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特集!あの人の本棚
31.

藤野英人   (レオス・キャピタルワークス取締役・最高投資責任者(CIO))


vol 2. 投資のベースにあるのは、人間を理解すること

藤野英人
投資家の藤野英人さんに、これまでの読書遍歴やおすすめの本をうかがうインタビュー。学生の頃からさまざまなジャンルの本を乱読してきたという藤野さんが、人生や自身の投資観に影響を与えた本を紹介します。それは意外にも、経済書やビジネス書ではありませんでした。
vol 2. 投資のベースにあるのは、人間を理解すること

岩を押し上げ続ける不条理さのなかに、希望を見出した

――前回、小3から中2までのあいだに世界の名作200冊を繰り返し読まされた、というお話がありましたが、そこからまた別の読書に発展したんですか?

藤野英人(以下、藤野) 200冊のあとは、岩波新書などを読み始めましたね。化学、天文、地理、生物など化学本を乱読していました。その一方で、和歌の本なども読んでいましたね。今で言うと、リベラルアーツと呼ばれる分野なのかもしれません。高校生のころは知的好奇心が爆発していた時期で、なんでもかんでもとにかく読んでいました。

――ジャンルを問わず。

藤野 何かを探しているときに、別の価値あるものを見つけ出す「セレンディピティ」という言葉があります。その言葉、当時は知らなかったんですけど、意識的にセレンディピティを重視して本選びをしていました。自分の趣味嗜好で本を探そうとすると、読むべき本を無意識に排除してしまっている可能性もあります。偶然の出会いを見つけたいとき、ランダムに読むっていうのはけっこういいんです。ランダムの中に、ふと自分の好きな本や、必要な本が出てくることがあるんですよ。

――それは、問答無用で200冊読まされた経験から学んだことかもしれませんね(笑)

藤野 そうなんです!(笑) あの経験は大きいですね。興味のあるなしにかかわらず読んだおかげで、どんな本にも興味のポイントを見出す力がつきました。読む以上は楽しく読みたいですからね。

――これまでに読んで大きな影響を受けている本はなんですか?

藤野 何冊かあるんですけど、一つ選ぶとすると、カミュの『シーシュポスの神話』ですね。これは“不条理の哲学”について書かれた随筆集で、最後の方に「シーシュポスの神話」という掌編が収録されています。シーシュポスというのはギリシア神話の登場人物ですが、神を侮蔑するような行動をとったので、ある刑罰を与えられているんです。それは、大岩を山頂に押し上げるという仕事。しかし岩は山頂に達すると、その重みでふもとまで転がり落ちてしまう。それをまたシーシュポスは一から押し上げなければいけない。

――いつまでも終わりがなく意味もない。これは、おそろしい刑罰ですよね。

藤野 究極の罰だと言われることもありますね。でもカミュはこの刑罰を、人間が生きること、毎日労働することになぞらえて、必ずしも悲劇ではないと書いています。むしろ、この不条理を自覚している人間は、シーシュポスと同じように「すべてよし」と考えられるのではないかと。冷徹さの中に希望を見出してるんですよね。若いころから悩んだときは、これを読み返していました。カミュの思想を自分がどれくらい理解しているかはわからないのですが、すごく影響を受けていると思います。

――そうなんですね。

藤野 僕は、どんなことでも「全力を尽くす」ということが大事だと思っているんです。「それってけっきょく徒労なんじゃないか」「最後はみんな死んでしまうのに」という考え方もあると思います。それでも、力を発揮し尽くすことそのものの快感って、あると思うんですよ。きっとそれは、シーシュポスも同じだったと思います。だから、この話はひとつの生き方の指針になっているんです。

誰も気づかない価値に光をあてる仕事

――最近読んだ本で、おもしろかった本はありますか?

藤野 最近でもないのですが、映画にもなったマイケル・ルイスの『マネー・ボール』がおもしろかったです。メジャーリーグの貧乏球団であるオークランド・アスレチックスのGM、ビリー・ビーンについて書かれたノンフィクションです。彼は野球を、「27個のアウトをとられるまでは終わらない競技」と定義して、それに基づいて勝率を上げるための要素を分析したんですね。例えば、球速130キロしか出せないけれど、大学の野球リーグでは多くの勝利をおさめたピッチャーがいた。このピッチャーについて、多くの人は「大学野球だから通用したんだ。150キロ級のピッチャーがごろごろいるメジャーリーグでは使いものにならない」と判断しました。でも、ビリー・ビーンはそう考えなかった。

――どう考えたんですか?

藤野 150キロ台の球を投げるピッチャーは大学野球にもいます。そのなかで、この球速で勝ち続けられたのには、何か他に理由があるに違いないと考えたんです。そこで分析してみたら、彼はピンチになってもまったく動揺しない強いハートを持っていることがわかった。どんなときでも、自分のペースで試合をコントロールできる力があったんです。多くの人は、それは訓練でできるものだと考えているけれど、心臓の強さは天性のものだとビリー・ビーンは考えた。だから、もっと高く評価をすべきだとして獲得した。実際、その選手はメジャーリーグで大活躍したんですね。

――他の人が評価しすぎている数字を適切に評価し、過小評価している数字を見つけ出す。単純に球速や打率ではなく、勝つために必要な真の要素を見つけ出したんですね。

藤野 そうです。これは要するに、みんなが注目していない価値にどうやって光を当てるか、という話なんですよ。勝率に貢献する価値を持っているけれどみんなが注目していない選手は、安く獲得できる。だから貧乏球団でも、チームを強くしていくことができる。これって、僕らの投資の仕事とすごく似ているんです。企業も売上と利益に関係している要素は、ビジネスモデルとか市場規模などのわかりやすい部分以外にいろいろあります。それを見つけていくことが大事。もともとそう考えていたんですが、『マネー・ボール』を読んで、確信を深めました。

――マイケル・ルイス自身が金融業界で働いた経験があり、経済小説の名作をいくつも書いています。

藤野 そうですね。彼にしか書けない野球小説だと思います。『マネー・ボール』は投資の極意が書いてあるからと、投資の勉強をしたいという人にいつもすすめています。

人がすすめる本はやっぱり読みたくなる

――ほかに、投資を学ぶにあたっておすすめの本はありますか?

