Loading 81b424ebf5b28b6979c5bfbadb4fe3d86654abdce81e3c0259cc91c3ecd00497
特集!あの人の本棚
290.

和嶋慎治   (人間椅子)


三島の「読者を崖っぷちに連れていく」感覚をロックで表現したかった(和嶋慎治 インタビュー)

和嶋慎治

30周年に向けて、助走をつけたい

── これからも新しいことに扉を開いていきたいですよね。

和嶋 ええ。僕は時々言ってますけど、自分の能力でやれるんだったら、面白いことはどんどんやったほうがいいと思ってまして。頑なに自分たちのイメージを守る必要もないですし。表現したいものがハッキリしているのであれば、そこはもうブレようがないですから。TVドラマの主題歌をやったことによって、日和ったとか、マニアックではなくなったとかいう風に思う必要はないというか。むしろ、表現の幅が広がって、より面白い音楽になっていくのかなと思います。自分たちのテイストに合ったものならば、どんどんやっていきたいです。

―― 今年(2018年)でデビュー29年目。つまり、来年、人間椅子はデビュー30周年を迎えるわけです。その動きにも期待していいでしょうか?

和嶋 やっぱり、30周年に向けて、助走をつけたいですよね。30年というのは一つの通過点でしかありませんけれども、節目ではあります。自分たちはちょうど平成元年のイカ天で世に出て、平成2年にメジャーデビューしたんです。奇しくも来年で平成が終わります。平成という時代の節目でもあるし、平成と歩んできた感じもしますね。

―― そのシンクロニシティは、狙ってできるようなことではないですね。

和嶋 たぶん、平成元年あたりにデビューしたバンドはみんな「俺たちは平成とともに歩んでるんだ!」って思ってるはず(笑)。感慨深いですよね。

―― 今回の『命売ります』に伴う一連の出来事で、おおいに弾みがついたのでは? 今日は最近お読みになった三島の作品を何冊かお持ち頂いているんですが……。

和嶋 いろいろ読んでみて思ったのは、『憂国』(『花ざかりの森・憂国―自選短編集 』に収録)のすごさですね。三島自身もこの作品に自信を持っているみたいですもんね。そして、今読むと、この小説で、ある意味、割腹自決することが予言されているんです。彼は死とエロスを表裏一体のものとして考えていて。三島という人は、死というものを一つの美の結晶として捉えているんでしょうね。病気で苦しんでガーッと泥臭くリアルに死ぬというよりは、“美しく死にたい”というのが、すごくあるんでしょうね。

―― 美の究極形ですね。

和嶋 三島由紀夫という人は、人生を自分の美意識で生きた人なんだな、と。三島の作品を全部読んではいない僕ごときがそんなことを言うのは非常に失礼なんですけども(笑)。人間は、もうちょっとみっともなく生きるものかなと思うんですが、彼の生き方は小説と一体化している感じがします。体を鍛えたり、映画に出たり、いろいろやったけれども、そこはやっぱり三島的なやり方なんでしょう。『憂国』に感心した部分なんですが、主人公の青年将校が死を覚悟した瞬間から、生がきらめき出すわけです。ありありと生きるためには、やはり死に対峙しないと、本当には生きられない。この世のことを「魂の最前線」なんていう、三島的なカッコいい表現で書いていますけど(笑)。確かに、この世の中をぼんやり生きるんじゃなくて、リアルに生きられるかどうかが難しいんですよね。

―― なるほど。考えさせられます。

和嶋 他に面白いと思ったのは、『中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃』(『花ざかりの森・憂国―自選短編集 』に収録)という、すごいインテリくさいタイトルの作品(笑)。

