラソル』という作品。周りはみんな横溝正史を読んでたんだけど、それとはちょっと違う感じで気持ち悪い探偵小説を読みたいと思って。取っ掛かりとして夢野はすごくいいと思って、ときどき曲のタイトルに使うんです。『悪魔祈禱書』『瓶詰の地獄』『あやかしの鼓』……「こういう曲を作ってみたい!」と思わせる良いタイトルですよね。

―― 確かにワクワクしますね。

和嶋 「悪魔祈禱書」という曲は、いってみれば「デビルマン」みたいなものなんです。世の中の不正に対して非常に憤りを感じている人がいて、自分が悪魔に魂を売ってでもいいから力を手に入れたいという状況。つまり、「毒をもって毒を制す」を歌いたいなと思って。タイトルをどうしようかなと思った時にこの曲名を閃きました。夢野の小説とはほぼ関係ない内容ですが(笑)。

『谷崎潤一郎全集〈第4巻〉鬼の面 人魚の嘆き 異端者の悲しみ』 谷崎 潤一郎

―― 次の谷崎潤一郎『異端者の悲しみ』も、アルバム最後の曲のタイトル元となった本ですね。

和嶋 はい。谷崎の相当初期の自伝的な小説で、すごく面白いんです。今の時代、こういう小説は書けないと思うんですよね。この主人公は、エゴイズムのある、自分勝手でひどい奴なんです。その状態をまったく何の言い訳もせずに書くというスタイルは、今だったら、なかなか勇気がいるのでは? この「異端者の悲しみ」という曲には、他の本を読んで考えたことも入っていまして。

『宇宙人の魂をもつ人々』 スコット マンデルカー

―― スコット・マンデルカーの『宇宙人の魂をもつ人々』というニューエイジ系の本ですね。

和嶋 これは、人間の本質は肉体ではなく魂だということを書いている本なんです。地球を何とかしようと思って、よその星から宇宙人の魂をもったまま地球に降りてくる。その人が地球人の肉体を借りて、この現実を生きているという状態を「ワンダラー」って言うんだって。「漂泊する魂」という意味ですね。彼らは、自分が地球を良くしようと思ってやって来たという使命を忘れがちらしいんです。この本では、そんな人たちに向けて、「自分のやるべきことを思い出してください!」と語りかけてるんですよ。

―― すごい話ですね……。

和嶋 「ワンダラー」は、例えば、現実に対して何か違和感があるとか、自分の故郷は地球じゃなくて宇宙なんじゃないかとか思う人らしいんです。この本の中に「ワンダラー診断テスト」みたいなのがあって、「あれ? もしかして自分もワンダラーかな?」みたいな感じで感情移入した本なんです(笑)。

―― (笑)。

和嶋 ある時、思ったんですよ。自分の肉体は借り物で、魂こそが本質だと。自分はもっと自由なところから来たはずなのに、このちっちゃい体に入れられて、すごく不自由な感じがしたんです。そんなふうに、自分を持て余して悩んでいる人はきっといっぱいいるだろうなと思って、それを歌にしたくて。どういうタイトルでやろうかなと思った時に、「異端者の悲しみ」が出てきました。自分が何か書く時、どうしても、マジョリティ側からの詞は書けないんです。もちろん、それを否定しているわけではないですよ。自分の切り口でいきいきと書けるのは、やっぱりマイノリティ側なんです。そちら側からの苦しさを書く役割が自分にはあると思いますね。

後編に続く

本と音楽の一覧 インタビューの一覧

コメント

コメントを書く・見る 0

プロフィール

和嶋慎治
和嶋慎治
人間椅子

1965年12月25日生まれ。青森県弘前市出身。大学時代、高校の同級生であった鈴木研一とハードロックバンド「人間椅子」を結成。ギターとヴォーカルを担当。1990年、デビュー。ドラムのナカジマノブは2004年に加入。一時は低迷期を経ながらも休止はせず、地道に活動を継続。2013年および2015年には、OZZFEST JAPANに出演し、近年再ブレイクの兆しを見せている。2016年、通算19枚目のアルバム『怪談 そして死とエロス』を発表。2017年には2枚組のライブアルバム『威風堂々~人間椅子ライブ!!』をリリース。また、初の自伝『屈折くん』を発表して話題を集める。10月4日には通算20枚目のアルバム『異次元からの咆哮』をリリースする。それに伴うワンマンツアーが10月31日から始まる。
http://ningen-isu.com

ライターについて

%e3%83%95%e3%82%9a%e3%83%ad%e3%83%95%e5%86%99%e7%9c%9f
志村つくね

しむら・つくね/1980年大阪府生まれ。国際基督教大学教養学部人文科学科卒業。同大学院比較文化研究科比較文化専攻博士課程修了。博士(学術)。大学院在学中の2013年5月に『MASSIVE』と『ユリイカ』でデビュー。その後、『ヘドバン』『ROCK AND READ』等の雑誌や各種Web媒体で執筆し、現在、フリーランスの文筆家として活動中。人間椅子・和嶋慎治自伝本『屈折くん』では制作協力を務めた。

プロフィール

和嶋慎治
人間椅子

1965年12月25日生まれ。青森県弘前市出身。大学時代、高校の同級生であった鈴木研一とハードロックバンド「人間椅子」を結成。ギターとヴォーカルを担当。1990年、デビュー。ドラムのナカジマノブは2004年に加入。一時は低迷期を経ながらも休止はせず、地道に活動を継続。2013年および2015年には、OZZFEST JAPANに出演し、近年再ブレイクの兆しを見せている。2016年、通算19枚目のアルバム『怪談 そして死とエロス』を発表。2017年には2枚組のライブアルバム『威風堂々~人間椅子ライブ!!』をリリース。また、初の自伝『屈折くん』を発表して話題を集める。10月4日には通算20枚目のアルバム『異次元からの咆哮』をリリースする。それに伴うワンマンツアーが10月31日から始まる。
http://ningen-isu.com

和嶋慎治 さんの本棚

人間椅子・和嶋慎治が選ぶ「試練」を乗り越えるための伝記5冊

人間椅子・和嶋慎治が選ぶ「試練」を乗り越えるための伝記5冊

和嶋慎治
和嶋慎治
人間椅子・和嶋慎治が選ぶ「色川武大と阿佐田哲也」

人間椅子・和嶋慎治が選ぶ「色川武大と阿佐田哲也」

和嶋慎治
和嶋慎治

注目記事

月間ランキング