藤野 志賀直哉の短編小説『清兵衛と瓢箪』ですね。

――一見、投資には関係がなさそうですが……どういうお話なんですか?

藤野 瓢箪(ひょうたん)が好きな少年・清兵衛は、自分がいいと思った瓢箪を集めて、しきりに眺めたり磨いたりしています。でもまわりの大人はそれを理解しない。あるとき、今の値段にすると200円くらいで買ったとっておきの瓢箪が没収されてしまうのですが、それが最終的に600万くらいの高値で売られることになるんです。

――すごい目利きですね!

藤野 清兵衛は、ほかの人は付加価値がないと思っている瓢箪に価値を見出して、磨いてさらに価値を高め、最終的に高価な商品として売却することができる人。価値の発見と価値の創造の両方ができる人なんです。この力を身につけるには、興味をもって、一つのことに集中して時間を割くこと。これは、投資で成果を出すときにも必要なことです。

――そういうお話をうかがうと、投資に関係のある本というのは世の中にたくさんありそうですね。

藤野 そうですね。人間理解について書かれた本なら、どんな本でも投資に役立つと思います。

――話が変わりますが、藤野さんは普段、紙の本を読まれていますか? それとも電子書籍派ですか?

藤野 最近はKindleで読むことが多くなりました。でも紙の本も、Kindle版も、両方買うことが多いんです。むしろ、Kindleを使うようになってから、紙の本も買う機会が増えた気がします。

――どうやって使い分けていらっしゃるんですか?

藤野 紙の本は自宅で読書するときに使います。Kindle版は持ち歩いて、移動中などに読みますね。Kindle版は、iPad miniのアプリで読んでるんです。大きさ的に、iPad miniが一番しっくりくるので。

――普段、読む本はどうやって選んでいますか?

藤野 ニュースなどで取り上げられているトピックに関する本は、積極的に読むようにしています。例えば、IPS細胞のことが話題になったときは、それに関連する本を読んで詳細や背景を知ろうとしました。仕事と興味の両方に役立ちますからね。これからはもっと、話題になる前の最新の技術に関する本を読んでいきたいと思っています。あとは、Facebookで知人がすすめている本を買うことは多いですね。

――やはり、友人・知人にすすめられると読みたくなりますよね。このホンシェルジュというサイトも、いろいろな人がネット上におすすめ本の本棚をつくることで、検索では出会えない本との出会いを生み出したいというコンセプトなんです。

藤野 おもしろいコンセプトですよね。僕は、オンライン上の本棚にある本が読める、リアルな場があるともっといいんじゃないかと思います。例えば、ライフネット生命の出口治明会長が読んできた本が実際に読めるとかね。喫茶店や旅館などに本を寄贈して、ホンシェルジュの本棚をリアルにつくっちゃうんです。

――それはいいですね! ぜひつくりたいです。

藤野 募集をかけたら、すごくたくさん本が集まるんじゃないでしょうか。僕は家にものすごくたくさん本があるんだけど、捨てるのも、チェーンの古書店に売ってしまうのも、もったいないなと思っているんです。それだったら、無料でもいいからその本を必要としている人に渡したい。そういう人はたくさんいると思いますよ。

<< 今回のインタビュー中に登場した主な本 >>

マネー・ボール 清兵衛と瓢箪
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プロフィール

藤野英人
藤野英人
レオス・キャピタルワークス取締役・最高投資責任者(CIO)

ふじの・ひでと/1966年、富山県生まれ。1990年、早稲田大学卒業後、国内外の運用会社で活躍。特に中小型株および成長株の運用経験が長く、22年で延べ5000社、5500人以上の社長に取材し、抜群の成績をあげる。2003年に独立し、現会社を創業。
現在は、販売会社を通さずに投資信託(ファンド)を直接販売する直販ファンドの「ひふみ投信」を運用し、ファンドマネージャーとして高パフォーマンスをあげ続けている。この「ひふみ投信」はR&Iが選定するファンド大賞2014の「最優秀ファンド賞」を受賞した。著書に『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『日経平均を捨てて、この日本株を買いなさい。』(ダイヤモンド社)ほか。

ライターについて

Writer 1
崎谷実穂

さきや・みほ/求人広告、記事広告のライターを経て、現在ビジネス系のインタビューライター。ブックライターでもある。cakes、日経ビジネスオンラインなどで連載担当中。

プロフィール

藤野英人
レオス・キャピタルワークス取締役・最高投資責任者(CIO)

ふじの・ひでと/1966年、富山県生まれ。1990年、早稲田大学卒業後、国内外の運用会社で活躍。特に中小型株および成長株の運用経験が長く、22年で延べ5000社、5500人以上の社長に取材し、抜群の成績をあげる。2003年に独立し、現会社を創業。
現在は、販売会社を通さずに投資信託(ファンド)を直接販売する直販ファンドの「ひふみ投信」を運用し、ファンドマネージャーとして高パフォーマンスをあげ続けている。この「ひふみ投信」はR&Iが選定するファンド大賞2014の「最優秀ファンド賞」を受賞した。著書に『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『日経平均を捨てて、この日本株を買いなさい。』(ダイヤモンド社)ほか。

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