―― (笑)。

和嶋 昔読んだ時は、あまり印象に残らなかったんだけど、今改めて読むとすごいと思いましたね。今日は将軍を殺した、とかいった哲学的考察が日記を通して語られるという、恐ろしい小説。主人公の殺人者(芸術家)が海賊(行動家)と会話を交わして、次第に考察が変わっていくという流れも非常に面白いんです。三島はこれを18歳で書いてるんですよね。彼は殺人者の立場に立って、海賊と会話をすることによって、思想と行動の統合をするべきだと気付くわけです。三島という人は、その後の生活でも、小説のなかでも、これをやっていったんだなって。計画通りに生きてる感じがするんですよね。作品も破綻していないし、天才だなと思いました。三島作品は一つの完成された文学かなと思います。

『花ざかりの森・憂国―自選短編集 』三島 由紀夫

―― 非常に奥が深いです。

和嶋 もう一つ、自分が若い時に感動したのは、『若きサムライのために』というエッセイです。「文弱の徒について」という箇所があって、この文章には影響を受けました。文弱の徒、つまりは三島自身がそうだったということから始まり、結局、文学にかぶれすぎちゃうと、世の中をちゃんとは生きなくなっちゃって、俯瞰するような態度になってしまう、と。つまり、冷笑的に世の中を眺めて、実際には手を下さずに生きるような感じになってしまうということを書いているんです。例えば、大勢のなかに、一人の文弱の徒がいたとしたら、自分はそれを見分けられるって三島は言っていて。その表情は、あらゆるものにシニカルな目を向け、あらゆる努力を笑い、人のこっけいな欠点をすぐ探し出して、嘲笑して……という態度になっちゃう、と。ここで僕がいちばん感動したのは、いろんな文学があるなかでも、本当の文学は、人間がいかに恐ろしい宿命に満ちたものであるかを見せてくれるものだと述べた箇所。読者を崖っぷちに連れていって、そこに置き去りにしてくれるのがいちばん良い文学だ、と三島は述べるんです。なるほどと思いましたね。教訓的で啓蒙的な小説というのは、若い頃の僕は特に好きではありませんでした。恐ろしいものこそが文学だろうと自分も考えていたんです。このエッセイを読んだ時に、そういうものをロックで表現したいと思ったんですよ。

『若きサムライのために』三島 由紀夫

―― もし、今、目の前に三島由紀夫がいたら、何かお話してみたいことはありますか? 芸術についての議論が盛り上がるかもしれません。

和嶋 とてもじゃないけど、対等にお話できません(笑)。やはり彼の作品を読むと、浮き世離れした完璧なものを求めていたように思いますので。たとえば、太宰治とかだったら、なんとなく一緒にお酒が飲めそうな感じするでしょ?(笑)

―― わかるような気がします(笑)。

和嶋 太宰のほうがポピュラリティがありますからね。三島もやけに太宰のことを意識してましたね。自分に似ているところがあるから好きじゃないってことをすごい言ってて。どちらも本当に文章が上手いけど、太宰の小説には、人に対して弱さをさらけ出すような、ある種の優しさがありますからね。いまだに人気があるのは、そういうところなんじゃないかな。もちろん、三島の人気も今でもすごいですけどね。この人の作品が消えていくはずはないと思いますけど、太宰となら、なんとなく一緒に酒が飲めそうな気がしてしまう(笑)。三島とは襟を正さないとお話できないような気がしますよ。

―― 「命売ります」という曲を書いたことはご報告できますね(笑)。

和嶋 あ、それはお伝えしたいですね!(笑) 「不肖わたくし、僭越ながら書かせていただきました」って。自分なりに考えた“命”についてお話してみたいと思います。「リアルに生きるほうが本当なのではないでしょうか?」とか「カッコ悪いほうが美しいのではないですか?」とか。

―― 面白い問答になりそうです。

和嶋 頑張って生きていると、実はみっともなく見えたりする時もあります。そのカッコ悪さこそが人間らしさなんじゃないかな、と。僕はそういう曲を書いていきたいと思うんです。

