Loading 81b424ebf5b28b6979c5bfbadb4fe3d86654abdce81e3c0259cc91c3ecd00497
特集!あの人の本棚
290.

和嶋慎治   (人間椅子)


三島の「読者を崖っぷちに連れていく」感覚をロックで表現したかった(和嶋慎治 インタビュー)

和嶋慎治
さまざまなプロフェッショナルの考え方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する思いなどから紐解いていくインタビュー。今回は、現在、BSジャパンにて放送中の三島由紀夫原作、中村蒼主演のドラマ『命売ります』の主題歌「命売ります」を担当した人間椅子から、ホンシェルジュではお馴染みの和嶋慎治さんが登場。新曲や三島作品について語ってもらいました。
三島の「読者を崖っぷちに連れていく」感覚をロックで表現したかった(和嶋慎治 インタビュー)

人間椅子の2018年が華々しく幕を開けた。1月13日からBSジャパンにて放送中の三島由紀夫原作、中村蒼主演のドラマ『命売ります』の主題歌「命売ります」を担当した彼らは、今年デビュー29年目を迎え、ますます上り調子。作詞・作曲の多くを手掛けるギター・ヴォーカルの和嶋慎治は、ホンシェルジュ「本と音楽」連載陣に名を連ねる読書家でもある。昨年出版した初の自伝本『屈折くん』が大好評の彼に、新曲や三島由紀夫への思いを訊いてみた。

「針の山」の歌詞を書いた時とほぼ同じ熱い気持ちで臨めた

── 初のZepp DiverCityでのツアーファイナル(2017年11月19日)から少し間が空き、ドラマ『命売ります』の主題歌「命売ります」が発表されました。

和嶋慎治(以下、和嶋) とても良い2018年のスタートが切れましたね。昨年のツアー前に、BSジャパンさんからお話を頂いたんですよ。人間椅子は、ファースト・アルバムの『人間失格』から“文芸ロック”という形でやってきました。自ら“文芸ロック”と名乗ったわけではないんだけど、最初にイカ天に「陰獣」という曲で出た時に、そういう風に言われて。“文芸”という冠はある意味キャッチーな言い方だなって自分でも思ってるんです。「陰獣」「人間失格」「人面瘡」というように、初期のオリジナル曲の半分ぐらいは小説からタイトルを取ってましたからね。自分たちの思惑をそういうキャッチフレーズで受け止めてもらえて良かったし、その後もそれを踏襲してやってきました。今回の依頼があった時、「自分たちが作らなくて誰が作るんだ!」とやる気が出たものです。これからツアーに出るというタイミングで、スケジュール的にも厳しかったけど、他の人が三島由紀夫原作のドラマの主題歌を作るのも癪だからさ(笑)。

―― (笑)人間椅子は、古今東西の文芸作品を扱ってきたにもかかわらず、三島の作品から着想を得たのはこれが初めてだとか。しかも、わずか1分というTVサイズの尺のなかに人間椅子と三島双方のエッセンスを盛り込むのは難しい芸当ですよね。

和嶋 チャレンジ尽くしでしたね。例えば、これまで「芋虫」や「泥の雨」のように、ゲームやアニメに人間椅子の楽曲が使用されたことはあったんです。でも、あれは、その作品のために作ったというよりは、特にそちらを意識せずに作った曲が使われるというパターンだったわけです。今回のように、その番組のために曲を書き下ろすという経験は初めてでした。世の中のタイアップ曲にもいろんなパターンがあると思うんですが、せっかくなら、小説の内容から外れないものをやってみたかったんです。

―― 『命売ります』は、三島にしてはやや通俗的な小説ですよね。例えば『潮騒』や『金閣寺』のような格調高い文体とはまた違った作風です。そんな部分をも考慮したテイストの主題歌に仕上がったと思うんです。

和嶋 三島をなぜ今まで扱わなかったかというと、自分の趣味とはちょっと違うからです。彼の代表作はもちろん読んでいて、すごいなと思いますけど、自分の印象としては、あんまり好みじゃないな、と。とても美しく構築されている。話として完璧すぎて、破綻がないんです。人間の泥臭さとか、しょうもなさみたいなところをそのまま書かないようにしてるんでしょうね。僕が共感しやすいのは、どちらかといえば、小説としてはちょっと破綻しているような作品。そういうほうが曲をつけやすいんですよ。今までそういった世界観を借りて曲を作ってきたので、あまりに完璧な三島の作品を題材に作るのは、本当に畏れ多くて(笑)。