本と音楽の一覧 インタビューの一覧

コメント

コメントを書く・見る 0

プロフィール

和嶋慎治
和嶋慎治
人間椅子

1965年12月25日生まれ。青森県弘前市出身。大学時代、高校の同級生であった鈴木研一とハードロックバンド「人間椅子」を結成。ギターとヴォーカルを担当。1990年、デビュー。ドラムのナカジマノブは2004年に加入。一時は低迷期を経ながらも休止はせず、地道に活動を継続。2013年および2015年には、OZZFEST JAPANに出演し、近年再ブレイクの兆しを見せている。2016年、通算19枚目のアルバム『怪談 そして死とエロス』を発表。2017年には2枚組のライブアルバム『威風堂々~人間椅子ライブ!!』をリリース。また、初の自伝『屈折くん』を発表して話題を集める。10月には通算20枚目のアルバム『異次元からの咆哮』をリリースし、それに伴うワンマンツアーを敢行。2018年には2マン企画「人間椅子提供 地獄の感謝祭」をスタートさせ、新曲「命売ります」を発表。4月4日にはミュージックビデオ集『おどろ曼荼羅〜ミュージックビデオ集〜』を発売する。同タイミングで、『おどろ曼荼羅~人間椅子2018年春のワンマンツアー』を実施。全11公演開催することが決まっている。
http://ningen-isu.com

ライターについて

%e3%83%95%e3%82%9a%e3%83%ad%e3%83%95%e5%86%99%e7%9c%9f
志村つくね

しむら・つくね/1980年大阪府生まれ。国際基督教大学教養学部人文科学科卒業。同大学院比較文化研究科比較文化専攻博士課程修了。博士(学術)。大学院在学中の2013年5月に『MASSIVE』と『ユリイカ』でデビュー。その後、『ヘドバン』『ROCK AND READ』等の雑誌や各種Web媒体で執筆し、現在、フリーランスの文筆家として活動中。人間椅子・和嶋慎治自伝本『屈折くん』では制作協力を務めた。

プロフィール

和嶋慎治
人間椅子

1965年12月25日生まれ。青森県弘前市出身。大学時代、高校の同級生であった鈴木研一とハードロックバンド「人間椅子」を結成。ギターとヴォーカルを担当。1990年、デビュー。ドラムのナカジマノブは2004年に加入。一時は低迷期を経ながらも休止はせず、地道に活動を継続。2013年および2015年には、OZZFEST JAPANに出演し、近年再ブレイクの兆しを見せている。2016年、通算19枚目のアルバム『怪談 そして死とエロス』を発表。2017年には2枚組のライブアルバム『威風堂々~人間椅子ライブ!!』をリリース。また、初の自伝『屈折くん』を発表して話題を集める。10月には通算20枚目のアルバム『異次元からの咆哮』をリリースし、それに伴うワンマンツアーを敢行。2018年には2マン企画「人間椅子提供 地獄の感謝祭」をスタートさせ、新曲「命売ります」を発表。4月4日にはミュージックビデオ集『おどろ曼荼羅〜ミュージックビデオ集〜』を発売する。同タイミングで、『おどろ曼荼羅~人間椅子2018年春のワンマンツアー』を実施。全11公演開催することが決まっている。
http://ningen-isu.com

和嶋慎治 さんの本棚

人間椅子・和嶋慎治が選ぶ「色川武大と阿佐田哲也」

人間椅子・和嶋慎治が選ぶ「色川武大と阿佐田哲也」

和嶋慎治
和嶋慎治
人間椅子・和嶋慎治が考える「文体とレトリック」

人間椅子・和嶋慎治が考える「文体とレトリック」

和嶋慎治
和嶋慎治
人間椅子・和嶋慎治が選ぶ「過ぎ行く夏に読みたい怪談」

人間椅子・和嶋慎治が選ぶ「過ぎ行く夏に読みたい怪談」

和嶋慎治
和嶋慎治

注目記事

月間ランキング