―― (笑)。

和嶋 実際に『命売ります』を読んでみたら、三島にしては随分くだけた小説で驚きました。でも、前半なんかは、やっぱり三島由紀夫なんですよね。文章が非常に美しくて、比喩が上手い。凡人には思いつかない表現です。そして、的確。この方、圧倒的に語彙が豊富なんです。何パターンかしかないお気に入りのレトリックを使い回して小説を書く作家が多いなか、三島の場合、頭の中に国語辞典が入っているんじゃないかと思うぐらい、ハッとする言葉が出てくるんですよね。『命売ります』は『週刊プレイボーイ』に連載していただけあって、柔らかい言葉で書いているんですけど、さすがだなと感心しながら読みました。そしてくだけている分、これなら曲を作れると思いました。

『命売ります』三島 由紀夫

―― わかりやすい言葉で難しい思想を伝えたりするところは、ある意味、人間椅子の作風にも通じるものがあると思うんです。

和嶋 音楽は、純文学というよりは大衆小説ですからね。とはいえ、時々スパイスの効いた言葉を入れないと、アートとして成り立たないと思うんです。基本的には平易な言葉で、たまに核心を突くようなことを入れる。音楽は、小説を読むのとは違って、瞬間で聴いていきますからね。言葉が耳に入ってくるようにしないといけないと思いながら作っています。

―― そういう意味で、この主題歌の完成度の高さにはシビれます。途中の「命売ります」というセリフの切れ味など、素晴らしいです。

和嶋 そこは最初に思いつきました。その直後には、「バラババンバ」という印象に残るようなサビを入れたり。とにかく心がけたのは、読書感想文みたいにはならないようにしよう、ということです。

―― 作品の内容を説明するだけではダメ?

和嶋 そう。子供の頃にクラスで読書感想文を書かされるじゃないですか。で、なかなか出来の良いものは、みんなの前で読まされたりする。僕もそんな経験があったんですよ。そしたら、友達に「和嶋の読書感想文は、自分の意見は何もないけど、本の内容だけはすごくよくわかる」って言われて(笑)。その時、全然ダメな読書感想文だと自分でも気が付いたんです。先生は評価してくれたんですけどね。結局そこに自分の主観は書かれていませんでした。「私はこの本を読んで、こう思った」とか「作者はこう言ってるけど、私は違うんじゃないかと思う」みたいなことが何もなかった。今でも何か書く時に、そのことを思い出すんですよ。ただ内容をわかりやすく言うだけだと、作品としてはダメなんです。今回、『命売ります』のストーリーを要約しただけの曲には絶対にしたくないと思いまして。

―― シンプルな言葉を連ねたからこその重みが、この歌詞にはありますよ。人間椅子は更に新しい段階に到達したのでは?

和嶋 はい。次に繋がるものができたと思いました。自分のなかで、一つ違う扉が開いたな、と。ポピュラリティと怖さを同居させようと思っているんですけど、そこに僕たちが本来やりたかった、表面的な気持ち悪さやおどろおどろしさではないもの。つまり、狂気や情熱といった、熱いものを上手く乗せることができました。今回は、生きてる言葉で書けたと思ったね。観念のみで不思議なことや気持ちの悪いことを書くこともできるんですが、血の通った言葉で書くことがいちばん難しい。ファースト・アルバムに入っている「針の山」の歌詞を書いた時とほぼ同じ熱い気持ちで臨めたんですよね。

―― それは劇的ですね!

和嶋 自分の殻を一回取っ払いましたね。「針の山」を書いたあの頃は、どう生きるべきかをまだ模索している、針の山を登っている人の状態だったわけです。だから、ナマの声で書けた。そして、今は“こう生きるべき”というのが自分のなかに答えとしてあって、それをいろんな言葉で書いている。その言葉を、あの頃と同じナマの声で書くことができたんです。次のアルバムも血の通ったものになるんじゃないでしょうか。

―― 人間椅子は、4月に全国ツアー「おどろ曼荼羅~人間椅子2018年春のワンマンツアー」(全11公演)を開催します。ツアー序盤の4月4日には、『おどろ曼荼羅~ミュージックビデオ集』と題された初のMV集がリリースされる予定だとか。

和嶋 そうなんです。この「命売ります」で良いスタートを切り、春のツアーに被るかのようにMV集を出します。ライヴビデオに特典としてMVを数曲入れるようなことは今までにもやってきたんですけど、MVを網羅した作品は出したことがなかったんですよ。最新MV「命売ります」も入れての〈おどろ曼荼羅〉ということになります。デビューの頃から最新のものまで、すべてのミュージックビデオの曼荼羅絵巻を楽しんでいただければ。

本と音楽の一覧 インタビューの一覧

コメント

コメントを書く・見る 0

プロフィール

和嶋慎治
和嶋慎治
人間椅子

1965年12月25日生まれ。青森県弘前市出身。大学時代、高校の同級生であった鈴木研一とハードロックバンド「人間椅子」を結成。ギターとヴォーカルを担当。1990年、デビュー。ドラムのナカジマノブは2004年に加入。一時は低迷期を経ながらも休止はせず、地道に活動を継続。2013年および2015年には、OZZFEST JAPANに出演し、近年再ブレイクの兆しを見せている。2016年、通算19枚目のアルバム『怪談 そして死とエロス』を発表。2017年には2枚組のライブアルバム『威風堂々~人間椅子ライブ!!』をリリース。また、初の自伝『屈折くん』を発表して話題を集める。10月には通算20枚目のアルバム『異次元からの咆哮』をリリースし、それに伴うワンマンツアーを敢行。2018年には2マン企画「人間椅子提供 地獄の感謝祭」をスタートさせ、新曲「命売ります」を発表。4月4日にはミュージックビデオ集『おどろ曼荼羅〜ミュージックビデオ集〜』を発売する。同タイミングで、『おどろ曼荼羅~人間椅子2018年春のワンマンツアー』を実施。全11公演開催することが決まっている。
http://ningen-isu.com

ライターについて

%e3%83%95%e3%82%9a%e3%83%ad%e3%83%95%e5%86%99%e7%9c%9f
志村つくね

しむら・つくね/1980年大阪府生まれ。国際基督教大学教養学部人文科学科卒業。同大学院比較文化研究科比較文化専攻博士課程修了。博士(学術)。大学院在学中の2013年5月に『MASSIVE』と『ユリイカ』でデビュー。その後、『ヘドバン』『ROCK AND READ』等の雑誌や各種Web媒体で執筆し、現在、フリーランスの文筆家として活動中。人間椅子・和嶋慎治自伝本『屈折くん』では制作協力を務めた。

プロフィール

和嶋慎治
人間椅子

1965年12月25日生まれ。青森県弘前市出身。大学時代、高校の同級生であった鈴木研一とハードロックバンド「人間椅子」を結成。ギターとヴォーカルを担当。1990年、デビュー。ドラムのナカジマノブは2004年に加入。一時は低迷期を経ながらも休止はせず、地道に活動を継続。2013年および2015年には、OZZFEST JAPANに出演し、近年再ブレイクの兆しを見せている。2016年、通算19枚目のアルバム『怪談 そして死とエロス』を発表。2017年には2枚組のライブアルバム『威風堂々~人間椅子ライブ!!』をリリース。また、初の自伝『屈折くん』を発表して話題を集める。10月には通算20枚目のアルバム『異次元からの咆哮』をリリースし、それに伴うワンマンツアーを敢行。2018年には2マン企画「人間椅子提供 地獄の感謝祭」をスタートさせ、新曲「命売ります」を発表。4月4日にはミュージックビデオ集『おどろ曼荼羅〜ミュージックビデオ集〜』を発売する。同タイミングで、『おどろ曼荼羅~人間椅子2018年春のワンマンツアー』を実施。全11公演開催することが決まっている。
http://ningen-isu.com

和嶋慎治 さんの本棚

人間椅子・和嶋慎治が選ぶ「試練」を乗り越えるための伝記5冊

人間椅子・和嶋慎治が選ぶ「試練」を乗り越えるための伝記5冊

和嶋慎治
和嶋慎治
人間椅子・和嶋慎治が選ぶ「色川武大と阿佐田哲也」

人間椅子・和嶋慎治が選ぶ「色川武大と阿佐田哲也」

和嶋慎治
和嶋慎治

注目記事

月間ランキング